We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「────はぁ、ああぁぁっ!」
魔導国の使者を見送った後。
昼食の時間が終わったばかりの午後。
カリムとアンティリーネはベースキャンプに到着し、軽く食事を済ませると、すぐに手合わせを始めた。
前回の手合わせ以降、カリムはもはやただの剣で相手をするのは意味が薄いと判断していた。
そのため今回は、比較的扱いやすい大きさの、特に名前のないロングソードに持ち替えている。
「やるじゃないか、アンティリーネ!」
リミッターを適度に解除した時、アンティリーネは七合まで持ちこたえた。
彼女はとても誇らしげであり、カリムもまた、彼女の成長と可能性を共に喜んだ。
──そして今回の手合わせで、アンティリーネは八合を越え、九合まで彼の攻撃を受け流した。
たった一日だった。
わずか一日で成し遂げた成果だった。
昨日よりもリミッターをさらに解除した状態。
それに、ただの剣ではなく、一応はアイテムと呼べるものに持ち替えた状態。
それにもかかわらず、彼女はそこまで辿り着いたのだ。
「────!!!!」
鉄と鉄が九度目にぶつかり合い、鈍く、しかし同時に澄んだ音が空き地に響き渡った。
アンティリーネはそろそろ限界だった。
それでも、少しずつ目標に近づいているという実感が、彼女の心に火をつけていた。
先ほどよりもさらに大きく気合いを入れ、前へ踏み込む。
ほんのわずかな擦り傷でもいい。
自分の本気が、届いてほしい。
今回も、限界を超えてみせる。
最大限に集中しながら、アンティリーネは再び剣を振るった。
ここね!
以前は、本能に頼って防いでいた。
だが今は違う。
ある程度ではあるが、目で捉えて防げるようになっていた。
九合を越えた。
そして今回、十回目の攻撃も確かに見えた。
相変わらず、馬鹿げたほど速い。
脅威的であり、現在の自分は疲労困憊の状態だ。
それでも大丈夫だ。
この攻撃も防げる。
アンティリーネはそう考えながら、死力を尽くした。
「────え」
確かに、カリムの攻撃は見えたのに。
確かに、受け流せたはずなのに。
油断はしていなかった。
集中力も途切れていなかった。
それなのに、どうして。
確かに攻撃は見えた。
そして、受け流した。
だが、疲労困憊だったアンティリーネは、カリムの力に耐えきれなかった。
そのまま吹き飛ばされ、空き地を転がっていく。
あまりにも強度が高く、何よりも死力を尽くしすぎたせいで、アンティリーネは一瞬だけ意識を飛ばした。
「おい、アンティリーネ。大丈夫か?」
凄まじい勢いで空き地を転がっていく彼女を見て、カリムは少し心配そうな顔で素早く駆け寄り、抱き起こした。
「……痛い」
カリムの声が聞こえると、一瞬だけ意識を失っていたアンティリーネは、彼に支えられながら、その胸の中に収まった。
「ちっ。できたのに」
アンティリーネは唇を尖らせ、少し愛嬌の混じった声で不満を漏らした。
今の、あの最後の一撃までは防げたはずなのに。
そして、もしかすると初めて反撃に移ることもできたかもしれないのに。
悔しさから、彼の胸に抱かれたまま、両手で軽くその胸元を叩いた。
「ワハハハハ! それでも大したものだったぜ、アンティリーネ? 今日の最初の手合わせでは七合が限界だったのに、たった今はなんと十一合まで持ちこたえたんだからな?」
「……え?」
九合ではなく、十一合。
その言葉に、アンティリーネは少し呆然とした表情を浮かべた。
つまり、今のあの一撃に見えた動きは、単なる一回の攻撃ではなかったということか。
そう考えると、先ほどの攻撃を受け流せなかったのも当然に思えた。
少し見方を変えれば、馬鹿げたほど強く、そして途方もない速度で繰り出される連撃を、彼女は十一合目まで持ちこたえたのだから。
「それでも卑怯よ、あんな攻撃は」
もちろん、そう理解したところで、アンティリーネは多少卑怯だと感じた。
一瞬のうちに、あれほど重い攻撃を、あれほどの速度でねじ込んでくるなんて。
改めて考えても、本当に規格外の強者だと感じるしかなかった。
「少し休むわ」
