強欲少女は邪竜と踊る 作:邪竜の棲家
マリアベルお気に入りです。
本当はアニメで始まった古代遺跡での戦いが終わってから執筆するつもりでしたが欲望に勝てなかったようです。
この作品の時間軸はマリアベル〇〇後からとなります。
その前に軽く過去編から入りますが。
途方も無い昔の話をしよう。
『彼』が世界を創造するよりも前の話。
【ソレ】は何も無い場所から突如として発生した。
【ソレ】は巨大な竜の姿をしていた。
【ソレ】は何かを成すこともなく、ただそこに存在するだけの竜であった。
【ソレ】───『彼女』は〝不変〟の象徴として、この何も無い場所に存在していた。
それからすぐに、『彼』が生まれた。
『彼』もまた、巨大な竜の姿をしていた。
『彼』は『彼女』と共にこの何も無い場所で過ごしていたが、
「───⋯⋯⋯つまらないなぁ」
と、不意に『彼』が呟いた。
「⋯⋯⋯ぬ?つまらない、とな?」
『彼』の呟きにそう返す『彼女』。
『彼』は頷いて続けた。
「うん、つまらない。あ、姉さんに対してじゃないよ!この何も無い場所に対してだよ!」
「ふむ⋯⋯⋯私としては何も無かろうと可愛い弟が傍に居てくれるだけで毎日が幸せだが」
「ね、姉さん!?そうやって僕をからかわないでよもう!」
「ぬ、別にからかったつもりはないのだがな」
頬を朱に染め怒る『彼』に、首を傾げる『彼女』。
怒りつつも実は満更でもない『彼』だったりするが。
まあそれは置いといて、『彼女』は『彼』に問うた。
「して、我が可愛い弟よ。汝はどうしたいんだ?」
「僕?えっとね───〝世界〟を
瞳をキラキラと輝かせながら『彼』はそう言った。
それを聞いた『彼女』はしばしの間、キョトンとした後、笑い声を上げた。
「ふふ、そうか。我が可愛い弟は〝世界〟というものを創造ってみたいのか」
「うん!だって僕達は〝全知全能〟の力を持って生まれてきたんだよ?だったらその力を使わないなんてもったいないと思わない!?」
「ふむ⋯⋯⋯確かに汝の言う通りだな」
「でしょ!?」
「うむ。だが───済まないが如何に我が可愛い弟の願いであっても、それを叶えさせるわけにはいかぬ」
「え?どうし───」
て、とは続かなかった。
何故なら『彼』の言葉を遮るように『彼女』はカッと目を見開き叫んだからだ。
「〝世界〟とやらを創造ってしまったら、私の可愛い弟が〝世界〟とやらに盗られてしまうではないかッ!!」
「───⋯⋯⋯は?」
意味不明な『彼女』の叫びに、素っ頓狂な声を漏らす『彼』。
だが直ぐ様〝全知〟の力が、『彼女』が何を言いたかったのか導き出した。
要約するとこうだ。
〝世界〟を創造ったら、私という存在はいらなくなるのではないか!
というもの。
つまるところただただ〝世界〟に〝嫉妬〟しているのだ。
弟好き好き大好き過ぎるお姉ちゃんであった。
『彼』は苦笑を零して返そうとしたが、それよりも早く『彼女』が更に続けた。
「ふん!そんなに〝世界〟を創造りたいのであればよかろう!この私を倒して言う事を聞かせてみるのだなッ!!」
いやなんでそうなるの、と叫ぼうとした『彼』だったが、再び〝全知〟の力が働き、瞬時に『彼女』の意図を理解した。
お互いに〝全知全能〟であるが故に戦ったところで勝敗なんて付けようがない。
では何故そんなことを口にしたのか?
その答えはこうだ。
〝世界〟を創造る前に、私ともっと遊んでほしい!
