We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「それでは、魔法のハンドベルが鳴りましたら、開始です」
法国に到着した翌日。
神官長たちはカリムに、神にふさわしい空間を用意しようとした。
しかし、それをひどく負担に感じたカリムは彼らの提案を断り、そのままアンティリーネの部屋で、彼女と一緒に眠ることを選んだ。
その姿に神官長たちは当然ながらひどく戸惑ったのだが、それは少し後の話である。
カリムは法国を適当に見物し、適当に怠けてから帰るつもりだった。
そんな時ふと、自分が第一席次に言った言葉を思い出す。
そして、フィードバックを口実に、即興でアンティリーネに手合わせを求めた。
思いがけない要請に、アンティリーネは少し悩んだ。
嫌なわけではない。
ただ、自分の強さにすらついてこられなかった者たちが、カリムの強さについてこられるのか。
それが心配だったのだ。
それでも、未来を考えるなら、理解できずとも見せておいた方がいい。
そう判断し、アンティリーネはカリムの提案を承諾した。
神と神人の手合わせ。
その知らせは、すぐに聖殿内部へ知れ渡った。
手合わせの参観者は、法国のすべての特殊部隊と神官長たち。
あまりにも即興で開かれたため、彼らは大いに喜びながらも同時に慌てふためき、聖殿周辺の指定された場所へと集まってきた。
決して見逃してはならない、非常に大きな出来事。
見逃すわけにはいかなかった。
そして、見逃してもならなかった。
そうして参観者がすべて集まり、張り詰めた緊張感と神聖な雰囲気が場を満たす中。
占星千里の合図に従い、神と神人の手合わせが始まった。
「はぁ、あああぁっ──!!」
合図が下された直後。
探り合いすらなく、アンティリーネが先にカリムへ突進した。
現在、彼女が手にしているアイテムは、六大神の神器ではない。
彼から贈られた『死の舞踏』だった。
最初、彼らは番外席次の手に、六大神のアイテムではなく、生まれて初めて見るアイテムが握られていることに気づいた。
六大神のアイテムはどこへ行ったのか。
そんな考えが一瞬、彼らの頭をよぎる。
だが、その悩みも本当に一瞬だけだった。
神と神人の激突。
それを目の当たりにした瞬間、すべての神経をそちらへ集中せざるを得なかったのだ。
「あれが、神の武力なのか……」
単なる手合わせであるにもかかわらず、そこからあふれ出る圧倒的な武力と速度。
そのあまりの雰囲気に、彼らは戦慄するしかなかった。
同時に、決して到達できない境地に対する恐怖と敬畏の念を抱く。
「────!!」
「おっと」
圧倒的だったのは、武力と速度だけではない。
弾き出される余波もまた、圧倒的だった。
あくまでも余波であるため、彼らのレベルでも、見てから防いだり避けたりすることはできた。
だが、余波だけで周囲に被害を与えるその様子は、あまりにも常識外れだった。
「はぁぁぁぁ────!!」
そうして余波を防ぎながら、間近で手合わせを見守っているうちに。
手合わせそのものは、いつの間にか序盤を越え、中盤へと向かっていた。
番外席次は、彼の攻撃をなんと二十回も受け流していた。
ごくたまにではあるが、すれすれのところで反撃する機会を掴むことさえあった。
「やるじゃないか、アンティリーネ!」
以前とは確実に変わったアンティリーネの姿に、カリムは軽く微笑みながら、豪快に言った。
まだ、リミッターをすべて解除したわけではない。
しかし、手加減しているわけでもなかった。
速度に関して言えば、アンティリーネがここからさらにレベルと経験を積めば、完全に解除することになるだろう。
その境地まで、残りはわずかだった。
力に関しては、まだかなり余裕がある。
だが少なくともカリムから見て、アンティリーネは力よりも速度をさらに磨き上げる方が効率的だった。
そのため、今のところ問題になる部分はなかった。
「ちっ!」
数日前よりも、力も速度も上がっている。
現在の自分は、カリムと出会った頃と比べれば、あらゆる面で確実に強くなっていた。
それは自分でも体感できるほどだ。
数日前と比べても、少しではあるが確かに伸びている。
そしてそれは、カリムの状態もまた同じだった。
数日前よりも、彼の速度はさらに速くなっている。
ようやく目で見てついていけるようになっていたはずなのに、格差が再び開いた。
「ここね!」
あまり勘だけに頼るな。
