強欲少女は邪竜と踊る 作:邪竜の棲家
ヴェルナンタがパンッ!と柏手を打つと、壊れたテープレコーダーのように同じ言葉を永遠と繰り返していたマリアベルはハッとして我に返った。
その様子を確認したヴェルナンタは、凄くいい笑顔で一言。
「私の可愛い身内に手を出したらどうなるか、理解できたかな?」
「───ッ!!?」
ビクッと身体を震わせた後、高速で小首を上下に振りまくるマリアベル。
どうやら骨身(もとい魂)に染みてよく理解できたようだ。
ヴェルナンタは満足そうに微笑し、
「もし、私の可愛い身内の命を奪っていたのなら、私手ずからゆっくりとじっくりと
と、目が笑っていない表情で言った。
それを聞いたマリアベルは背筋が凍りつくような感覚に襲われる。
一体どんな目に遭わされていたのだろうか、考えるだけでも恐ろしかった。
「さて、ウーちゃんとイーちゃんが戯れ合っているうちに汝をあの世界へと復活させようと思うが、何か質問でもあるか?」
ヴェルナンタが聞いてくると、マリアベルはそうね、と少し考える素振りを見せた後、こう問うた。
「私を何度も消し飛ばしたあの邪r」
「ん?」
「───ッ!⋯⋯⋯滅界竜は何者なの?」
邪竜と言いかけて殺気を滲ませたヴェルナンタに気付いたマリアベルは、慌てて言い直す。
ヴェルナンタはその質問に答えた。
「イーちゃんこと滅界竜イヴァラージェは、簡単に言うとナー君こと星王竜ヴェルダナーヴァの半身だな」
「半身⋯⋯⋯?」
「うむ。ナー君とイーちゃんはかつては一つの存在で〝全なる一〟、即ち私と同格の存在であった。ちなみに今の私はウーちゃんこと無限竜ヴェルーシャを半身としながら共にある形であり、〝全にして一〟は私で〝一にして全〟がウーちゃんとなっている」
「は、はぁ⋯⋯⋯」
不変の世界を内包した存在の〝
とある日、ヴェルダナーヴァが〝全なる一〟から相反する二つの概念のうち〝創造〟を選択し、〝破壊〟を切り捨てる。
姉弟であるが故に、不変であるヴェルナンタにも少なからず影響を及ぼし半身を生み出す結果を齎した。
ヴェルダナーヴァとの違いは、〝相反する二つの概念〟を切っても切り離せないという点か。
「ナー君は〝創造神〟として世界を創造し、イーちゃんは対の〝破壊神〟として世界を破壊する存在なのだが、実は当初のイーちゃんは理性も感情も無くてな、破壊の限りを尽くして暴れ回っておったのだ」
「え?」
「そんな彼女の討伐をナー君はギィ・クリムゾンと始原の七天使に命ずるが、三ヶ月もの死闘の末、討伐するには至らず異界に封印する形で終結した」
「めでたしめでたし?」
「と思うだろう?しかしイーちゃんを封印したその翌日にはなんと!何者かがイーちゃんを攫ったのだ!」
「⋯⋯⋯それ、貴女でしょう?」
「うむ!」
なんの悪びれもなく、ドヤ顔で肯定するヴェルナンタ。
うむ!ではないのよ、と痛い頭を抱えるマリアベル。
封印したてを攫うとか流石は邪竜、やる事がえげつない。
「まあ直ぐにバレてナー君にはこっぴどく怒られてしまったがな!」
「なんで嬉しそうに語るのよ」
「しかしそれがきっかけで、私の存在が始原の七天使と原初の悪魔達に知られてしまったのは失敗だったな」
「え?」
やれやれ、と小首を振るヴェルナンタ。
それを聞いたマリアベルは、不思議そうに小首を傾げた。
「貴女の存在が知られるのはまずい事なのかしら?」
「いや別にそういう訳では無いが⋯⋯⋯私の役目はこの〝狭間〟で〝魂〟の管理をする事だからな。世界に直接干渉するつもりはないから私の存在を知る必要が無いというだけだ」
