We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
法国での旅を終え、二人はエ・ランテルへと戻った。
戻ってからは、これといった大きな事件もなく、時間は水のように流れていった。
月が替わり、季節が変わる。
天候がかなり肌寒くなったため、エ・ランテルの住民たちはもちろん、カリムとアンティリーネの服装にも小さな変化が生じていた。
軽かった服装は多少厚みを増し、時折、さらに暖かい服を探すようになった。
もちろん、最初からそうしていたわけではない。
これくらいの寒さなど何でもないと、アンティリーネが意気揚々と振る舞っていたところ、風邪気味になって手合わせを中断する事態が起きたりもしたのだ。
「だから、ちゃんと着込めって言ったのに」
「……ふん」
ごく当然のように、カリムはアンティリーネを暗にからかった。
アンティリーネはそんな彼の態度が少し気に入らず、唇を尖らせて無言の抗議を示す。
風邪を引きたくて引いたわけではないのに。
「ワハハハハ! 相変わらず、からかい甲斐があるな」
つんとした彼女の反応に、カリムはお構いなしに豪快に笑うだけだった。
そうして、あらかじめ準備しておいた外套を彼女に着せながら言う。
「まだ正確に決まったわけじゃないにしても、未来の嫁さんなんだから、そんなんじゃダメだろ!」
「もう、いいわよ」
甘い手つきで外套を着せてくれる彼を見て、アンティリーネはくすりと笑いながら答えた。
出会ってから一年近く経とうとしているのに、相変わらずな彼の姿。
その変わらなさに、今では安心感と温もりを覚えるようになっていた。
「うーん。それにしても──その、準備? 順調なの?」
「さあ、順調と言っていいのかどうか」
アンティリーネはカリムが渡してくれた外套を着ながら、彼に尋ねた。
法国から戻った後に話していた、結婚式の準備のことだった。
アンティリーネの言葉を聞いたカリムは、少し大げさな身振りをしながら答える。
圧倒的な能力と武力を持っている彼ではあったが、結婚というものはカリムにとっても完全に初めての経験だった。
そのため、初っ端から難関にぶつかっていたのだ。
費用は問題にならなかった。
事実上、無限に近い財力を持っているため、いくら金が出ていこうとも怖いものはない。
問題は、場所と時期だった。
そして何より、参列者についても大きく悩んでいた。
財力に任せて大げさにするつもりはない。
だが、あまりにも質素に済ませるのは、彼女に対する礼儀ではないような気がした。
時期に関しても、現在の法国と魔導国の状況が非常に悪い。
むやみに決行すれば、呼びたい参列者たちが来られない可能性もあった。
「そうなの?」
きっと彼なら、とても順調だ、非常に順調だ、などと豪快に言うと思っていた。
しかし、意外な答えが返ってきたため、アンティリーネは少し心配そうな表情でカリムを見つめた。
彼と一緒に過ごしてきて初めて見る、真剣で、自信のなさそうな目つきだった。
「意外ね。あなたにも自信がないことがあるなんて」
「まあね。結婚は一度も経験したことがないからさ」
「じゃあ、私が手伝えることはある? 一緒にやることなんだし」
アンティリーネは優しく微笑みながら言った。
結婚は彼女にとっても初めてだった。
だから、胸が高鳴る気持ちは彼と同じだった。
──もちろん、最初はそんな行事に興味などまったくなかった。
一般的に結婚とは、男女の一対が互いを愛し合い、結ばれる行為である。
そしてその果てに、自分たちの血を分けた、神の祝福とも言える子供を授かるもの。
ある程度成長した頃のアンティリーネは、そう考えていた。
そして同時に、それなら自分はなぜ生まれたのか。
そんな疑問を抱くようになっていた。
自分の両親は、互いを愛し合っていたのか。
まったく違う。
では、自分に愛を与えてくれたのか。
それも違う。
なら、彼らは親と呼ぶにふさわしかったのか。
やはり、まったく違った。
父親と呼ぶのも恥ずかしい存在。
そして、呼称だけが母親であった存在。
その間に、望まれぬ暴力と許されざる行為の果てに生まれた子供。
互いに愛し合った末に生まれたのではなく、嫌悪すべき行為によって生まれた異端児。
そもそも存在するはずもなく、存在してはならなかったはずの子供。
それが、自分だった。
本当に嫌悪すべきものだった。
自分の血統が。
この血が。
虐げるばかりの存在が、どうして母親なのか。
無責任に力だけを振りかざす存在が、どうして父親なのか。
思い出せば思い出すほど、平凡な幸せや結婚といったものから遠ざかっていった。
一生、縁などないだろうと思っていた。
誰かが自分に心からの救いをもたらしてくれる可能性などない。
そう思っていた。