それはフィードバックの過程で出た言葉だった。
彼女自身も同意していた部分だ。
しかし、今はそれを気にする余裕などなかった。
せめて力だけでも少しは拮抗しているならともかく。
力も速度も、アンティリーネの立場からすれば、相変わらず不条理だった。
──使える武技は、すでにすべて使っている。
集中もまた、これまで以上に研ぎ澄ませている。
結果は今回も同じだろう。
それくらいは分かっていた。
それでも、本能的に、二十一回目の攻撃を受け流した。
鉄と鉄がぶつかったにしては、あまりにも大きな轟音が響く。
その轟音に耳が震えるような感覚を覚えたが、アンティリーネは意に介さず、彼へ剣を振るった。
カリムがわずかに驚きながら、二十二回目の攻撃を仕掛ける。
今回も、彼女は受け流した。
二十一合目よりもさらに強烈な轟音が響き渡り、空間そのものを震わせる。
「────!!」
ここまで受け流すとは。
二十回までは予想していた。
現在、ユグドラシルのレベルで見れば九十三程度。
そして実力は、今まさにレベル八十の入り口に到達したように見えた。
レベル六十にすら届いていなかった最初と比べれば、かなりの上昇速度だ。
だからこそ、適度にリミッターを解除し、適当なアイテムを使う自分の攻撃を、それくらいまでは受け流すだろうと予測していた。
しかし、先ほどの二十一、二十二回目はまったく予想外だった。
いくら自分と修練や手合わせを続けていたとはいえ、上昇幅が凄まじい。
少し妙な例えだが、株やコインで言うなら、仕手株扱いされても文句の言えない伸び方だった。
「誇らしいな」
カリムは内心で誇らしげに、軽く呟いた。
そして、今の状態なら、もう少し解除しても大丈夫だろうと判断する。
「────それじゃあ、もう少し上げてみようか」
「何を────」
二十二回目以降、カリムは前回のように。
いや、前回よりもさらに速く、連続で攻撃を仕掛けた。
本当に、刹那の間に攻撃が押し寄せてくる。
三回か。
それ以上か。
目で追うことは、すでに諦めていた。
本能的に。
感覚だけで受け流す。
二十三。
二十四。
二十五。
そして、二十六。
「はぁっ────!!」
二十合を超えた時点で、身体はすでに限界を超えていた。
これ以上無理をすれば、大変なことになりかねない。
死地でもなく、恋人との単なる手合わせで大変なことになれば、本当に滑稽だろう。
それでも、アンティリーネは今回も限界を超えようとした。
「くっ……!」
奇跡のように二十六回目の攻撃を防ぎきる。
直後に来る二十七回目も、押し負けることなく受け止めた。
そして、次なる二十八回目。
ごくわずかな隙だった。
彼女としては初めて見る、ほんのわずかな隙。
二十七回目の後、姿勢を立て直す瞬間が見えた。
アンティリーネは自分の姿勢が崩れているにもかかわらず、目標に到達するという一念だけで剣を突き出した。
アイテムを握る手に、非常に久しぶりの感覚が伝わる。
漆黒聖典の絶死絶命だった頃には、常に感じていた感覚。
攻撃が。
打撃が。
成功した。
そしてその感覚は、カリムもまた感じていた。
彼女と出会ってから、初めて感じる感覚だった。
油断したわけではない。
手加減したわけでも、なおさらない。
リミッターをさらに少し解除したにもかかわらず、完全に、彼女自身の努力だけで到達した一撃だった。
カリムはその結果を、当然のように誇らしく思った。
ただ、今はまだ手合わせ中だ。
残念ながら、その感情を表に出すことはせず、そのまま次の攻撃へと繋げた。
「きゃ、あっ────!!」
二十九回目。
姿勢が完全に崩れていたアンティリーネは、そのまま地面を転がった。
体力も精神も、激しく消耗していた。
普段なら気絶していただろう。
だが、初めて有効打に成功した喜びのおかげか、前回のように意識を失うことまではなかった。
「しゅ、終了────!!」
神話の戦いのようだった手合わせは、アンティリーネのリタイアによって終わった。
アンティリーネが自分の横すれすれを飛んでいくように倒れると、占星千里は畏敬と恐怖の入り混じった表情で、悲鳴のように終了を宣言した。
以前見た魔導王の力。
そして今、目の前にいる神の力。
最近になって圧倒的な力を立て続けに目にしたせいで、占星千里は完全に廃人になる寸前だった。
「これが、神……」
「と、とうていついていけるはずが……」
「法国にさえお越しいただければ……」
手合わせを見守っていた神官長たちと漆黒聖典の隊員たちは、多種多様な反応を見せた。
