We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「『二度目の死』だと? ふん! 馬鹿なことを言うものだ! バグまみれの貴様に、そんなことを口にする資格などない!」
カリムの言葉を聞いた七大罪の一体、憤怒の魔王は瞬間的に激昂し、異様で恐ろしい咆哮を上げた。
その咆哮によって周囲の空間は引き裂かれるかのように歪み、生きている存在は次々と命を失い、憤怒の内へと吸収されていった。
凄惨な光景の中。
ただ一人、カリムだけが何事もないかのように、その場へ立ち続けていた。
「ほう! よくも平然と立っていられるものだ、この忌々しい奴め! その見ているだけでも腹立たしい顔! 吐き気のする立ち姿! まったくもって、傲慢だ!」
堂々と立つカリムの姿を見て、憤怒はさらに怒りを爆発させながら咆哮し、そのままカリムへ無数の攻撃を放った。
「死ね、虫けらめ! 二度目の死などではない! 貴様に『最初の死』をくれてやる!」
圧倒的な力。
その力から亡者たちの叫びが響き渡り、周囲へ死を伴う憤怒が広がっていく。
カリムは憤怒の攻撃をすべて回避した。
同時に、神体破壊者を振るい、憤怒の攻撃を切り裂く。
そして、その余波によって相手へ一撃を与えた。
「ぐっ、あ──ああっ! また! またか! こ、この忌々しい奴め! まだ! まだそんなバグなど使っているのか!」
比較的軽い一撃だった。
だが、このアイテムには完全貫通、耐性完全無視、そして『ワールドエネミーを相手にした場合、ダメージが増幅される』という効果が存在している。
その一つ一つが、まるでワールドエネミーを殺すためだけに作られたかのような性能だった。
そのため、軽い一撃だったにもかかわらず、憤怒の魔王が受けたダメージは予想以上に大きかった。
久しく味わっていなかった不快な感覚に、憤怒は先ほど以上に大きな咆哮を上げ、さらに多くの攻撃を放った。
そのたびに、周囲の空間は暗黒へと侵食されていく。
「卑怯者め! ちょこまかと逃げ回ることしかできんのか!」
アポテオンのパッシブとアクティブを重ねているため、現在のカリムは莫大な体力と能力値を持っている。
全身には『栄光』を纏い、『神の試練』も存在する。
だが。
だからといって、あのような攻撃をわざわざ受けるつもりなどなかった。
「グアアアアア────!!」
度重なる攻撃が何度も失敗すると、憤怒の魔王は全身から怒りを噴き出し、先ほど以上に大量の攻撃を撒き散らした。
それでも、カリムには届かない。
むしろカリムは先ほど以上の速度で動きながら攻撃を回避し、逆に憤怒へ一撃を加えた。
「ここだ!」
一撃。
二撃。
そして、三撃。
ダメージは着実に積み重なっていった。
そのたびに憤怒は、さらに広範囲へ攻撃を放つようになった。
このまま速度勝負を続ければ、最終的には消耗戦へと移行する。
そうなれば、カリムへまともなダメージを与えることもできないまま、名も知らぬこの世界で、彼の言葉通り『二度目の死』を迎えることになる。
だからこそ、憤怒は広範囲攻撃を使い始めたのだ。
「ちっ」
ユグドラシルとは違う。
完全に初めて見る攻撃パターン。
一個の人格を得たワールドエネミーは、やはり以前とは次元が違った。
人格を得たことで、単純なプログラムだった頃に比べ、感情へ支配されやすくなった。
その点については、むしろ攻略しやすくなったと言える。
だが。
それ以外については、ほぼすべてが強化されたように感じられた。
広範囲攻撃は、ユグドラシルに存在していた頃とは違って不規則。
攻撃範囲も完全に一定ではない。
そして、その破壊力すらユグドラシル時代とはまるで違っていた。
この世界へ渡ってきたことで。
まるで新たに『レベルアップ』したかのように。
攻撃そのものの威力が増していた。
その瞬間。
カリムは直感した。
