We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
できる限り自然な文章になるよう努めておりますが、一部に不自然な表現やぎこちない箇所が残っている場合がございます。
その点につきましては、どうかご理解いただけますと幸いです。
「……」
──見せるべきではない。
いや、見せたくもない醜態をさらしてしまったようね。
アンティリーネは、今では少し慣れてきたベッドの上で寝返りを打ち、静かに目を開けた。
どれほど眠っていたのだろうか。
入口の方から、かすかな光が差し込んでいる。
深夜だろうか。
それとも、夜明け前の早朝だろうか。
「……起きたくない」
どうせ、今の自分にはやることがない。
そして今の自分は、あまりにも無力だった。
死の苦痛と、底知れない恐怖に立ち向かうのは、あまりにも辛い。
──どうせ、彼がいなければ私は何もできない。
外へ出たところで、できることなど何もない。
認めたくはなかった。
だが、それは事実だった。
──あの男は、カリムは、一体なぜ私を選んだのだろうか。
なぜ、ここまで私に良くしてくれるのだろうか。
もし、スルシャーナ様が今まで生きておられたなら、あの方も私にこのようにしてくださったのだろうか。
もし、アインズ・ウール・ゴウンが。
魔導王が、私の上司だったなら。
こんな感じだったのだろうか。
まったく分からなかった。
あの男が、なぜここまで良くしてくれるのか。
単に顔とスタイルが気に入ったという、そういう次元の話ではない気がする。
顔は、そう。
恥ずかしいけれど、ある程度は認めてもいい部分だった。
しかし、スタイルについてはまったく理解できない。
一体この体のどこを見て、そこまで気に入ったなどと言えるのか。
今すぐ漆黒聖典の団員だけを見ても、自分よりスタイルの良い女はいくらでもいるというのに。
そんなことを考えながら、この一週間ほどの時間を少し振り返った。
その間、彼は彼女が眠る場所を用意してくれた。
少し簡単なものではあったが、食事も出してくれた。
それでいて、彼女に何も要求しなかった。
無理に何かを求めることもなかった。
その気になれば、彼は彼女にいくらでも無理強いできたはずだ。
たとえ全ての武装を整えたとしても、今の彼女では、何も装備していない彼の相手にすらならない。
それは、彼女自身が一番よく知っていた。
それほどまでに、途方もない差があった。
──しかし、彼はそうしなかった。
魔導国の牢獄から出た直後、彼に抱きかかえられた時。
そして、極度の恐怖でへたり込んだ昨日。
その二つを除けば、彼は彼女に指一本触れようとはしなかった。
それどころか、必要以上に近づいてくることすらなかった。
本当に、考えれば考えるほど分からない男だった。
惚れたというのは本当なのかと、時々疑わしくなることすらある。
それでも、一つだけ確かなことがあるとすれば。
少なくとも、この男と一緒にいることに、今の彼女はほんの少しだけ安心感を覚えているということだった。
法国の神殿にいた時とは違う。
どこか温かい、奇妙な安心感だった。
「……うーん。少しお腹が空いたわね」
そうして、今の自分が置かれた状況と、カリムに対する考えを整理していた頃。
腹の鳴る音のせいで、アンティリーネは起きたくないと思いながらも、仕方なく体を起こした。
いくら彼と一緒にいることで安心感や温かさを覚えるようになったからといって、自分の体を放っておくわけにはいかない。
「私、お腹が空いたんだけど」
「よお、アンティリーネ。よく眠れたか? 窮屈じゃなかったか?」
「……まあ、それなりに」
少し眠い目をこすりながらテントの外へ出ると、カリムはとても嬉しそうに彼女へ挨拶した。
そして、程よく焼けた肉とパンを渡してくる。
深夜なのか、早朝なのか、まだ少し判別しづらい時間だった。
そんな時間に、こんな食事を出されるとは。
少し贅沢だと思ったが、彼女は断ることなく、少しずつ空腹を満たしていった。
「やっぱり、飯を食べてる姿も可愛くて綺麗だな!」
「……見ないでよ」
──食事中くらい放っておいてほしいんだけど。
あー、もう。
ご飯の時くらい静かにさせてほしいわ。
カリムの視線が負担だったアンティリーネは、想像の中で彼を一発蹴り飛ばした。
何をしても、いつもあんな反応をされる。
苛立ちもするし、恥ずかしくもある。
それと同時に、私ってそんなに綺麗なのかしら、などと考えるようにまでなっていた。
──それでも、あのにやにやした顔だけは、いつか機会があれば一発くらい蹴り飛ばしてやりたい。
