強欲少女は邪竜と踊る   作:邪竜の棲家

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3話

その頃、マリアベルは真っ白い空間の中で眠っていた。

そんな彼女の傍でしゃがみ込む、彼女とソックリの幼い少女がマリアベルの頬をペチペチ叩いて起こそうとしていた。

 

「───ル、起きなさい」

 

「⋯⋯⋯むにゃむにゃ、もう食べられないのよ⋯⋯⋯」

 

「⋯⋯⋯ドラゴンさん、一体どんな夢をこの子に見させてるのよ」

 

とても幸せそうな顔をするマリアベルを見て、思わずクスッと笑う彼女とソックリなもう一人のマリアベル(と仮称する)。

幸福な夢を見ているこの子を起こすのは忍びないけれど、今のうちに伝えておかなければならないことがあるのよね。

だから悪いのだけれど───

 

「お・き・な・さ・い!」

 

もう一人のマリアベルが、マリアベルの耳元で大声を出す。

それに驚いたマリアベルが勢い良く起き上がった。

 

「ひゃあ!?な、何!?何事!?」

 

「ようやく起きたわね、寝坊助さん」

 

ふう、と細く息を吐くもう一人のマリアベル。

その彼女に目を向けたマリアベルは、訳が分からないというような表情をした。

まあ自分を鏡で映した様な存在が目の前に居るのだからそうなるのも無理はない。

 

「⋯⋯⋯もう一人の私?」

 

「ええ、その認識で間違いないわ。だって貴女は『強欲者(グリード)』が生み出した私の───もう一つの人格よ」

 

「『強欲者』が生み出した、もう一つの人格?⋯⋯⋯貴女は一体何者なの?」

 

マリアベルが問うと、もう一人のマリアベルは自分の胸に手を当ててこう答えた。

 

「───マリア・ロッゾ。この名前に聞き覚えない?」

 

「⋯⋯⋯!!?」

 

マリア・ロッゾと名乗るもう一人のマリアベル。

それを聞いたマリアベルは、有り得ないものを見た様な表情でマリアを名乗る少女を見つめた。

 

「聞き覚えないも何も、その名前はかつて御爺様の妻だった方の名じゃない!けど有り得ないわ。だって彼女は」

 

「ええ、そうね。大昔に亡くなっている。それは事実よ」

 

「なら」

 

「でもね、貴女は言っていたじゃない。『〝魂〟が御爺様の傍に居たい』って。それにドラゴンさんが口を滑らせて私のことを仄めかす発言をしていた事も覚えているでしょう?」

 

マリアの言葉に、マリアベルはハッとした表情を見せた。

 

「⋯⋯⋯そう、そうなのね。私の中で眠っていたのは貴女だったのね───って、ドラゴンさん?」

 

「ドラゴンさん。ヴェルナンタさんのことなのだけれど」

 

「ヴェルナンタって、あの邪竜のこと!?」

 

「⋯⋯⋯邪竜扱いされてるのね、あの子」

 

苦笑いを浮かべるマリア。

なんでそんな顔するのよ。

貴女はあの邪竜の本性を知らないから『ドラゴンさん』なんて呑気な事が言えるのよ。

まぁそれは置いといて、

 

「⋯⋯⋯マリア。私が『強欲者』によって生み出された人格ってどういう意味?」

 

「言葉通りの意味よ、マリアベル。貴女は私がこの世界に転生する際、ユニークスキル『強欲者』を獲得した時に生み出された存在なの。そして私の人格が封印された事によって、貴女は転生者〝マリアベル・ロッゾ〟の人格として何も疑うこと無く過ごしていた」

 

「⋯⋯⋯そう。私は〝マリアベル・ロッゾ〟の主人格では無かったのね。〝強欲〟の化身だからこそこう名乗っていたのね───〝強欲〟のマリアベル、と」

 

「驚かないのね」

 

「そうね。不思議な程落ち着いているわ。ただ気がかりなのは、マリアの人格が封印されていたってどういうこと?」

 

マリアベルが不可解そうに顔を顰める。

それにマリアは悲しげな顔で答えた。

 

「私はね、お願いしたのよ。〝もう一度、グランに会わせて〟って。あの子は私の願いを聞き届けてくれたわ。でもね、意地悪されちゃったの。私の人格を封印して、前世の行いを下に『強欲者』を獲得。マリアベルとして過ごした日々を、まるで夢を見るような感覚で眺めていることしか出来ない三度目の人生を送ることになった」

 

「⋯⋯⋯ッ!?どうしてマリアがそんな目に遭わせられなければならないのよ!」

 

「私にも分からないわ。けれど一つだけ、分かることがあるの。あの子はきっと───〝人類(わたしたち)〟を恨んでる」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」

 

あの存在そのものがチートみたいな邪竜が〝人類〟を恨んでる!?