というもの。
つまるところただただもっと構って欲しいだけだった。
全く以て弟好き好k(ry。
『彼』はやれやれと苦笑を零して頷き、こう返した。
「分かったよ。姉さんがそう言うなら全力で相手をするね!後で『やっぱ無し』は駄目だからね?」
「うむ。私に二言は無い。ふふ、かかってくるがよい我が可愛い弟よッ!!」
巨大な翼を広げ、泰然と構える『彼女』。
同じく巨大な翼を広げた『彼』は、嬉々として『彼女』へと突貫した。
〝世界〟が創造される前の『彼女』と『彼』の戦い───もとい戯れ愛が始まったのだった。
さて、結論から言おう。
やはりお互いに〝全知全能〟故に勝敗が付くことは無かった。
幾星霜の時の果て、その戯れ愛は『彼女』が満足した事により終結した。
「ふふ、とても楽しかったぞ我が愛しい最愛なる弟よ」
「うん!僕もとても楽しかったよ!最愛なる姉さん!」
「では約束通り、〝世界〟とやらを創造るがいい」
「分かった!」
それから『彼』は〝全知全能〟の力を使って数多の〝世界〟を創造していった。
こうして何も無かった混沌とした場所に〝世界〟が生まれ、〝不変〟の時代は終わりを告げた。
その光景を優しい眼差しで眺めていた『彼女』は、一瞬だけ寂しそうな表情を見せた後、こう言った。
「───⋯⋯⋯さて。私は此処を去るとしよう」
「⋯⋯⋯え?」
『彼女』の唐突な別れの言葉に、『彼』の思考が停止する。
どうして、と疑問に思った瞬間、〝全知〟の力が直ぐ様答えを導き出した。
『彼女』の存在意義───それは何も無い混沌とした場所を維持し、〝不変〟の時代を守護すること。
『彼』の存在意義───それは〝不変〟の時代を終わらせ〝変化〟を齎すこと。
そして『彼』は〝不変〟の時代を終わらせ〝変化〟を齎し役目を果たしたのと同時───『彼女』の存在意義を
存在意義を失った『彼女』が此処に居る理由はないし、それに絶対なる存在が二つも存在し続けていたらきっと数多ある〝世界〟は存在を維持出来なくなり、崩壊してしまうことだろう。
こうなる
識っていながらもその運命に目を背け、今日まで生きてきたのだから。
『彼女』の別れの言葉の意味を理解した『彼』は、目から涙が零れ始めた。
「姉、さん⋯⋯⋯っ、ごめんね姉さん⋯⋯⋯っ!僕の、せいで」
「いや、汝は悪くない。そも、生まれた時から互いに相容れぬ存在だったからな」
「で、でも」
「でも、もない。別に私が消滅するわけではないのだから汝が悲しむ必要は───あ、いや、もう会えなくなるのだから消滅したも同然の存在になるのか」
『彼女』は困った様に首を傾げる。
が、妙案を思い付き、『彼』にこう提案した。
「ではこうしよう。私が去る場所を───汝の創造った〝世界〟と〝世界〟の【狭間】、というのはどうだ?」
「⋯⋯⋯!それってつまり───姿が見えないだけでずっと傍に居てくれるってこと!?」
「然様。私も互いの力が及ばぬ何処か遥か遠い場所へ行くよりも、なるべく近い場所で最愛なる弟を見守りたいのでな」
「うん!うん!それがいい!ありがとう姉さん!大好きだよ!僕の最愛なる姉さん!」
屈託のない笑顔で愛の言葉を紡ぐ『彼』。
『彼女』は気恥ずかしそうに頬を掻くが、
「ふっ、そうか。私は最愛なる弟の事が大大好きだ!」
「そう?なら僕は最愛なる姉さんの事が大大大好きだよ!」
「ふっ、甘いな。私の方が───っと、これではキリがないな」
「あはは、確かにそうだね」
笑い合う『彼女』と『彼』。
お互いに溺愛し、深い絆で結ばれた関係。
相容れない存在として生まれたからといって、この関係が断たれる事などありはしないのだ。
それから『彼女』は爪で〝世界〟に【裂け目】を生み出すと、『彼』に別れを告げる。
「では達者でな、我が最愛なる弟よ」
「うん───
「ぬ?」
別れ際に口にした『彼』の意味深な言葉に、首を傾げる『彼女』。
直ぐ様〝全知〟の力が働いてその答えを導き出そうとしたが───『彼女』は無理矢理〝全能〟の力で押さえ付ける事でその答えを識る事を回避した。
『彼』がどうやって会いに来てくれるのか、識らない方が絶対に面白いと思ったからだ。
『彼女』は楽しみを一つ残して、〝世界〟の【裂け目】へと消えていったのだった。
あれから幾億年の時が過ぎ、【狭間】を漂っていた『彼女』の脳に何者かが直接語りかけてきた。
《───侵入者を検知しました》
「ふむ、来たか」
『彼』が生み出した〝世界の言葉〟に返した『彼女』は、自分の下へと真っ直ぐ向かって来る者の正体を〝全知〟の力で調べるまでもなく分かっていた。
が、明らかにかつての『彼』とは比べ物にならない程弱くなっていることに気が付く。
そして同時にあの時識る事を拒絶した「またね」の言葉の意味を理解した。
