We are Always Searching Happy Goal 作:Redemptor
過去とは違い、今は信頼できる仲間がいる。そして、自分自身の力もあの頃とは比べものにならないほど強くなった。だからこそ、ワールドエネミー一体が相手なら自信はある。
だが――二体以上となれば、絶対に勝てるとは言い切れなかった。
「先陣は俺が切る! アンティリーネ! ツァー! 援護を頼む!」
「分かった!」
「任せて!」
少しでも戦闘が長引けば、こちらが必ず負ける。何としてでも短期決戦へ持ち込み、まず一体を仕留めなければならない。
「小賢しい真似を!」
白金の騎士と人間種の戦士がカリムへ『バフ』を施すのを見て、『暴食』と『嫉妬』は自らの権能を行使した。二体を中心として、強烈な弱体効果が周囲一帯へと一気に拡散する。
「くっ……!」
その効果は敵味方を問わなかった。周辺で戦っていたあらゆる存在が、一斉に強烈なデバフへと晒される。
「これは――」
「どうやら、あちらも戦闘を始めたようでございますね。アインズ様」
「――そうか。ならば、こちらも負けてはいられないな」
『暴食』と『嫉妬』の軍勢を迎え撃っていた魔導国もまた、その異変を感じ取っていた。圧倒的な力と力の激突。その余波には、あの魔導国ですら多少なりとも緊張せざるを得ない。
勢力全体で比較すれば、こちらに分がある。だが一対一という条件ならば、あの怪物たちと同じ領域にまで到達したアインズを除き、まともに相手を務められる者はいなかった。
「道は私が切り開こう。守護者たちよ、魔導国の新たなる伝説のため――ナザリックの輝かしき未来のために、前進せよ! ――超位魔法〈失墜する天空(フォールン・ダウン)〉!」
「仰せのままに! アインズ様!」
もう一つの戦場と同じく、こちらにも圧倒的な力が降臨し、軍勢の中に道を切り開いた。そして、その道を進むように、もう一つの『神話』の戦いが始まった。
個体としての難度なら、あちらでカリムたちが戦っている魔神の方が遥かに高い。しかし、こちらの敵軍は魔導国と帝国の連合軍を大きく上回る物量を誇っていた。さらに合流しつつある法国の戦力まで加えて、ようやく数の上で拮抗できるほどだ。
しかも、将軍級と思われる魔物の中にはレベル100級プレイヤーに相当する存在、あるいはそれ以上と推測される者まで混ざっている。こちらの戦場もまた、決して容易なものではなかった。
「この戦争が終わったら、少しくらい恩を売っておくとするか」
奴に対して明確な優位を取れる絶好の機会だ。こんな好機を逃す手はない。
今回の成果を最大限に利用し、新たな取引を持ちかけることができれば。こちらの力を必要以上に消耗することなく、アインズ・ウール・ゴウンの伝説をさらに広く知らしめることもできるだろう。
――そして、別の戦場で巨大な力が立ち上がったことを、カリムもまた感じ取っていた。
おそらく、しばらくすればあの骸骨頭を中心として、向こうの軍勢の大半は蹴散らされることになるだろう。
だったら、こちらも絶対に負けるわけにはいかない。
戦いが終わった後、また妙な依頼を押しつけてくるに決まっている。そう簡単に好き勝手させてたまるか――そう考えながら、カリムは自分だけが持つ『もう一つ』のヒドゥンカードを発動した。
降り注ぐ魔神たちの攻撃をことごとく防ぎながら、同時にアンティリーネとツァーの状況にも気を配る。
「愚かな奴だ。いつまで守ってばかりいるつもりだ?」
自分たちへ全戦力を集中させても足りないというのに、仲間まで守りながら戦っている。
何と愚かで、非効率的な戦い方か。
『暴食』はカリムを嘲笑しながら、先ほど以上に強烈な攻撃を彼の仲間へと浴びせた。
確かに、奴自身は強い。仲間との連携も悪くない。だが――そこまでだ。
あの男は自分たちと同じ領域にいる。しかし、その仲間たちは違う。
白金の騎士は明確に一段以上劣り、人間種の戦士もユグドラシルなら比較的珍しくないレベル100級プレイヤー程度に過ぎない。
「――――!」
『暴食』と『嫉妬』は、ほんの僅かに考えた。
今の状況は極めて有利だ。選択権はこちらにある。あの男を先に殺すか。それとも、仲間を皆殺しにしてから殺すか。それを決めるのは自分たちだ。
ならば――どちらを選ぶべきか。
どうすれば、あの男を最も深い絶望の中で死なせることができる?
