コツ…コツ…コツ…
深夜2時、だれもが寝静まり、音なんてしないはずの時間。 その時間に廊下から足音が聞こえた。 まさか、幽霊か…? そう考えると何だか寒くなってきた気がする。 この足音の主は誰なのだろうかと頭をひねっても、その姿を見ない限り正体は分からない。そのせいで恐怖は鎮まることを知らない。
コツ……コツ………………
足音が止まった。謎の存在は、今扉の前にいる。
何なんだ、誰なんだと考えて考えて考える。すると、自分の息さえもうるさく聞こえてくる。
……ギィィ……
「誰だ……?」
ついに扉が開かれる。
「ショウター!ただいまデース!」
「姉貴じゃねえか!」
「ソウ!オネエチャンです!寂しかったデスカ?」
「寂しかったけどっ!今何時だと思ってんだよ!深夜2時!」
「寂しかったんデスネ!じゃあ、ただいまのぎゅーデス!」
「えっ、あっ、ちょっ、あっ、姉貴っ!?えっと、えっと、あ、汗臭いしさ!離れてくれない!?」
「エッ、臭かったデスカ?」
「あっ、いっ、いやっ、全然臭くないよ!えっと何話してたっけ…あっ、そうそう!今深夜2時なんだよ!」
「アメリカでは昼デスヨ?」
「そうだけどッ!ここは日本なの!日本時間で考えてッ!?みんな寝てる時間だよ!?」
「デモ、ショウタは起きてマス!」
「うぐッ……あっ、それと!靴は玄関で脱いでよ!床が傷ついちゃうしさ。」
「オー、それはゴメンナサイ。脱いでキマス!」
「あいよー」
コツコツコツコツコツ………
騒がしい姉貴がいなくなると、急に静けさが戻ってきた。
「姉貴、いい匂いだったな……」
抱きついてきたときは動揺しててそんなこと考えもしなかった。
どこか甘くて……なんだか頭がくらくらする匂いだった。
ぺたぺたぺた
「脱いできマシター!!」
「うわっ!!」
「ウン?ショウタどうかしマシタか?」
「いっ、いやっ……、何でもないよ!?…あっ、そうだ!姉貴、何で裸足なん?」
「最近はアツイですから!」
「そっかそっか。たしか飛行機で帰ってきたんでしょ。疲れてるだろうし、風呂入る?」
「イイエ!ショウタと一緒に寝ます!」
「はーい、朝はちゃんとシャワーとか忘れない様にね?」
「ダイジョウブです!フフッ、ショウタと一緒に寝るの、とっても久しぶりデス!」
「姉貴はさっきまでアメリカにいたしな。ていうか、姉貴他の奴にもこういうことしてないよな?襲われちまうぞ?」
「心配しなくてもダイジョウブです!ショウタにしかしませんよ! それに、もし襲われそうになっても、ショウタが子供のときみたいに守ってくれマス!そうデスヨネ?」
「分かってる、何回でも守ってやるよ。約束したしな。」
「フフッ、ショウタがとっても頼もしいデス。おっきくなりましたね、ショウタ。」
「姉貴こそな、俺も大人になったのに身長も越せてないし。」
「お姉ちゃんデスカラ!弟には負けられマセン!それと、そろそろ寝ないと健康に悪いデスヨ?」
「分かったよ…おやすみ」
「オヤスミナサイ、ショウタ……」
姉貴は本当に大人になった。 子どもの頃と比べて、色々と。 俺は子どもの頃と比べてだいぶ変わっちまった。 布団の隙間から漂ってくる、汗の混じった姉貴の匂い。 どうしてかその匂いを嗅ぐと体が熱くなってしまう。 鎮めようとしても鎮まらない熱が、体の中に。
姉貴にこんな感情、抱きたくなかった。 冷めない熱を抱いたまま、俺は深い闇へと沈んでいった。