「そういう事なのね。ちなみにあの世界では何人くらい貴女を知っているの?」
「ふむ。基本は私の可愛い身内のナー君、ザーちゃん、グーちゃん、ドー君に、ルーちゃん、ルー君、ミーちゃんの七名と先程話した天使と悪魔各七名の二十一人ぐらいじゃないか?」
「⋯⋯⋯数える程しか居ないじゃない」
「まあな」
と、話していたヴェルナンタはふと思い出したように内心で呟く。
「(いや、ラミリスなら私を知っている可能性があるやもしれぬ。尤も───特異な生態のあやつとは直接顔を合わせる機会が無いから転生する度に記憶が欠落して覚えていない可能性も無きにしも非ずだがな)」
ヴェルナンタは基本、死者の〝魂〟を回収し転生させる役割を担っているのだが、ラミリスの場合は自力で転生サイクルを確立させている為、ヴェルナンタが干渉する事は無い。
一方、マリアベルは全身から冷や汗を流しながらも情報を整理する。
「(滅界竜イヴァラージェは、ヴェルナンタの弟の星王竜ヴェルダナーヴァの半身で、かつては理性も感情も無い破壊の化身だった。それを三ヶ月の死闘を経て異界に封印し、翌日にはヴェルナンタが誘拐して養女にした⋯⋯⋯って、破壊神を育てて何しようとしてるのよあの邪竜は!?)」
弟が世界の創造神だという事も驚きだが、その対を為す半身の破壊神を養女にして育てる精神が意味不明である。
まさか世界を滅ぼそうとしている⋯⋯⋯?
いえそれは無いわね、と否定するマリアベル。
身内に甘いヴェルナンタが、世界を滅ぼす選択をするとはとてもではないが思えなかったからだ。
ならば弟の半身だから封印は可哀想と思い、養女として引き取った(もとい攫った)のかもしれない。
「(それはそうと、まさか最強の魔王と恐れられている魔王ギィがあの滅界竜と殺し合っていたなんて思いもしなかったのよ。最強の名は伊達ではないということなのね)」
だがそれはかつての話であり、現在のイヴァラージェは
その力は養母のヴェルナンタに痛みを与える───〝世界を一撃で破壊する〟程の力を手にしていることをマリアベルは知らなかった。
「───ではマリアベルよ。汝を復活させるとしよう。期待はしていないがまあ、健闘を祈る」
「一言余計なのよ貴女は!」
ヴェルナンタに文句を言いつつも、確かに『永劫回帰』の呪いを付与して貰って〝不死不滅〟の存在となっただけの力は年端もいかない小娘に期待されても困る訳だが。
ヴェルナンタは、パチンッ!と指を鳴らすと、マリアベルの〝魂〟がこの〝狭間〟から消え去った。
「───『時間停止』解除っと」
ヴェルナンタがそう言った瞬間、静止画の様に止まっていたモニター越しの〝世界〟が動き出した。
『時間停止』が長すぎたからザーちゃんには今頃不思議がられてるかもしれないな、とヴェルナンタは苦笑を零す。
「⋯⋯⋯ふむ。私の可愛いミーちゃんと
そう言いながら恍惚な表情を見せるヴェルナンタ。
先程までリムルをフルネームで呼んでいたのは、彼の敵だったマリアベルが居たから敢えて愛称で呼ぶことを控えていたようだ。
さてさてマリアベルの方はどうなったかな、と彼女が映るモニターへ目を向けると───
ユウキ・カグラザカの手刀が、マリアベルの小首を容赦無く切り落としていた。
⋯⋯⋯うむ、敵なら子供相手にも容赦が無いなあの小僧。
マリアベルの首から夥しい量の血飛沫が上がり、彼女の頭が地面に落ちた瞬間、異変が起きた。
まるで時間が巻き戻るかのようにマリアベルの頭が、飛び散った血肉と共に首へと戻っていき、完全に元通りに復元した。
