We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「まだ全身が震えるわ」
激しい手合わせをした翌日。
アンティリーネはベースキャンプから家へ戻った後、ずっと眠り続けていた。
丸一日眠り、翌日の遅い朝を過ぎて、ようやく目を覚ましたのだ。
マッサージと回復魔法を受け、長い休息時間を取ったにもかかわらず、完全には回復していなかった。
「ハハッ! まあ、それだけ達成感があったってことじゃないか? いやあ、驚いたぜ? 一気に十合以上も耐え抜くとはな!」
少し意気消沈した表情で、ふにゃふにゃと身体を伸ばしているアンティリーネを見ながら、カリムはやや大げさな声で言った。
そして同時に、彼女の状態を確認する。
──九十二、か。
単純なレベルで言えば、上昇速度はやや遅い方だった。
だが、ここはユグドラシルではない。
まったく別の世界だ。
ユグドラシル式のレベルだけでは、それほど大きな意味を持たない。
むしろ、他の要素の方が重要だった。
そしてそれを確認したカリムは、少し驚いた。
前回よりも、あらゆる部分が大きく上昇していたのだ。
心の中で感嘆しつつ、同時にその要因を分析する。
もしかすると、これまで彼女には、まともな敵だけでなく、まともな手合わせの相手すらいなかったのかもしれない。
そう考えると、以前の彼女は単にレベルだけが高い状態だったのだろう。
文字通り、単純に体格──スペックが高く、そのスペックで相手をねじ伏せる。
単調で、簡単ではあるが、非常に非効率的な戦い方に固執していたはずだ。
──それでも、良かった。
遅きに失したとはいえ、今からでも正しい道を見つけられて良かった。
方向性が定まった以上、これ以上の境地に達するのは時間との戦いだ。
「肩、ちょっと揉んで」
そうして彼女の状態を探りながら物思いに沈んでいた頃、アンティリーネはまだ意気消沈した表情のまま彼に頼んだ。
その姿にカリムは軽く微笑み、真心を込めて彼女の肩をほぐし始める。
「あ、う……気持ちいい」
優しい手つきから、その真心が全身へ伝わっていく。
アンティリーネは痺れるような感覚を覚え、満足げな吐息を漏らした。
彼との手合わせも楽しかった。
だが、手合わせの後にこうして行うスキンシップも、同じくらい心地よかった。
「どうだ、アンティリーネ。今日は手合わせできそうか?」
カリムは、気だるげに、そして満足そうな表情でマッサージを楽しんでいるアンティリーネを見ながら言った。
彼女は彼の表情に妙な悪戯っぽさを感じ、脇腹を思い切りつねってやりたくなった。
だが、そうすると回復速度が遅くなりそうな気がしたため、想像するだけにとどめた。
「うーん。やりたいのは山々だけど」
今すぐにでもベースキャンプへ向かい、手合わせをしたい。
だが、そうはいかなかった。
マッサージを受けている最中でさえ、身体はだらりと脱力している。
やりたくてもできない。
そんな身体の状態を、彼に分かりやすく示していた。
そんなアンティリーネの姿を見て、カリムは豪快に笑い、マッサージを終えると彼女を抱き寄せた。
彼女は静かに彼の温もりを感じながら、目を閉じて軽く微笑む。
「そうだな。次にしよう」
今日はきつい。
身体でそう表現する彼女を見て、カリムは彼女の選択を尊重した。
確かに、この状態では無理だろう。
無理をしたところで、身体を壊すだけで、得るものもないはずだ。
「……代わりに、後で散歩でもしましょう」
だが、だからといって、まったく身体を動かさないわけにもいかなかった。
丸一日眠りっぱなしだったのだ。
文字通り何もしないで眠ってばかりいたため、アンティリーネは自分から散歩に誘った。
手合わせの代わりと言うには物足りない。
それでも、こうして少しでも動いた方がいいと判断したのだ。
アンティリーネの誘いに、カリムは快く頷いた。
いずれにせよ、そろそろ彼女に休息期間を与えようと考えていたところだった。
「ちょうど良かった。俺もそうしたかったところだ」
アンティリーネはカリムに支えられながら立ち上がり、少し身支度を整えると、彼と一緒に外へ出た。
───────────
「いい天気ね」
外へ出た二人は、冒険者ギルドの近くにある食堂で手早く昼食を済ませた後、エ・ランテルの市内をゆっくりと歩き、町の外れの方へ向かった。
当初はエ・ランテルの市内をゆっくり見て回るつもりだった。
だが、アンティリーネがただ静かな場所を歩きたいと望んだため、市内を抜け、外れの方へとゆっくり歩き始めたのだ。
中心部と比べると、そこは比較的閑散としていた。
風は穏やかで、日差しも暖かい。
アンティリーネは自然を満喫しながら、彼の腕に寄り添うようにして、満足そうな表情で歩いていた。
「たまには、こうするのも良いわね」
自然の息吹に身を任せながら、アンティリーネは小さく呟いた。