本人を先に殺してから仲間を殺す。それも悪くはない。しかし、それでは『絶望』というものから少し遠い。
ならば。
仲間を先に殺し、その姿を見せつけてから本人を殺す。
――やはり、こちらが正解だ。
二体は同時に『大罪の冠』を召喚した。
そして、ありとあらゆる魔法攻撃を――アンティリーネ一人へと集中させる。
あの人間種の女は、この男が最も大切にしている存在だ。
理屈ではない。直感的に、そう理解していた。
「遅い――!」
すぐ隣にいたツァーは小さく呻き、咄嗟に何かをしようと動いた。だが、間に合わない。
――そう思った、その時だった。
「――あれは……」
巨大な暴風のように荒れ狂う攻撃。その中心に、アンティリーネは立っていた。
重傷を負っている。
だが――生きている。
しかも、何故か全身を奇妙な障壁のようなものが覆い、身体そのものも全体的に僅かに大きくなっているように見えた。
『神の試練』に内包された固有スキル。
あまりにも圧倒的な攻撃だったため、最初こそアンティリーネも動揺した。しかし、アイテムが発動した瞬間には冷静さを取り戻し、その中に眠っていたカリムの『ヒドゥンスキル』を発動させていた。
「――何だと!?」
突如出現した障壁に疑問を抱く暇すらなかった。
見たこともない凄まじい攻撃が『大罪の冠』を貫き、そのまま『嫉妬』の身体を掠める。
――ほんの僅か。
それだけだった。
にもかかわらず、自らの耐性が次々と消えていくような感覚に襲われた。
まさか。
あの男だけではない。
本当に警戒すべきものは、あいつらが装備している奇妙な『手甲』なのか?
一日と経たないうちに、常識外れのアイテムを二つも目にすることになった『暴食』と『嫉妬』は、明らかな不快感を覚えた。
「小賢しい真似を……!」
たかが人間種ごときが、神の力に挑むだと。
ならば、その代償は死をもって払わせる。
二体の魔神は、先ほど以上に強大な攻撃を準備し始めた。
どれほど強力な障壁であろうと。
一撃で粉砕できるほどの出力で叩きつければいい。
「絶望を――くれてやろう」
この女が死んだ時。
あの男は、どんな顔をする?
苦しみに歪むか。
虚ろになるか。
絶望に沈むか。
その心は、一体どれほど壊れるのか。
想像するだけで愉快だった。
「きゃああ――っ!」
あの障壁は長く持たない。
そして、その予想は正しかった。
ほんの僅かな時間が過ぎた後、アンティリーネを覆っていた障壁は消滅した。
これで――詰みだ。
――そのはずだった。
「カリム!」
「――――!?」
攻撃は外れていない。
防がれた感触もなかった。
確かに、攻撃が『通った』手応えがあった。
なのに。
何故か、女は死んでいない。
一瞬狼狽しながら、二体は改めて前方へ目を向けた。
そこには――。
巨大な盾を構え、全身に重傷を負ったカリムが立っていた。
「貴様ァ!」
先ほどの一撃によって、盾は今にも砕け散りそうなほど損傷している。
だが、そんなことは二体にとってどうでもよかった。
結局、攻撃は防がれた。
計画を崩された。
「ちっ。気に入ってたんだけどな」
カリムは荒い息を整えながら、口の中に溜まった血を地面へ吐き捨てた。
蓄積したダメージは大きい。
しかし、自分が装備している『神の試練』が発動するまでには、まだ少し時間がある。
このままでは死ぬ可能性もある。
もちろん、死んだとしても『賢者の石』によって蘇生することは可能だ。
だが――その時に生じる隙が大きすぎる。
一度見ただけでこちらの戦術をある程度読み取り、アイテムについてまで深く分析するような相手だ。
そんな隙を、見逃すはずがない。
――純粋な力なら『憤怒』が最も上だった。
