こゆんとみなと 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー
放課後、あと少しだけ
放課後。
教室にはもうほとんど人が残っていなかった。
窓から差し込む夕陽が机を赤く染めている。
こゆんは一人で課題を片付けていた。
帰ろうと思えば帰れた。
でも家に帰ったところで特にやることもない。
だからなんとなく残っている。
シャーペンを走らせていると、
「まだ帰ってなかったんだ」
聞き慣れた声がした。
振り向く。
みなとだった。
鞄を肩にかけたまま笑っている。
「見れば分かるでしょ」
「確かに」
みなとは勝手に隣の席へ座った。
自然すぎる。
いつもそうだ。
人との距離感がおかしい。
初対面の人とも五分後には友達みたいになっている。
こゆんには理解できない才能だった。
⸻
「課題?」
「うん」
「真面目だなー」
「みなとがやらなすぎ」
「今度写させて」
「嫌」
「即答」
「当たり前」
みなとは大げさに肩を落とした。
でも全然堪えていない。
むしろ楽しそうだった。
こゆんはそんな横顔を見てしまう。
そして慌てて視線を逸らした。
好きだ。
認めたくないけれど。
好きだった。
⸻
だけど。
恋愛なんて面倒だと思う。
付き合ったらどうなる。
期待して。
不安になって。
相手の言葉に振り回されて。
別れたら傷つく。
そんな未来が簡単に想像できる。
だから踏み込めない。
好きでも。
好きだからこそ。
⸻
「こゆん」
「なに」
「最近元気なくない?」
急な言葉だった。
こゆんは手を止める。
「別に」
「そう?」
「そう」
みなとは少しだけ首を傾げた。
それから机に頬杖をつく。
「俺にはそう見えないけどな」
その声が妙に優しかった。
胸が苦しくなる。
⸻
どうして。
そんな顔をするんだろう。
どうして。
そんな簡単に心の中へ入ってくるんだろう。
みなとは何も知らない。
こゆんがどれだけ振り回されているか。
どれだけ好きなのか。
何も知らない。
⸻
「なあ」
「ん」
「疲れてる?」
「別に」
「嘘」
「……」
「目の下ちょっとだけクマある」
図星だった。
昨日あまり眠れなかった。
理由はもちろん。
隣にいる男子だ。
絶対に言えないけど。
⸻
その時。
ぽん。
頭に何か触れた。
こゆんは固まる。
みなとの手だった。
「な、なに」
「おつかれ」
「は?」
「頑張ってるじゃん」
みなとは笑う。
まるで当たり前みたいに。
心臓がうるさい。
⸻
「そういうのやめて」
こゆんは視線を逸らした。
「なんで?」
「なんでも」
「怒った?」
「怒ってない」
「じゃあ照れた?」
「黙って」
みなとが笑う。
最悪だった。
絶対顔が赤い。
⸻
しばらく沈黙が続いた。
教室には二人しかいない。
夕陽はさらに赤くなっている。
静かだった。
なのに。
こゆんの心臓だけが騒がしい。
⸻
その時。
みなとがぽつりと言った。
「俺さ」
「なに」
「こゆんとこうしてる時間好きなんだよね」
⸻
心臓が止まりそうになった。
こゆんはゆっくり顔を上げる。
みなとは窓の外を見ていた。
だから言えたのかもしれない。
⸻
「なんで」
小さく聞く。
するとみなとは笑った。
「落ち着くから」
「私、面白くないじゃん」
「そんなことない」
「無愛想だし」
「知ってる」
「可愛くないし」
「それは違う」
⸻
即答だった。
こゆんは言葉を失う。
みなとも自分で言ってから固まる。
数秒。
沈黙。
⸻
「……あ」
「……」
「今の忘れて」
「無理」
「お願い」
「無理」
⸻
今度はみなとの方が顔を赤くしていた。
珍しい。
いつも余裕そうなのに。
⸻
それを見て。
こゆんは少しだけ笑った。
本当に少しだけ。
⸻
「みなと」
「ん」
「私も」
「?」
「こういう時間、嫌いじゃない」
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みなとの目が丸くなる。
そして。
すごく嬉しそうに笑った。
⸻
その笑顔を見た瞬間。
こゆんは思った。
恋愛は面倒だ。
怖い。
不安もある。
だけど。
もし相手がみなとなら。
もう少しだけ。
もう少しだけ近付いてみてもいいかもしれない。
夕陽の差し込む教室で。
二人の距離は、ほんの少しだけ縮まっていた。