We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「あ、あやっ。あややや────はぁ、すっきりした」
エ・ランテルの家をしばし離れ、スレイン法国へ向かい始めてから五日。
二人は、いつの間にかスレイン法国の近くまで来ていた。
初めて旅をした時と比べれば、目覚ましい進歩だった。
あの時は方角を適当に決め、行きたい場所へ行くだけだった。
だが今は、確固たる目的地がある。
そのため、以前のような奇行を繰り広げることはなかった。
そして、もう一つ。
今や日課となってしまった手合わせも、旅の間に忘れることはなかった。
日が傾き、遅い夕方になると、適当な場所に腰を落ち着ける。
そこで一日の疲れを癒しながら過ごし、翌朝、朝食を摂る前に軽く手合わせをする。
手合わせが終わると、今のようにカリムがアンティリーネをマッサージしながら、正午になるまでフィードバックと軽い冗談を交わし合った。
「それにしても、本当に驚きだぜ、アンティリーネ。完全な本気じゃなかったとはいえ、有効打を入れられそうになったからな」
完全な本気ではなかった。
だが、だからといって手加減していたわけでもない。
あくまで力の出力を調整していただけで、カリムはPvPに臨む時のように、手合わせに少しの偽りも込めなかった。
怪物じみた速度は以前よりもさらに速くなり、技術もまた、以前より圧倒的なものになっていた。
もちろん、依然として平凡な印象のアイテムを装備してはいた。
それを考慮しても、アンティリーネはこの数日の間に目覚ましい成長を遂げていた。
その証拠に、数日前までは十合をかろうじて超える程度だった。
だが今では、十五合まで持ちこたえるようになっている。
時折、反撃に移ろうとする動きも見せるようになっていた。
──九十二、あるいは九十三、か。
そう思いながら、カリムは今回も彼女の状態を確認した。
数日前は、ユグドラシルで言えばレベル九十二程度。
今は九十二、あるいは九十三程度。
わずかではあるが、確かに成長している。
爆発的に伸びている実力に比べれば、レベルの成長は非常に遅い。
だが、失望はしなかった。
むしろ予想の範囲内だと、淡々と現在の状況を分析する。
詳細にどの部分が、どのように上がったのかまでは確認できない。
だが、アンティリーネが最初から正常な修練を積んでいたなら、既存のレベルである八十八ではなく、現在の九十二から九十三程度こそが、ほぼ到達していたであろう水準だったはずだ。
もちろん、まだポテンシャルは残っている。
最終的にどこまで到達するのかを正確に推測するのは難しい。
しかし、それ以上の段階へ進むには、純粋な修練と手合わせだけでは難しいだろう。
そして、カリムがレベル以上に重要だと考えていたのは、経験だった。
アンティリーネはかなりの高レベルである。
だが彼女自身、自分と同格、あるいはそれ以上の強者と戦った経験は事実上ないと語っていた。
正直なところ、最初に彼女の状態を確認した時、カリムは期待した。
しかし実際に手合わせをしてみると、少し失望した部分もあった。
レベル的な側面。
つまり体格──スペックは、かなりの合格点だった。
だが、実力という面では、かなりの落第点だったのだ。
カリムの立場から極めて冷静に評価するなら、六十レベル前半。
いや、もしかすると六十レベルに届くかどうかすら怪しい水準だった。
つまり、実戦経験と技術の不足を、圧倒的なスペックでねじ伏せていた。
そういう、多少残念な状態だったわけだ。
それでも今は違う。
カリムが以前とは違う方向性を提示し続け、アンティリーネもそれによくついてきている。
だからこそ、今の彼女は少しずつ、体格に見合った実力と経験を身につけつつあった。
「ふふっ。本当?」
真剣に考えていた最中、褒め言葉を聞いたアンティリーネは、柔らかな表情で笑いながら言った。
ずっと高く見えていた目標が、ようやく目の前に見えてきた。
その事実に、自然とそんな反応が出たのだ。
もちろん、依然としてカリムが全力ではないという点は少し残念だった。
だが、ただの刃物すら使わず、片手だけで相手をしていた彼を相手に、十秒すら持ちこたえられなかった頃を考えれば、今の成長は凄まじいものだった。
「ああ、本当さ」
へらへらと笑うアンティリーネを見ながら、カリムは彼女の両肩に置いていた手を、そのまま両頬へ移し、軽く掴んで揺らした。
「目が回るわ」
カリムが突然頭を揺らすと、アンティリーネは少し小言を言うように呟いた。
その姿にカリムは豪快に笑い、そのまま彼女を抱きしめる。
「まあ、まだ先は長いが、それでもこのままいけば、本当に本気を出さなきゃいけなくなりそうだな。殴られるのは嫌だからさ」
「何よ、それ」
今後、手合わせの強度がさらに上がる。
その言葉には期待を抱いた。
だが、その理由が単に殴られたくないからだという、彼らしい突拍子もない答えに、アンティリーネは少し呆れたような表情を浮かべた。