あれをまともに受ければ。
死ぬ可能性がある。
賢者の石があるため、死そのものは回避できるだろう。
だが。
攻撃を受けた瞬間に生じる硬直までは回避できない。
僅かでも隙を見せれば、奴は続けて攻撃を放ってくる。
そうなれば復活する猶予すら与えられず。
最後には賢者の石だけを残し。
存在そのものが消滅する。
「────!」
「グアアアア! 死ね、この野郎!」
すでに周囲は完全に壊滅していた。
空間は大きく引き裂かれ、原形すら判別できないほど歪み。
自然からは徐々に毒素が漏れ出していた。
互角だった戦況は。
ほんの僅かではあるが、カリムの不利へ傾き始めていた。
先ほどの攻撃も。
ほんの少し掠っただけだった。
それでも。
辛うじて致命傷を避けるだけで精一杯だった。
もちろん、その攻撃によって体力を大きく奪われたわけではない。
爆発的な速度も健在だった。
しかし。
この状態が続けば、最終的には相手のペースへ巻き込まれる。
そして、まともに攻撃を受けることになるのも時間の問題だった。
────当然。
カリムに、それを受け入れるつもりなどない。
全身へ纏っていた『昇天の栄光』を発動。
先ほど以上の速度で憤怒の攻撃をすべて回避する。
そして、一瞬で懐へ潜り込むと。
強烈な衝撃波を放った。
「貴様! よくもそのような小細工を!」
接近してきたカリムを見て、憤怒は戦い方を僅かに変えた。
今度は自分の周囲へ、あらゆる弱体効果を展開し始めた。
強烈な衝撃波を受けはしたものの。
その巨大な身体の動きが僅かに鈍っただけだった。
「──そのパターンは、もう見た!」
自然から噴き出す毒素と共に。
周辺一帯へ、凄まじい規模の弱体効果が展開される。
一般的な戦士職。
ましてや近接戦闘を主体とする戦士ならば。
耐えることはできなかっただろう。
だが。
カリムは、このようなパターンを嫌というほど経験していた。
即座に『黎明の栄光』を発動する。
すべての弱体効果を一瞬で解除し。
そのまま高速で神体破壊者を振るった。
「ぐっ、う、ああああああ────!!」
連続して致命的な攻撃を受けた憤怒が、恐ろしい叫びを上げた。
まるで世界そのものが燃え上がるかのような叫びに。
カリムは顔をしかめながら距離を取った。
七大罪の魔王にのみ許された特殊能力。
周囲へ禍々しい気配を放つ冠。
『大罪の冠』。
それが出現すると同時に。
周辺一帯が完全に焼き払われた。
もし地獄の炎というものが存在するのなら。
あのように燃えるのだろうか。
通常の炎とはまるで異なる。
極めて不吉な炎だった。
「────!」
周辺を焼き払った炎は。
憤怒の手の動きに従って、さらに広範囲へ広がっていった。
意外にも動きそのものは単調だったため。
回避すること自体は難しくない。
だが。
炎が通り過ぎた場所は、不吉な音と共に。
そこに存在していたものそのものが失われていくような感覚を与えた。
「陽動か!」
炎そのものは簡単に避けることができた。
だが。
別の攻撃へ気づくのが遅れた。
いつの間にか。
憤怒は空中へ飛び上がっていた。
そして巨大な身体を引き連れながら。
凄まじい速度で突進してくる。
同時に。
背後からは無数の魔法攻撃の余波と火柱が迫る。
さらに。
足元では再び『大罪の冠』が召喚され。
カリムの動きを封じるように迫っていた。
「虫けらめ! 今度こそ! 絶対に逃がさん!」
咆哮を上げ続ける憤怒を見ながら。
カリムは回避不可能だと判断した。
そして、防御態勢を取る。
「ふん! 逃げられぬと分かって、また何か姑息な手を使うつもりか!」
憤怒は邪悪な笑みを浮かべた。
「無駄だ! 貴様も、我が力として取り込んでくれる!」
これまで攻撃を避け続けていたカリムが。
今回は回避せず、防御を選んだ。
その姿を見て。
憤怒は確信した。
今度こそ、自分の勝ちだ。
