We are Always Searching Happy Goal   作:Redemptor

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We are Always Searching Happy Goal - 69

「ちょ、ちょっと! それ、反則すぎない!?」

 

「何が。言っただろ、アンティリーネ。その先を見せてやるって」

 

「にゃあああ――っ!」

 

 

 時間は少し遡り、デートをした翌日。

 

 早朝、夫婦として肌を重ねた後、昨日できなかった模擬戦の話になった。

 

 その言葉を聞き、カリムは昨日自分が口にしたことを思い出す。

 

 ――『その先』の強度を見せてやる。

 

 ――百パーセントを超えた、さらに先の領域を見せてやる、と。

 

 

「よし。それじゃ、朝飯を食ったらすぐ行くか」

 

 鉄は熱いうちに打て、だ。

 

 カリムはアンティリーネの提案を受け入れた。

 

 一方のアンティリーネも、胸を高鳴らせながら準備を始める。

 

 『その先』の強度とは、一体どれほどのものなのか。

 

 百パーセントを超えた領域とは、一体何なのか。

 

 想像を膨らませれば膨らませるほど、戦士としての胸の高鳴りが止まらなかった。

 

 

 そして――。

 

 実際に目の当たりにしたその領域は、アンティリーネの予想を遥か彼方へと置き去りにするものだった。

 

 

 これまでは、本当によく食らいついてきたと思っていた。

 

 カリム自身が言っていた通り、もしかすれば速度だけなら追いついたのではないか。

 

 そう思っていた。

 

 だが、それはあくまで――。

 

 『六大神』や『八欲王』のような、この世界がかつて経験し、観測することのできた領域での話に過ぎなかった。

 

 つい先ほどの模擬戦でカリムが見せたものは、そのすべてを遥かに超えた領域だった。

 

 

「――ちぇっ! 本当に反則だって、そんなの!」

 

 強敵を相手にした本格的な実戦経験こそなかった。

 

 それでも、模擬戦と鍛錬は絶えず積み重ねてきた。

 

 今の自分なら、かつての自分など一瞬で倒せる。

 

 確かに、それほどまでに成長したはずだった。

 

 

「ワハハハハ! いやぁ、それでもよく食らいついてるぞ、アンティリーネ!」

 

 

 だが。

 

 目の前に立つ存在。

 

 人生の伴侶であり。

 

 恋人であり。

 

 そして師でもある男は――。

 

 その程度ではまだ足りないとでも言うかのように、アンティリーネの狙いをことごとく潰していった。

 

 

 辛うじて、速度だけならほとんど引き離されてはいない。

 

 だが、それだけだった。

 

 力では、圧倒的な差がある。

 

 これまでカリムが見せてきた姿など、本当に適当に加減していただけなのではないか。

 

 そう思えるほどだった。

 

 

 アンティリーネは『六大神』を直接見たことがない。

 

 『八欲王』も知らない。

 

 当然、実際に戦ったこともない。

 

 それでも確信できた。

 

 

 ――カリムが本気を出せば。

 

 『六大神』も。

 

 『八欲王』も。

 

 そのすべてをたった一人で相手にできる。

 

 

 そう思ってしまうほど、つい先ほどカリムが見せた強さは常軌を逸していた。

 

 

「まあ、今見せた『スキル』だって、百パーセントじゃないけどな。うーん……そうだな。十パーセントくらいか?」

 

「な、なな……何!? じゅ、十パーセント!? はぁ――もう、本当に常識外れすぎるよ、あなた」

 

「ははっ! そうかもな」

 

 

 先ほどの模擬戦でカリムが見せた異常な一撃。

 

 それは、『憤怒』との死闘でも使用したアイテムとスキルだった。

 

 

 敵からダメージを受ける。

 

 すると、受けたダメージと自らの体力をシールドへと変換する。

 

 さらに、そのシールドすべてを攻撃力へと変換し――。

 

 『シールド・ブラスター』として、相手へ叩き返す。

 

 

 たとえ相手がどれほど強力な耐性を持っていようとも。

 

 自分より遥かに強い存在であろうとも。

 

 相手のあらゆる耐性と防御力を、最初から存在しなかったかのように無視する。

 

 

 さらに命中した瞬間には、空間そのものを引き裂き、歪ませる。

 

 

 もっとも、ここは戦場ではなく模擬戦だ。

 

 そして相手は、何よりも大切な伴侶であるアンティリーネ。

 

 当然ながらカリムは、その一撃を彼女へ向けたりはしなかった。

 

 アンティリーネから遥かに離れた虚空へと放っただけである。

 

 

 それでも。

 

 ほんの一部の力しか込められていない攻撃で、空間そのものが歪む光景を目にした。

 

 アンティリーネが呆然とするのも無理はなかった。

 

 

 ――これが百パーセントだったら、一体何が起きるんだよ。

 

 

「だけどな、アンティリーネ。これだけは覚えておけ」

 

 先ほどまでの軽い調子から一転。

 

