We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「――よし、ここまで」
「はぁぁ――疲れた!」
「ワハハハハ! それでも、かなりのものだぞ、アンティリーネ?」
次の依頼を引き受けた、その翌日。
まだ実際に出発する日は決まっていなかったが、次の依頼に備えて最良の状態を維持するため、二人は引き続き模擬戦と鍛錬を行うことにしていた。
戦士として。
そして『神人』として。
今のアンティリーネは、すでにほぼ完成の域へと達している。
そのため、現在の鍛錬内容は身体能力そのものを伸ばすことよりも、戦術とアイテムの運用へと重点が移っていた。
――確かに、『地力』そのものはほとんど伸びていない。
だが。
最後に確認した時よりも、間違いなく強くなっている。
レベル。
難度。
そういった基礎的な部分は、ほとんど変わっていない。
しかし、『技量』は目を見張るほどに伸びていた。
正確に比較することは難しい。
あくまでカリムの感覚による推測に過ぎないが。
純粋な戦闘力へ換算するのであれば――。
おそらく、『レベル105級のプレイヤー』にも匹敵する。
そしてそこへ。
カリムが彼女へ渡した神級アイテム。
さらに、もともとアンティリーネが所有していた神級アイテムまで完全に揃えば。
それ以上の力を発揮することさえ可能だろう。
戦術面についても、非常に優秀だった。
多少荒削りなところは残っている。
それでも、カリムには彼女が天才に思えた。
もし。
装備も。
能力値も。
あらゆる条件が完全に同一であったなら。
純粋な戦術勝負では、自分の方が押されるかもしれない。
カリムは戦闘の最中。
瞬間的な判断。
敵の動き。
その一つ一つを読み取り、戦場そのものを支配していく。
一方のアンティリーネは。
戦場全体の状況を瞬時に分析し。
精密に。
そして恐ろしいほどの速度で相手の手を潰していき。
少しずつ勝利の可能性そのものを引き上げていく。
そんな違いがあった。
もっとも。
軍勢を率い、用兵まで含めた戦いとなれば、カリムの圧勝だろう。
だが、魔導国のように勢力を広げ。
都市を築き。
軍を保有するでもしない限り。
今の二人には、ほとんど意味のない話だった。
「そう? ボク、強いからね。ふふっ」
いつも以上に強い褒め言葉を受け、アンティリーネは満足そうな声を漏らした。
そして同時に。
未だ心のどこかに残っている、叶うことのない未練を思い出す。
――もし。
子供の頃から、カリムがボクの師匠だったなら。
どうなっていただろう。
魔導国のあのダークエルフを、確実に超えることができただろうか。
魔導王すら上回る強者になっていただろうか。
決して起こり得ないことだ。
だから答えなど分からない。
だが、一つだけ確かなことがある。
少なくとも。
今より遥かに広い世界を見ることができていただろう。
カリムもまた、似たようなことを考えていた。
師が誰であろうと。
もし最初から、彼女の才能を正確に見抜き。
それに合った育て方をしていたなら。
一体どうなっていただろう。
単純に力で敵を叩き潰すだけの『狂戦士』ではなく。
今のように、自らの才能と長所を最大限に生かし。
戦場を自由自在に駆け回る戦士になっていたなら。
「……なんか、勿体なかったな」
そう思うと。
カリムには、どうにも惜しく感じられた。
「――それで? 次は?」
「次、かぁ。そいつはちょっと考えないとな」
「えー。何それ。まさか、もう終わり?」
「ははっ! とりあえずはな、とりあえずは!」
カリムは笑う。
「アンティリーネ。『天才』を教えるってのは、ものすごく大変なんだぞ?」
「天才? ボクが?」
「もちろん!」
「ふぅん。そうなんだ」
思ってもいなかった言葉だった。
アンティリーネは嬉しそうに微笑んだ。
――随分強くなった。
――お前は天才だ。
子供の頃には、一度として聞くことのできなかった本心からの言葉。
それを。
親からでも。