「そうしてくれるとすごくありがたいけど! 大丈夫だよ、アンティリーネ。君が主役なんだからさ」
「ふふっ、分かったわ」
しかし、今は違う。
自分はいつの間にか、心から結婚式を待ち望んでいた。
結婚というものに、少しずつ近づいていた。
一年前までは、まったく考えもしなかった結果だった。
あの頃の自分に、今の出来事を話して聞かせたら。
果たして、あの時の自分はその言葉を信じるだろうか。
「私に勝てる男なら、そんな男と子供を作ったら、果たしてどんな子が生まれるのか」
いつか、第一席次に言った言葉を、人知れず再び呟きながら、アンティリーネは現在の自分をもう一度見つめた。
「もし、彼と子供を作ったら、どんな子が生まれるのだろう。そして私は、果たして彼らとは違う親になれるのだろうか」
子供が生まれたら、その子は男の子だろうか。
それとも女の子だろうか。
六大神以上の存在である彼と、神人である自分の間に子供が生まれたなら、その子の血統は果たしてどれほど凄まじいものになるのだろうか。
そして自分は、親とも呼べない存在たちよりも、うまく子供を育てることができるのだろうか。
不安でもあり、胸が高鳴りもした。
結婚はもちろん、育児もまた、初めてのことだったからだ。
男の子なら、冒険者として育てるのが良いだろうか。
女の子なら、どう育てればいいのだろうか。
「やっぱり、難しいな」
相変わらず真剣に悩む彼を見て、アンティリーネは幸せそうな表情を浮かべた。
そして、もし子供を育てていく中で困ったことが生じたら、いつでも彼に頼ってもいいのだろうと思った。
多少突飛な面はある。
だが、その分、何事にも真剣に取り組む彼なら。
きっと自分よりも、育児についても一生懸命考えてくれるはずだから。
時間は、ちょうど昼時になった頃だった。
真剣に悩み、苦労している彼のために、アンティリーネは先にデートへ誘った。
カリムは明るく笑い、彼女の提案を快く受け入れた。
───────────
「そうなの? いやあ、おめでとうございます」
「ハハ、ありがとうございます」
昼食を終えた後、カリムとアンティリーネはエ・ランテルの都心をあちこち見て回り、平和なデートを満喫していた。
依頼はなかったが、冒険者ギルドの建物に入り、他の冒険者たちの姿を見物したりもした。
子供を抱いて歩く親たちの姿を、密かに、注意深く観察したりもした。
果物屋の主人からは、お祝いの贈り物として、以前よりもさらに新鮮な果物をもらった。
服屋の主人からは、後で子供が生まれたら子供用の服を贈ってあげると、約束までしてもらった状態だった。
「────あ、それから、カリムさん。これ、頼まれていたもの」
「お? 毎回ありがとうございます」
前回の逆バニー事件以降。
服屋で買った凄い服のうち、逆バニーだけを除き、残りはすべてアンティリーネが気に入らないと言って燃やしてしまった。
その様子を、カリムは内心残念がりながら眺めるしかなかった。
本当に、よく似合っていただろうに。
カリムはそのことを服屋の主人に話し、それを聞いた服屋の主人も一緒になって残念がった。
そうして今回も、こっそりとまた別の凄い服たちを彼に渡したのだ。
「どうです? これくらいなら、いいでしょう?」
「ほう、いいですね」
服屋の主人は今回、二着の服をカリムに渡した。
カリムは妙に真剣な表情でそれを受け取り、こっそり自分のインベントリへしまい込む。
「また変なもの、買ったでしょ?」
「え?」
少し離れた場所で一人服を見ていたはずのアンティリーネが、いつの間にか彼らの近くに立っていた。
そして、少し不満げな顔で二人を睨みつけている。
「え、いや? ただちょっと平凡な────」
「おじさんも同じよ」
「あ、ハハ……」
アンティリーネはカリムと服屋の主人、二人をその場で問い詰めるように叱った。
彼女に叱られた二人は、ただ遠い山を見るような顔で、別のことを考えているふりをした。
「ふん、もういい。また変なものをプレゼントとして渡したら、覚悟してよね」
「な、何だって?! それなら、プレゼントじゃなくて、ただ渡せばいいってことだな!」
「それ、本気で言ってるの?」
呆れるほどのカリムの理屈に、アンティリーネは最初から期待などしていなかったと言わんばかりに、小さくため息をついた。
そして彼の腕を掴むと、そのまま無理やりカリムを引っ張って店から出ていく。
「そ、その、気を付けて帰りなよ、お嬢さん」
妙に笑いながら引きずられていくカリム。
そして、そんなカリムを無理やり引っ張っていくアンティリーネ。
その二人の姿を見ながら、服屋の主人は困ったような表情で見送るしかなかった。
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