ベッタリと服に染み付いていた血や綻びも一切無い、新品同様のレベルで復元している。
『おいおいなんだよそれ!?流石にそれは聞いてないぜ!?』
有り得ないものを見た様な表情で驚愕し叫ぶユウキ。
少し離れた所で金髪のエルフ───カガリがマリアベルを警戒する。
そのマリアベルはというと、『永劫回帰』の呪いのデタラメ加減に引きつつも淡々と言葉を述べた。
『無理ね、無理なのよ。今の私は無敵なの。貴方では私を殺す事は出来ないわ』
しかしユウキは飄々とした態度で返した。
『うん、そうだね。確かに僕の力では君を殺せないみたいだ。だけど───』
ユウキの目が紅く染まると同時、マリアベルの身体を覆うように闇の粒子が吹き荒れる。
『殺せないなら、支配すればいいだけの話さ』
早速、ユウキはユニークスキル『
『永劫回帰』の呪いは、あくまで対象の〝死〟を観測したら発動するものであり、精神支配は無効化出来ない。
そしてユウキの野望は、マリアベルの野望を遥かに凌駕する為、『強欲者』の権能からは逃れられない。
それ即ち───マリアベルを完全に支配したことになる。
⋯⋯⋯ふむ、やはり『永劫回帰』の呪いの権能の穴を突いてきたか。
だが、私がマリアベルを直接助けてやる義理はない。
よってこのまま監視を続けるとしよう。
マリアベルの支配を完了したユウキは、早速質問を始めた。
『さてと。君に力を与えた者の名前を教えてくれるかい?』
『ええ。ただコレは力ではなく呪いなのよ』
『呪い?』
『『永劫回帰』の呪い。権能は、付与した対象の〝死〟を観測した瞬間、死ぬ前の状態に復元するというものよ』
『それって〝死〟を無に帰す権能ってこと!?それじゃあ殺せるわけないな』
痛い頭を押さえるように呻くユウキ。
彼は知らないが、イヴァラージェに何度も魂を消し飛ばされたマリアベルは、『永劫回帰』の呪いの権能で何度も復元している。
〝死〟を無に帰す権能は、単なる〝死〟には留まらず〝魂の消滅〟さえ無に帰す程のデタラメなものだった。
『そうね。そして私にこの呪いを付与した者の名前は───永劫竜ヴェルナンタよ』
『───⋯⋯⋯は?竜!?』
『なんですって!?』
マリアベルの口から告げられた名前に、戦慄するユウキとカガリ。
それも全く聞いた事がない竜種の名に、二人の表情が強張る。
『ヴェルナンタはこの世界を創造した星王竜ヴェルダナーヴァの長姉なの』
『長姉って嘘だろ!?』
『有り得ないわ!世界の創造主に姉が居るなんて聞いた事がないもの!』
「───それはそうだ。私の存在は極僅かな者しか知らぬのだからな」
マリアベルとは思えぬ口調で話す少女に、ギョッと目を剥くユウキとカガリ。
マリアベル(?)はふむ、と顎に手を置き二人を見回した。
「なんだ汝ら?マリアベルの身体に憑依して現れるのは予想外過ぎたか?」
「いやいや!君という存在自体が予想外過ぎるからね!?」
「ええ、ボスの言う通りだわ。そもそも竜種は四体しか存在しないはずよ。一体どういう事かしら?」
カガリが疑問をぶつけてくる。
星王竜ヴェルダナーヴァ、白氷竜ヴェルザード、灼熱竜ヴェルグリンド、暴風竜ヴェルドラ。
世界に存在する竜種はこの四体だけのはず。
だというのにマリアベルが口にした聞いた事すらない五体目の竜種───永劫竜ヴェルナンタ。
それも彼らの長姉であるという話は俄に信じ難いものだった。
その疑問に
