We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
『傲慢』を取り込んだ『七大罪』の『憤怒』を討伐してから、一ヶ月が過ぎた。
その間、幸いなことに、他のワールドエネミーたちに目立った動きは観測されなかった。
『憤怒』によって大陸の外にある国々が滅ぼされたことは、実に痛ましい出来事だった。
だが、そればかりはどうしようもない。
まさか、ワールドエネミーがこの世界に顕現するなど、一体誰が予想できただろうか。
事実上、天災と何ら変わりのない出来事だった。
それでも、多少なりとも救いと言えるものはあった。
ワールドエネミーたちは互いに手を組むことなく、それぞれが覇権を求めて争おうとする動きを見せていた。
さらには、一部のワールドエネミーが、この世界の住人たちに祭り上げられ、本物の『神』として君臨し始めているという。
最善とは言えない。
だが、最悪の事態だけは免れた。
ならば、こちらがきちんと策を立てさえすれば、この異世界で魔神として君臨しようとするワールドエネミーを、一体残らず排除することも不可能ではないはずだ。
「――だから、僕を同じチームに入れてほしい」
「そういうことだ」
「はぁ……誰がこんな大金を出したのかと思えば」
『憤怒』の討伐を無事に終えた後、カリムは比較的長い間、自宅で休養を取っていた。
あまりにも激しく消耗したため、アポテオンのパッシブ能力さえ一時的に機能を停止し、肉体にも凄まじい疲労が押し寄せていたからだ。
そのため、しばらくは療養に専念することにした。
その間、『スターフォール』を率いていたのはアンティリーネだった。
もっとも本人は、冒険者組合へ向かうたびにリオンと遊べなくなるのが不満らしく、何度もぶつぶつと文句を漏らしていたが。
そんなある日。
久しぶりに、カリム宛ての指名依頼が入った。
療養中だったため、本来ならそのまま断るつもりだった。
だが、提示された金額が予想以上に大きく、そこまでの大金を出して自分を指名する人間が一体どんな顔をしているのか、少しばかり興味が湧いたのだ。
その結果、依頼を受けてみることにしたのだが――。
「おい、その……ツァイン――」
「ツァーでいいよ」
「ああ、そうか。ツァー。前にも言ったけどさ、いきなり来てこういうことを言い出すの、俺はあんまり好きじゃないんだよ。あいつの許可も取らずに、いきなりチームに入れてくれって言われても――」
「それなら問題ないよ。もう同意はもらっているからね」
「何だって? 一体いつ?」
冒険者になることも。
冒険者チームを作ることも。
そもそもの始まりは、すべてカリムが勝手に始めたものだった。
だが、チームに関わる事柄や、将来ほかの冒険者を加えるようなことがあれば、その最終的な判断はアンティリーネに任せる。
二人の間では、そう決めていた。
それなのに、もう同意を得たという。
一体どうやって?