国からでもなく。
遠い異国から現れた一人の男から聞くことができる。
何とも言えず。
心地よかった。
「まあ。無理やり次を挙げるなら――」
カリムは少し考え。
「アンティリーネ。お前が言ってた『カロンの導き』を取り戻してからになると思う」
「あ。そっか」
カリムの言葉を聞き、アンティリーネは目を丸くした。
そしてすぐに、納得したように頷く。
魔導国に敗れ。
カリムと出会い。
あの頃よりも、自分は確実に強くなった。
『神人』としての才能もほぼ完全に開花し。
その極致へと近づき。
今や、神人を超えて。
神そのものに近づきつつある。
だが。
これはあくまで――。
カリムの指導の下で築き上げた。
『カリムの戦い方』だった。
本来。
アンティリーネ自身が持っていた戦い方ではない。
おそらく。
先ほどカリムが少し考え込んだ理由も、それなのだろう。
もちろん。
かつての戦い方をまったく見ていないわけではない。
二人が初めて模擬戦をした頃から。
比較的最近まで。
アンティリーネは、もともとの戦法を主に使用していた。
カリムから教わった戦い方の比率が大きくなったのは。
『神の試練』を受け取った辺りからだ。
だが。
それでも、すべてを見たわけではない。
一番重要なもの。
『カロンの導き』が欠けている。
カリムが知っているのも、アンティリーネ本人から聞いた話だけだった。
――『カロンの導き』はウォーサイズの形をしている。
――そこにも『ヒドゥンカード』と呼ばれる力が眠っている。
――そして、かつてのアンティリーネが何故、狂戦士のような戦い方をしていたのか。
話を聞くだけでも、大部分を推測することはできる。
だが。
そんな推測を重ねるよりも。
実際に『カロンの導き』を目にし。
かつての『絶死絶命』の『完全版』を見る方が、遥かに分かりやすい。
「二つの戦い方の融合、か。へえ……それは、すごく楽しみだな」
二つの方式を完全に融合することができれば。
〈エインヘリヤル〉を使いながら。
〈The goal of all life is death/あらゆる生ある者の目指すところは死である〉によって敵を即死させる。
そして。
もし、それすら突破してきたとしても。
『神の試練』で敵の攻撃を受け止め。
その力を吸収し。
最後には。
『神の試練』に秘められた『ヒドゥンカード』で仕留める。
理論上。
戦術としては、ほぼ完璧だった。
もちろん。
実際にすべてを同時に使いこなす難度は極めて高い。
だが。
彼女ほどの天才なら。
一度で、この戦術をものにしてしまうかもしれない。
「――たださ、カリム」
「ん?」
「大丈夫なの? ボクの『全部』を見せちゃって」
「何か問題あるか?」
そこで。
アンティリーネは一つの問題に気づいた。
『カロンの導き』に眠る、ヒドゥンカード。
その詳細までは知らない。
だが。
一つだけ確かなことがある。
発動すれば。
十二秒後。
その対象は――必ず死ぬ。
「あるよ。かなり」
アンティリーネは少し困ったように言う。
「だって、そのヒドゥンカードを使ったら……あなた、死ぬかもしれないんだよ?」
「そうなのか?」
カリムは平然と首を傾げる。
「だったら、どうしてあの『ダークエルフ』は生きてるんだ?」
「それは――」
痛いところを突かれた。
事実。
あのダークエルフは死ななかった。
今になって思い返しても。
何故、あのダークエルフが死ななかったのか。
アンティリーネには分からない。
確かに。
十二秒が経過すれば、対象は必ず死ぬ。
あのダークエルフを除けば。
一度として外れたことなどなかった。
「……分からない」
使うことができる。
それだけだった。
詳しい仕組みまで把握しているわけではない。
それも当然だ。
何しろ。
失敗したことがなかった。
もし。
あのダークエルフのように。
効果が通らない。
あるいは外れる。
そんなことが何度も起きていたなら。
ヒドゥンカードについて、もっと詳しく調べようともしただろう。
