We are Always Searching Happy Goal   作:Redemptor

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We are Always Searching Happy Goal - 58

「本当に、行かなきゃいけないの?」

 

「ごめんな、アンティリーネ」

 

「死なないわよね?」

 

「もちろん」

 

「ちゃんと、生きて帰ってくるわよね?」

 

「もちろん」

 

「────分かった」

 

分かってはいた。

 

人生というものが、いつまでも平穏で、幸福な出来事ばかり続くものではないということくらい。

 

何の前触れもなく、不吉な客が訪れることがあるということも知っていた。

 

そのための心構えも、常にしていたつもりだった。

 

それでも。

 

胸の内に広がる不快な感情だけは、どうしても消すことができなかった。

 

不幸だった過去の残滓を乗り越え。

 

ようやく取り戻した幸福だった。

 

他の者たちと同じように、ただ平凡な生活を夢見てきた。

 

そして、その夢は少しずつ現実となっていた。

 

それなのに。

 

ここへ来て、これほど大きな試練が訪れるとは。

 

アンティリーネはひどく残念そうな表情でカリムを見つめた。

 

そんな彼女を見て。

 

カリムにできたのは、苦笑を浮かべながら、その身体を軽く抱き寄せることだけだった。

 

「まあ、そこまで長くはかからないと思う」

 

カリムは彼女を安心させるように言った。

 

「奴ら全員が動いているわけじゃない。それに、状況次第で色々変わるだろうしな」

 

ユグドラシルからこの世界へ現れたワールドエネミーの正確な数は。

 

およそ十体を少し超える程度。

 

もし今回の目的が、そのすべてを討伐することだったなら。

 

成功する可能性以前に。

 

一体どれほどの時間が必要になるのかさえ、断言することはできなかっただろう。

 

「──それに、今回の依頼で指名されたのは、俺一人だけだ」

 

魔導国の悪魔が予告してから、一ヶ月。

 

予告通り、魔導国から正式な依頼が届いた。

 

依頼者。

 

アインズ・ウール・ゴウン。

 

依頼内容。

 

七大罪の魔王。

 

『憤怒』の討伐。

 

遂行者。

 

カリム。

 

そして、その難度は────『難度超過』。

 

「分かった」

 

アンティリーネは僅かに俯いた後、再びカリムを見た。

 

「気をつけて、行ってきて」

 

「もちろん! その間、レオンを頼むな」

 

「うん」

 

不安は消えていなかった。

 

だが、その感情をこれ以上表へ出したくなかったアンティリーネは、カリムへ軽く身体を寄せた。

 

彼女の行動に。

 

カリムは何も言わず、ただ穏やかに笑った。

 

そして。

 

依頼を遂行するため。

 

ゆっくりと背を向け、歩き出した。

 

────*────*────

 

「お待ちしておりました」

 

依頼者から指定された場所へ到着すると。

 

そこには悪魔と吸血鬼。

 

そして、サキュバスが待っていた。

 

事前に聞いていた話とは少々異なる光景に、カリムは首を傾げた。

 

「パーティーを組むとは聞いてなかったんだが」

 

「ご安心ください」

 

悪魔。

 

デミウルゴスが、穏やかな声で答えた。

 

「彼女たちは、討伐対象が存在する場所までゲートを開き、ご案内するだけです」

 

「依頼内容そのものに変更はございません」

 

「そうか」

 

デミウルゴスと言葉を交わしながら、カリムは僅かに横へ視線を動かした。

 

自分には一切興味がない。

 

そう言わんばかりに無表情で立っている吸血鬼。

 

そして。

 

こちらを殺さんばかりの眼差しで睨みつけているサキュバス。

 

随分と物騒な雰囲気だった。

 

だが。

 

カリムは特に気にすることもなく、彼女たちがゲートを開くのを待った。

 

「うむ。これで準備は整ったでありんす」

 

銀髪の吸血鬼。

 

シャルティアが僅かに集中する。

 

やがて、彼女の前にゲートが開き始めた。

 

その言葉を聞いたカリムは。

 

徐々に開いていく空間へ向かって、ゆっくりと歩みを進めた。

 

三人との間には、奇妙な緊張感が漂っていた。

 

だが、カリム自身は不思議なほど緊張していなかった。

 

むしろ。

 

どこか妙に落ち着いていた。

 

相手はワールドエネミー。

 

七大罪の『憤怒』。

 

システムの穴やバグの恩恵があったとはいえ。

 

すでに一度、倒したことのある相手だった。

 

自信はある。

 

あの頃よりも遥かに強くなった。

 

完全なる果てへ到達した現在の自分ならば。

 

かつてよりも、さらに高い領域にいる。

 

もちろん。

 

だからといって、油断するつもりは微塵もなかった。

 

この世界へ現れたことで、どのような存在へ変化したのか分からない。

 