すっかり疲れ果て、めまいまで感じはじめたアンティリーネは、カリムの腕の中から降りながらそう言った。
そして、小走りでベースキャンプへ向かう。
全身が痺れ、力が入らずに足元がふらついた。
それでも、これも修練だと思いながら歩いた。
「大丈夫か?」
激しくよろめく彼女の姿を見て、カリムは少し心配そうな表情で彼女を支えた。
「うん、大丈夫」
カリムが心配そうな顔で自分を支えると、アンティリーネはにっこりと笑ってそう答えた。
本当は丁重に断ろうとした。
だが、歩くたびに鈍い痛みが押し寄せてきたため、仕方なく彼の支えを受けることにした。
「ありがとう」
アンティリーネは彼に支えられながらベースキャンプ内のテントまで入り、そのままベッドに倒れ込むように横になった。
「それじゃあ、休むから、お願いね」
「任せておけ」
カリムから適度なマッサージを受けたアンティリーネは、布団を被りながらそう言った。
カリムはそんな彼女を見て、軽く頭を撫でると、すぐ隣に座った。
「────こうしていると、旅行していた時を思い出すわ」
アンティリーネは、すぐ隣に座る彼を見ながら、懐かしそうな表情で言った。
最初は本当に嫌だった。
だが、振り返ってみれば、そんな感情すらも思い出だった。
そして改めて考えてみると、ただ嫌なだけではなかった。
結局、自分が今ここで平和にいられる理由は、あの旅のおかげでもあるのだから。
「……ねえ、もし。あんな旅行、いつかまたできるかな」
淡々と。
そして少し物憂げな雰囲気で。
彼女は願いとも言えない願いを、彼に口にした。
それを聞いたカリムは、最初こそ少し意外そうな表情を浮かべた。
だがすぐに、軽く微笑みながら彼女の願いに答える。
「もちろん。いつでも言ってくれ。まあ、まだ行ったことのない国や大陸がたくさんあるからな」
カリムにとっても、今アンティリーネが語った願いは、彼自身も望んでいたことだった。
さらに言えば、カリムはすでに考えていた。
冒険者として最高ランクまで到達し、後に子供までできたなら。
アンティリーネと共に。
そして、いつか生まれる子供も連れて。
三人で旅をする未来を。
旅の名は、そうだな。
大げさなものではなく、ただの家族旅行。
目的は、アンティリーネと子供の成長を見守ること。
「楽しみだわ」
カリムの言葉を聞いたアンティリーネは、少し頬を赤らめながら、期待を滲ませた。
初めて旅をしていた時とはまったく違う彼女の姿に、カリムは軽く微笑んだ。
「あ、眠い。私、少しだけ眠るね」
「ああ。ゆっくり休め」
仲睦まじく語り合った後、疲れが押し寄せてきたアンティリーネは、そのまま布団の中へすっぽりと入り込み、眠りについた。
そしてカリムは、幸せな夢の中へ旅立つ彼女を背に、旅をしていた時とは違い、外ではなくテントの中で見張りをしながら、これまで手をつけられなかった自身のタスクと、先ほど魔導国から伝えられた衝撃的な知らせをじっくりと反芻した。
「……今、このタスクがなければ、あれほどの金貨を得ることは不可能だっただろうな」
最初は、単なる好奇心だった。
そしてその好奇心はすぐに、欲望へと変質した。
賢者の石。
はるか昔、中世の時代に全人類が求めていたと言われる物質。
もちろん、この欲望の物質は、現代の人類も夢見続けてきたものだった。
現実とはシステムがまったく異なり、制約も少なく、同時に自由度も比較的高い。
だからこそ、それをユグドラシル内で実装しようとするユーザーが、少数ながら存在した。
当然、最初は誰もが失敗した。
錬金術ならまだしも、賢者の石そのものが現実からあまりにもかけ離れた物質だったからだ。
それでもユーザーたちは挑戦を続けた。
カリムもまた、他のユーザーたちと同じように挑戦し続けた。
本当に、むやみやたらに挑戦した。
完成さえすれば、とてつもない能力と莫大な富を得られるかもしれない。
これに魅力を感じないユーザーなど、そうはいなかっただろう。
彼もまた、他のユーザーと同じように数え切れないほどの失敗を経験した。
すでにディストピアと化してしまった現実には、何の意味も見出していなかった。
だからこそ、数ヶ月もの間、彼は賢者の石にすべての努力と時間を注ぎ込んだ。
