We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
「――そうか」
「ご武運をお祈りしております。それでは、戦場でお会いいたしましょう」
あれから、さらに一ヶ月が過ぎた。
ついに。
同盟を結んだ魔神たちが軍勢を率い、バハルス帝国へ宣戦を布告した。
あまりにも突然の出来事だったため、帝国の戦線は大きく後退することとなった。
帝国は、同じ大陸に存在するすべての国家へ援軍を要請。
その切迫した救援要請に、スレイン法国はもちろん、魔導国も応じた。
普段であれば。
大陸の他国など、どこか他人事のように受け流していたかもしれない。
しかし何故か。
カリムとアンティリーネが『真なる魔神』の軍勢を相手に戦ったという話が、大陸全土へ広まっていた。
その結果。
いずれ自分たちのもとへも訪れるであろう『真なる魔神』の脅威に。
大陸全土が恐怖と緊張に包まれていた。
「――結局、この三人で魔神どもを相手にすることになるのか」
「今のところは、そうなるね」
「確かに、理不尽な話だな」
カリム。
アンティリーネ。
そしてツァー。
現状、この三人のパーティーだけで。
『色欲』。
『嫉妬』。
『暴食』。
三体のワールドエネミーを相手にしなければならない。
ツァーも可能な限り動いた。
だが結局、他の竜王たちを説得することには失敗した。
残念ではある。
しかし、仕方がない。
その代わり。
魔神たちが率いる軍勢については、魔導国とスレイン法国が受け持つことになっていた。
「できるなら、やる。できないなら、やらない。だが――やらなきゃならない時は、必ずやる」
ツァーが小さく呟いた。
以前。
カリムが口にしていた言葉だった。
今が、まさにそれに近い状況だった。
世界を守る。
カリムと共に戦えば、できることはある。
しかし。
複数のワールドエネミーを同時に相手取ることは。
たとえカリムがいたとしても、不可能に近い。
それでも。
何もしないわけにはいかない。
世界を守るためには。
必ずやらなければならない。
そして。
必ず、食い止めなければならない。
「まあ、それでも不幸中の幸いなのは、『傲慢』と『憤怒』がいないことだな」
「どうしてだい?」
「そりゃ、その二体が七大罪の中じゃ一番強かったからだよ」
「――そうか」
『傲慢』と『憤怒』が、七大罪の中でも最強。
多少の疑問は残った。
だが、実際に戦った経験を持つカリムの言葉だ。
さらにツァー自身も、『憤怒』の力を間接的にではあるが体感している。
ならば。
ある程度は納得できた。
「さて。それじゃあ――行くか」
カリムが前を向く。
「戦場へ」
その言葉と共に。
『ニュー・スターフォール』は。
『真なる魔神』たちを殺すため。
混沌渦巻く戦場へと出陣した。
────*────*────
六体の『真なる魔神』。
彼らは、ある日突然。
何の前触れもなく、この世界へと降臨した。
あまりにも唐突な顕現だったがゆえに。
世界は、その存在が現れることを許すしかなかった。
そして。
この世界へ顕現した彼らは、長い療養から目覚めると。
それぞれのやり方で世界を蹂躙し始めた。
圧倒的な権能。
圧倒的な力。
立ちはだかる存在をことごとく殺し。
血と肉へと変えていった。
かつてユグドラシルでは。
レベル100級プレイヤーが複数集まり、ようやく対抗できるような存在だった。
だが。
この世界は違った。
ユグドラシルと比べれば。
住人たちの水準は遥かに低く。
強者の数も、あまりにも少ない。
だからこそ。
ユグドラシルでは味わうことのできなかった圧倒的な快楽を。
彼らは好きなだけ貪ることができた。
もちろん。
すべてが思い通りだったわけではない。
何故か。
『五色如来』のうち二体。
『ケテル』。
そして『九曜世界喰』まで。
自分たちと同じように、この世界へ渡ってきていた。
それは多少、気に入らなかった。
腹立たしくもあった。
だが。
頂点へ立つまでに、少し時間が増えただけ。
その程度に考えていた。
――しかし。
状況は一変する。
〈ワールドエネミーを必ず殺すためのアイテム〉を持つ者によって、『憤怒』が討たれ。
『五色如来』と『ケテル』の同盟によって、『強欲』が殺された。
そこで初めて。
残された魔王たちは、危機感を抱いた。
互いに同盟を結び。
そして。
あらゆる存在を、徹底的に殲滅し始めたのである。
「くそっ!」
当然。
この世界に生きる者たちにとっては、たまったものではない。
何の前兆もなく突然現れた。
それだけでも迷惑極まりないというのに。
圧倒的な力と権能を振りかざし。