だが。
そんな経験がなかったため。
アンティリーネはただ。
その力を『そういうもの』として理解していただけだった。
「――もしかすると、その辺りが原因で負けたのかもな。アンティリーネ」
「そうかもね」
何かのアイテムを使った。
何かのスキルを発動した。
自分の知らない『ヒドゥンカード』で防がれた。
もし。
自分の切り札が防がれた瞬間に狼狽せず。
そうやって冷静に考えることができていたなら。
少なくとも。
逃げることくらいはできたかもしれない。
「でも、今なら少し分かる気がする」
アンティリーネは静かに言った。
「正確には、まだ分からないけど」
今でも。
どうやって防がれたのかは分からない。
それでも。
もし、あの日と同じ状況にもう一度置かれたなら。
あの時のように動揺するのではなく。
冷静に分析し。
状況を把握しようとするだろう。
「それで? それが何か関係あるの?」
「大ありだよ」
「まさか……防げるの?」
「防ぐっていうより、相殺に近いかな」
カリムは少し考える。
「もっと正確に言えば――一度死んでから、蘇るって方が近いけど」
「あ。そうだったね」
カリムの言葉を聞き。
アンティリーネは思い出した。
以前。
彼から聞いた話。
『賢者の石』。
ユグドラシルにいた頃から長い時間をかけて作り上げたアイテム。
その所有者へ。
莫大な富を。
望むものを作り出す力を。
物事の理を見抜く眼を。
人間種が長く望み続けてきた不老長寿を。
そして――。
『蘇生』の力を与えるもの。
「死んでから蘇る、か……」
アンティリーネは少し考え込む。
「じゃあ、あのダークエルフも、そうやって〈あらゆる生ある者の目指すところは死である〉を防いだのかな」
「その可能性もある」
カリムは頷いた。
「それか、そこまで大きく硬直したような様子がなかったなら、『蘇生系の魔法』で相殺した可能性もあるだろうな」
「うーん……そんな動きはなかったと思う」
アンティリーネは記憶を辿り。
やがて頷く。
「だったら……そっちなのかもね」
考えようによっては。
あまり思い出したくない記憶だった。
だが。
すでに時間も経った。
そして何より。
あの敗北があったからこそ。
精神的にも、以前より成長することができた。
だから今では。
あの出来事を、比較的落ち着いて振り返ることができる。
「――じゃあ、『カロンの導き』を取り戻すまでは、結局今のを繰り返すってこと?」
「当然だろ」
「えー。それ、つまらない」
〈小型空間〉を利用した戦術。
カリムの言う通り。
すでにかなり慣れてはいる。
だが。
アンティリーネにとっては、どうにも手応えが薄い。
その上。
地味に面倒なところも多い。
だから。
決して好きな戦法というわけではなかった。
『カロンの導き』を取り戻すまで。
ずっとこれを続ける。
そう思うと。
ますます早く、あの武器を取り戻したくなってくる。
「ははっ! でもさ、今のうちに完璧に使いこなせるようになったら、絶対後悔しないぞ?」
「そ、それは……そうだけど」
どこか不満そうに肩を落とすアンティリーネ。
そんな彼女を見て、カリムは豪快に笑った。
確かに。
カリムの言う通りだ。
今の戦術を完全に身につけておけば。
後悔することなど、絶対にない。
『カロンの導き』を取り戻し。
本来の戦い方と。
今の戦い方。
その二つを完璧に融合させることができれば――。
もしかすると。
『六大神』。
あるいは『八欲王』。
その領域すら。
超えることができるのではないか。
そんな気がしていた。
「うん。そうだね」
面倒なだけで。
損をすることなど、何一つない。
アンティリーネは納得したように頷いた。
そして。
すべての戦術を完全に融合し。
自在に使いこなす自分の姿。
そして――。
『神』の領域へと辿り着いた自分自身を思い描きながら。
小さく笑うのだった。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。