その結果、カリムはついに、誰も到達できなかった境地に到達した。
無限に溢れ出る黄金。
多くの理を見通し、対象の心を見抜く目。
そして、鍛冶に携わる者なら誰もが夢見る、自分の想像したものを創り出せる能力。
最初は当然、戸惑った。
無限に溢れ出る黄金は予想していた。
だが、その後に付随してきた能力は完全に予想外だったからだ。
もちろん、賢者の石が登場する媒体ごとに、その設定が多少異なることは知っていた。
しかし少なくとも、理知を得たり、鍛冶の神のような能力を得たりするという話は聞いたことがなかった。
調べてみたかった。
だが、当時その境地に立ったユーザーはカリム一人だけだった。
何より、カリムは完全なソロプレイヤーでもあった。
尋ねる相手など、一人もいなかった。
そのため彼は、賢者の石に到達すれば得られる副産物のようなものだと考えることにした。
ただし、彼がよく知っていた永遠の命の能力はなかった。
もっとも、当時のカリムは、ゲームなのだから永遠の命など必要ないと判断していた。
「そう思っていたんだがな」
紆余曲折の末、この世界に来ることになり、カリムはまだ完全な終わりに到達していないことに気づいた。
境地の果てには、永遠の命が待っていた。
能力を得た時と同じように戸惑った。
面倒でもあった。
半ば諦めかけていた。
そんな時に、アンティリーネと出会ったのだった。
ユグドラシルとは違うこの世界で、エルフたちがどれほど生きるのか。
そしてハーフエルフが普通のエルフとどう違うのか。
カリムは知らない。
だが、確かなことが一つあった。
この賢者の石の完全な終わりに到達しなければ、寿命という意味で、彼女と同じ境地に立つことはできない。
同じ境地に立つために。
彼女と同じ時間を生きるために。
彼は最後の関門を終わらせようと、タスクを始めた。
もちろん、種族を変換するアイテムは存在した。
だが、それは多少厄介なものだった。
当時は種族変換に関心もなかったため、詳しく調べたこともない。
当然、アイテムを買ったこともなかった。
無限のインベントリにも入っていない。
「こんなことなら、エルフで始めればよかったかな」
心にもないことを言いながら、カリムはぐっすり眠る彼女の顔を軽く撫でた。
「────早く、さらに高い境地へ上がらなければならないな」
このままでは、七大罪の魔王たちに立ち向かうのは厳しい。
魔導国の連中は、奴らがまだ療養中だと言っていた。
だが、単なるゲームのレイドボスだった存在が、この世界に来てどう変化するか分からない。
単に力だけを頼りに暴れるモンスターになるかもしれない。
とてつもない知能でこの世界を支配する狡猾な悪魔になるかもしれない。
あるいは、この世界そのものを滅ぼす魔神になるかもしれない。
「一人だったら、こんな心配、する必要もなかっただろうにな」
もちろん、彼女を足手まといだと考えているわけではなかった。
そんな考えだったなら、最初からすべてを差し出すことなどしなかっただろう。
手合わせにも、これほど真剣に臨むことはなかったはずだ。
だが、現状で七大罪の魔王たちと直面することになれば、彼女を守りながら戦う自信はない。
一つ間違えれば、二人とも命を落とすかもしれない。
「仕方ないか」
もし、その時までに彼女のポテンシャルが完全に開花しきらなければ。
その時は、彼女には秘密にして、一人で行くしかないだろう。
一人なら、違う。
一対多数ではなく、一対一の状況なら自信がある。
システムの盲点と、多少の小細工を使ったとはいえ、彼にはソロプレイヤーとして、一人で倒した経験と記憶があるのだから。
「……今からでも準備しなければな」
カリムは、もう一度アンティリーネの顔を撫でながら決意した。
こんなにも美しい伴侶と共に過ごす、美しく平和な日常だ。
それを邪魔するというのなら、たとえ神であっても排除してやる。
──そう覚悟を決め、カリムはアンティリーネが起きた時に空腹を満たせるよう、簡単な食事の準備を始めた。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。