やることと言えば、大虐殺。
あの魔導国ですら。
ワールドエネミーたちの暴虐には匙を投げ。
公然と彼らを阻止すると宣言したほどである。
それほどまでに。
彼らのもたらす災厄は、文字通り桁が違った。
「援軍はまだなのか!」
そして。
この大陸において、その災厄を真っ先に味わうことになった国家。
それが――。
バハルス帝国だった。
運悪く。
『真なる魔神』たちの〈ゲート〉が、帝国領内に開いてしまった。
そこから。
魔神たち本人だけでなく。
彼らが率いる軍勢までもが、次々と溢れ出してきたのである。
魔導国を除けば。
帝国は、それなりに強大な国家である。
そう思っていた。
だが。
魔神の軍勢と実際に戦ってみて。
ようやく理解した。
――自分たちは、随分と思い上がっていたのだ、と。
ただの雑兵にしか見えないスケルトン。
その難度が、180。
それを知った時。
そして。
たった一体のスケルトンを相手に。
一個中隊が何一つ抵抗できず。
枯れ葉のように次々と薙ぎ倒されていく光景を目にした時。
絶望せずにはいられなかった。
すでに魔導国からの援軍は約束されている。
だが。
彼らが到着するまで。
本当に持ち堪えることができるのか。
それすら怪しかった。
「このままでは……もう、持たんぞ……!」
最前線で指揮を執っていたカーベインは。
文字通り、死に物狂いで敵軍を相手にしていた。
――相手にしている。
そう表現できるだけ、まだ聞こえはいい。
現実には。
玩具のように、徹底的に弄ばれているだけだった。
帝国最強を誇る帝国四騎士とて、例外ではない。
ただの雑兵相手ですら、この有様なのだ。
まして。
小隊長格と思われる魔物ともなれば。
それは、もはや災害だった。
「――――っ!」
小隊長格ですら災害。
ならば。
将軍級の魔物など。
語るまでもない。
あまりにも圧倒的すぎて。
恐怖することすら忘れてしまうほどだった。
援軍は。
一体、いつ来る。
このまま。
帝国は魔神の力に呑み込まれ。
歴史の中から消え去るしかないのか。
――そう。
すべてを諦めかけた、その瞬間。
「よお、髭の将軍。戦場で案山子ごっこは禁止だぞ?」
声が響いた。
次の瞬間。
将軍級の魔物二体が。
同時に。
一閃のもと、斬り伏せられた。
「――っ!?」
あまりにも突然の出来事。
予想すらしていなかった人物の参戦に。
カーベインは驚愕し、振り返った。
そこには。
転移の魔法陣と共に。
白金の竜王。
そしてアンティリーネ。
二人の姿があった。
「これは……一体……」
来るはずだった援軍は。
確か、魔導国だったはずだ。
だが。
そこに現れたのは、魔導国ではない。
『スターフォール』。
「――来たか」
理由を考える暇すらなかった。
すぐに。
次のラウンドが始まったからだ。
崩れ落ち。
少しずつ朽ちていく将軍級魔物の死骸。
その背後から。
何かが――。
現れた。
「――――」
この世界の法則では、表現できない。
言葉では。
どう形容すればいいのかすら分からない。
まるで。
『恐怖』と『畏敬』という概念そのものを。
何かが異常な形に捻じ曲げ。
無理やり一つの存在として作り上げたかのような。
そんな。
悍ましく。
異形の存在。
それが、飛び出してきた。
先ほど斬り倒された将軍級の魔物たちですら。
一体一体が魔導王に匹敵するほどの不吉さを放っていた。
――もっとも。
カーベインはまだ、『憤怒』の力を取り込んだ後のアインズを目にしたことはなかったが。
それでも。
今、目の前に現れた存在は。
その将軍級の魔物など、比較にすらならない。
圧倒的な。
絶対的な。
不吉さを放っていた。
カーベインの中で。
これまで培ってきた常識が、音を立てて崩れていく。
これまで生きてきた中で見聞きした『魔神』など。
この存在を前にすれば。
きっと、ただの幼子に過ぎない。
『八欲王』でさえ。
『六大神』でさえ。
目の前の魔神を相手にすれば、どうすることもできないのではないか。
そう思ってしまうほどだった。
「クハ、ハハハハハハ!」
魔神が豪快に笑う。
「貴様だな! 『憤怒』を二度も斬り伏せた、不届き者は!」
その声。
その姿。
その圧力。
あまりにも超越的すぎる。
カーベインは。
恐怖に震えることすら忘れ。
ただ呆然と、その姿を見つめていた。
そんな『酒飲み仲間』の様子を一瞥したカリムは。
すぐさまカーベインを掴み――。
「ちょっと向こう行ってろ!」
アンティリーネとツァーのいる方向へ、放り投げた。
「ぐっ!?」
空中を舞いながら。
ようやくカーベインの意識が現実へ戻る。
そして。
