We are Always Searching Happy Goal   作:Redemptor

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We are Always Searching Happy Goal - 72

「――よし、ここまで」

 

「はぁぁ――疲れた!」

 

「ワハハハハ! それでも、かなりのものだぞ、アンティリーネ?」

 

 

 次の依頼を引き受けた、その翌日。

 

 まだ実際に出発する日は決まっていなかったが、次の依頼に備えて最良の状態を維持するため、二人は引き続き模擬戦と鍛錬を行うことにしていた。

 

 戦士として。

 

 そして『神人』として。

 

 今のアンティリーネは、すでにほぼ完成の域へと達している。

 

 そのため、現在の鍛錬内容は身体能力そのものを伸ばすことよりも、戦術とアイテムの運用へと重点が移っていた。

 

 

 ――確かに、『地力』そのものはほとんど伸びていない。

 

 

 だが。

 

 最後に確認した時よりも、間違いなく強くなっている。

 

 

 レベル。

 

 難度。

 

 そういった基礎的な部分は、ほとんど変わっていない。

 

 しかし、『技量』は目を見張るほどに伸びていた。

 

 

 正確に比較することは難しい。

 

 あくまでカリムの感覚による推測に過ぎないが。

 

 純粋な戦闘力へ換算するのであれば――。

 

 

 おそらく、『レベル105級のプレイヤー』にも匹敵する。

 

 

 そしてそこへ。

 

 カリムが彼女へ渡した神級アイテム。

 

 さらに、もともとアンティリーネが所有していた神級アイテムまで完全に揃えば。

 

 それ以上の力を発揮することさえ可能だろう。

 

 

 戦術面についても、非常に優秀だった。

 

 多少荒削りなところは残っている。

 

 それでも、カリムには彼女が天才に思えた。

 

 

 もし。

 

 装備も。

 

 能力値も。

 

 あらゆる条件が完全に同一であったなら。

 

 

 純粋な戦術勝負では、自分の方が押されるかもしれない。

 

 

 カリムは戦闘の最中。

 

 瞬間的な判断。

 

 敵の動き。

 

 その一つ一つを読み取り、戦場そのものを支配していく。

 

 

 一方のアンティリーネは。

 

 戦場全体の状況を瞬時に分析し。

 

 精密に。

 

 そして恐ろしいほどの速度で相手の手を潰していき。

 

 少しずつ勝利の可能性そのものを引き上げていく。

 

 

 そんな違いがあった。

 

 

 もっとも。

 

 軍勢を率い、用兵まで含めた戦いとなれば、カリムの圧勝だろう。

 

 

 だが、魔導国のように勢力を広げ。

 

 都市を築き。

 

 軍を保有するでもしない限り。

 

 

 今の二人には、ほとんど意味のない話だった。

 

 

「そう? ボク、強いからね。ふふっ」

 

 

 いつも以上に強い褒め言葉を受け、アンティリーネは満足そうな声を漏らした。

 

 

 そして同時に。

 

 未だ心のどこかに残っている、叶うことのない未練を思い出す。

 

 

 ――もし。

 

 子供の頃から、カリムがボクの師匠だったなら。

 

 

 どうなっていただろう。

 

 

 魔導国のあのダークエルフを、確実に超えることができただろうか。

 

 

 魔導王すら上回る強者になっていただろうか。

 

 

 決して起こり得ないことだ。

 

 だから答えなど分からない。

 

 

 だが、一つだけ確かなことがある。

 

 

 少なくとも。

 

 今より遥かに広い世界を見ることができていただろう。

 

 

 カリムもまた、似たようなことを考えていた。

 

 

 師が誰であろうと。

 

 もし最初から、彼女の才能を正確に見抜き。

 

 それに合った育て方をしていたなら。

 

 

 一体どうなっていただろう。

 

 

 単純に力で敵を叩き潰すだけの『狂戦士』ではなく。

 

 今のように、自らの才能と長所を最大限に生かし。

 

 戦場を自由自在に駆け回る戦士になっていたなら。

 

 

「……なんか、勿体なかったな」

 

 

 そう思うと。

 

 カリムには、どうにも惜しく感じられた。

 

 

「――それで? 次は?」

 

「次、かぁ。そいつはちょっと考えないとな」

 

「えー。何それ。まさか、もう終わり?」

 

「ははっ! とりあえずはな、とりあえずは!」

 

 カリムは笑う。

 

「アンティリーネ。『天才』を教えるってのは、ものすごく大変なんだぞ?」

 

「天才? ボクが?」

 

「もちろん!」

 

「ふぅん。そうなんだ」

 

 

 思ってもいなかった言葉だった。

 

 アンティリーネは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 ――随分強くなった。

 

 ――お前は天才だ。

 

 

 子供の頃には、一度として聞くことのできなかった本心からの言葉。

 

 

 それを。

 

 親からでも。

 

 国からでもなく。

 

 

 遠い異国から現れた一人の男から聞くことができる。

 