真剣に手合わせを見守る者。
占星千里のようにパニックに陥り、終始恐怖の目で見つめる者。
そして、法国の後代神として降臨していただくことを、いまだに諦めきれない者。
「よお、アンティリーネ」
カリムは自分を見つめている彼らをちらりと見た後、アンティリーネへ近づき、手を差し伸べた。
「大したものだ。リミッターをほとんど解除した状態で、有効打を食らうとはな」
「ふふっ、そう? じゃあ次は、リミッターを完全に解除したあなたを相手に有効打を入れることが、私の宿題になりそうね?」
アンティリーネは、少し冗談めかして褒めるカリムの手を握り、ゆっくりと立ち上がった。
声は多少大げさに聞こえた。
それでも、彼の眼差しに嘘はなかった。
それを感じたアンティリーネは、素直に誇らしい気持ちになった。
「ワハハハハ! そうだ、そうこなくちゃな!」
本当に、手に負えない。
彼女らしく、非常に唐突に次の目標を定める姿に、カリムは豪快に笑いながら言った。
「お疲れ様でした!」
そうしてカリムが幸せそうな表情でアンティリーネと話している頃。
神官長たちと漆黒聖典の隊員たちは、いつの間にか近づいてきていた。
そして第一席次が代表して、二人へ挨拶した。
先ほどよりもさらに迫力のある挨拶をする第一席次を見て、カリムは小さく微笑んだ。
「良い勉強になっていればいいんだがな」
「十分でした!」
もしかすると、こいつにも可能性があるかもしれないな。
アンティリーネほどではない。
それでも、この黒髪の男性――第一席次からは、かなり強い気迫が放たれていた。
ポテンシャルもまた同じだ。
機会があれば、アンティリーネとは違う形でこいつの師匠になり、教えてみたい。
そして後でアンティリーネとの間に子供が生まれたら、その子の師匠を頼みたい。
そんな欲望が、ほんの少しだけ湧き上がった。
「それじゃあ、デートに行ってみるか!」
ただ、そうしてしまうと、それを口実に無理やり法国を導かされる可能性もある。
カリムは適当に考えを整理した。
そしてアンティリーネを軽く抱き寄せ、皆の前で、まるで「アンティリーネはもう俺の女だ」と宣言するかのように言った。
その姿に、神官長たちはもちろん、漆黒聖典の誰もが驚いた。
番外席次が彼におとなしく抱かれたことも驚きだった。
だが、それ以上に彼女の表情が、普段彼らが知っている番外席次の姿ではなかった。
妙に恥ずかしがる、平凡な女性の表情をしていたのだ。
「あの時のあの言葉、本当だったのですか」
第一席次はそんな彼女の姿を見て、誰にも聞こえないように呟いた。
私に勝てる男なら。
そんな男と子供を作ったら、果たしてどんな存在が生まれるのか。
今でも鮮明に覚えている、番外席次の言葉。
確かに、あの時は。
私は誰とも結婚しないだろうし、誰の子供も産むつもりはない。
そういう意味だと思っていた。
しかし、昨夜の発言もそうだ。
今見せている姿もそうだ。
誰が見ても、彼女は神の子供を望んでいるように見えた。
私、あの人の子供、産むわ。
どうして、だなんて。
私を救ってくれたし、私より強いから?
行方不明になり、生死が確認されるまで半年を超え、ほとんど一年近い時間が経っていた。
その間、神と共に過ごしながら、心境の変化でも生じたのだろうか。
それとも、あの時の発言こそが本心だったのだろうか。
だとすれば、自分も。
そして法国の全員も。
これほど長い時間を共に過ごしていながら、番外席次について何一つ分かっていなかったのではないか。
番外席次の容姿は、確かに美しかった。
しかし、だからといって、特に彼女を慕っていたわけではない。
異性としての感情があったわけでもない。
仲間としての情と、高い境地にいる者への畏敬の念。
その方が大きかった。
それにもかかわらず、第一席次は初めて感じる感情に混乱していた。
もし、今目の前にいる神が、最初から法国に降臨し、導いていたなら。
そうであったなら、どんな結果になっていただろうか。
番外席次は、今のような姿で皆を導いていたのだろうか。
同じ神人として、より高い境地のために共に力を合わせていたのだろうか。
──やや深く、深刻な思考に沈んでいた頃。
皆と軽く挨拶を交わした二人は、いつの間にかその場を立ち去り、法国の市内へと向かっていた。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。