We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
賢者の石を完成させ、果ての境地へ到達してから、六ヶ月が過ぎた。
二人が願っていた通り、レオンは何の異常もなく、健康に育っていた。
時折、魔導国の使者が訪れたり、法国から人が訪ねてきたりすることもあった。
その多くは、用件だけを聞いて帰らせていた。
もちろん、すべての訪問者を追い返していたわけではない。
「今日は、顔を見に来たのだがね」
訪問者の中には、法国の者としては最も親しい闇の神官長、マクシミリアンの姿もあった。
話がよく通じるということもある。
何より、他の法国の者たちのように、難しい要求を持ち出す人物でもなかった。
そのため、カリムも彼の訪問については素直に許していた。
「随分と大きくなったものだ」
訪ねてきたマクシミリアンは、時折レオンと遊んでいった。
短く生えた髭をレオンに掴まれ、強く引っ張られることもあった。
それでも怒ることはなく、子供の純粋さと、生後間もないとは思えない力に驚くだけだった。
同時に、神人について知っていることをカリムへ話してくれることもあった。
神人という存在について、未だ多くを知らないカリムにとって。
それらは、かなり重要な情報だった。
「考えてみれば、レオンは六大神と八欲王の血だけでなく、カリム殿の血まで受け継いでいるのだからな」
マクシミリアンは、レオンの小さな手を眺めながら言った。
「もしかすると、神人というよりも、神に近い存在となるのかもしれん」
何度考えても、理不尽としか言いようのない血統だった。
アンティリーネのように、六大神と八欲王の血を受け継いでいるだけでも十分すぎる。
そこへさらに、別のプレイヤーであるカリムの血まで加わった。
このまま順調に成長すれば。
いずれアンティリーネを上回る強者となる可能性は、極めて高いように思えた。
このように、比較的和やかな雰囲気で話せる客がいる一方。
まったく正反対の客も存在した。
「お前が、なぜここにいる」
「それほど警戒なさらずともよろしいでしょう」
褐色の肌。
後方へ整然と撫でつけられた黒髪。
丸い眼鏡と、ほとんど隙なく整えられたスーツ。
魔導国に仕える悪魔。
デミウルゴス。
彼が訪ねてきた時には、家の中へ奇妙な緊張感が走ることもあった。
「普段から監視しているのだろう?」
カリムは警戒を隠さずに言った。
「その気になれば、俺たちがどのように暮らし、誰と会っているのかも、すべて把握できるはずだ。それなのに、わざわざ訪ねてくる理由が気になるんだがな」
その気になれば、カリムとアンティリーネの行動を調べることなど難しくないはずだった。
それにもかかわらず、この悪魔は、いつ頃からか定期的に直接訪問するようになっていた。
「理由とは。少々傷つきますね」
多少刺々しい言葉を向けられても、デミウルゴスは老獪に受け流した。
「ともかく、お二人もエ・ランテルに暮らす住民なのですから。『民』の安寧を確認するために訪ねているのですよ」
何か文句をつけてやりたいところだった。
しかし、彼の言葉には間違っている部分が一つもない。
そのため、カリムも反論することができなかった。
「────そして、ついでにご子息の様子も確認しに参りました」
デミウルゴスは穏やかな笑みを浮かべたまま続けた。
「プレイヤーと、プレイヤーの末裔との間に生まれた子供です」
「奇跡とも呼べる出来事が、ここ魔導国で起きたというのに。ただ遠くから眺めているだけでは、礼を欠くというものでしょう」
「悪辣な奴め」
デミウルゴスの言葉を聞き、カリムは以前と同じように軽く悪態をついた。
ただし、それ以上の言葉は続けなかった。
最終的な決定を下したのはアインズである。
だが、その決定に至るまでの過程には、この悪魔の意見も多少なりとも影響していた。
もちろん。
アンティリーネの過去を哀れんだから、というわけではない。
カリムの力を恐れたからでもなかった。
その発端は、純粋な好奇心だった。
プレイヤーと、プレイヤーの末裔との間に子供が生まれた場合。
果たして、どのような力を持って生まれてくるのか。
人間とハーフエルフの間に生まれた子供は、クォーターエルフとなるのか。
それとも、どちらかの血をより濃く受け継ぎ、親と同じハーフエルフに近い姿となるのか。
すべては、魔導国のため。
そして、ナザリックのためだった。
