We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
カリムとアンティリーネの間に子供が生まれたという知らせは、瞬く間にエ・ランテル全体へ広まっていった。
道ですれ違う住民たちは、まるで自分たちのことのように喜んだ。
中には、祝いの言葉を伝えるため、二人の家を訪ねてくる者もいた。
そして、二人に抱かれた赤ん坊を見ると、その整った顔立ちや神秘的な特徴へ次々と感嘆の声を上げた。
「母親に似たんだろうね。男の子なのに、随分と綺麗な顔立ちだ」
「この子も、左右で目の色が違うのかい?」
「将来どんな姿になるかは分かりませんけど、今のところ奥様にそっくりですね」
人々から向けられる称賛に、アンティリーネは柔らかな笑みを浮かべながら答えた。
褒められているのは主にレオンだった。
それでも、母親である自分まで一緒に認められているような気がして、胸の奥へ誇らしい感情が広がっていった。
「確かに、顔が俺に似なくてよかったぜ!」
誇らしい気持ちになっていたのは、アンティリーネだけではない。
カリムもまた、住民たちの称賛を聞くたびに、満足そうな表情を浮かべていた。
この世界で初めて築いた、自分自身の家庭。
そして、初めて授かった子供。
自分自身が褒められることも、もちろん悪い気分ではない。
だが、自分の子供が褒められる喜びは、それとは比較にならなかった。
親になるとは、こういうものなのかもしれない。
カリムは、少しずつその感情を理解し始めていた。
「ぷにぷにしてて、不思議」
アンティリーネは胸に抱いた息子を見つめながら、その小さな頬へ軽く口づけた。
そして、レオンの小さな手をそっと握る。
手のひらへ伝わる温かな体温。
驚くほど柔らかな肌の感触。
目が合うと、何かを理解しているかのように返ってくる微笑み。
そのすべてが、たまらなく愛おしかった。
何よりも。
自分によく似た子供を見ていると、幼い頃の自分を目の前にしているような感覚があった。
それゆえに、レオンへ向ける感情は、さらに特別なものとなっていた。
「きゃあ」
レオンがアンティリーネの顔を見て笑う。
すると、アンティリーネもつられるように笑った。
太陽にも負けないほど明るく見える小さな笑顔へ、彼女は慈愛に満ちた微笑みを返す。
そのたびにレオンは腕の中で身をよじり、元気よく意味のない声を発した。
まだ赤ん坊であるため、言葉を話すことはできない。
それでも、その表情と声が幸福を表していることだけは、疑いようがなかった。
──私も、この子のように笑っていた時があったのだろうか。
自分によく似た息子を眺めながら、アンティリーネは再び過去へ思いを向けた。
たとえ望まれない形で生まれたのだとしても。
自分も、生まれたばかりの頃だけは、誰かの目に可愛らしい赤ん坊として映っていたのだろうか。
それとも。
自分の顔を見るたびに、両親は互いの姿や、忌まわしい過去を先に思い浮かべていたのだろうか。
今となっては、知る方法などない。
そして、どちらであったとしても。
もう確かめる必要はなかった。
一つだけ、確かな事実がある。
この子は、自分とは違う。
望まれないまま生まれた子供ではない。
カリムと自分が、心から望んで迎えた子供だ。
自分とは違い。
温かな家庭の中で、愛情に満ちた幼年期を過ごすことになる。
──私は、あなたたちとは必ず違う道を歩む。
アンティリーネは、レオンを抱きながら静かに決意した。
鍛錬を口実に、子供を傷つけることは絶対にしない。
力を求めるあまり、無理やり追い詰め、死地へ送り出すこともしない。
毎日、惜しむことなく愛情を注ぐ。
誕生日には、必ず家族で祝う。
意見が違ったとしても、レオンが自分で望む道を見つけたなら。
まず、その気持ちへ耳を傾ける。
必要なら道を開き。
迷っている時には、背中を押す。
そして、いつでも味方であり続ける。
それが、アンティリーネが思い描く母親の姿だった。
「うん。確かに可愛いな」
アンティリーネがレオンと触れ合いながら、過去と未来について考えていると。
いつの間にか近づいてきたカリムが、レオンの頬を優しく撫でた。
突然違う感触に触れられ、レオンは小さな目を丸くする。
