強欲少女は邪竜と踊る   作:邪竜の棲家

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忙しかったり寝落ちしたり等で中々執筆する時間が取れずに遅れてしまいましたすみません。
今回の話で独自解釈のタグを追加しました。
マリアベル以外に原作キャラが登場しますが、誰が登場するかは見てからのお楽しみということで。


1話

「───⋯⋯⋯は?」

 

ヴェルナンタの自己紹介を聞いて間の抜けた声を漏らすマリアベル。

その反応に小首を傾げたヴェルナンタは、こう言い直した。

 

「ああ、すまない。今の自己紹介では分かりづらかったな。では私の可愛い末弟───暴風竜ヴェルドラの一番のお姉ちゃん、と言えば理解できるか?」

 

「ッ!!?」

 

〝暴風竜ヴェルドラ〟。

この名前が出た瞬間、マリアベルの表情が驚愕に染まる。

 

「待って、待つのよ。貴女があの邪竜の長姉だって言うの!?」

 

「ああ、そうだが?⋯⋯⋯それはそうと私の可愛い末弟を邪竜呼びするとはいい度胸だな小娘?」

 

「───っ!?」

 

愛らしい見た目とは裏腹に、凄まじい殺気とオーラを放つヴェルナンタに、息を詰まらせるマリアベル。

するとヴェルナンタの脳内に『無限之神(ウロボロス)』の声が響いた。

 

《ナーちゃん、オーラを抑えてください。このままだとマリアベル・ロッゾの魂が消滅してしまいますよ》

 

「(おっと、それは不味いな。オーラを抑えて抑えてっと)」

 

『無限之神』の忠告を聞いて、無際限に放出していたオーラを抑えるヴェルナンタ。

凄まじい重圧から解放されたマリアベルは、呼吸を整えて心身を落ち着かせようとする。

 

「(───ッ!なんなの、なんなのよこいつ!?魔王リムルも異常な強さを持っていたけれど、この邪竜は次元が違う!こんな奴を敵に回したら命が幾つあっても足りないわ⋯⋯⋯ッ!!)」

 

ヴェルナンタを最大の脅威として警戒するマリアベル。

一方、ヴェルナンタは謝罪の言葉を述べた。

 

「いやはや、すまない。身内には甘い性格でな、私の可愛い弟達妹達、姪に対する侮辱は許せなんだ。だから汝もドー君を邪竜などど呼んでくれるなよ?」

 

「わ、わかったわ───って、ドー君?」

 

「うむ。暴風竜ヴェルドラのドー君。可愛い愛称だろ?」

 

「⋯⋯⋯そ、そうね」

 

恍惚とした表情で語るヴェルナンタに、テキトーに相槌を打つマリアベル。

彼女の身内を侮辱するような発言をしないように気をつけようと心に決めるマリアベルだった。

それはそうと、

 

「───私はいつまで貴女に、お姫様抱っこされていなければならないのかしら?」

 

「ぬ?ああ、すまない。すっかり忘れていた」

 

てへぺろ!みたいな顔でそう言ってくるヴェルナンタを、ジト目で見つめたマリアベルだった。

 

 

 

 

 

「───さて、マリアベルよ。汝は死んだという自覚はあるか?」

 

如何にも高級そうなソファに腰掛けたヴェルナンタがそう言うと、向かい合う形で同じソファに腰掛けたマリアベルが頷いて答える。

 

「ええ。真正面からユウキに胸を刺されて死んだわ。最後の悪足掻きも虚しく、ね」

 

「そうだな。傍から見たらゆっくりと近付いて来たユウキ・カグラザカに、無防備のままグサッと刺された間抜けな小娘であったが」

 

「う、うるさいわね!あの時は驚愕と絶望感に支配されてて余裕が無かったのよ!」

 

ムスッと不貞腐れるマリアベルに、肩を竦ませるヴェルナンタ。

 

「まあ、そういう事にしておこう。⋯⋯⋯汝の敗因はまず、リムル・テンペストを侮ったことだな」

 

「そうね。魔王リムルがあそこまでデタラメな存在だったとは思いもしなかったのよ」

 