カリムとアンティリーネが子供をもうけたように。
アインズも、いつかは後継者を残す必要があるかもしれない。
何より。
アウラとマーレという二人の守護者にとっても、貴重な参考となる可能性があった。
プレイヤーと、プレイヤーの末裔との間に生まれた子供。
そして、エルフ種の血がどのように受け継がれるのか。
デミウルゴスにとっては、極めて価値の高いデータだった。
「拝見した限りでは、ご子息は健康に育っているようですね」
「お前が気にすることではないと思うが」
「おや。先ほど申し上げたではありませんか」
デミウルゴスは少しも退くことなく答えた。
「民の安寧と安全を確認するためです」
カリムは、しばらくの間デミウルゴスを見つめた。
一瞬、何らかの手段で排除することも考えた。
しかし、それが完全な悪手であると判断し、すぐに考えを捨てた。
単独で魔導国全体を相手にすることはできない。
それに、未だ回復の途中であるとはいえ。
複数のワールドエネミーが、この世界へ転移してきたという衝撃的な情報も存在する。
その状況で魔導国との関係まで決定的に悪化させるべきではなかった。
「それだけが目的ではなさそうだが」
「──ふふ」
刺を含んだカリムの言葉に。
デミウルゴスは、ただ静かに笑った。
何かを企んでいるようにも見える。
だが、少なくとも今は。
本人が口にした通り、レオンの状態を確認する以上の黒い意図はないように感じられた。
「まあ、ご子息についてのお話は、この辺りにしておきましょう」
デミウルゴスは、あまりにも自然に話題を切り替えた。
「本日訪ねてきた本来の理由ですが」
「大陸の向こう側で、ワールドエネミーたちが活動を始めました」
「────何だと?」
ワールドエネミーたちが活動を開始した。
一体、何を言っているのか。
先ほどまで交わしていた話とは、あまりにもかけ離れていた。
あまりにも突然の話題転換に。
カリムは、一瞬デミウルゴスの会話についていくことができなかった。
まるで、頭を槌で殴られたような衝撃さえ覚えた。
「おそらく、以前我々が派遣した使者から、すでにお聞きになっているでしょう」
デミウルゴスは淡々と続けた。
「何らかの事態によって、正体不明のプレイヤーと複数のワールドエネミーが、この異世界へ転移してきたという話です」
「確かに、聞いている」
七つの大罪と呼ばれた魔王たちが、この世界へ渡ってきた。
ある一人のプレイヤーが人為的に引き起こした『大崩壊』。
それによって、この異常な事態が発生した。
あまりにも衝撃的な内容だったため。
忘れようとしても、忘れられるものではなかった。
「正確な数については、現在も調査中です」
「しかし、大まかに存在が確認されているワールドエネミーは、現時点で十体を少し超える程度です」
デミウルゴスは付け加えた。
「もちろん、先ほど申し上げた通り、別の大陸で確認されたものですが」
「それなら、まだこの大陸へ渡ってきてはいないということか」
「その通りです」
デミウルゴスは頷いた。
「そして彼らは、ちょうど長い回復期間を終え、目覚め始めているところです」
「未だユグドラシル時代と同じ、圧倒的な力を完全に扱える状態ではありません」
「その上────」
デミウルゴスは、僅かに笑みを深めた。
「彼らは互いに団結することなく、覇権を争おうとする動きを見せています」
デミウルゴスの話が、すべて事実であるとは限らない。
だが、事実だと仮定するならば。
不幸中の幸いではあった。
十体を超えるワールドエネミーが互いに手を組んだならば。
この世界は終わる。
完成した賢者の石とアポテオンの力を最大限に引き出す。
白金の竜王とアンティリーネの力も、可能な限り高める。
法国の有するすべての戦力を動員する。
さらに魔導国と帝国も最大限の力を発揮するならば。
各個撃破を前提とする場合に限り、五体程度までならば持ち堪えられる可能性はあるかもしれない。
もちろん。
あくまで、一体ずつ順番に相手をする場合の話だった。
ワールドエネミーたちが協力するという前提ならば。
各個撃破など、何の意味も持たない。
運良く最初の一体か二体を倒せたとしても。
残る敵が、それを黙って見過ごしてくれるはずはない。
ここで、最大の障害。
そして最大の変数となるのは。
彼らがユグドラシルに存在した頃とは異なり、『知性』を持つようになっている可能性だった。
この異世界へ真なる神として君臨するかもしれない。
あるいは。