 カリムは少し真剣な口調で続けた。

 

 

「どれだけ強い奴でも。どれだけ強力な攻撃でも。完璧なものなんてない」

 

「うん」

 

「今の攻撃は、自分が受けたダメージを自分の力に加えて、攻撃へ変換するっていう仕組みなんだ」

 

「ってことは?」

 

「そう。相手の攻撃が強ければ強いほど、こっちの威力も上がる」

 

 カリムは軽く頷いた。

 

「場合によっては、自分より遥かに強い相手にも勝てる。ただ、その分だけリスクも大きいってことだ」

 

「へえ。そうなんだ」

 

 

 アンティリーネは目を輝かせながら、カリムの説明に耳を傾けていた。

 

 理由は分からない。

 

 だが、その仕組みを聞いた瞬間――。

 

 

 ――もしかしたら、ボクにも今のスキルが使えるんじゃないかな。

 

 

 そんな考えが頭を過った。

 

 そして、その直感は正しかった。

 

 

「ある程度は分かってると思うけどさ、アンティリーネ」

 

 カリムは彼女へ真っ直ぐ視線を向ける。

 

「これから始まるワールドエネミーとの戦いは、今までのどんな戦いよりも厳しくて、苦しいものになる」

 

「……うん」

 

「場合によっては、本当に死ぬ覚悟まで必要になるかもしれない」

 

 そして――。

 

「だから、このアイテムをお前にも渡すつもりだ」

 

「これを? ボクに?」

 

「ああ。もちろん、今俺が使ってる奴をそのまま渡すわけじゃないぞ」

 

 カリムは笑う。

 

「新しく作るんだ。アンティリーネ、お前のためにな」

 

「――うん。ありがとう。楽しみにしてる」

 

 

 その真剣な約束を受け、アンティリーネは小さく笑った。

 

 

 これまでカリムからもらったアイテムは、どれも想像を遥かに超えるものばかりだった。

 

 今回受け取れば、これで四つ目になる。

 

 いずれ取り戻すことになる『六大神』の装備まで考えれば、胸が躍らないはずがない。

 

 

 以前の自分とは、もう比べものにならない。

 

 戦士としての自分が。

 

 かつて望んでも届かなかった果ての領域へ向かい、少しずつ完成していく。

 

 そんな実感があった。

 

 

「よし! じゃあ一度下りて昼飯を食って、少し休んだら製作を始めるか!」

 

 

────*────*────

 

 

「じゃあ、ボクはリオンと遊んでるね?」

 

「ああ。任せとけ」

 

 

 模擬戦を終えたアンティリーネとカリムは、ベースキャンプから自宅へと戻ってきた。

 

 帰る途中。

 

 それまで何も知らずにぐっすり眠っていたリオンが目を覚まし、アンティリーネの腕の中で少しぐずり始める。

 

 二人はそんな息子を見て顔を見合わせ、小さく笑った。

 

 そして、まるで申し合わせていたかのように。

 

 アンティリーネは今では随分と自然な仕草で、リオンをあやし始めた。

 

 

 そんな母子の姿を眺めていたカリムは、自宅の一室に設けてある小さな工房へと入った。

 

 アンティリーネとの約束を果たすためだ。

 

 

「――さて。やるか」

 

 

 ――今俺が使っているものじゃなく、新しく作って渡す。

 

 

 そう言った。

 

 だが、実のところ。

 

 『憤怒』の討伐や、先ほどの模擬戦で使っていた『神の試練』は――。

 

 

 一つだけではなかった。

 

 

「念のために作っておいたんだが……いやぁ、残しておいて正解だったな」

 

 

 自由度が高い。

 

 ならば、二つ同時に発動させるような無茶もできるのではないか。

 

 

 そんな思いつき一つで、カリムはかつて『神の試練』をもう一つ作っていた。

 

 

 何より。

 

 右手と左手の両方に、手甲のように装備していれば見栄えもいい。

 

 そんな理由もあった。

 

 

 しかし――。

 

 

 結果は予想とは違った。

 

 

 スキルは一度しか発動しない。

 

 さらに『クールタイム』まで、二つ同時に進行してしまった。

 

 

「分かった時は、結構悩んだんだよなぁ」

 

 

 ほとんど意味はない。

 

 それでも単純な『ステータス』目当てで両手に装備してみたこともあった。

 

 右手と左手で交互に使ってみたこともある。

 

 

 だが結局。

 

 ほとんど意味がないと判断し、片方はインベントリの奥へしまったままになっていた。

 

 

「久しぶりに出したな」

 

 

 カリム自身は右利きだ。

 

 そのため、今取り出した『神の試練』二号機は左手用に作られている。

 

 

 その点については、少し悩んだ。

 

 

 だが、アンティリーネと模擬戦を始めてからは、彼女がどちらの手を主体に使うかなど、そこまで気にする必要もないと分かっている。

 

 それに何より――。

 

 