「うむ。そも、汝と奴とでは地力が段違いだからな。最初から勝ち目などありはしなかったが」

 

「⋯⋯⋯ッ、それはどういう意味?」

 

眉を顰めるマリアベルに、ヴェルナンタは答えた。

 

「確かに汝のユニークスキル『強欲者(グリード)』は強力だが、それはあくまでもユニークスキルの次元での話だ。リムル・テンペストは更にその上位───いや、最高位の究極能力(アルティメットスキル)を所有している」

 

「究極能力⋯⋯⋯?」

 

「うむ。その究極能力というのは〝世界の理〟そのものを意のままに操る事が可能でな、〝全能の一端〟とも言い換えられる力だ」

 

「⋯⋯⋯つまり、〝全能の一端〟である究極能力の前ではそれ以下の力は無力⋯⋯⋯そう言いたいのね?」

 

額に手を当てながら言うマリアベルに、ヴェルナンタは感心したように二度三度頷いた。

 

「ほう。やはり汝は頭が悪いわけではないようだな。あの愚かで無謀な策に打って出たのは、それ程までに追い詰められていたということか」

 

「⋯⋯⋯そうね。今思えば私らしくない行動だったと反省しているわ。その結果、私は()()御爺様を独りにしてしまった」

 

後悔するマリアベルだが、ふと疑問に思った。

何故私は『また』と言ったのだろうかと。

まるで昔、グランベル・ロッゾに出逢っていたかのような口ぶりをした自分自身に。

マリアベルの困惑した表情を確認した『無限之神』が、ヴェルナンタに言ってくる。

 

《どうやら『彼女』の自我が戻りつつあるようですね》

 

「(ふむ。本来ならばマリアベルの自我は『強欲者』と一緒にユウキ・カグラザカの中へ入るはずだったからな。我々が干渉した事でマリアベルと『彼女』は混ざり合ったような関係といえよう)」

 

《はい。ですがボク達は彼女達をどうこうするつもりはないんですよね?》

 

「(ああ。我々の役目はあくまでも〝魂〟の管理。輪廻転生を滞りなく行う為の存在であり、それ以外は管轄外というものだ。どのような結末を辿ろうとも我々は見届けるのみである)」

 

スッと目を細めてマリアベルを見つめるヴェルナンタ。

 

この世の全ての〝魂〟の管理。

それは竜種の長兄・星王竜ヴェルダナーヴァより任されたヴェルナンタの役割。

生命の創造をしたヴェルダナーヴァ自身は干渉しない事を選んだものの、折角創造(つく)った生命(いのち)だから永遠に廻るようにしたいと考えるようになり、長姉・永劫竜ヴェルナンタとの再会を果たした際にそのお願いをしたそうだ。

ちなみにヴェルナンタ曰く「私の最愛なる弟の頼みなら是非やらせてもらおう」と即承諾したそうな。

 

ヴェルナンタが、パンッ!と柏手を打つと、ハッとして我に返るマリアベル。

それを確認したヴェルナンタは、話を続けた。

 

「───次に汝は自身のスキルを過信し過ぎたことだ。その結果、リムル・テンペストには一切通用せず無効化され、支配していたと思い込んでいたユウキ・カグラザカには裏切られ殺される末路を辿った」

 

「ええ。悔しいけど返す言葉も無いのよ」

 

「だが汝の致命的な敗因は、他者不信を拗らせていた事だな」

 

「⋯⋯⋯ッ」

 

「誰も信じる事が出来ぬからスキルで支配して意のままに操る事を選んだようだが、裏を返せば汝はただただ怖かったのだろう?支配していないと安心感を得られなかった⋯⋯⋯違うか?」

 

「───ッ!!?」

 

まるで虚を衝かれたかのような顔で見つめ返してくるマリアベル。

反論してこないということは図星だったのだろう。

ヴェルナンタは、パチンッ!と指を鳴らすと、自身の膝上に横座りさせる形でマリアベルを転移させた。

 

「⋯⋯⋯!?」

 