 

 何とも言えず。

 

 心地よかった。

 

 

「まあ。無理やり次を挙げるなら――」

 

 カリムは少し考え。

 

 

「アンティリーネ。お前が言ってた『カロンの導き』を取り戻してからになると思う」

 

「あ。そっか」

 

 

 カリムの言葉を聞き、アンティリーネは目を丸くした。

 

 そしてすぐに、納得したように頷く。

 

 

 魔導国に敗れ。

 

 カリムと出会い。

 

 

 あの頃よりも、自分は確実に強くなった。

 

 

 『神人』としての才能もほぼ完全に開花し。

 

 その極致へと近づき。

 

 

 今や、神人を超えて。

 

 神そのものに近づきつつある。

 

 

 だが。

 

 これはあくまで――。

 

 

 カリムの指導の下で築き上げた。

 

 『カリムの戦い方』だった。

 

 

 本来。

 

 アンティリーネ自身が持っていた戦い方ではない。

 

 

 おそらく。

 

 先ほどカリムが少し考え込んだ理由も、それなのだろう。

 

 

 もちろん。

 

 かつての戦い方をまったく見ていないわけではない。

 

 

 二人が初めて模擬戦をした頃から。

 

 比較的最近まで。

 

 

 アンティリーネは、もともとの戦法を主に使用していた。

 

 

 カリムから教わった戦い方の比率が大きくなったのは。

 

 『神の試練』を受け取った辺りからだ。

 

 

 だが。

 

 それでも、すべてを見たわけではない。

 

 

 一番重要なもの。

 

 

 『カロンの導き』が欠けている。

 

 

 カリムが知っているのも、アンティリーネ本人から聞いた話だけだった。

 

 

 ――『カロンの導き』はウォーサイズの形をしている。

 

 

 ――そこにも『ヒドゥンカード』と呼ばれる力が眠っている。

 

 

 ――そして、かつてのアンティリーネが何故、狂戦士のような戦い方をしていたのか。

 

 

 話を聞くだけでも、大部分を推測することはできる。

 

 

 だが。

 

 

 そんな推測を重ねるよりも。

 

 

 実際に『カロンの導き』を目にし。

 

 かつての『絶死絶命』の『完全版』を見る方が、遥かに分かりやすい。

 

 

「二つの戦い方の融合、か。へえ……それは、すごく楽しみだな」

 

 

 二つの方式を完全に融合することができれば。

 

 

 〈エインヘリヤル〉を使いながら。

 

 〈The goal of all life is death/あらゆる生ある者の目指すところは死である〉によって敵を即死させる。

 

 

 そして。

 

 もし、それすら突破してきたとしても。

 

 

 『神の試練』で敵の攻撃を受け止め。

 

 その力を吸収し。

 

 

 最後には。

 

 『神の試練』に秘められた『ヒドゥンカード』で仕留める。

 

 

 理論上。

 

 戦術としては、ほぼ完璧だった。

 

 

 もちろん。

 

 実際にすべてを同時に使いこなす難度は極めて高い。

 

 

 だが。

 

 彼女ほどの天才なら。

 

 

 一度で、この戦術をものにしてしまうかもしれない。

 

 

「――たださ、カリム」

 

「ん?」

 

「大丈夫なの? ボクの『全部』を見せちゃって」

 

「何か問題あるか?」

 

 

 そこで。

 

 アンティリーネは一つの問題に気づいた。

 

 

 『カロンの導き』に眠る、ヒドゥンカード。

 

 

 その詳細までは知らない。

 

 

 だが。

 

 一つだけ確かなことがある。

 

 

 発動すれば。

 

 十二秒後。

 

 

 その対象は――必ず死ぬ。

 

 

「あるよ。かなり」

 

 アンティリーネは少し困ったように言う。

 

「だって、そのヒドゥンカードを使ったら……あなた、死ぬかもしれないんだよ?」

 

「そうなのか?」

 

 カリムは平然と首を傾げる。

 

「だったら、どうしてあの『ダークエルフ』は生きてるんだ?」

 

「それは――」

 

 

 痛いところを突かれた。

 

 

 事実。

 

 あのダークエルフは死ななかった。

 

 

 今になって思い返しても。

 

 何故、あのダークエルフが死ななかったのか。

 

 アンティリーネには分からない。

 

 

 確かに。

 

 十二秒が経過すれば、対象は必ず死ぬ。

 

 

 あのダークエルフを除けば。

 

 

 一度として外れたことなどなかった。

 

 

「……分からない」

 

 

 使うことができる。

 

 それだけだった。

 

 

 詳しい仕組みまで把握しているわけではない。

 

 

 それも当然だ。

 

 

 何しろ。

 

 失敗したことがなかった。

 

 

 もし。

 

 あのダークエルフのように。

 

 効果が通らない。

 

 あるいは外れる。

 

 

 そんなことが何度も起きていたなら。

 

 

 ヒドゥンカードについて、もっと詳しく調べようともしただろう。

 

