こゆんとみなと 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー
言うつもりじゃなかったのに
夕方。
校舎の廊下は、もうほとんど人気がなかった。
窓の外は、ゆっくりとオレンジから紫に変わっていく途中だった。
こゆんは鞄を肩にかけて歩いていた。
今日は早く帰るつもりだった。
みなとに会わないまま帰る。
それだけのはずだった。
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「こゆん」
背中から声がした。
止まるしかない声。
振り返ると、みなとがそこにいた。
息を少し切らしている。
「……やっぱここか」
「なに」
「今日さ、帰るの早いって聞いたから」
「誰から」
「クラスのやつ」
「情報網どうなってんの」
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みなとは笑う。
いつも通りの軽さ。
でも今日は少しだけ違う。
落ち着きがない。
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「ちょっと話したいことあってさ」
「なに」
「ここでいい?」
「別にいいけど」
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二人は窓際に並ぶ。
夕陽が斜めに差し込んでいた。
影が長い。
距離は近いのに、なぜか遠く感じる。
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「こゆんさ」
「うん」
みなとは少しだけ間を空けた。
珍しい。
こんな間。
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「最近、避けてる?」
その言葉に、こゆんの呼吸が止まる。
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「避けてない」
即答。
でも少しだけ早かった。
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みなとは窓の外を見る。
「そっか」
それだけ言う。
責めない。
追い詰めない。
いつも通りの距離。
そのはずなのに。
それが一番苦しい。
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「みなとこそ」
こゆんが言う。
「なに」
「いつも通りすぎる」
「そう?」
「そう」
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沈黙。
夕陽だけがゆっくり沈んでいく。
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こゆんは思う。
(このままだと、何も変わらない)
(でも変えたら終わる)
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みなとは急に言う。
「俺さ」
「うん」
「こゆんのこと好きなんだよね」
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空気が止まる。
音が消える。
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こゆんは一瞬、理解できなかった。
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「……は?」
「だから、好き」
みなとはいつも通りの声だった。
軽いわけじゃない。
でも重くもない。
ただ真っ直ぐ。
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こゆんは笑ってしまいそうになる。
現実感がなさすぎて。
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「なにそれ」
「なにって告白」
「いや急すぎるでしょ」
「我慢してた」
「いつから」
「結構前から」
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みなとは少しだけ頭をかく。
いつも通りの癖。
でも顔は少し赤い。
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「こゆんがさ」
「うん」
「俺のこと見てるときの顔、ずるい」
「は?」
「好きって顔してるのに、何も言わないじゃん」
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心臓が跳ねる。
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「そんな顔してない」
「してる」
「してない」
「してるって」
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そのやり取りの途中で。
こゆんの中の何かが、ぷつっと切れる。
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(もういい)
(これ以上、隠すの無理)
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こゆんは一歩だけ近づく。
みなとが少し驚く。
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「みなと」
「ん?」
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息を吸う。
吐く前に、言う。
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「私も」
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みなとの目が揺れる。
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こゆんは続ける。
「好き」
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沈黙。
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一秒。
二秒。
三秒。
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みなとは、ゆっくり笑った。
いつもの軽さじゃない。
でもちゃんと嬉しそうな笑顔。
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「……まじで?」
「うん」
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こゆんは目を逸らす。
でも逃げない。
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その瞬間。
みなとは少しだけ距離を詰める。
でも触れない。
ちゃんと止まる。
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「じゃあさ」
「なに」
「今の、もう一回言って」
「は?」
「ちゃんと聞きたい」
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こゆんは一瞬だけ黙る。
そして。
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「好き」
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今度は、逃げなかった。
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みなとは小さく息を吐く。
「よかった」
「なにが」
「片思い終わった」
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こゆんは少しだけ笑う。
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「最初からじゃないの」
「いや、俺だけは結構必死だった」
「軽そうに見えるくせに」
「軽そうに見えるだけ」
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夕陽が完全に沈む。
廊下の光が少し暗くなる。
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みなとはぽつりと言う。
「手、繋いでいい?」
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こゆんは少し間を置いて。
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「……今さら?」
「今さら」
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小さく笑って。
こゆんは手を差し出した。
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その瞬間。
距離は、もう戻れないところまで縮まった。