「汝は齢十歳の御子様でありながら、グランベル・ロッゾの期待に応えようと頑張ってきた。互いに利用し合う関係であるが故に、奴の期待を裏切る様な結果を出したら消されるかもしれないという恐怖を抱えながら」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯、」

 

「だが此処は弱肉強食の世界では無いし、弱音を吐いたって私は汝を咎めたりはせぬぞ。だから遠慮することは無い。私の胸を貸してやるからたっぷりと甘えるがよい」

 

マリアベルの頭を優しくポンポンしてやるヴェルナンタ。

すると今まで堰き止めていたものが決壊したかのように、マリアベルの両目から涙が零れ始めた。

 

「───よ」

 

「ぬ?」

 

「なによ、なんなのよ!邪竜の癖にっ!邪竜の癖にっ!私に優しくしないでよ⋯⋯⋯ッ!」

 

ヴェルナンタの服を強く握り締めながら泣きじゃくるマリアベル。

そんな彼女の頭を優しく撫でてやるヴェルナンタ。

その光景を眺めていた『無限之神』が呟いた。

 

《かつての『彼女』のトラウマは、忘却していても〝魂〟が覚えているんですね》

 

「(ああ。人々を癒し、愛していた『彼女』は、愚かな人類の裏切りによって命を落とす。裏切り(トラウマ)を抱えたまま転生をしたが、奇しくもその世界は裏切りが交錯する腐食した世界であった)」

 

《⋯⋯⋯何を信じればいいのか分からなくなった『彼女』は、それでもその世界を生き抜き天寿をまっとうしました。それから『彼女』は、もう一度『彼』に会いたいと願い、ボク達はその願いを叶えました》

 

「(だが他者不信を拗らせた『彼女』は、かつての裏切りを恐れて愛は歪なものへと変質し───全てを支配()する『強欲』なる者へとなり、〝強欲〟のマリアベルの人格が誕生した)」

 

《それ以降、『彼女』の人格は封印され〝強欲〟のマリアベルが『彼』との再会を果たし、今に至る感じですね》

 

「(ああ。マリアベルが冷酷なのはそう振る舞わなければ自分自身がやられると思ったからだろうな。他者を駒としか見ていないのは他者不信であるからだし、使い捨てにするのは窮鼠猫を噛む⋯⋯⋯追い詰められた鼠が反撃してくるのを恐れたからだろう)」

 

《結局は全ての者に怯えて日々を過ごしていた孤独で可哀想な女の子だったわけですね》

 

「(そうだな。『彼』はマリアベルの〝魂〟に『彼女』の輝きを見出した癖に試すような真似をして、その結果がマリアベルを死なせ、『彼女』は再び『彼』と離れ離れになってしまうという末路を辿った⋯⋯⋯なんとも愚かしいことよ)」

 

泣きじゃくるマリアベルの頭を優しく撫で続けながら内心で呟くヴェルナンタ。

『無限之神』が驚いたような声で聞いた。

 

《⋯⋯⋯まさか、ナーちゃんが個人的にマリアベルを助けるつもりですか?》

 

「(はてさてどうかな?それはマリアベルの選択次第だ。私はあくまでも彼女の要望を聞いてそれを叶える⋯⋯⋯それなら問題無かろう?)」

 

《⋯⋯⋯⋯⋯⋯はぁ。まあいいでしょう。ボクはナーちゃんの好きにしたらいいと思います。世界への影響は此方でなんとかしてみせますので》

 

「(ふふ、ありがとうウーちゃん。愛してるぞ)」

 

《⋯⋯⋯⋯⋯⋯》

 

内心で愛を囁くヴェルナンタに、返答こそしなかった『無限之神』だったが、恐らく頬を赤らめていることだろう。

 

 

 

 

 

暫くして、マリアベルが泣き止んだのを確認したヴェルナンタはこう切り出した。

 

「───さて、マリアベルよ。これからどうしたい?」

 

「⋯⋯⋯?それはどういう意味よ?」

 

「そのままの意味だ。次の人生はどう過ごしたい?」

 

「⋯⋯⋯!」

 