理解不能、意味不明、訳が分からないのよ。

 

「私の前世の行いは、貴女も知っているわよね?」

 

「ええ、知っているわ。けどとても貴女の行いとは思えないのよ。⋯⋯⋯ッ、まさか!?」

 

「鋭いのね、貴女。そうよ。私の前世の行いの裏には、あの子の干渉があったの」

 

「な───」

 

絶句するマリアベル。

今世だけでなく、前世までもマリアを苦しめていたのか、と。

マリアは悲しげに目を伏せながら続けた。

 

「私が前世でひとでなしの振る舞いをしたのは、私の中で燻っていた〝悪意〟が増幅された結果なの」

 

「⋯⋯⋯〝悪意〟?」

 

「ええ。その〝悪意〟に関して語るには、私の〝マリア・ロッゾ〟としての人生を語る必要があるわ」

 

「⋯⋯⋯『守るべき対象の人類の裏切りによって、ワシの愛しい妻・マリアは命を落とした』って、御爺様から伺っているわ」

 

「⋯⋯⋯そうだったわね。その事が原因で私は初めて、世界を呪った。『どうして守ろうしてきた人達に、私は殺されなければならないのよ!』って」

 

「───〝あの御方〟を殺めた我ら人類は、未来永劫、幸福になること叶わぬと知れ!」

 

「⋯⋯⋯!?」

 

マリアベルとは思えぬ口調に驚くマリア。

しかしそれだけではない。

その言葉を知っているからだ。

何故ならその言葉は───かつて私を殺した男が口にしていたものだったのだから。

 

「ふふ、どうした?よもや(おまえ)の死さえも、私の手のひらの上で転がされていたとは思わなんだか?」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ッ!!?」

 

マリアベル───否、全ての元凶・ヴェルナンタが邪悪に微笑む。

それを聞いた瞬間、マリアは世界が揺らぐような感覚に襲われた。

⋯⋯⋯え?私の一度目の人生すら、この子が壊したっていうの!?

 

「私が憎いか?殺したい程憎いか?感情を抑える必要は無い。(おまえ)が今したい様にすればよい。すぐそこに〝人類の敵(わたし)〟がいるぞ?」

 

「──────ッ!!!」

 

ヴェルナンタに唆されたマリアは、胸中にドス黒い感情が渦巻き始める。

この女が、この女が私の人生を壊した元凶ッ!

絶対に許さない許さない許さない許さない許さないッ!!

殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるッ!!!

ヴェルナンタの小首に両手を持っていき、そのまま締め上げようとしてハッと我に返る。

 

「(⋯⋯⋯ッ、駄目よマリア・ロッゾ!〝悪意〟に呑まれては駄目!この子の思う壺よ!お願い静まって!お願いだから静まりなさいッ!)」

 

胸中に渦巻いていたドス黒い感情を必死に抑え込もうとするマリア。

そんな彼女を嘲笑い、畳み掛けようとするヴェルナンタだったが、

 

「どうした?(おまえ)は私に〝魂〟を弄ばれた被害者だぞ?復讐する権利が」

 

「───可哀想な(ひと)

 

「なに?」

 

哀れみの目を向けて言ってきたマリアに、微かに眉を動かすヴェルナンタ。

 

「貴女は〝人類(わたしたち)〟に八つ当たりする事でしか、悲しみを紛らわす事が出来ないのね」

 

「ほう?この私を挑発するか小娘」

 

「挑発ではないわ。ただ事実を述べているだけ。貴女は自分自身を〝人類の敵〟と言っているようだけれど、やっている事はただの子供じみた嫌がらせじゃない」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

「〝人類(わたしたち)〟の敵を名乗るなら───〝人類(わたしたち)〟を滅ぼすつもりで来なさい!」

 

ピシャリと言い放つマリア。

⋯⋯⋯な、なななな何を言っているのよ私!?

相手は最強の竜種なのよ!?〝人類(わたしたち)〟に勝ち目なんてある訳ないじゃない!