「ああ、その認識で何も間違ってはいないぞ。そも、私がこの世界に直接干渉するのはこれが初めてだ。『狭間の主』である私の住処は〝世界の狭間〟であり、この世界には存在すらしていなかったからな」
「えっとそれはつまり、君はこの世界の竜種にはカウントされない、ってことかな?」
「然様。私の事は異星人もとい異星竜のナーちゃんとでも呼んでくれたまえ」
「⋯⋯⋯仮にも世界の創造主の姉である貴女をちゃん付けで呼ぶのは流石に気が引けますわ」
「うん、わかった。君がそういうなら遠慮なくナーちゃんと呼ばせてもらうね。あ、僕の事はユウキでいいよ」
「ボ、ボス!?」
フランクに話すユウキに驚くカガリ。
「ふふ、話の分かる小僧ではないかユウキ。汝も遠慮することはないぞカガリ───いや、元魔王カザリームとでも呼ぶべきかな?」
「「!?」」
「驚くことは無い。〝世界の目〟として汝らを〝狭間〟から監視していたから知っているのは当然であろう?」
「え?僕達の事ずっと〝狭間〟から監視してたの?なにそれ完全に覗き魔じゃん!」
「ぬ?覗き魔とは酷い言われようだな。だがまあ捉え方次第ではそう思われても仕方無いか」
やれやれ、と小首を振る
一方、ユウキは自分のことを〝小僧〟と呼んだ事に納得いかないような顔を見せた。
「僕の事を〝小僧〟って言ったけど、今の君はマリアベルに憑依してるんだから君の方が小娘だと思うんだけどね」
「ん?ああ、そうだな。私の人型はマリアベルとそう変わらない幼い見た目をしているから〝小娘〟なのは認めよう」
「へえ?つまり君は俗にいう〝ロリババア〟なんだね。ちなみに歳は幾つなのかな?」
「⋯⋯⋯ふむ。余りにも永い刻を過ごしてきたから正確には把握していないがそうだな───優に〝億〟は超えているとでも言っておこう」
「お、億!?最早ロリババアの次元じゃないな!?」
目玉が飛び出しそうな程驚くユウキ。
カガリは竜種に対して失礼な態度を取り続けるユウキを心配した。
「ボス。先程から竜種に、それもヴェルダナーヴァ様の姉に対して失礼ではなくて?」
「え?別に気にしてないと思うけど、どうなのナーちゃん?」
「ぬ?ああ、特に気にしてないぞ」
「ほらね」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はぁ」
ボスもボスだが、永劫竜ヴェルナンタと言ったか?彼女には竜種としての威厳が皆無なのは頭が痛い。
俺なんかとは比べ物にならない、ボスですら容易く一蹴してしまう程の絶大な存在であるはずなのだから。
「そういえば君は何が目的でこの世界に干渉してきたのかな?マリアベルのお守りだったりする?」
「いやまさか。マリアベルには『永劫回帰』の呪い───の不完全版を付与しているからな。死ぬ事が無くなった小娘に手を貸す道理は無い」
「不完全版?それはどういう意味かしら?」
「私の付与する『永劫回帰』とは本来、〝死〟を無に帰す権能だけではなく───〝あらゆる事象を無に帰す〟権能でな。ユウキの『強欲者』による精神支配さえ無に帰す事が可能だ」
〝あらゆる事象を無に帰す〟権能もデタラメだがそこじゃない。
「⋯⋯⋯待て。まさか君はわざと僕にマリアベルを支配させて、君の情報を吐き出させたってこと?」
「然様。ユウキに接触する口実を作る為にな」
「僕に⋯⋯⋯?」
困惑するユウキに、
「うむ。私はユウキのスキル───『
台詞の『』が途中から「」に変わっているのは、ヴェルナンタが監視から直接干渉に切り替わった為でありミスではありませんので悪しからず
文字数が増えてしまう為、今回はここまで