We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
アンティリーネの胎内に、新たな命が宿った。
まだ姿を見ることも、声を聞くこともできない。
それでも二人は、心の上ではすでに三人家族となっていた。
以前から、二人の生活は溢れるほどの幸福に満ちていた。
だが、まだ見ぬ子供の存在は、その幸福へこれまでとは比べものにならないほどの深みと豊かさを与えた。
二人は、家族というものが本当の意味で形になり始めていることを、日々少しずつ実感していた。
「男の子なら、やっぱり戦士として育てるのもいいかな」
「女の子なら?」
「女の子? うーん。本人が望むなら、女の子でも戦士だな。それか、高位官僚とか?」
「結局、本人次第ということね」
「そりゃあ、もちろんさ!」
カリムとアンティリーネは、時間や場所を問わず、まだこの世へ生まれていない子供について語り合った。
どのような顔をしているのか。
男の子なのか、女の子なのか。
どのようなものを好み、どのような道を歩むのか。
まだ何一つ分からない。
想像の輪郭さえ曖昧だった。
それでも、期待と胸の高鳴りに満ちた会話は、いつまでも尽きることがなかった。
二人にとって、子供の性別や容姿など、本当はどうでもよかった。
ただ、二人の間に生まれた命が、無事に、そして健康に生まれてくることだけを願っていた。
まだ見ぬ子供について語る、その何気ない瞬間の一つ一つが。
二人にとっては、この世界の何物にも代えられないほど大切な幸福だった。
「どちらにしても、戦士になりたいって言ったら、あなたに任せるわよ?」
「ええっ? ワハハハハハ!」
当然のようにすべてを任せてくるアンティリーネの態度に、カリムは豪快な笑い声を上げた。
本当に、容赦のない妻である。
「まあ、任せておけって!」
もちろん、嫌なわけではなかった。
カリムにも、子育ての経験など一度もない。
それでも、不思議と自信だけはあった。
特に子供が、両親と同じように冒険者や戦士の道を望んだなら。
自分が持つ技術と経験を、惜しみなく伝えてやるつもりだった。
子供の成長に合わせた装備やアイテムについても、今からいくらでも準備できる。
豪快に笑うカリムを見ながら、アンティリーネも優しく微笑んだ。
こうして未来のことを話している時だけは、本当に世界で一番頼もしく見える。
「あっ」
その時。
カリムが突然その場で身を屈め、アンティリーネの腹部へ耳を近づけた。
予想していなかった行動に、アンティリーネはびくりと身体を震わせる。
「な、何してるのよ」
「何って。子供が元気にしてるか、気になってな」
「まだ初期だってば。何も聞こえないわよ」
アンティリーネはカリムの顔を両手で優しく押さえ、そのまま引き離した。
カリムは名残惜しそうな顔をしながらも、大人しく身体を起こす。
「それにしても、こうなると……近いうちに手合わせはしばらくお休みしないといけないわね」
「ああ。そうだな」
初めて手合わせを始めた日から現在まで。
鍛錬は、二人の生活に欠かせないものとなっていた。
互いの力をぶつけ合いながら心を通わせ。
過去の傷を癒やし。
共に歩む未来を夢見てきた。
二人にとって、手合わせは単なる鍛錬ではない。
生活の一部であり、互いの関係を確かめる大切な時間でもあった。
特にアンティリーネにとって、その意味は大きい。
肉体的に遥かに強くなったことはもちろん。
精神的にも、以前とは比べものにならないほど成長していた。
敗北を通じて成長する方法を学んだ。
予想外の状況へ直面しても、取り乱さずに判断する方法を学んだ。
戦士としての自負は今も強い。
だが、それが傲慢さへ変わることはなくなった。
圧倒的に不利な状況から逃げることも、決して恥ではない。
何よりも大切なのは、自分の命を守り、生き延びることなのだから。
結婚式のような特別な日を除けば、二人はほとんど毎日のように手合わせを続けてきた。
だからこそ。
しばらくそれができなくなることに、アンティリーネは隠しきれない寂しさを感じていた。
仕方がないことだとは分かっている。
カリムとの手合わせは非常に激しい。
胎内の子供へ万が一のことが起こる可能性など、絶対に受け入れられなかった。
「何をそんなに残念がってるんだ」
カリムは、落ち込んだ表情のアンティリーネを見ながら笑った。
「今できないなら、後でその分まで一生懸命やればいいじゃないか」
正論だった。
今すぐできないからといって、永遠にできなくなるわけではない。
カリムの言葉を聞いたアンティリーネは、軽く頷いた。
「そうね」
「よし、それじゃあ! この知らせを伝えてみるか!」
「え? どこへ?」
突然、知らせを伝えると言い出したカリムに、アンティリーネは目を丸くした。
わざわざ知らせるような相手がいただろうか。
まさか、法国へ伝えるつもりなのか。
「どこって。当然、友達にさ」
───────────
『アンティリーネが、俺たちの子供を授かった』
「神と神人の子供、か」
真夜中。
魔法のアイテムを通じて友人から突然届いた知らせに、闇の神官長マクシミリアンは僅かに目を見開いた。
カリムの方から先に連絡が来るとは、まったく予想していなかった。
それも、最初に届けられた個人的な知らせが、アンティリーネの懐妊についてだった。
さらに法国の他の者ではなく、自分へ真っ先に伝えられた。
その事実に、マクシミリアンは少なからず驚いていた。
何か特別な意図でもあるのだろうか。
少し考えた後、彼は静かに呟いた。
「信頼、ということか」
法国の者であれば、誰もが望むであろう、神からの信頼。