遅れて押し寄せてきた超越的な恐怖に。
「うっ……おえっ……!」
吐き気を堪えきれず。
地面へ座り込んだ。
それでも。
何とか顔を上げ。
目の前で始まろうとしている――。
『神話』を。
その目に焼き付けた。
「そうか。それで、お前は――」
「『暴食』だ!」
魔神が声を張り上げる。
「そして――貴様の隣にいるのが、『嫉妬』だ!」
「――――っ!?」
いつの間に。
二体。
完全に予想外だった。
あまりにも圧倒的な乱入。
カリムは姿勢を整える暇すらなく。
『嫉妬』の一撃を、まともに受けることとなった。
「――危ねぇな!」
本能的に防御した。
そのおかげで致命傷こそ避けた。
だが。
思っていた以上に、大きなダメージを受けている。
普通の相手なら。
戦闘に支障が出るほどではない。
しかし。
目の前にいるのは、ワールドエネミー。
しかも。
一体ではない。
戦闘が少し長引いただけでも。
全滅する。
久方ぶりに感じる、明確な死の危機。
カリムは即座に体勢を整え。
戦闘を続行した。
「ふん!」
一瞬で間合いを詰めてくるカリム。
それを見た『嫉妬』と『暴食』は。
『怠惰』のように油断することなく。
必死に距離を取った。
――あり得ない事故によって生み出された。
――バグによって誕生した。
――本来、決して存在してはならない『ワールドアイテム』。
『憤怒』と『怠惰』は。
あのアイテムから無数の攻撃を受け。
そして。
死んだ。
ならば。
あのアイテムだけを徹底して警戒し。
攻撃を受けないよう戦えば。
こちら側が、圧倒的に有利。
「貴様さえ殺せば――我らの勝ちは決まったも同然だ!」
『暴食』が悍ましい咆哮を上げる。
そして即座に。
『大罪の冠』を召喚した。
無数の攻撃が。
一斉にカリムへと襲いかかる。
ユグドラシルの時代から。
この世界へ来た今に至るまで。
たった一人でワールドエネミーへ突撃してくるような狂人は。
この男しかいなかった。
そして。
実際に勝利したことがあるのも。
この男だけ。
ならば。
この男さえ排除すれば。
自分たちが殺される可能性など。
事実上、なくなる。
「そうはいかないぞ」
カリムは。
先ほど以上の速度で攻撃を回避した。
そして。
一瞬で間合いを詰め。
凄まじい速度で斬撃を放つ。
「――っ!!」
ほんの少し。
本当に。
僅かな攻撃を受けただけだった。
なのに。
自らが持つあらゆる耐性が。
次々と意味を失っていく。
同時に。
不快という言葉では到底足りないほどの激痛が。
全身を駆け巡った。
「……そうか」
『暴食』は、理解した。
「そういうことか」
内心では。
『憤怒』と『怠惰』を馬鹿にしていた。
たかが人間種一人すら止められないとは。
その程度のアイテムに翻弄され。
挙げ句の果てに殺されるなど。
何と情けない。
そう思っていた。
だが。
今は違う。
悔しい。
腹立たしい。
それでも。
何故あの二体が殺されたのか。
少しだけ。
理解できてしまった。
「貴様が持っている、その忌々しいアイテム!」
『暴食』が叫ぶ。
「それと――腰に提げている、不愉快なアイテム!」
視線が鋭くなる。
「その二つが、貴様の戦法の要か!」
腰に装備したアイテムによって。
相手が認識するより早く、一瞬で接近する。
同時に。
衝撃波を放って動きを崩し。
手に持ったアイテムで、止めを刺す。
ほんの一瞬。
ただ、それだけの時間ではあったが。
『暴食』はカリムの基本戦術を分析していた。
ならば。
あのアイテム群。
そして。
奴が基本として使っている戦術。
それさえ食らわなければ。
殺される前に。
こちらが殺せる。
――そう。
『暴食』は心の中で、勝利を確信した。
その瞬間に生まれた僅かな『傲慢』が。
自らを敗北へ近づけるかもしれないとは。
まだ、気づかないまま。
カリムは。
『暴食』が何を考えているのか。
おおよそ読み取っていた。
――アイテムと戦術について、ある程度把握したか。
だが。
全部ではない。
魔神らしからぬことに、油断はしていない。
しかし。
やはりワールドエネミーらしく。
傲慢だ。
ならば。
最善の結果を得るなら。
今しかない。
ここで機会を逃せば。
奴らはもう。
油断もしない。
傲慢な真似もしないだろう。
「――『憤怒』と『怠惰』と一緒に、もうすぐあの世行きの奴らが」
カリムは笑う。
「よくそこまで分かったもんだな」
挑発の言葉が終わるより早く。
――轟ッ!!
四方八方から。
地獄の業火が。
一斉に噴き上がった。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。