「今朝だよ。先に冒険者組合へ寄ったんだけど、ちょうど彼女が出てきたところだったから、その場で同意をもらった」
「――はぁぁ……」
あまりにも素早い仕事ぶりに、カリムは思わず額を押さえた。
一体何なんだ、この状況は。
「アンティリーネのこともそうだけど、俺が今どんな監視を受けてるのか、知らないわけじゃないだろ?」
「もちろん知っている。それも彼女から聞いたよ」
「だったら、どうして?」
「今は非常に切迫した状況だからだ。魔導国とて例外ではない。その証拠に、君へあのような依頼を出したのだろう?」
ツァーは、呆れたような表情を浮かべるカリムを前にしても、変わらず落ち着いた様子で言葉を続けた。
「魔導国としても、目前に迫った世界滅亡の危機を取り除くことを優先するはずだ。それに、抜け道はいくらでもある。冒険者として同じチームで活動するからといって、必ずしも互いに手を組んだことになるわけではないからね」
急を要する状況だからこそ、細かいところまで気にしていられる状態ではない。
ほとんど正論だった。
確かに、冒険者同士が同じチームを組んだからといって、それだけで完全な同盟関係になった、あるいは政治的に手を結んだ、と断言するには曖昧なところが多い。
「はぁ……分かったよ。後で問題が起きても、自分でなんとかしろよ」
反論の一つでもしてやりたかった。
だが、意外にも突っ込めそうなところが見当たらない。
カリムは大きく溜息を吐くと、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)――ツァーの『スターフォール』加入を認めることにした。
本来なら、アンティリーネと二人で活動を続け、そのうち生まれてくる子供たちと共に、家族だけで活動していくつもりだった。
どうやら、その計画を少しばかり修正する必要がありそうだ。
カリムの言葉を聞いたツァーは、満足したように僅かに頷いた。
そんな彼を見て、カリムは当然のように少しばかり不満そうな顔をする。
思うところがないわけではない。
とはいえ、来る者をむやみに拒むのもどうかというものだ。
何より、これから相手にすることになるワールドエネミーたちを考えれば、ツァーを仲間に加えることによる利点の方が遥かに大きい。
ならば、ここは大目に見ることにしよう。
――こうして、『スターフォール』のメンバーは三人となった。
そしてそれは、後に歴代最強のチームと呼ばれることになる、新生『スターフォール』の第一歩でもあった。
カリム。
アンティリーネ。
そして、ツァー。
プレイヤーと神人、そして竜帝の系譜。
あまりにも奇妙な三人の組み合わせは、今まさに始まったばかりだった。
────*────*────
リオンが生まれてから、早くも一年という月日が流れていた。
カリムとアンティリーネの願い通り、リオンはこれまで大きな病気や怪我をすることもなく、健康にすくすくと成長していた。
「さて、リオン。どれくらい育ったか見てみるか」
いつもと変わらぬ穏やかな一日。
カリムはリオンの身体をひょいと持ち上げた。
突然持ち上げられたにもかかわらず、リオンはまるで気にした様子もなく、楽しそうにきゃっきゃと笑っている。
「――やっぱり凄いな、リオンは。何もしてないのに、もうユグドラシルで考えれば、ざっとレベル5くらいはありそうだ」
「レベル5?」
「ああ。この世界の基準――難度で言えば……そうだな。難度2くらいはありそうだ」
もちろん、リオンはまだ幼い赤ん坊だ。
実際の戦闘能力として数字を当てはめるには、あまりにも無理がある。
あくまでも、今この瞬間に備わっている『力』そのものについての話だった。
それでも、生まれてまだ一年ほどしか経っていない赤ん坊が難度2というのは、一般的な常識では考えにくい。
普通の成人男性がおよそ難度3程度だということを考えれば、リオンが生まれながらにして備えている力とポテンシャルが、どれほど大きいのかは容易に想像できた。
「やっぱり、これだけのものがあるなら戦士として育てたくなるな」
もし戦士の道を選ばないのだとすれば、この才能を考えるとあまりにも惜しい。
だからこそ、もしリオンがまったく別の道を選ぶことになれば、カリムとしては少しばかり残念に思うだろう。
「へえ。そんなに? まあ、まだまともに歩くこともできないのに難度2っていうなら、確かにそうかもね」
カリムの言葉を聞いたアンティリーネも驚きながら、それに納得した。
このままごく普通の人間と同じように成長したとしても、成人する頃には一般的な成人男性の難度3など軽く追い越しているはずだ。
それほどまでに、リオンには大きなポテンシャルと、生まれ持った力があった。