 

「ふふ、くくく、クアーッハッハッハ!」

 

「⋯⋯⋯!?」

 

唐突に笑い出すヴェルナンタに、驚くマリア。

ヴェルナンタは一頻り笑うと、ふぅと細く息を吐いて笑みを作った。

 

「可笑し過ぎて思わずドー君みたいな笑い声を上げてしまったわ。ふふ、そうかそうか。確かに(おまえ)の言う通りだ小娘よ。〝人類の敵〟を名乗るのであれば、〝魂〟に小細工など弄さずに直接屠るのが筋であろうな」

 

「───ッ!!?」

 

「だが、今回は(おまえ)の度胸に免じて見逃してやろう」

 

「え?」

 

「それに(おまえ)は己が〝悪意〟に打ち勝ってみせた。即ち(おまえ)は『合格』だ、おめでとうマリア・ロッゾ」

 

「⋯⋯⋯?それは」

 

どういう意味?とマリアが問おうとしたその時───〝世界の言葉〟が、彼女の脳内で鳴り響く。

 

《確認しました。究極付与(アルティメットエンチャント)治癒之王(アスクレピオス)』を獲得───成功しました》

 

「───⋯⋯⋯は?」

 

「それは餞別だ、受け取るがよい」

 

「せ、餞別?」

 

「うむ。〝悪意〟に打ち勝つ程の〝魂〟を有する(おまえ)ならば、誤った使い方はするまい?ちなみに『治癒之王』の権能は───〝あらゆるものを治す〟権能だ。〝死者〟さえ治せる権能だからな。くれぐれも扱いには気をつけたまえよマリア」

 

そう言ってヴェルナンタは姿を消して、残るのはマリアと気を失っているマリアベルだけだった。

 

 

 

 

 

「───なるほどね。君の目的は僕の特異体質『能力殺封(アンチスキル)』がどれ程のものかを知りたいってことか」

 

「ああ。ユウキの『能力殺封』は、リー君の究極能力(アルティメットスキル)をも無効化していたからな。であるならば、私の究極能力『無限之神(ウーちゃん)』さえ無効化出来るのではないかと期待しているのだよ」

 

期待の眼差しをユウキに向けるマリアベル(ヴェルナンタ)

何故そんな目で見て来るのかよく分からないユウキだったが、

 

「⋯⋯⋯リー君ってもしかしてリムルさんのこと?」

 

「ぬ?ああ、そうだが?」

 

「ふうん?まあいいや。リムルさんとはどういう関係かは、君を倒した後でじっくりと訊くとするよ」

 

「ボス、どうかお気を付けて」

 

心配してくるカガリに、ユウキは軽く手を振って応えた。

ナーちゃんの究極能力『無限之神(ウーちゃん)』って言ったっけ?

一体どんな能力を秘めているのか知らないけど、それが究極能力なら僕の『能力殺封』で無効化出来るはず。

てか究極能力に愛称を付けるなんて面白い(ひと)だね。

マリアベル(ヴェルナンタ)は、両手を広げて泰然と構えた。

ユウキは『能力殺封』をONにした状態で、容赦無く右手でマリアベル(ヴェルナンタ)の胸を貫こうと振り下ろした。

 

「───⋯⋯⋯ぇ?」

 

が、ユウキの貫手はマリアベル(ヴェルナンタ)の胸を貫く事は敵わず代わりに───彼の右腕が消し飛んだ。

これは比喩にあらず、文字通り右腕が消し飛んだのだ。

 

「───ッ!!?」

 

「ボス!?」

 

顔面蒼白になって叫ぶカガリ。

泣き叫んで地面を転げ回りたい程の激痛がユウキを襲うが、奥歯を強く噛み締めて無理矢理耐えてみせる。

右の肩口から夥しい量の血飛沫が上がり、立っていることすら困難なユウキは、意識が飛びそうな感覚に襲われながらもその目はマリアベル(ヴェルナンタ)を見据えていた。

彼の目に映った彼女の表情は、期待から一転して失望へと変わっていた。

 

「⋯⋯⋯ふむ。(おまえ)には期待していたんだがな。どうやら当てが外れたようだ」

 

そう言ってパチンッ!と指を鳴らすと、消し飛んだはずのユウキの右腕が一瞬で復元した。

マリアベルに掛けた『永劫回帰』の呪いの不完全版とは次元が違う復元速度。

それはまるで、最初からユウキの右腕が消し飛んでいなかったかのような錯覚を起こすほどのものだった。

 

「⋯⋯⋯滅茶苦茶だね、君。僕の『能力殺封』が一切通用しないとかデタラメ過ぎるだろ」

 

(おまえ)の『能力殺封』が弱い訳ではない。私の究極能力が規格外なだけだ。何故ならば私の『無限之神』は───〝この世の全て〟を内包したものを、究極能力という形で生み出したものなのだからな」

 

「「───⋯⋯⋯は?」」

 

ユウキとカガリは素っ頓狂な声を洩らした。

〝この世の全て〟を内包した?それってつまり───

 

「⋯⋯⋯まさか君は〝全知全能〟の神様のような存在ってことかい!?」

 

「然様。ちなみに私の可愛い弟のナー君こと星王竜ヴェルダナーヴァも、かつては私と並ぶ存在であったぞ」

 