 

 だが。

 

 そんな経験がなかったため。

 

 

 アンティリーネはただ。

 

 その力を『そういうもの』として理解していただけだった。

 

 

「――もしかすると、その辺りが原因で負けたのかもな。アンティリーネ」

 

「そうかもね」

 

 

 何かのアイテムを使った。

 

 何かのスキルを発動した。

 

 自分の知らない『ヒドゥンカード』で防がれた。

 

 

 もし。

 

 

 自分の切り札が防がれた瞬間に狼狽せず。

 

 そうやって冷静に考えることができていたなら。

 

 

 少なくとも。

 

 逃げることくらいはできたかもしれない。

 

 

「でも、今なら少し分かる気がする」

 

 アンティリーネは静かに言った。

 

「正確には、まだ分からないけど」

 

 

 今でも。

 

 どうやって防がれたのかは分からない。

 

 

 それでも。

 

 

 もし、あの日と同じ状況にもう一度置かれたなら。

 

 

 あの時のように動揺するのではなく。

 

 

 冷静に分析し。

 

 状況を把握しようとするだろう。

 

 

「それで? それが何か関係あるの?」

 

「大ありだよ」

 

「まさか……防げるの?」

 

「防ぐっていうより、相殺に近いかな」

 

 カリムは少し考える。

 

「もっと正確に言えば――一度死んでから、蘇るって方が近いけど」

 

「あ。そうだったね」

 

 

 カリムの言葉を聞き。

 

 アンティリーネは思い出した。

 

 

 以前。

 

 彼から聞いた話。

 

 

 『賢者の石』。

 

 

 ユグドラシルにいた頃から長い時間をかけて作り上げたアイテム。

 

 

 その所有者へ。

 

 莫大な富を。

 

 

 望むものを作り出す力を。

 

 

 物事の理を見抜く眼を。

 

 

 人間種が長く望み続けてきた不老長寿を。

 

 

 そして――。

 

 

 『蘇生』の力を与えるもの。

 

 

「死んでから蘇る、か……」

 

 アンティリーネは少し考え込む。

 

「じゃあ、あのダークエルフも、そうやって〈あらゆる生ある者の目指すところは死である〉を防いだのかな」

 

「その可能性もある」

 

 カリムは頷いた。

 

「それか、そこまで大きく硬直したような様子がなかったなら、『蘇生系の魔法』で相殺した可能性もあるだろうな」

 

「うーん……そんな動きはなかったと思う」

 

 アンティリーネは記憶を辿り。

 

 やがて頷く。

 

「だったら……そっちなのかもね」

 

 

 考えようによっては。

 

 あまり思い出したくない記憶だった。

 

 

 だが。

 

 すでに時間も経った。

 

 

 そして何より。

 

 あの敗北があったからこそ。

 

 精神的にも、以前より成長することができた。

 

 

 だから今では。

 

 あの出来事を、比較的落ち着いて振り返ることができる。

 

 

「――じゃあ、『カロンの導き』を取り戻すまでは、結局今のを繰り返すってこと?」

 

「当然だろ」

 

「えー。それ、つまらない」

 

 

 〈小型空間〉を利用した戦術。

 

 

 カリムの言う通り。

 

 すでにかなり慣れてはいる。

 

 

 だが。

 

 アンティリーネにとっては、どうにも手応えが薄い。

 

 

 その上。

 

 地味に面倒なところも多い。

 

 

 だから。

 

 決して好きな戦法というわけではなかった。

 

 

 『カロンの導き』を取り戻すまで。

 

 ずっとこれを続ける。

 

 

 そう思うと。

 

 ますます早く、あの武器を取り戻したくなってくる。

 

 

「ははっ! でもさ、今のうちに完璧に使いこなせるようになったら、絶対後悔しないぞ?」

 

「そ、それは……そうだけど」

 

 

 どこか不満そうに肩を落とすアンティリーネ。

 

 そんな彼女を見て、カリムは豪快に笑った。

 

 

 確かに。

 

 カリムの言う通りだ。

 

 

 今の戦術を完全に身につけておけば。

 

 後悔することなど、絶対にない。

 

 

 『カロンの導き』を取り戻し。

 

 

 本来の戦い方と。

 

 今の戦い方。

 

 

 その二つを完璧に融合させることができれば――。

 

 

 もしかすると。

 

 

 『六大神』。

 

 あるいは『八欲王』。

 

 

 その領域すら。

 

 超えることができるのではないか。

 

 

 そんな気がしていた。

 

 

「うん。そうだね」

 

 

 面倒なだけで。

 

 損をすることなど、何一つない。

 

 

 アンティリーネは納得したように頷いた。

 

 

 そして。

 

 

 すべての戦術を完全に融合し。

 

 自在に使いこなす自分の姿。

 

 

 そして――。

 

 

 『神』の領域へと辿り着いた自分自身を思い描きながら。

 

 

 小さく笑うのだった。




本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。
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