そんなのが理由だなんて。
本当に、分かっているようで分からない人だ。
「ハハッ! ちょっと冗談を言ってみただけさ。まあ、帰り道で有効打に成功したら、今回もプレゼントをやるよ」
「ふん」
有効打に成功すれば、今回もプレゼントをくれる。
その言葉に、一瞬だけ心が惹かれた。
だが、逆バニー事件のせいで、期待値は大きく下がっていた。
きっと、あの逆バニーのような、本当に恥ずかしいものがまだあるに違いない。
そんな思いから、アンティリーネは少し拗ねたような表情を浮かべた。
「おいおい、本当だってば?」
普段なら、プレゼントという単語に反応して目を輝かせていたはずの彼女が、今日は少し冷ややかな反応を見せる。
そのため、カリムは少し慌てながら、最大限彼女をなだめた。
そして同時に、やはりああいうプレゼントは完全なサプライズで渡さなければならないと、心の中で決意した。
「……いいわ。プレゼントをもらうために手合わせをしてるわけでもないし」
カリムが少し慌てると、アンティリーネは普段の表情に戻りながら言った。
そんな彼女の言葉を聞き、カリムは軽く笑う。
「確かにそうだな」
軽く笑うカリムを見ながら、アンティリーネは抱かれたまま体を向け、彼の目を見つめた。
一瞬、静寂が流れる。
だが彼女は、むしろその静けさを楽しむかのように、何も言わなかった。
そして、磁石に引き寄せられるように、そっと顔を彼へ近づける。
予想していなかったアンティリーネの行動と、その柔らかさに、カリムは静かに彼女のリードを受け入れながら抱き寄せた。
──そうして、どれくらい互いを抱きしめ合っていただろうか。
気づけば、時間は正午を過ぎていた。
本来であれば、すぐに出発するつもりだった。
だが、予想外の彼女の挑発のおかげで、出発は少しだけ遅れることになった。
───────────
「────もう、懐かしいわ」
少しずつ。
そして、ゆっくりと。
自分の祖国であるスレイン法国へ近づくにつれて、アンティリーネはどこか誇らしく、そして少し名残惜しいような感情を抱いていた。
出陣のために祖国を後にしてから、一年弱。
普通の人間とは違い、かなり長い時間を生きる彼女にとって、一年という時間はそれほど長いものではない。
それでも、祖国を離れ、世界のあちこちを見て回り、異郷で生活してみると、懐かしさは途方もなく大きくなっていた。
「みんな、何も、起きてないわよね」
アンティリーネは憂いを帯びた眼差しで、少し震える声で言った。
その姿は、単なる郷愁と見るには、どこか不安定だった。
それもそのはずだった。
法国へ向かう途中、二人は魔導国が法国を侵略したという知らせを耳にしていたからだ。
最初は、単なる噂だと思っていた。
だが、五日という時間が過ぎても、ここが依然として魔導国の領土であるという事実に、鳥肌が立たずにはいられなかった。
さらに法国へ近づけば近づくほど、激しい戦争の痕跡が所々に見られるようになった。
それにより、魔導国の侵略が単なる噂ではなく、事実なのだと知ることになった。
だからだろうか。
アンティリーネの心は不安定になり、一種の罪悪感のようなものまで抱かざるを得なかった。
もし、あの時ダークエルフを相手に戦いを挑んでいなかったら。
戦ったとしても、せめて引き分け程度で終わっていたら。
そうであったなら、果たしてどんな未来が待っていたのだろうか。
「そんなに心配するなって、アンティリーネ。戦争が起きたのは確かに大変なことだ。けど、だからといって法国が陥落したとか、今まさに滅びかけているとか、そんな噂は聞いてないだろう?」
家を出た時とはあまりにも違う姿の彼女を見て、カリムはできる限り安心させるように慰めた。
実際、魔導国の侵略を受け、戦争が起きている状況ではある。
しかし、法国が陥落したとか、その寸前まで追い詰められたとか、そういった噂は聞いていなかった。
「……それは、そうだけど」
カリムが慰めの言葉をかけると、アンティリーネは不安定だった心を少し落ち着かせ、じっくりと考えた。
確かに、彼の言う通りだった。
戦争が起きたという知らせを聞いただけで、自分の祖国が大きな危機に陥ったという噂までは聞いていない。
「まあ、そんなに不安なら、この前みたいに交渉しに行けばいいさ」
「交渉?」
交渉という言葉に、アンティリーネはカリムが自分を救い出してくれた直後のことを思い出した。
どうやったのかは分からない。
だが、あの時もカリムは彼らと交渉していた。
そして、その交渉によって自分を救い出してくれたのだ。
ある意味では、あの時と今の状況は密かに似ている。
それなら、今回も彼の力を借りて、彼らと交渉し、戦争を防げばどうだろうか。
少し恥ずかしい考えだった。
だが、手段や方法を選んでいる場合ではない。
「でも、どうやって」
そうして、彼女は現実的な問題にぶつかった。
彼の力を借りて、彼らと交渉し、戦争を防ぐ。
発想そのものは悪くない。
だが、どうやって?