ユグドラシルに存在していた頃より、さらに強くなっている可能性もある。

 

起きてほしくはないが。

 

こちらへ渡ってくる過程で、『傲慢』の力まで取り込んでいる可能性すら否定できない。

 

「──それじゃあ」

 

完全に開いたゲートを前に。

 

カリムは静かに呟いた。

 

「二度目の死を迎える準備はできているか、憤怒」

 

そして。

 

迷うことなく、その向こう側へ足を踏み入れた。

 

────*────*────

 

あの日の記憶は。

 

今でも鮮明に残っている。

 

現実以上に鮮烈な感覚が全身を駆け巡り。

 

不安と高揚感が入り混じっていた。

 

怒りに任せて始めたことだった。

 

そして。

 

後になってから、後悔も押し寄せた。

 

本当に。

 

これは正しい行動なのか。

 

誰が見ても。

 

抗議する意図と、明確な故意を含んだ行為だった。

 

ワールドエネミー。

 

その一体一体が。

 

レベル百という上限を遥かに超えた怪物。

 

複数のレベル百プレイヤーが集まり。

 

レイドを組んで初めて討伐できる存在だった。

 

少人数で。

 

ましてや、たった一人で倒せるような相手ではない。

 

────そして。

 

カリムは、その不可能を可能にした。

 

もちろん。

 

バグによって生まれたアイテムとクラス。

 

システムの穴を利用した手段。

 

正攻法とは言い難いものが、いくつも存在していた。

 

それでも。

 

結果として、彼は成し遂げた。

 

ワールドエネミーの単独討伐。

 

ユグドラシルに存在した誰一人として達成できなかった。

 

圧倒的な記録。

 

だが。

 

そこに誇らしさはなかった。

 

バグとシステムの穴を利用して倒した相手だった。

 

何より。

 

ユグドラシルのサービス終了まで、すでに三日すら残されていなかった。

 

討伐の主目的も。

 

自らの強さを証明することではなく。

 

運営への抗議だった。

 

そして。

 

その抗議は当然のように、届かなかった。

 

完全に無視されたまま。

 

ユグドラシルはサービスを終了した。

 

虚しかった。

 

そして、強い怒りが込み上げた。

 

こんなことになると分かっていたなら。

 

もっと早くゲームをやめて。

 

貯めた金で、どこかへ旅行にでも行けばよかった。

 

無力感と後悔だけが残った。

 

「ようやく、か」

 

過去へ思いを巡らせながら。

 

カリムはゆっくりと目を開いた。

 

そこに広がっていたのは。

 

完全に見覚えのない景色。

 

その光景を目にすると。

 

初めてこの異世界へやって来た日のことが、自然と脳裏へ浮かんだ。

 

人生に未練がなかったわけではない。

 

むしろ。

 

数え切れないほどの未練があった。

 

だが。

 

これ以上生き続ける意味を、見つけることもできなかった。

 

金は貯めていた。

 

しかし、裕福と呼べるほどではない。

 

どうにか修士号までは取得した。

 

だが、それによって人生が大きく変わったわけでもなかった。

 

殺伐として。

 

色を失った現実。

 

人間関係は少しずつ錆びついていき。

 

様々な媒体を通じて入ってくる情報も。

 

もはや、大した興味を引くことはなかった。

 

延々と同じことが繰り返される現実。

 

そこから抜け出す方法など、存在するのだろうか。

 

そんな虚しい考えに囚われ。

 

ついには自暴自棄となり、極端に危険な行動へ出た。

 

その直後。

 

奇妙な光が、カリムの全身を包み込んだ。

 

そして────。

 

次に彼を迎えたのは。

 

地獄より僅かにましなだけの、あのディストピアではなかった。

 

どこまでも続く。

 

青々とした草原だった。

 

困惑した。

 

ここは、一体どこなのか。

 

死後の世界なのか。

 

自分は今。

 

死の向こう側に存在する世界を見ているのか。

 

何もかもが異質だった。

 

こんなことはあり得ない。

 

そう考えながら。

 

カリムは無意識のうちに『インベントリ』を開いた。

 

自分が最も重要視していたアイテム。

 

『賢者の石』。

 

『神体破壊者』。

 

そして。

 

『神の試練』。

 

すべてが、そのまま残っていた。

 

賢者の石の影響によって生み出された無数の金貨も。

 

何一つ失われていなかった。

 

それならば。

 

自分は、ユグドラシルの世界そのものへ入ったのか。

 

それとも。

 

まったく知らない別の世界へ落とされたのか。

 

どちらでもよかった。

 

意味もなく時間を浪費し続ける、あの世界にいるよりは。

 

きっと、遥かにましなのだから。

 

「それにしても」

 

カリムは、小さく苦笑した。

 

「結局、異世界へ来てもこうなるのか」

 