エ・ランテルに定住してからは、時折こうして、自然を友として散歩を楽しむようになっていた。
こうした姿もまた、スレイン法国の番外席次、『絶死絶命』だった頃には想像もできない姿だった。
ただし、ただただ平和な気持ちでいられたわけではない。
幸福感という巨大な陰に隠れて、普段はあまり強く感じられなかっただけだ。
彼女の心の片隅には、常に自分の祖国──スレイン法国への思いがあった。
単なる郷愁なのか。
断ち切れない望郷の念なのか。
それとも、過去に対する後悔なのか。
自分でも分からなかった。
だが、確かなことが一つだけある。
自分が生まれ育ったその場所に、一度くらいはもう一度立ち寄ってみたいということだ。
長い時間が経ったわけではない。
それでも内心では、皆の安否が気になっていた。
だが、なかなか勇気が出なかった。
果たして、これを彼に言ってもいいのだろうか。
これを言ったら、彼は失望するのではないか。
仲がこじれてしまうのではないか。
かろうじて取り戻した過去の片鱗を。
そして、それ以上に幸福な今の日常を。
自分の手で蹴り飛ばすことになるのではないか。
「……あのね。もし、後ででも。時間ができたら、法国に行ってみてもいいかな」
互いの体温を感じながら、何も言わずに歩いて、どれくらい経っただろうか。
腕の中に寄り添っていたアンティリーネは、嫌われる勇気を振り絞り、やっとのことで口を開いた。
──微かに震えている唇。
その隙間から漏れ出る不安。
平穏でありながら、どこか揺れている瞳。
カリムは彼女の言葉を聞き、少し考え込んだ。
世界で一番愛する人の願い。
常に守ってやりたい人の、切実な願い。
果たして、この願いを聞き入れてもいいのだろうか。
これまでは、彼女の願いをすべて叶えてきた。
だが、今回は悩まざるを得なかった。
一度の決定で、世界線が変わってしまうかもしれないからだ。
「────ああ。時間ができたら、一度くらいは行ってみようか」
少し間を置いた後。
カリムは、危険な賭けに出た。
今回も、彼女の願いを聞き入れることにしたのだ。
この決定によって吹き荒れるであろう余波は、当然あるだろう。
だが、だからといって、試みることすらしなければ、きっと今日という日を後悔する。
そう思った。
「……ありがとう」
カリムの口からやや意外な言葉が出ると、アンティリーネは目を丸くし、少し驚いた表情を浮かべた。
きっと失望されるだろう。
きっと否定的な言葉が返ってくるだろう。
そう思っていた。
互いに愛し合う仲であり、恋人同士であることは確かだ。
それでも、今回のお願いは、今回の願いは、命以上のものを懸けなければならないことだったからだ。
今の彼の決定が、どれほど困難なものなのか。
アンティリーネは、それを理解していた。
だからこそ、深く胸を打たれた。
彼女はゆっくりと立ち止まり、そのまま彼の胸元へ顔を埋める。
軽く肩を抱きながら歩いていたカリムもまた、一緒に立ち止まり、その感情を受け止めた。
故郷への恋しさと郷愁は、慰め続けたところで簡単に振り払えるものではない。
そしてカリム自身も、時折あのディストピアの世界を懐かしむことがあった。
だからこそ、今の彼女の心がどれほど苦しいのか、よく分かっていた。
「まあ、俺は故郷へ行く方法がないけどな、アンティリーネ。お前は違うからさ」
もちろん、カリムには今のところ、故郷へ帰る方法などまったくなかった。
しかし、アンティリーネは違う。
条件は付くだろう。
それでも、行きたいと思えば行ける。
カリムとは違い、比較的自由な往復も可能だった。
「……うん」
まだ日にちを決めたわけではない。
だが、彼のどこか希望を含んだ言葉に、これまで心の片隅に重くのしかかっていた荷物が、少しだけ消えたような気がした。
自分が犯した失敗のせいで、現在法国はとてつもない危険に陥っている。
それなのに、今自分だけがこんなにも幸福を。
それも法国から離れた他国で、幸せを享受していていいのだろうか。
彼らを無視したままでいいのだろうか。
そうした一種の罪悪感のせいで、アンティリーネは完全に心穏やかではいられなかった。
時折、悪夢にうなされて目を覚ますこともあった。
不安な気持ちから、散歩のようなものを繰り返すこともあった。
そしてそうした罪悪感は、カリムの肯定的な返答のおかげで、少しだけ和らいだ。
もちろん、まだ正確な日にちを決めたわけではない。
だが、彼の性格からすれば、遅かれ早かれ法国へ向かう準備を始めるだろう。
「それなら、家に帰ったらすぐに準備しなきゃな!」
──予想は見事に的中した。
豪快に、屈託なく笑いながら言う彼を見て、アンティリーネは一瞬、少し恥ずかしくなったのか、うつむき加減になった。
もちろん、今の彼の行動そのものに恥ずかしさを感じたわけではない。