そして、小さく柔らかな手でカリムの指を掴み、そのまま一生懸命に揺らした。
「ワハハハハ! いやあ、もう随分と力が強いな!」
「まだ赤ん坊よ」
「それでも、普通より強そうじゃないか?」
「あなたが言うと、本当にそう思えてくるから困るわね」
アンティリーネは、楽しそうに触れ合う父子の姿を見て、穏やかに笑った。
「ああ、それはそうと」
カリムはレオンに指を握らせたまま、アンティリーネへ尋ねた。
「アンティリーネ。身体の方は、もう大丈夫そうか?」
「え? 身体?」
一瞬、何を聞かれているのか分からず、アンティリーネは首を傾げた。
「ああ。もうほとんど平気よ。治療師からも、順調に回復しているって言われたけど。それがどうしたの?」
「そろそろ、また始めてみるかと思ってな。長い間できなかっただろ?」
「できなかったって、何が────」
カリムがどこか期待するような顔をしているのを見て、アンティリーネはしばらく考えた。
妊娠が分かってから出産するまで、ほぼ十ヶ月。
その間、夫婦として穏やかに触れ合うことは何度もあった。
だが、以前のように過ごせなかった時間も確かに存在する。
「もう?」
その可能性が頭をよぎった瞬間。
アンティリーネは、はっと目を見開いた。
しかし、すぐに別のことへ気づく。
止まっていたのは、それだけではない。
二人がほとんど毎日のように続けていた手合わせもまた、長い間中断していた。
「ああ。手合わせ……」
「なんだ。何を考えてたんだ?」
「な、何でもないわ」
突然驚いた表情を浮かべたアンティリーネを見て、カリムは不思議そうに尋ねた。
だが、彼女は少し顔を逸らし、何でもないと誤魔化した。
その反応から何となく察したのか。
カリムは小さく笑ったものの、深く追及することはなかった。
「まあ、長く休んでいたからな。いきなり前と同じようにやるつもりはないさ」
カリムは真面目な表情へ戻る。
「最初は、身体の動きを確かめる程度だ。ほとんど基礎からやり直すつもりで、少しずつ戻していけばいい」
「それから、今後はレオンのことも考えないとな」
「レオンの?」
「ああ。将来、こいつが戦士の道を選ぶ可能性もあるだろ?」
「それは、そうね」
カリムの言う通りだった。
手合わせを中断してから、およそ十ヶ月。
その期間は鍛錬もほとんど行わず、冒険者としての依頼や身体を使う仕事も、カリムへ任せていた。
アンティリーネの基礎性能や、それまで積み上げてきた実力が失われたわけではない。
それでも、身体の感覚が以前より鈍くなっている可能性は否定できなかった。
「子供に恥ずかしくない姿を見せないとね」
レオンが将来、戦士の道を選ぶのであれば。
最初に教える役目は、カリムより自分の方が向いているかもしれない。
カリムが戦士として最高の手本であることは間違いない。
しかし、それはある程度の基礎を持つ者にとっての話だ。
歩くことすらできない子供へ、最初からカリムの常識外れな動きを見せたところで、参考になるとは思えない。
むしろ、戦士の道へ進む前から、絶望させてしまう可能性すらあった。
もちろん、アンティリーネ自身も規格外の強者である。
それでもカリムと比べれば、力や速度を細かく調整しながら、基礎から段階的に教えることができるだろう。
「よし。それじゃあ────久しぶりに、上へ行ってみるか!」
久しぶりの日課。
アンティリーネの目に、懐かしさと期待が宿った。
二人は必要な準備を整えると、レオンと共にベースキャンプへ向かった。
───────────
「多少動きが鈍くなっているのは感じるが、それでも全く錆びついてはいないな、アンティリーネ」
二人は久しぶりにベースキャンプへ到着した。
カリムはまず、安全を確保した場所へテントを設置する。
さらに、複数の防護アイテムと警戒用の結界を展開した。
その中央へレオンを寝かせ、完全に眠ったことを確認する。
最初は、家へ寝かせてから二人だけで来る案も考えた。
しかし、魔導国や法国がレオンへ接触を試みる可能性を、完全に否定することはできない。
それならば、自分たちの手が届かない場所へ残すよりも。
すぐ近くで守れる場所へ連れてくる方が安全だった。
手合わせを行う場所は、テントから離れすぎない範囲に限定した。