 『ペアルック』のようなものとして。

 

 象徴的な部分くらいは、同じまま残しておきたかった。

 

 

 だから、この部分には手を加えないことにした。

 

 

「とはいえ、このまま渡すだけってのも、ちょっと良心が痛むんだよな」

 

 

 自分が使っているものとは別の物を渡す。

 

 確かに、嘘ではない。

 

 このまま渡してしまっても問題はないだろう。

 

 

 だが、何となく物足りなかった。

 

 

「さて、どうするか」

 

 

 別のアイテムと組み合わせ、ワールドアイテムへと昇華させる方法もある。

 

 しかし、それを行えば限られたワールドアイテムの製作回数を一つ消費することになる。

 

 何より、製作成功率は百パーセントではない。

 

 失敗すれば、二つのアイテムをまとめて失うことになる。

 

 

 ならば――。

 

 外見だけを変える方がいいのではないか。

 

 

 そうすれば、アイテムのスキルや性能そのものは何一つ変わらない。

 

 その代わり。

 

 先ほどの方法とは違い、失敗する可能性はゼロだ。

 

 何しろ、変えるのはあくまで『外見』だけなのだから。

 

 

「――やっぱり、そうするか」

 

 

 少し悩んだ末。

 

 カリムは決断した。

 

 

 単純に、外見だけを変更する。

 

 

 成功すれば大きな見返りが得られる方法も魅力的ではある。

 

 だが、だからといってわざわざ危険を冒す必要はない。

 

 

「となると……どう変える?」

 

 

 方針は決まった。

 

 だが今度は、肝心のデザインが思いつかない。

 

 

 もしアンティリーネがごく普通の女性であったなら、もう少し簡単だったかもしれない。

 

 

 だが。

 

 彼女は、ごく普通の女性ではなかった。

 

 

 一人の子供の母として、確かな母性を見せている。

 

 一人の男の妻として、愛らしい一面も見せるようになった。

 

 

 しかし、それでも。

 

 一般的な女性像とは、どこか違う。

 

 

 甘える時だってそうだ。

 

 恥ずかしそうな顔をしたり、声を上ずらせたりすることはある。

 

 だが、聞いているこちらがむず痒くなるような甘ったるい声や、鼻にかかったような媚びた声を出したことなど、これまで一度もない。

 

 

 むしろ――。

 

 一緒に依頼をこなしている時。

 

 あるいは、模擬戦をしている時。

 

 そんな時の彼女の方が、どこか格好よく、美しくさえ見える。

 

 

 胸を弾ませている時の表情だって同じだった。

 

 デートをしている時。

 

 肌を重ねる時。

 

 リオンと遊んでいる時。

 

 

 どれも愛らしい。

 

 それでも。

 

 

 戦士として見せる表情の方が、ほんの僅かに――。

 

 より美しく見える気がした。

 

 

「――うーん」

 

 

 どれほど悩んだだろう。

 

 気づけば、工房へ入ってからすでに一時間が経っていた。

 

 

「名前をつけるわけでもないのに、なんでこんなに難しいんだ……」

 

 

 何度も溜息を吐いた。

 

 それでも、良い案は何一つ浮かばない。

 

 

「何か、特徴になるものがあればいいんだけどな」

 

 

 派手すぎない。

 

 それでいて、自分のアイテムとは明確に違う何か。

 

 

 外形そのものは変えない。

 

 ならば――色を変えるか。

 

 

「よし。だったら、何色だ?」

 

 

 普通の女性とは少し違う。

 

 なら、とりあえずピンクはなしだ。

 

 

 赤。

 

 あるいは紫系。

 

 

「……いや、違うな」

 

 

 どうにも似合う気がしない。

 

 

 それなら何がいい。

 

 

 一つずつ候補を消しながら、カリムは考え続ける。

 

 

 そして――。

 

 

「……あ」

 

 

 ふと、一つの考えが閃いた。

 

 

 髪も。

 

 瞳も。

 

 

 アンティリーネを最も特徴づけているものは、銀と黒が綺麗に半分ずつ分かれていることだ。

 

 

「だったら、これも銀と黒で合わせればいいじゃないか」

 

 

 ようやく一つ目の山を越えた。

 

 

 ――だが。

 

 その先には、また別の山が待っていた。

 

 

「さて……どう分ける?」

 

 

 横に分けるか。

 

 縦に分けるか。

 

 それとも。

 

 前と後ろで分けるか。

 

 

 新たな難題に頭を抱えることになったものの、先ほどまでと比べれば随分と気は楽だった。

 

 

 ――そして、さらにしばらくして。

 

 

 すべてを決めたカリムは、凄まじい速度で作業へと取りかかった。

 

 

 やがて――。

 

 

「……よし」

 

 

 完成したものを手に取り、様々な角度から眺める。

 

 

 完璧、とまでは言わない。

 

 

 それでも。

 

 

 自分なりには、十分満足できる仕上がりだった。




本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。
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