ヴェルナンタに次の人生について問われ、マリアベルは驚きつつも考え込む。

どうやらヴェルナンタは転生させる事が可能な存在らしい。

あの世界とは別の異世界に転生して新たな人生を歩むのもいいが、小首を左右に振ってそれを否定する。

マリアベルは覚悟を決めたように真っ直ぐな瞳でヴェルナンタを見つめて言った。

 

「⋯⋯⋯転生ではなく、死者蘇生は可能かしら?」

 

「ほう?異世界転生ではなく、あの世界への復活を希望とな?」

 

「ええ」

 

「無論、可能だ」

 

「⋯⋯⋯!それじゃあ」

 

「だがスキルを奪われて何も残っていない汝が、あの世界への復活は自殺行為に等しい。すぐ傍には汝を屠ったユウキ・カグラザカがいる上に、仮に見逃されたとしてもリムル・テンペストに喰われて魂ごと消滅する未来が待っているやもしれぬぞ?」

 

「───っ!!?」

 

脅しの様な言葉を紡ぐヴェルナンタに、マリアベルは驚愕し青褪める。

ヴェルナンタの言う通り、マリアベルにはスキルが何一つとして残っていない。

何の力も持たないマリアベルが戻ったところで、ユウキに即消されるかリムルに喰われる可能性が高かった。

しかしそれでも、マリアベルにはあの世界へと帰還しなければならない理由があった。

 

「分かってるわ、分かってるのよ。けれど戻らないときっと後悔する⋯⋯⋯そう思うの」

 

「ふむ。それは───グランベル・ロッゾの事か?」

 

「⋯⋯⋯ッ!?貴女は本当に何でもお見通しってわけね。ええ、そうよ。私にはよく分からないけど、〝魂〟が御爺様の傍に居たいってそう叫んでいる気がするのよ」

 

「なるほど、『彼女』か」

 

「⋯⋯⋯?『彼女』?」

 

「ああ、いや何でもない」

 

「⋯⋯⋯???」

 

マリアベルがジーッとヴェルナンタを見つめてくる。

ヴェルナンタはポーカーフェイスを貫くが内心ではというと。

 

「(───ふう、危ない危ない)」

 

《⋯⋯⋯ナーちゃん?》

 

「(ぬ?何だウーちゃん、その呆れたような顔は?)」

 

《⋯⋯⋯なんでもありません》

 

「(いやだが)」

 

《な・ん・で・も・あ・り・ま・せ・ん》

 

「(ぬ、ぬぅ⋯⋯⋯)」

 

どうやら『無限之神』の機嫌を損ねてしまったらしい。

ついうっかりマリアベルの〝魂〟の中で目覚めつつある『彼女』について言及した事を呆れられてるくらい、ヴェルナンタは理解しているものの何故それで彼の機嫌を損ねるのかが分からなかった。

ヴェルナンタは、コホンッ!と咳払いをして言った。

 

「いいだろう。汝の覚悟に免じて、あの世界での復活の希望を呑むとしよう」

 

「⋯⋯⋯!ありがとうヴェルナンタ!」

 

「うむ。だがそのまま復活では簡単に殺されてしまうからな。だから汝には『永劫回帰』の呪いを付与しようと思う」

 

「⋯⋯⋯『永劫回帰』の呪い?」

 

「ああ。『永劫回帰』の呪いとは、付与した対象の死を観測すると、死ぬ前の状態に即復元するというものだ。それを永劫に繰り返す権能───まあ要するに死なない存在となることだな」

 

「な、何なのよそのチート権能は!?そんな存在殺す術なんか無いじゃない!」

 

「いやあるぞ」

 

「あるの!?」

 

さらっと殺す手段がある事を言うヴェルナンタに、驚愕するマリアベル。

ヴェルナンタは、自身の小首の前を親指で横一文字に切って邪悪な笑みを浮かべて一言。

 

 

「───私を殺す事、以上だ」

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯、」

 

 

何だろう、簡単に言ってきたけどヴェルナンタの殺害を可能とする存在が居るとは到底思えなかった。

ヴェルナンタは、マリアベルの頭を軽くポンとやり、

 

「『永劫回帰』の呪いを付与したぞ」

 

「え?今ので!?」

 

