こゆんとみなと 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー
春の終わり
夜風は少しだけ涼しかった。
駅からの帰り道。
街灯の光が歩道を照らしている。
隣には湊がいた。
大学が違うから毎日会えるわけじゃない。
だから今日みたいに一緒に過ごせる日は、少しだけ特別だった。
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「楽しかった?」
湊が聞く。
「普通」
「絶対楽しかったやつじゃん」
「なんで」
「その顔」
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こゆんは思わず眉をひそめる。
湊は昔からそうだった。
本人が隠しているつもりのことを、平気で見抜く。
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「湊」
「ん?」
「そういうのずるい」
「なにが」
「分かってるくせに聞くところ」
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湊は笑う。
高校の頃と変わらない笑い方。
それを見ていると、少しだけ安心する。
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しばらく歩く。
話題は大学のことだったり、バイトのことだったり。
特別な話じゃない。
でも心地いい。
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やがて公園の前に差しかかる。
ベンチがひとつ。
夜だから人はいない。
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「少し座る?」
湊が言った。
「終電は?」
「まだ余裕」
「じゃあ少しだけ」
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二人でベンチに座る。
春の終わりの風が木々を揺らしていた。
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沈黙。
でも気まずくない。
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湊が空を見上げる。
「大学生になったな」
「急にどうしたの」
「いや、高校の頃さ」
「うん」
「こんな風になると思わなかった」
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こゆんは少し笑う。
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「私も」
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本当にそうだった。
恋愛なんて面倒だと思っていた。
傷つくのも怖かった。
誰かに期待するのも嫌だった。
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でも。
気づけば湊が隣にいた。
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「こゆん」
「なに」
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呼ばれて振り向く。
湊もこっちを見ていた。
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少しだけ真面目な顔。
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「好きだよ」
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突然だった。
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「急になに」
「言いたくなった」
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昔なら照れ隠しで逃げていたかもしれない。
でも今は違う。
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こゆんは小さく息を吐く。
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「私も」
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湊が笑う。
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「知ってる」
「うるさい」
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そう言いながらも。
こゆんも少し笑ってしまう。
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湊の手が近くにある。
触れようと思えば触れられる距離。
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昔はそれだけで緊張した。
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でも今は。
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こゆんはそっと手を伸ばす。
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指先が触れる。
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湊が少し驚いた顔をする。
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「なにその顔」
「いや」
「なに」
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湊は照れたように笑った。
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「嬉しかったから」
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その言葉に。
今度はこゆんの方が照れる番だった。
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夜風が吹く。
二人の手は離れない。
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遠回りしてきた。
時間もかかった。
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でも。
こゆんは思う。
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あの日、廊下でプリントを全部落として慌てていた湊を見てよかった。
あの笑顔を好きになってよかった。
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そして。
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今こうして隣にいるのが、この人でよかった。
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そんなことを考えながら。
こゆんは少しだけ湊の肩にもたれた。
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湊は何も言わない。
ただ嬉しそうに笑っていた。