マクシミリアンは満足そうに、そして豪快に笑った。
「ならば、その信頼に応えねばなるまいな」
極めて重要な事実だった。
だが、彼はこの知らせを誰かへ漏らすつもりなどなかった。
法国でこの事実が広まれば、非常に複雑な事態が引き起こされる可能性がある。
もちろん、いつまでも隠し通せるものではない。
時間が経てば、アンティリーネの身体にも明確な変化が現れる。
そうなれば、誰の目にも子供を身籠っていることは明らかになるだろう。
その時には、法国側から接触しようとする者が現れる可能性が高い。
「そうはさせぬようにしなければな」
もし法国の上層部が、その子供の存在を知ったなら。
神と神人の間に生まれる子供。
その途方もない血統と潜在能力に目をつけ、何らかの形で法国の管理下へ置こうとする者が現れるかもしれない。
最悪の場合。
その子供を、第二の番外席次として育て上げようとする可能性すらある。
決して、そうさせてはならない。
その時が来れば、自分もあらゆる手を使って止めるつもりだった。
神の怒りが、再び法国へ向けられるような愚行を許すわけにはいかない。
「仮に法国の者が接触を許されるとしても、窓口となる者は厳しく限定するべきだろう」
その候補として、真っ先に思い浮かぶ者がいた。
漆黒聖典第一席次。
漆黒聖典の隊長であるだけではない。
法国ではすでに、半ば公然とカリムの弟子として扱われている存在だった。
法国から事実上独立した番外席次、アンティリーネを除けば。
カリムから直接、それも一対一で指導を受けた者は、第一席次ただ一人だった。
彼もまた神人である。
そして、漆黒聖典の中ではカリムが最も強い関心を向けていた人物でもあった。
将来、子供本人と両親が望むのであれば。
法国の者として接触を許される窓口や、師の一人となる候補としては、最も適しているだろう。
「ならば、そうなるように、今から準備だけは整えておくとしようか」
マクシミリアンは一人、静かに今後の計画を考え始めた。
───────────
「それで。法国に知られたら、どうするつもりなの?」
「少し懲らしめてやるさ」
「────あ、そう」
闇の神官長へ嬉しそうに自慢したカリムを眺めながら、アンティリーネは尋ねた。
そして予想通りの答えが返ってくると、やはりそう言うと思った、とでも言いたげな表情を浮かべた。
「まあ、それでも、あの爺さんはこういう話をむやみに口外するような人じゃないみたいだしな」
「そうかしら」
アンティリーネは首を傾げ、微妙な表情を浮かべた。
あの神官長は、そんなに口の堅い人物だっただろうか。
それよりも。
カリムは一体どうして、あれほど短い期間でマクシミリアンと親しくなったのだろう。
アンティリーネは、不思議そうに夫の顔を見つめた。
「それに、どうせ時間が経てば、アンティリーネ。お前の身体にも変化が出てくるだろ?」
カリムは気にする様子もなく、話を続けた。
「そうなれば、いつかは周囲の人間も知ることになる。だから、その前に俺たちの子供へ余計な手出しをする奴が現れないようにしなきゃな」
「うん。それはそうね」
アンティリーネは納得するように頷いた。
確かに、妊娠の事実を最後まで隠し通すことは難しいだろう。
これから出産まで、まだ長い時間が残されている。
その間、家の外へ一歩も出ず、人との交流を完全に断つことなど現実的ではない。
妊娠を隠すことだけを考えるより。
周囲の者が子供を利用しようとする可能性そのものを、事前に排除する方が賢明だった。
「そんな存在、いないと思うけど」
アンティリーネはそう言いながらも、完全に楽観しているわけではなかった。
カリムとの手合わせを重ねたことで、彼女は以前より遥かに高い領域へ到達している。
確信までは持てない。
それでも、相性が良く、さらにカロンの導きを取り戻すことができれば。
あの怪物のような魔導王の配下を相手にしても、勝利に近い引き分けへ持ち込めるのではないか。
そう思えるほどの自信はあった。
何より、神のような力を持つカリムがいる。
魔導国であっても、簡単に手出しすることはできないだろう。
だが、油断するつもりはまったくなかった。
神と神人の間に生まれる子供。
その事実が広く知れ渡れば、法国だけではなく、周辺のあらゆる国家が関心を示す可能性がある。
場合によっては、エルフ側から接触を試みる者が現れるかもしれない。
未だかつて例を見ないほどの潜在能力を期待し。
子供を自分たちの側へ取り込もうとする者も出てくるだろう。
当然、そんなことを許すつもりはない。
この子は、法国の兵器ではない。
どこかの国の財産でもない。
自分とカリムの、大切な子供なのだから。
アンティリーネは、自分の腹部へそっと手を添えた。
その動作と眼差しには、かつての母親とは正反対の、深い慈愛が満ちていた。
自分は、あの者たちとは違う親になる。
かつて心の中で誓った言葉が、現実のものとなり始めていた。
「そんな奴がいたら、俺がすぐにぶっ飛ばしてやるけどな」
優しく腹部を撫でるアンティリーネを見て、カリムも当然のように手を重ねた。
普段の彼女であれば、突然触れられたことを恥ずかしがったかもしれない。
あるいは、少し冷たく手を払いのけていたかもしれない。
だが、今日は違った。
アンティリーネは、彼の手を退けるどころか。
その温もりが幸せだと伝えるように、そっと握り返した。
まだ、子供が生まれる日は遥か先にある。
それでも。
二人が長い間夢見てきた、本当の意味で幸せな家族は。
今、この瞬間にも、少しずつ完成へ近づいていた。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。