「うむ。すぐにその効果を体感できるから安心するがよい」

 

「⋯⋯⋯え?」

 

それってどういう意味?とは続かなかった。

何故ならマリアベルが言うよりも早く、ヴェルナンタがパチンッ!と指を鳴らしたからだ。

それと同時、ヴェルナンタの左隣に座る形で白髪短髪と黄金の瞳を持つ幼い少女が転移してきた。

 

「───養母(ママ)?ワタシに用?」

 

「うむ。実は───ぬ?」

 

ヴェルナンタは何か言おうとしてふと、自身を養母と呼んだ少女の左手に首根っこを掴まれていた赤髪の青年に目が行き溜め息を吐いた。

 

「⋯⋯⋯やれやれ。私に勝負を挑んできたからまずは『私の可愛い養女であるイーちゃんに認められてこい』、と送り込んでやったのだがてんで駄目ではないか、ガイとやら」

 

「きゃは!コイツ弱過ぎてつまんない!養母の権能で何度も復活するからいっぱい壊してみたけど、急に動かなくなっちゃったからつまんない!」

 

《⋯⋯⋯いえ。人間の領域を出ていないガイではナーちゃんに挑むどころか、究極能力『破壊之神(シヴァ)』を所有するイーちゃんに挑む事すら間違ってますからね》

 

冷静にツッコミを入れる『無限之神』。

そのガイと呼ばれた赤髪の青年の〝魂〟は、白目を剥いて口から泡を吹いた状態で失神していた。

そんな彼の姿を見て血の気が引いていくマリアベル。

何だろう、とてつもなく嫌な予感がする。

顔面蒼白のマリアベルと、イーちゃんと呼ばれた少女の目が合うとその少女は獰猛な笑みを浮かべて言ってきた。

 

「んー?もしかして次はコイツを壊していいの?」

 

「───ッ!!?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「ちょ、冗談でしょう!?」

 

悲鳴を上げるマリアベル。

そんなマリアベルの顎を持ち上げ、覗き込んできたヴェルナンタが言った。

 

「ふふ、冗談なわけなかろう?汝は私の可愛い姪のミーちゃんを悲しませ、ナー君の分身体たる精霊竜(エレメンタルドラゴン)の子竜に手を出したのだからな。無罪なわけあるまい?」

 

「───⋯⋯⋯ぁ、」

 

高速で思考を張り巡らせたマリアベルは、答えに辿り着く。

ヴェルナンタの姪のミーちゃんとは即ち───唯一無二の〝竜魔人(ドラゴノイド)〟、魔王ミリム・ナーヴァの事。

そしてヴェルダナーヴァの分身体たる精霊竜の子竜とは即ち───混沌竜(カオスドラゴン)の事。

ミリムに直接手を出してはいないものの、混沌竜は『強欲者』で操る行為をして直接手を出したので判決は⋯⋯⋯有罪(ギルティ)

イーちゃんは見た目相応の無邪気な笑顔を見せると、左手に掴んでいたガイを投げ捨てると、一瞬でマリアベルの背後に移動して彼女の首根っこを掴んだ。

 

「やったネ!ワタシの新しいオモチャ♪オモチャ♪」

 

「いぃぃぃぃやぁぁぁぁッ!!?」

 

マリアベルの魂の悲鳴が〝狭間〟に響き渡る。

だが無情にもマリアベルはイーちゃんの異空間(お部屋)へと引き摺り込まれていった。

その光景を眺めていたヴェルナンタは、凶悪な笑みを浮かべて呟いた。

 

「ふふ。私の可愛い身内に手を出したらどうなるか、徹底的に、徹底的に分からせてやらないとな。金輪際手を出そうとは思えぬ程に徹底的にな」

 

「───そうですね。身の程知らずの愚か者は徹底的に分からせてあげないと懲りないですからね」

 