「まあ、それでも別の道を選ぶなら、それはそれでいいけどな。例えば受付嬢……いや、男だから受付係か。普通の労働者になったとしても、レベル40を少し超えるくらい――難度で言えば130辺りまでは、無理なく届きそうだ」
もちろん、リオンが戦士の道を選ばなかったとしても、その意思を最大限尊重し、できる限り支えてやるつもりだった。
そして、それはアンティリーネも同じだった。
何度も、何度も心に誓った。
自分たちは、あの者たちとは違う道を歩むのだと。
望まれずに生まれた子供ではない。
二人が心から望んで迎えた、大切な子供なのだ。
玩具でもない。
慰み物でもない。
ましてや、使い捨てるための消耗品などでは決してない。
「きゃあー!」
今もカリムに持ち上げられたまま、楽しそうに手足をばたつかせているリオン。
そんな息子の姿を眺めながら、アンティリーネはふっと微笑んだ。
いつ見ても、本当に愛おしい子だった。
「――あ、そういえば。アンティリーネ、本当にあのツァーと話したのか?」
「どの話? ああ、うん。組合で依頼の報告を終えて出てきたところに、あいつがいたから」
しばらくリオンを抱き上げたままだったカリムは、息子をアンティリーネへと渡しながら尋ねた。
話題は、先週の白金の竜王――ツァーの加入についてだった。
自宅までやってきた彼は、すでにアンティリーネから同意を得ていると言っていた。
多少は疑っていた。
だが、世間一般では『スターフォール』のリーダーはアンティリーネということになっている。
それに、来る者をむやみに拒むものでもない。
結局その場では受け入れたものの、念のため本人から直接確認しておきたかったのだ。
「そうなのか?」
もしここで、
会った覚えなんてない。
そんな話をした覚えもない。
などという答えが返ってきたなら、次にツァーが顔を出した時、少しくらい小言を言ってやろうと思っていた。
だが、残念なことにアンティリーネはあっさり肯定した。
カリムは僅かに残念そうな顔を浮かべる。
「でも、それがどうかしたの?」
「いや。あの時、家まで来たんだよ。もうお前から同意をもらってるって言ってさ」
「どこかへ急いでるみたいだったけど、家に向かってたんだね」
その日のことを思い出し、アンティリーネは納得したような表情を浮かべた。
突然目の前で待ち構えていたものだから、周囲の人々の視線が一斉に集まり、少しばかり居心地の悪い思いをしたことを覚えている。
それでも、ツァーは悪い存在ではない。
少なくとも、自分たちに対して悪意を持っているわけではない。
そう判断したからこそ、アンティリーネは彼の加入を認めたのだった。
もちろん、冒険者として新たな人生を歩み始め、『スターフォール』を結成した時のことを思い出さなかったわけではない。
――他の人は入れないよ。
確か、カリムはそう言っていた。
ならば、人ではない『存在』ならば問題ないのだろうか。
少し悩んだ。
そんな理由で、彼との約束に例外を作ってしまっていいのだろうか、と。
だが、ふと。
少し前、魔導国からの依頼を終え、全身を血まみれにして帰ってきたカリムの姿が脳裏に蘇った。
もし、あの時。
彼を支え、背中を任せられるだけの力を持った者が傍にいてくれたなら、どうなっていただろう。
あの時は厳しく言った。
だが、今後、あのような危険な依頼が増えていくことは間違いない。
――変数は、できる限り減らした方がいい。
そう言っていたのは、確かカリム自身だったはずだ。
悩んだ末、アンティリーネはツァーの申し出を受け入れた。
そして彼女の返事を聞くや否や、白金の竜王はすぐさまどこかへ向かっていった。
「てっきり、用事が全部済んだから、さっさと魔導国の領内から出たくて、その途中でボクに声をかけただけだと思ってたけど」
「――ふーん。まあ、とにかく話をしたのは本当だったってことか」
嘘ではなかったらしい。
となれば、次に会う時には、形式上とはいえ本当に『仲間』ということになるのだろう。
確認を終えたカリムは、軽くリオンの頭を撫でながら呟いた。
「ってことは、次からは三人で活動することになるのか。まあ、悪くはないな」
奴の実力はもちろんのこと、その能力にも興味がある。
以前見せてもらった転移魔法一つを取ってみても、ただ者ではないことくらい簡単に分かった。
場合によっては、様々な場面で大きな助けになってくれるだろう。
そう考えてみれば、思っていたほど悪い話でもなかった。
これでほんの少しだけ。
自分一人で抱え込んでいた心の重荷を、誰かに預けることができるようになったのだから。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。