「それにしても、ここ、広すぎないか? 行っても行っても終わりが見えないんだけど」
「……だから、目的地はちゃんと決めなきゃ駄目なのよ」
心配ともつかないことを言うカリムに、アンティリーネは適当に答えた。
ほら、私の言うことを聞いていれば、こんなことにはならなかったのに。
そんな、少しばかりの小言だった。
もちろん、カリムにはまったく通じなかった。
「おいおい。俺は別の世界から来たんだから、よく分からないんだって。あ、そういえば、さっきここがカッツェ平野……って言ってなかったか?」
「ええ。そうだけど?」
「よく知ってるじゃないか! 案内してくれ!」
「……ふん」
──ああ、余計なことを言ったわ。
今回も強引にガイドをしてくれとねだってくるため、アンティリーネは極力彼の言葉を聞き流すことにした。
もちろん、カリムにはそんな彼女の姿さえ愛らしく見えていた。
「……ごちそうさま」
アンティリーネは、その負担でしかない視線に辛うじて耐えながら、カリムが渡してくれた食事をすべて平らげた。
そして、立ち上がってテントへ戻ろうとした瞬間。
テントから少し離れた場所に、数十体のアンデッドが倒れているのが見えた。
それも、デス・ナイトと呼ばれる者たちだった。
「デス・ナイト?」
「ん? ああ。さっきこの辺りをうろついていたから、少し懲らしめてやった」
その言葉に、アンティリーネは少し驚いた表情で彼を見た。
この周辺をうろついていた。
つまり、彼女が危険な状況に置かれていたにもかかわらず、それに気づかないまま気楽に眠っていたということだ。
そう思うと、少し恥ずかしくなった。
──こんなことにも気づけないのに、どうして最強などと言えたのか。
「……でも、戦う音は聞こえなかったみたいだけど」
彼女は極力、恥ずかしさを隠しながら言った。
確かに、戦う音は聞こえなかった。
武器同士がぶつかる音もない。
ということは、魔法か、素手か。
しかし魔法であったとしても、何らかの気配は感じ取れたはずだ。
だとしたら。
まさか。
「ああ。素手で少し殴ってやった。思ったより硬い奴らでな。何発か殴らないと大人しくならなかった」
「……そんなことが可能なの?」
もちろん、アンティリーネも素手でアンデッドを殴り殺すこと自体は可能だった。
だが、短時間で。
それも、数十体を超えるデス・ナイトをあのようにすることは不可能だった。
「大したことじゃないさ。あ、中に入ってまだ寝るのか?」
カリムは少しおどけるように言った。
「ええ。まだ少し眠いから」
「そうか? 残念だが、それなら……出発は昼頃にした方がよさそうだな」
彼女がまだもう少し眠りたいと言うと、カリムは少し名残惜しそうに言った。
もっと旅をしたいという気持ちはあった。
だが、好きな人が、愛しい人が辛そうにしている姿は見たくなかった。
「昼? 今、何時なの?」
「今は深夜だな。もう少しで朝になる」
──時間が、もうそんなに経っていたのね。
カリムの言葉に、アンティリーネは少し考え込んだ。
彼に半ば強制的に引きずり回されて、かなり疲れていた。
だが、それでも彼がいなければ、疲れるどころでは済まなかっただろう。
恐怖と絶望の中で、処分を待つだけの身だったはずだ。
そう思うと、少しだけ申し訳なさが湧いてきた。
「やっぱり、今出発しましょう。目も覚めたし」
「お? もっと寝てもいいんだぞ。まさか、俺のことを気遣ってくれたのか? くぅ、さすが絶世の美女は違うな!」
──そんな感情、湧くはずがなかった。
────────────
「さあ、それじゃあ! 今度こそ本当に行ってみようか」
時間は、もう少し流れた。
深夜が過ぎ、完全に日が昇った少し遅めの朝。
結局、アンティリーネはもう少し眠るという選択をし、カリムは彼女の選択を尊重して、彼女が再び目を覚ますまで待った。
「まだ昼には遠いが、まあいいか」
それでも、これくらいなら十分だ。
そう考えながら、カリムは今回も目の前にあった適当なものを拾い上げた。
今回掴んだのは、木の枝だった。
それを適当に投げる。
その結果は、直進だった。
「よし! 直進だ!」
「……はぁ」
いつまで、こんな方法で道を決めるところを見せられなければならないのか。
道中、どうか平凡でまともな人間に出会えますように。
そう考えながら、アンティリーネはやりたくないことを無理やりやらされている少女のような顔で、彼の後をついて行った。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。