「⋯⋯⋯やれやれ。まさか〝全知全能〟を捨てるとは思いもしなかったぞ。我が最愛なる弟───星王竜ヴェルダナーヴァよ」
「あれ?てっきり〝全知〟の力で識ってると思ってたんだけど、これってもしかしてドッキリ大成功?」
『彼』───改め星王竜ヴェルダナーヴァが首を傾げながらそう言ってくる。
ちなみに今の彼の姿は竜ではなく人型で、頭に立派な角を生やした黒髪の青年だった。
『彼女』は頷くと、ヴェルダナーヴァの様に竜の姿を人型に変えていった。
〝不変〟である『彼女』にも、人型になる事は許されているようだ。
容姿は頭に立派な角を生やした黒髪ロングの幼い少女。
ただその黒髪は髪の毛の先に向かう程白くなっているという奇抜なものだった。
「ふふ、見事にしてやられたぞ。しかし───ふむ。竜の姿も可愛かったが、人型も可愛いとかなにそれ反則か!?」
「えへへ、ありがとう姉さん。あ、でも『可愛い』よりは『かっこいい』って言って欲しかったなぁ。ところで───」
ヴェルダナーヴァは『彼女』を暫しの間ジーッと見つめて一言。
「───⋯⋯⋯なんで姉さんの姿は幼女なの?」
「ぬ?ああ、それはだな」
『彼女』はヴェルダナーヴァの胸に飛び込み抱きしめると、こう返した。
「身体が小さければこう抱きしめた時に、全身でナー君を感じる事ができるからだ」
「な、なるほど。その発想は思いつかなんだ───ってナー君って僕のこと!?」
「うむ。⋯⋯⋯もしかして嫌だったか?」
「嫌ではないよ!寧ろとても嬉しいかな!ただね」
「ただ、なんだ?」
小首を傾げる『彼女』に、ヴェルダナーヴァは言った。
「⋯⋯⋯姉さんには名前があるのかなって思ったんだ」
「ぬ?⋯⋯⋯ああ、そういえばまだ名乗ったことがなかったな」
『彼女』はヴェルダナーヴァから離れると、スカートの裾を摘んで一礼した後に名乗った。
「私の名は、永劫竜ヴェルナンタ。愛称は『ナーちゃん』だ、改めてよろしくナー君」
「永劫竜ヴェルナンタ⋯⋯⋯うん!とても素敵な名前だね───って愛称『ナーちゃん』!?僕の愛称が『ナー君』だから紛らわしすぎると思うんだけど!」
「ふふ、それは私が狙ってやったからな!性別違いで愛称が同じなんて、とてもロマンチックだと思わぬか?」
そう言ってウインクしてくる『彼女』───改め永劫竜ヴェルナンタ。
痛い頭を押さえたヴェルダナーヴァだったが、とても嬉しそうな表情をする彼女を見て駄目とは言えず、苦笑を零して承諾するのだった。
あれから更に幾星霜の時が過ぎ、現在。
【狭間】より、無数のモニターを展開させてヴェルダナーヴァの〝世界〟を監視していたヴェルナンタ。
モニターに映し出されていたのは、古代遺跡アムリタでの決戦だった。
遺跡の外では桃色ツインテールの少女が一匹の竜───
遺跡の中では様々な戦いが交錯する中、一人敗走する者がいた。
金髪ロングの幼い少女である。
水色髪ロングの少年に戦いを挑むも、自身の持つユニークスキルはまるで通じず逃げる他なかった。
だが逃亡虚しく、黒髪の少年による裏切りで彼女は命を落としてしまったのだった。
その光景を見ていたヴェルナンタは、不意に口を開く。
「───さて、仕事の時間だ。『
《───了解しました、ナーちゃん》
『無限之神』と呼ばれた〝世界の言葉〟と思しき何かが返事をすると、
《ナー君の〝世界〟の全てに『時間停止』を実行します───成功しました》
『無限之神』がそう言うと、モニター越しに動いていた全てがまるで静止画の様に動かなくなる。
それを確認したヴェルナンタは、『無限之神』に指示を出す。
「うむ。では次に今しがた死亡した少女の〝魂〟の回収を行い、私の下へ転移させよ」
《了解しました。個体名『マリアベル・ロッゾ』の〝魂〟の回収を実行します───成功しました。続けてナーちゃんの下へと『転移』を実行します───成功しました》
『無限之神』がそう言うと同時、ヴェルナンタが両手を前に出すとモニター越しに映った金髪ロングの幼い少女の姿をした〝魂〟が転移してきてヴェルナンタの腕の中に収まった。
お姫様抱っこされた
すると閉じていた瞼がゆっくりと開き、アメジストの瞳が露になる。
「───⋯⋯⋯ここ、は」
「ふむ、目が覚めたようだな。おはよう、シルトロッゾの姫君」
「⋯⋯⋯!?あ、貴女は誰なの!?」
ハッとして目を見開き、驚きの声を上げるマリアベル。
そんな彼女を黄金の瞳で見つめたヴェルナンタは、こう名乗った。
「私の名は、永劫竜ヴェルナンタ。【狭間の主】にして、我が最愛なる弟───星王竜ヴェルダナーヴァよりこの世の全ての〝魂〟の管理を任されたお姉ちゃんだ。以後お見知りおきを、シルトロッゾの姫君───マリアベル・ロッゾよ」
こうして真なる竜種の長姉ヴェルナンタと、シルトロッゾの姫君マリアベル・ロッゾの二人は邂逅したのだった。