まさか。

 

この世界でも、ワールドエネミーを討伐することになるとは。

 

あまりにも出来すぎた偶然だった。

 

一度成功した経験がある。

 

だからといって。

 

決して簡単な相手ではない。

 

今度こそ。

 

自分が負ける可能性も十分にある。

 

ユグドラシルとは違う。

 

ここは。

 

自分が帰るべき場所を持つようになった、『現実』なのだから。

 

「────!」

 

その瞬間。

 

この異世界へ来てから初めて。

 

あまりにも異質で。

 

あまりにも圧倒的な気配を感じ取った。

 

これまで遭遇してきた存在とは。

 

その根源からして、まるで違う。

 

どれほど強大なドラゴンであろうと。

 

どれほど不吉な気配を纏ったアンデッドであろうと。

 

この存在を前にすれば。

 

ただの凡庸な存在にしか思えないだろう。

 

ユグドラシルから現実の世界へ現れた以上。

 

その存在感も、ゲームだった頃とは異なるだろうとは予想していた。

 

ユグドラシルはゲームだった。

 

そして。

 

この世界は現実だ。

 

考えてみれば。

 

違いが生まれるのは当然のことだった。

 

そう理解していたはずなのに。

 

「全身が……震えるな」

 

遥か遠くからでも分かる。

 

圧倒的な巨体。

 

そして。

 

その身体から放たれる、究極とも呼べるオーラ。

 

ただそこに存在しているだけで。

 

この世界の空間そのものを引き裂いているようにさえ感じる。

 

僅かに息を吐くだけで。

 

世界を支配する法則そのものが、捻じ曲げられてしまうのではないか。

 

そう錯覚するほどだった。

 

『憤怒が確認されました』

 

以前、デミウルゴスから聞いた言葉が脳裏へ蘇る。

 

『まあ、別の大陸で確認されたのですが。どうやら、すでにいくつかの国家が滅ぼされたようですね』

 

久しぶりに目にする、その姿。

 

ユグドラシルから、この異世界へ現れ。

 

長い回復を終えると同時に。

 

周囲の国々を滅ぼした。

 

目覚めただけで。

 

あらゆるものを蹂躙し。

 

国家さえ消し去る。

 

まさに。

 

ワールドエネミーと呼ぶに相応しい規模だった。

 

ここで止められなければ。

 

いずれ必ず。

 

自分とアンティリーネが暮らす大陸へもやって来る。

 

「──そうはさせないがな」

 

止められない。

 

そんな選択肢など存在しない。

 

答えは、最初から決まっている。

 

どのような手段を使ってでも。

 

その答えを、現実にする。

 

ここは現実だ。

 

自由度という意味では、ユグドラシル以上。

 

だが。

 

システムの穴も。

 

バグもない。

 

当然ながら。

 

リスポーンなどという都合のよいものも存在しない。

 

僅かな失敗が。

 

そのまま死へ繋がる可能性がある。

 

カリムは精神を集中させた。

 

まず。

 

『アポテオン』のパッシブ能力を確認する。

 

続けて。

 

即座にアクティブ能力を発動。

 

そして。

 

『神の試練』を装備する。

 

装備したその手で。

 

『神体破壊者(ゴッド・ボディ・レッカー)』を取り出した。

 

さらに。

 

全身へ『黎明の栄光』と『昇天の栄光』を纏う。

 

一瞬にして万全の戦闘態勢へ移行したカリムは。

 

破壊を続けていた『憤怒』の前へ。

 

真正面から立ちはだかった。

 

「──この気配は!」

 

憤怒の視線が。

 

カリムを捉えた。

 

「貴様! この出来損ないの、鼠以下のクズめ! 貴様もこの世界にいたのか!」

 

その怒声が周囲へ響き渡る。

 

「殺してやる! 忌々しい奴め!」

 

予想していた通りだった。

 

プレイヤーによって創造されたNPCたちと同じように。

 

この者たちもまた。

 

この世界へ現れたことで、一個の人格を持つ存在となっている。

 

ユグドラシルにいた頃とは違い。

 

明確な怒りを剥き出しにする憤怒の姿へ。

 

カリムは一瞬だけ戸惑った。

 

だが。

 

その驚きは、長く続かなかった。

 

どれほど人格を持とうとも。

 

自分にとって。

 

討伐すべき対象であることに変わりはない。

 

カリムはすぐに意識を切り替え。

 

戦闘態勢を取った。

 

「よう」

 

神体破壊者を構え。

 

かつて倒した相手へ。

 

軽く笑いかける。

 

「久しぶりだな、憤怒」

 

そして。

 

挑発するように続けた。

 

「さあ────『二度目の死』を迎える準備はできているか?」

 

────地獄のような憤怒と共に。

 

すべてが爆ぜた。

 




本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。
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