史上最悪の魔神として降臨するかもしれない。
「その中でも」
デミウルゴスは話を続けた。
「七つの大罪と呼ばれていたワールドエネミーたちは、目覚める速度が非常に速いのです」
「現在の状況から判断する限り、七体のうち六体が、この世界へ渡ってきたようです」
「何だと? 六体?」
今後の戦略と方針を考えていたカリムの耳へ。
再び、衝撃的な言葉が届いた。
七体のうち六体が渡ってきた。
傲慢は、どこかのギルドによって討伐された。
憤怒は、自分自身が倒した。
それならば。
この世界へ渡ってくる個体は、五体でなければならない。
それなのに、なぜ六体なのか。
まさか。
自分が憤怒を倒した後、サービス終了までの僅かな時間に、どちらかが再出現したのか。
だとしても。
通常ならば六体ではなく、七体すべてが渡ってきているはずだった。
「その情報は、信用できるものなのか?」
憤怒は、カリム自身が討伐した。
それも、サービス終了の直前に。
そのため、デミウルゴスの話を簡単に信じることができなかった。
一つだけ、可能性は考えられる。
憤怒が討伐されてから間もなく。
その僅かな時間の中で傲慢が再出現し。
憤怒の代わりに、この世界へ渡ってきたという可能性だ。
「我々にとって、彼らは極めて貴重な観測対象であり、同時に先鋒でもあります」
デミウルゴスは変わらぬ口調で答えた。
「我々の立場からしても、あえて虚偽の情報をお伝えする危険を冒す理由はありません」
そして、確認されている名を一つずつ告げた。
「この世界へ渡ってきた、七つの大罪のうち六体」
「強欲」
「嫉妬」
「色欲」
「暴食」
「怠惰」
「そして────憤怒」
その言葉を聞いた瞬間。
カリムが考えた可能性は消えた。
憤怒。
その名前が、あまりにも明確に聞こえた。
「もっとも、未だ活動を始めたばかりです」
デミウルゴスは、まるで些細な問題であるかのように続けた。
「この大陸へ渡ってきてもおりません」
「十分な準備を整えておけばよいでしょう」
「具体的な日時については、後ほど改めてお知らせいたします」
「おそらく、遅くとも二ヶ月が経過する前には、我々も向かうことになるでしょう」
「────そうか」
「それでは、本日はこれで失礼いたします」
悪魔らしからぬほど丁寧に扉を閉め、立ち去っていくデミウルゴスを見送りながら。
カリムは小さく溜息を吐いた。
魔導国から派遣された使者と。
白金の竜王から、事前に聞いていた話ではある。
そのため、ある程度の心の準備はしていた。
それでも。
その瞬間が永遠に訪れなければよいと、心のどこかで願っていた。
「まったく。会社へ通っていた頃を思い出すな」
カリムは一人、苛立たしそうに呟いた。
「何一つ思い通りにならない感覚は、本当に不愉快だ」
職場で、自分の能力を正当に評価されなかった過去。
その結果、予定より遅れて大学院へ進学し。
苦労しながら生きていた頃の記憶が蘇った。
怒りに任せ、衝動的に決めた進学だった。
そのため、必要な苦労だけではなく。
本来ならば経験する必要のなかった苦労まで、すべて味わうことになった。
どうにか修士の学位を取得し。
最終的には、能力を認めさせることもできた。
それでも、怒りが消えることはなかった。
本来ならば。
まったく予定に存在しなかった道だったからだ。
過去を思い返しながら。
カリムは、改めて現在の状況について考えた。
ワールドエネミーの襲撃。
それも、ゲームの中ではない。
現実で起きる襲撃だ。
ここは、ユグドラシルのようなゲームではない。
死ねば、それで終わる。
当然、ログアウトもできない。
キャラクターを作り直すこともできない。
帰るべき元の世界も存在しない。
カリムは永遠の生命を手に入れた。
賢者の石も、通常の方法では破壊されない。
だが、それはあくまで。
自然な寿命と、アイテムとしての耐久性に関する話でしかない。
もちろん、復活させる効果も存在する。
しかし、それは常に自動で発動するものではない。
復活する猶予さえ与えられず、何度も殺され続ければ。
カリムも、本当の意味で死ぬことになる。
一般的な生物のように、死体を残すことすらない。
賢者の石だけを残し。
存在そのものが消滅する。
「それでも、あまりにも厳しいな」
ワールドエネミーが一体だけならば。
現在の自分ならば、勝つ自信がある。
常時発動する能力を上回る、新たなアクティブスキルを手に入れた。
何より。