ヴェルナンタの呟きに返した『無限之神』。

今の彼はヴェルナンタの中ではなく外に出て実体化していた。

つい先程までいたマリアベルと同じ、ヴェルナンタの膝上に横座りする形で。

その見た目はヴェルナンタの顔と瓜二つで白髪ロングの黄金の瞳を持ち、頭には立派な角を持つ幼い少年。

その白髪は髪の毛の先に向かう程黒くなっているという奇抜なものだった。

ヴェルナンタの漆黒ロリータとは正反対の、純白ロリータに身を包んでいる⋯⋯⋯〝男〟なのに。

 

「ウーちゃん?何故実体化したんだ?」

 

「⋯⋯⋯マリアベルばかり狡いです。ナーちゃんはボクだけのものなんですから、ボクだけを甘やかしてください。じゃないと嫉妬でマリアベルを殺してしまいそうです」

 

「それは困るな。ふふ、たっぷり甘やかしてやるから機嫌を直せウーちゃん」

 

「嫌です。今のボクは名前で呼んでくれなきゃ許しません」

 

フン、と顔を背けてツンツンした態度を見せる『無限之神』。

やれやれ、と苦笑を零したヴェルナンタは、彼を優しく抱きしめると耳元で名前を囁いた。

 

「───ヴェルーシャ」

 

「⋯⋯⋯!もう、しょうがない(ヒト)ですね───ヴェルナンタ」

 

ヴェルーシャと呼ばれた彼は、不機嫌とは打って変わって上機嫌となって背けていた顔をヴェルナンタの方に向き直ると、優しく抱きしめ返した。

傍から見たら愛らしい幼女が抱きしめ合っている構図───だが、ヴェルーシャは〝男〟だ。

ヴェルーシャの見た目が女の子にしか見えない上に、女装させて〝男の娘〟にしているのは、ヴェルナンタの趣味であり彼も「ナーちゃんがボクを愛してくれるなら、なんだって構いません」と満更でもないらしい。

 

無限竜ヴェルーシャ。

彼の誕生は、ヴェルダナーヴァとの再会の時まで遡る。

ヴェルダナーヴァが〝全知全能〟を捨てた事を知ったヴェルナンタは、真似をして〝全知全能〟を捨てようとしたが失敗に終わる。

〝変化〟の存在たるヴェルダナーヴァと違って、〝不変〟の存在たるヴェルナンタは自身の力を切り分ける行為は不可能だった。

そこで彼女は、〝全なる一〟〝一にして全〟〝始終無き完全無欠の存在〟〝無限〟〝永遠〟等を内包した全てを究極能力という形に変換する。

こうして生まれたのが究極能力『無限之神』。

ヴェルナンタによって生み出された『無限之神』は、生まれながらにして自我を獲得していた。

そんな彼を『ウーちゃん』という愛称で呼んでいたがある日、愛称もいいがどうせなら名前をあげたいと思い『無限竜ヴェルーシャ』と名付けた事で神智核(マナス)へと覚醒する。

それからヴェルナンタは自身と瓜二つの存在を生み出すと魂を分け与え、ヴェルーシャを己が半身とした。

〝自己完結〟していたヴェルナンタは、ヴェルーシャを半身とした為───〝互いを支え合う存在〟へと生まれ変わる。

その副産物としてヴェルナンタは、新たに究極能力『維持之神(ヴィシュヌ)』を獲得したとかしないとか。

 

ヴェルーシャをたっぷり甘やかしたヴェルナンタは、彼の頭を優しく撫でながら言う。

 

「ヴェルーシャよ、満足したか?」

 

「いいえ。まだこうしていたい気分です」

 

ヴェルナンタの服を握りながら、まだ帰りたくありませんとアピールするヴェルーシャ。

やれやれ、と苦笑を零したヴェルナンタは、床に転がってるガイを見つめながら言った。

 

「⋯⋯⋯ふむ。そこで伸びてるガイをどうするか」

 

「ガイですか?あの馬鹿で無能な彼ならテキトーに異世界転生でもさせましょうそうしましょう」

 

「いやそれは可哀想ではないか?」

 

「そうですか?勝ち目などありはしないのにボクのナーちゃんに喧嘩を売った身の程知らずの愚か者に情けを掛ける必要はないと思いますよ?ええ、そうです。早いとここの目障りな人間を転生させちゃいましょうナーちゃんがやらないならボクが勝手にやりますがいいですか?いいですね?ではやります」