あの時は一人だけ救えばよかった。
今回はスケールが違う。
国全体と、そこにいる人々を救わなければならない。
すでに自分は、救出の代価として、一生を監視されながら生きる身になっている。
なのに、ここでさらに何を懸けるというのか。
「何とかなるさ。心配するな」
心配そうに話すアンティリーネを見ながら、カリムは今回も豪快に笑うだけだった。
何とかなる。
だから心配するな。
多少楽観的に話す彼を見て、アンティリーネは依然として不安だった。
だが、だからといって、他に方法があるわけでもない。
今は彼に頼り、彼の選択を信じるしかなかった。
「分かったわ」
少なくとも、彼はあの怪物たちの巣窟を無事に抜け出せるほどの強さと実力を持っている。
今回も、何とかしてくれるだろう。
他の存在がそう言ったなら、単なる虚勢だと見なしたかもしれない。
だが、カリムだからこそ信じることができた。
そのおかげで、彼女は妙な安心感を覚えた。
アンティリーネの不安が少し和らいだのを確認すると、カリムは軽く彼女の肩を抱き寄せた。
アンティリーネはいつものように、静かに彼に身を任せた。
「おっ、見えたぞ」
そうして、どれくらい歩いただろうか。
遠くにスレイン法国の紋章が見え始めた。
久しぶりに見る故郷の旗。
それを目にした瞬間、まだ残っている罪悪感と込み上げる感動のせいで、アンティリーネの瞳に涙が滲みそうになった。
「あれが、スレイン法国の紋章か」
カリムは目頭を赤くした彼女を見ながら、淡々と口を開いた。
ユグドラシルからこの世界に転移して以降、四番目に見る旗だった。
彼にとっては、絵でしか見たことがないもの。
だからアンティリーネとは違い、込み上げる感動よりも、どこか不思議な気分の方が先に立った。
転移前の彼なら、目頭を赤くする彼女を見ても、特に何も思わなかったかもしれない。
だが、今は違う。
罪悪感に苦しみながらも感動している彼女の心を理解し、その苦しみを分かち合おうと努力していた。
「大丈夫さ、アンティリーネ」
再びアンティリーネの心が不安定になっていることを感じ取ったカリムは、彼女を優しく抱きしめ、背中を軽く叩いた。
ゆっくりと。
静かに。
腕の中に抱かれながら、アンティリーネは小さく体を震わせた。
涙は流さなかった。
過ぎ去ってしまった過去。
取り戻せない思い出。
それらを目の前にして、前へ進む勇気がなかなか出なかった。
それでも、彼の慰めのおかげで、少しずつ落ち着いていく。
「うん、ありがとう」
腕の中からそっと体を離したアンティリーネは、感謝の言葉を口にした。
それはカリムに向けたものだったのかもしれない。
あるいは、思い出の断片を最後まで心に刻み、守り抜いてきた過去の自分へ向けた言葉だったのかもしれない。
──これ以上、自分の過去を否定しない。
これ以上、自分の過去から目を背けない。
そして、自分が受け継いだこの血を。
この血統を。
過去とは違って、大切にする。
心の中でそう決意を固めたアンティリーネは、満面の笑みを浮かべた。
そしてカリムの手を握り、自分の祖国であるスレイン法国へと導いた。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。