誰かがレオンへ近づこうとすれば、必ず二人の視界か結界へ引っかかる。
外にいることだけを見れば、家より危険に思えるかもしれない。
だが、現在のベースキャンプは。
レオンにとって、世界で最も危険な二人に守られた、世界で最も安全な場所でもあった。
治療師から身体の回復に問題がないと確認されてはいた。
それでも、最初から激しい手合わせを行うつもりはなかった。
今日はあくまで、身体の状態と感覚を確かめるための軽い調整だった。
長く休んでいたため、アンティリーネの動きには僅かな鈍さがあった。
思った通りに身体が反応しない瞬間もある。
しかし、それも最初だけだった。
アンティリーネは自分の動きと現在の身体の状態を冷静に確認し。
短い時間の中で、変化した感覚へ適応していった。
無理に以前の動きを再現しようとはしない。
現在の身体で可能な、最適な重心と動き方を探す。
そうして少しずつ感覚を取り戻し。
最初の手合わせを、無事に終えることができた。
「一週間もあれば、ほとんど元に戻るだろうな」
手合わせ後。
二人はいつものように、内容について意見を交わしていた。
カリムの分析によれば、実力そのものが落ちたわけではない。
ただ、長期間動かなかったことで、感覚と反応が僅かに鈍っているだけだった。
それも、一週間ほど軽い鍛錬を続ければ、十分に取り戻せる。
むしろ、出産後の身体へ完全に適応すれば。
以前より僅かに成長する可能性すら感じられた。
「そう?」
自分の身体だからこそ、アンティリーネ自身にもよく分かっていた。
カリムが繰り返し強調してきた、基礎性能と実戦能力。
そのどちらも大きく失われていない。
それでも、十ヶ月近く休んでいたのだから、多少厳しい評価を受けると思っていた。
予想以上に肯定的な答えを聞き。
アンティリーネは、僅かに誇らしそうな笑みを浮かべた。
「ただし、まだ無理はするなよ」
「うん。そうしなきゃね」
レオンを産んでから、もうすぐ一ヶ月。
身体はほとんど回復していた。
それでも、急いで以前と同じ強度へ戻す必要はない。
今のアンティリーネには、守らなければならない自分以外の存在もいるのだから。
「あっ。レオンが起きたみたいだぞ」
フィードバックを続けていると。
テントの中から、レオンの小さな泣き声が聞こえてきた。
二人はほとんど同時に立ち上がり、急いでテントへ向かった。
アンティリーネは、目を覚ましたばかりのレオンを胸へ抱き上げ、優しく身体を揺らした。
「よしよし。お母さんはここにいるわよ」
慣れないながらも、できる限り優しく声をかける。
カリムも隣に立ち、一緒にレオンをあやした。
少し慌てているアンティリーネの姿を可愛らしいと思ったが。
今それを口にすれば、余計に彼女を困らせるだけだろう。
カリムは豪快に笑いたくなる気持ちを抑え、真面目に父親として手を貸した。
「お腹が空いて、起きたのかしら」
しばらくあやしても泣き止まないレオンを見て、アンティリーネは心配そうにカリムを見上げた。
手合わせの音で起こしてしまったのだろうか。
寝床が気に入らなかったのか。
それとも、単純に空腹なのか。
助けを求めるような彼女の眼差しに、カリムは優しく微笑んだ。
「そうかもしれないな。俺は少し外を見張っていようか?」
「あっ、う、うん────」
アンティリーネは反射的に頷きかけた。
しかし、すぐにカリムの服の裾を掴む。
「い、いや。その……傍にいて」
「もちろん」
カリムがすぐ近くに座ると、アンティリーネは少しだけ安心した表情を浮かべた。
そしてレオンを抱き直し、空腹を満たすための世話を始める。
すると、先ほどまでの泣き声が嘘のように小さくなり。
レオンは母親の腕の中で、再び穏やかな表情を取り戻した。
カリムは、その母子の姿を静かに見守った。
アンティリーネは、隣から向けられる温かな視線を僅かに意識したものの。
すぐに、腕の中のレオンへ意識を戻した。
この子を生んだ者として。
かつて自分を育てた者たちとは、まったく異なる感情で。
偽りのない愛情と慈しみを込めながら。
アンティリーネは、大切な息子を胸の中へ優しく抱き寄せた。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。