だが、頭の回転という意味では『暴食』の方が上か。
もしかすると総合的な難度そのものは、『憤怒』よりこちらの方が高いかもしれない。
「カリム! だ、大丈夫!?」
「大丈夫だって。アンティリーネ、お前は少し休んでろ」
心配そうなアンティリーネを安心させると、カリムは『暴食』と『嫉妬』の攻撃でほぼ破壊された神級の盾を投げ捨て、『神体破壊者』を握り直した。
「ふん。その様で何をするつもりだ?」
神級と思われるアイテムを一つ、ほぼ完全に破壊した。
そして、当の本人も重傷。
それでも。
油断するつもりなど、二体には微塵もなかった。
『嫉妬』は、僅かにカリムを挑発するように言った。
「十分だよ!」
カリムはその挑発へ、あえて軽く乗ってやった。
そして――攻撃を開始する。
ここまで来れば、一か八か。
成功する可能性は極めて低い。
もともとカリムは、賭け事というものを好まない。
だが、今だけは仕方がなかった。
極めて低い可能性へ。
すべてを賭けるしかない。
「こ、この野郎!」
ここで死ぬつもりなどない。
まして。
彼女を死なせるつもりなど――さらにない。
カリムは口内に込み上げた血を飲み込み、『神体破壊者』を振るい、二体へ猛攻を仕掛けた。
単調。
しかし、鋭い。
一撃でも受ければ、あらゆる耐性と防御力が失われていく。
その上、与えられるダメージも、ユグドラシルに存在していたあのアイテムを遥かに上回っている。
――もしかすると。
あれは『アイテム』という外皮を被った、まったく別の何かなのではないか。
もしそうなら、なおさら一撃たりとも受けるわけにはいかない。
『暴食』と『嫉妬』は必死に距離を取りながらカリムの攻撃を躱し、同時に無数のスキルを叩き込んでいく。
「当たらなければ、意味はない!」
一撃でも許せば。
あのアイテムに身体を貫かれれば。
死ぬ可能性がある。
だが、それはあくまで『当たった場合』の話。
今のように攻撃を受けず、距離を保ったまま攻撃を浴びせ続ければ、殺されることはない。
そして何より。
奴の身体はすでに重傷だ。
このまま距離を保ち、攻撃を浴びせ続けていれば。
そう遠くないうちに、死ぬ。
「そんな戦い方は――飽きるほど見てきたんだよ!」
身体は重傷。
ダメージは、今なお蓄積し続けている。
この状況が続けば。
自分は死ぬ。
――だから、何だというのか。
今は。
『やらなければならない時』だ。
人生で初めて。
本当の目的を与えてくれた。
かけがえのない縁。
それを守るためなら。
この身体くらい、いくらでも投げ出してやる。
「――この虫けらがァ!」
無数の魔法。
無数のスキル。
そして次々と炸裂するデバフ。
そのすべてがカリムを襲う。
ありとあらゆる苦痛を味わいながら。
カリムは――。
『黎明の栄光』。
そして、再び『昇天の栄光』を発動した。
全身を蝕んでいたあらゆるデバフが、一瞬で消え去る。
同時に。
カリムの姿までが――消えた。
「――っ!?」
一瞬。
ただ、それだけ。
次に姿を現した時には。
すでに『暴食』と『嫉妬』の懐へ入り込んでいた。
驚愕する暇すら与えない。
そのまま――。
『神体破壊者』の一撃が。
『嫉妬』の身体を深々と斬り裂いた。
「――――■■■■■■■■ッ!!」
人の声とは到底思えない。
あまりにも異様で。
あまりにも悍ましい咆哮が、戦場一帯へ響き渡る。
そして同時に――。
戦場を覆っていた炎が、さらに激しく燃え上がった。
本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。
明日もまたお越しいただけますと幸いです。