『二度目の死』を迎えるのは自分ではない。
この男へ。
『最初の死』を与える。
そして。
かつて傲慢を取り込んだ時のように。
こいつも吸収し。
さらに強くなる。
────しかし。
その邪悪な笑みは長く続かなかった。
地獄の火柱も。
大罪の冠も。
自身の物理攻撃も。
すべての魔法攻撃も。
間違いなく命中した。
その手応えは。
確かにあった。
だが。
あのバグまみれの男は。
倒れていなかった。
「貴様……!」
そこには。
傷つき、全身を血に染めながらも立ち続けるカリムの姿があった。
その姿だけを見れば、勝利の咆哮を上げていたかもしれない。
だが。
カリムの周囲には奇妙な光を放つ防護膜が形成されていた。
さらに。
気のせいでなければ。
その身体も僅かに大きくなっている。
その姿を見た瞬間。
憤怒の表情が大きく歪んだ。
「──まさか、ここでもこれを使うことになるとはな」
死に至るほどの攻撃を受けた。
実際。
カリムの体力は、ほとんど底を突いていた。
そして。
体力が尽きようとした、その瞬間。
『神の試練』が発動した。
失われた体力のすべてが。
防護膜へと変換される。
その姿は。
まるで神のように。
あまりにも傲慢だった。
なぜ。
虫けら程度の存在が。
神のような姿を真似ることができるというのか。
「き、貴様……!」
自らが放った攻撃をすべて吸収する防護膜を見て。
憤怒の巨大な身体が震えた。
その力によって。
周囲の大地まで揺れ始める。
カリムの姿を恐れたわけではない。
ユグドラシルにいた頃。
あの能力によって敗北した『記憶』が蘇ったのだ。
その瞬間。
憤怒は凄まじい怒りに呑み込まれた。
「またそのバグ能力か!」
あってはならない。
こんなことが。
バグなどに頼る虫けらに。
再び敗北するというのか。
死の気配が。
すぐ目の前まで迫っていた。
絶対に許せない。
最後の足掻きのように。
憤怒は残された力を振り絞りながら。
再び攻撃を放ち始めた。
数多くの攻撃を繰り返したため。
体力は大きく削られている。
だが。
魔力には、まだ十分な余裕があった。
十分だ。
あいつも、自分と同じような状況にある。
記憶の中にあるあの能力と同じならば。
あの防護膜はすぐに消える。
「ぐっ、う……お、おお────」
これが最後の攻撃だ。
必ず。
あの男へ『最初の死』を与える。
そして。
傲慢を取り込んだ時のように。
あの男の力も取り込み。
この世界で、真なる魔神へと生まれ変わる。
もちろん。
その後しばらくは再び回復のため、休眠状態へ入ることになるかもしれない。
だが。
この世界で。
この男以外に。
自分を相手に耐えられる者など。
存在するはずがない。
そう考えながら。
憤怒は最後の一撃を。
カリムへ放った。
そして。
その最後の一撃は────。
「馬鹿な奴だ」
カリムの声が響いた。
「言っただろう?」
「『二度目の死』を迎える準備はできているか、とな」
一瞬だった。
反応する時間すらなかった。
最後の一撃がカリムへ届いた瞬間。
周囲を覆っていた防護膜がすべて消えた。
そして。
次の瞬間。
凄まじいエネルギーが。
憤怒の魔王を貫いた。
カリムの体力は底を突いていた。
だが。
魔力は。
この瞬間も、十分に残されている。
憤怒の物理攻撃への耐性も。
正常に機能していた。
それでも。
憤怒には、その攻撃を防ぐことができなかった。
『シールド・ブラスト』にも似たその一撃は。
対象がどれほど優れた耐性を持っていたとしても。
その耐性が────。
『最初から存在していなかった』
かのように貫通し。
直接、魂へと打撃を与える攻撃だったからだ。
「グアアアアアアアア────!!」
憤怒は。
世界そのものを引き裂くかのような絶叫を上げた。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。