バグによって誕生した、システムに許されていないワールドアイテムが存在する。
神体破壊者。
ゴッド・ボディ・レッカー。
偶然発生したバグによって生まれたため。
最初は名前すら存在しなかった。
愛着もないアイテムへ、わざわざ名前をつける意味があるのか。
性能についても、詳しく調べようとは思わなかった。
当時は、使い道などないと考えていたからだ。
その後。
運営へ抗議する目的で、憤怒を単独討伐することになった。
そして、その時になって初めて。
このアイテムへ名前を与え、本当の価値を知った。
対象がどれほど強力な耐性を持っていようとも。
それを貫き、必ず攻撃を届かせる完全貫通能力。
その効果だけでも、十分に驚くべきものだった。
だが、それだけではなかった。
ワールドエネミーを相手にした場合。
与えるダメージが、途方もない規模で増幅される。
使用者が先にワールドエネミーへ殺されない限り。
最終的には、必ずワールドエネミーを殺すことができるアイテム。
当然。
使用者自身の基礎性能が低ければ。
効果を発揮する前に、ワールドエネミーから倒されるだろう。
それでも、異常な性能であることに変わりはなかった。
カリムは、常に疑問を抱いていた。
ユグドラシルが、どれほど自由度に優れたゲームだったとしても。
このような、あり得ないバグアイテムがなぜ誕生したのか。
ワールドアイテムだから、この程度は当然だという説明では納得できない。
すべての効果が、明らかに正常な範囲から逸脱している。
その上。
ワールドエネミーに対してのみ、極端なまでに相性がよい。
一体、どれほどの確率で。
このようなアイテムが偶然完成するというのか。
今回も運営へ抗議するつもりではあった。
しかし、すでにユグドラシルはサービス終了の直前だった。
抗議する時間もなかった。
仮に送ったところで、受け入れられることもなかっただろう。
そして、そのまま異世界へ転移した。
この世界へ来て、真っ先に確認したものも。
神体破壊者だった。
良いものは良い。
すでにゲームシステムの制約から解放された以上。
このまま使うことを、カリムは決めていた。
──もっとも。
それは、あくまでワールドエネミー一体だけを相手にする場合の話だった。
二体以上となれば、状況は大きく変わる。
新たに得たアクティブスキルも存在する。
他の者たちから十分な支援を受けられるのであれば。
二体までならば、どうにか防げる可能性はあるかもしれない。
だが。
それ以上は、間違いなく不可能だった。
「頭が痛すぎるな」
前回のように。
まだ時間があるから余裕を持てるなどと、考えている場合ではない。
すでに足元へ火がついた状況と変わらなかった。
デミウルゴスの言葉が事実であるならば。
彼らは目覚めたばかりで、未だ力を完全には取り戻していない。
互いに団結することなく、覇権を争っている。
だが、それでも。
決して楽観できる状況ではなかった。
覇権争いに勝利したワールドエネミーが。
他の個体から、どのような力を奪い取るかは分からない。
もしかすると。
ユグドラシル時代を上回る力を手に入れる可能性さえある。
そうなる前に。
そして、別の大陸がワールドエネミーたちの支配下へ完全に落ちる前に。
何らかの手を打たなければならない。
「────そろそろ、近づいてきているな」
深く考えながら。
カリムは、昼寝をしているアンティリーネとレオンへ視線を向けた。
二人を起こさないように近づき。
その頭を、そっと優しく撫でた。
現在のアンティリーネは。
ユグドラシルのレベルに換算すれば、九十六か九十七程度。
実戦能力は、すでに九十代後半へ到達している。
レベル百相当の領域も、視野に入り始めていた。
次の手合わせを終え。
その内容についてフィードバックする時が、話すには最もよい頃合いだろう。
すでに遅すぎたような気もする。
それでも。
今からであっても、話せる段階へ到達できたことは幸いだった。
間違いなく。
途方もなく危険な戦いになるだろう。
甚大な被害が出る可能性もある。
悲しい出来事が起きるかもしれない。
「そうはさせないがな」
場所は変わった。
世界も変わった。
それでもカリムは。
かつて、あれほど願っていた幸福を掴みつつあった。
それを邪魔する者が現れるのならば。
全力で抵抗し。
必ず排除する。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。