法国へ行ってから彼がするであろう奇行の数々が、すでに恥ずかしくなってきたからだ。
旅の時もそうだった。
旅の目的が、ほとんど「俺は絶世の美女と旅行している最高の幸運児だ!」というものだったのだから。
見なくても、火を見るより明らかだった。
「それにしても、気になるな、法国って所は。まあ、アンティリーネ、お前の祖国なんだから、お前くらい美しい場所なんだろう? 行ったらすぐに皆に言わなきゃな。この女は、俺の女だ! ってな」
もちろん、カリムはアンティリーネが恥ずかしがろうがどうしようが、忠実に自分の欲望を口にした。
君の祖国だから君くらい美しいだろうという、聞いている方が気恥ずかしくなる言葉。
そして、その場にいる者たちをさらに恥ずかしくさせるような宣言。
予想から少しも外れなかったので、アンティリーネは普段通りの姿に戻った。
カリムを少し睨みつけ、ありったけの力で脇腹をつねりながら、深くため息をつく。
「やっぱりね」
彼のことは、とてもよく分かっている。
それでも、少しは格好いい言葉を考えてくれるのではないか。
少しは素敵なことを考えているのではないか。
そう思っていたのに。
先日の逆バニーガール事件もそうだが、どうやら彼には、人を無駄にときめかせるおかしな才能があるらしい。
「ワハハハッ! でも、お前の祖国である法国について気になっているのは本当だぜ」
彼女の攻撃にも、カリムは意に介さず、豪快に笑いながら言った。
実際、彼は彼女の祖国である法国について、かなり気になっていた。
最初から関心があったわけではない。
だが、時折彼女が少し誇らしげな声で自分の祖国について語ったり、やや物憂げな表情で幼い頃のことを話したりするのを見ているうちに、自然と彼女の言葉に耳を傾けるようになった。
そして、興味を持つようになったのだ。
──同時に、六大神と呼ばれる存在たちについても関心が湧いた。
六百年以上も前の存在であり、非常に詳細な情報までは分からない。
だが、彼女から聞いた話を元に整理してみると、彼らもまた、自分と同じようにユグドラシルから転移してきた存在であることは分かった。
「……結構です」
豪快に答えるカリムのおかげで、かろうじて残っていた緊張感がいくらか解けたアンティリーネは、軽く笑いながらそう言った。
「よし。それなら、散歩が終わり次第、出発してみるか!」
妙な緊張感を解きほぐすように軽く笑う彼女を見て、カリムはいつものように即興で決めた。
その姿に、アンティリーネは初めて会った時や、エ・ランテルを目的地に決めた時のことを思い出し、少し懐かしそうな表情を浮かべた。
時間が経っても、彼は相変わらず自分のことを考えてくれている。
そう感じたからだ。
彼の最後の言葉をきっかけに、散歩が終わるまで、二人は無言で互いに寄り添いながら自分たちの家へ戻り、法国へ向かう準備を始めた。
───────────
「カリム! まだ? 私はもう準備できてるんだけど」
「ああ、もうすぐ終わる」
法国への小旅行を決めてから翌日。
久しぶりに祖国を訪問するという胸の高鳴りに、早朝から準備を終えたアンティリーネは、先に外へ出て彼を待っていた。
元々は一緒に出るつもりだった。
だが、思いのほかカリムの動きが少し鈍かったため、先に出て彼を呼んだのだった。
「ワハハッ! いやあ、普段はお寝坊さんなのに、故郷に行くとなると元気いっぱいだな!」
「私がいつよ」
彼女が暗に文句を言うと、カリムは屈託なく笑い、彼もまた暗に彼女をからかうように言い返した。
カリムに上手く受け流されると、アンティリーネは少し恥ずかしそうな表情を浮かべ、顔を横へすっと背けた。
確かに、彼の言う通り、彼女は普段は遅く起きる方だった。
たまに早く起きることもある。
だが、少なくともこれまでカリムが見てきた彼女は、概ね寝坊を楽しんでいた。
彼女の話では、過去、法国で過ごしていた時は違ったらしい。
しかし、その頃の彼女をカリムが知る由もなかった。
もちろん、カリムはそんな彼女の姿さえも愛おしく思っていた。
彼女が遅く起きたところで、不満を漏らしたことは一度もない。
むしろ、ぐっすり眠る彼女の顔を静かに見つめて、その瞬間を楽しんだり。
起きた途端に驚かせ、目を丸くする彼女の反応を楽しんだりした。
──そのたびに、彼女は決まって彼の背中を全力で叩いたが。
「ちっ、もういいわ」
カリムが相変わらずにこにこと笑いながら自分を見ていると、アンティリーネは反論の言葉を思いつかず、少し拗ねた表情で彼の肩に寄りかかり、腕を組んだ。
「まあ、準備ができたなら、出発しよう」
隣にぴったりとくっつく彼女を見て、準備は整ったと判断したカリムは、そのままスレイン法国へ向けて出発した。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。