 

「ぬ?いや待てヴェルーシャ、何を勝手に」

 

やろうとしてるんだ、とは続かなかった。

ヴェルナンタが止める前に、ヴェルーシャがササッとガイを何処かの異世界へと転生させてしまったからだ。

綺麗さっぱりガイの姿が消え失せてしまった。

ヴェルナンタは、そんなガイに合掌し強く生きろよと内心で呟く。

その両手を掴んだヴェルーシャが、にこにこと笑顔で言ってきた。

 

「さぁ、ナーちゃん。邪魔者は居なくなりました。もっと、もっともっともっともっともっと!ボクを、ボクだけを愛してください!他の子の事なんて考えずに、ボクだけを愛して欲しいのです!」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯う、うむ」

 

ヴェルナンタが若干引くレベルで愛を渇望してくるヴェルーシャ。

だが彼がこうなってしまっているのは仕方の無いことである。

何せその感情はかつてヴェルナンタが有していた、ヴェルダナーヴァへの途方も無い感情なのだから。

自ら選んだ事ではあるものの、幾億年と途方も無い時を〝狭間〟から最愛なる弟を見ている事しか出来ない事に、苛立ちと寂しさを募らせ、もっと彼に触れたい感じたいと愛を渇望するようになった。

その感情がそっくりそのままヴェルーシャに反映された為、狂ったように愛を渇望してくるのである。

幸い今はヴェルーシャと二人っきりで見ているものは誰もいない。

ヴェルナンタは彼を引き寄せると、そのままキスをしようとして───ゴンッ!

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯痛い。

何故か後頭部が物理的に痛い。

涙が出てきそうなレベルで凄く痛い。

 

「おいオマエ!養母はワタシのものだ図に乗らないでよネ!」

 

「⋯⋯⋯チッ、もう戻ってきたんですか滅界竜イヴァラージェ。マリアベルともっと遊んでおけばよかったのに早いお帰りですね」

 

「フン!オマエの気配を感じたからだよこの泥棒ネコ!」

 

「おやおや誰が泥棒猫ですかその言葉そっくりそのままお返ししますよこの女狐!」

 

ガルルルル!とでも言いそうな感じで威嚇し合う滅界竜イヴァラージェと無限竜ヴェルーシャの二人。

 

「今日こそはオマエを壊してやるよヴェルーシャ!」

 

「へえ?それは面白い冗談を言いますね。やれるものならやってみなさいイヴァラージェ!」

 

バチバチバチ!と鋭く睨み合う二人。

イヴァラージェは、左手で首根っこを掴んでいたマリアベルを投げ捨てると、ヴェルーシャと共に異空間へと消えていった。

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯やれやれ、何時もの喧嘩か。

それはそうと何故毎回毎回イーちゃんの拳骨食らう役割が私なのだろうか、解せぬ。

『維持之神』を所有する私であっても、イーちゃんの『破壊之神』による全力パンチは涙出る程痛いからやめて頂きたいのだが。

 

それはそうと、床に転がっているマリアベルを見るヴェルナンタ。

そのマリアベルはというと、

 

「滅界竜コワイ滅界竜コワイ滅界竜コワイ滅界竜コワイ滅界竜コワイ滅界竜コワイ滅界竜コワイ滅界竜コワイ滅界竜コワイ滅界竜コワイ」

 

ひたすら同じ言葉を繰り返しながら、口から魂が抜けかけていた。

うむ、どうやらやり過ぎたレベルで分からせられたようで何よりだ、と満足そうに微笑するヴェルナンタであった。




ヴェルナンタ→ヴェル+アナンタ

ヴェルーシャ→ヴェル+シェーシャ

究極能力『無限之神』ウロボロス
永劫竜ヴェルナンタが所有
無限竜ヴェルーシャが管理

究極能力『破壊之神』シヴァ
滅界竜イヴァラージェが所有

究極能力『維持之神』ヴィシュヌ
永劫竜ヴェルナンタが所有
無限竜ヴェルーシャが管理

究極能力『創造之神』ブラフマー
詳細不明
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