「ナー君!?ヴェルダナーヴァ様をその様な愛称で呼んでいますのね⋯⋯⋯」

 

「ナーちゃんにナー君って、紛らわしすぎるでしょ!」

 

「ああ。それはナー君にも言われたな」

 

懐かしいな、と微笑するマリアベル(ヴェルナンタ)

そんな彼女をユウキは、背筋に冷や汗を感じ取りながら見つめていた。

 

「(⋯⋯⋯参ったな。異世界に召喚されて色々な存在に出逢って来たけど、〝全知全能〟の神様と遭遇するなんて思いもしなかったぜ)」

 

そもそも今まで姿すら見せなかった竜種だ。

そんな彼女が気紛れでは無く、ユウキの能力(スキル)に興味を持って現れた。

これはある意味幸運と呼べることだろう。

 

「(試したい。僕の全力が神を相手にどれだけ通用するのかを)」

 

ユウキは今まで感じたことの無い興奮を覚える。

このチャンス、逃すわけにはいかない。

だがマリアベル(ヴェルナンタ)は、自身にユウキの『能力殺封』が通用しない事が分かった以上、この世界に留まる理由は無かった。

 

「さて、私の目的は達成出来たから〝狭間〟へと帰るとしよう」

 

「待ってくれ!」

 

「ぬ?まだ私に用かユウキよ?」

 

「うん。折角君という異界の神様に逢えたんだ、もう少しだけ僕に付き合ってくれよ」

 

ユウキがそう言うと、マリアベル(ヴェルナンタ)は少し考える素振りを見せた後、

 

「⋯⋯⋯ふむ、まあいいだろう。(おまえ)に少しだけ付き合おうぞ」

 

「ありがとうナーちゃん!ちょっとだけ待ってて」

 

ユウキは自らの力を全身に駆け巡らせ、肉体の改造を行った。

人間から〝仙人〟に、そして───〝聖人〟へと己の肉体を進化させる。

マリアベル(ヴェルナンタ)はほう、と感心した様に笑みを浮かべた。

 

「成程、〝聖人〟の領域に達したか。それが(おまえ)の切り札か?」

 

「まあね。カガリ達にも隠してた実力だけど、君を相手に試してみたくなったから全力を出そうと思ったのさ」

 

「ふむ、そうか。ならばかかってくるがよい」

 

「───ハッ!言われなくてもそうするよ!」

 

ユウキは蹴りを繰り出すが、マリアベル(ヴェルナンタ)は右手の人差し指のみで受け止めた。

 

「チッ、そんな簡単に受け止められるのかよ」

 

「確かに先程よりは比べ物にならぬ程速くなったが、音速すら超えられぬのなら話にならんな」

 

「⋯⋯⋯ッ!言ってろ!」

 

続けざまにユウキは拳の乱打、フェイントを駆使した蹴り技を繰り出すも、ことごとくマリアベル(ヴェルナンタ)に人差し指のみで防がれてしまう。

マリアベル(ヴェルナンタ)がユウキの攻撃を敢えて受け止めているのは、彼女のデフォルト機能が彼を傷付けないようにする為である。

そのデフォルト機能とは、彼女が自身への攻撃と見なした力の全てを防ぐものであり、これを突破するには最低でも〝世界を破壊する力〟を要求する。

つまりユウキの右腕が消し飛んだ原理とは、〝世界そのもの〟の途方も無い質量に押し潰された結果、彼の右腕は耐え切れずに自壊したということだった。

ユウキは一旦距離を取る為、後方に跳んだ。

マリアベル(ヴェルナンタ)は彼を追わずに、ただ見据えるだけ。

ユウキは思案する。

マリアベル(ヴェルナンタ)に通用する力が何か無いかと。

 

「(ナーちゃんは究極能力『無限之神(ウーちゃん)』という規格外な力を持っている。対して僕には究極能力は一つもなく、頼みの綱だった『能力殺封』はまるで通用しなかった)」

 

そう、ユウキが所有する能力『創造者(ツクルモノ)』と、マリアベルから奪った『強欲者』もどちらもユニークスキル止まり。

そしてリムルの究極能力を無効化出来た『能力殺封』さえ、マリアベル(ヴェルナンタ)の究極能力『無限之神』の前ではまるで歯が立たなかった。

これを意味するのはつまり───このまま彼女に挑んだところで勝ち目が無い事は明白だった。

力が欲しい。

もっともっと、マリアベル(ヴェルナンタ)に勝てる程の力が。

 

《───力が欲しいのかい?ならば、ボクの手を取るんだ》

 

「(⋯⋯⋯───は?誰だよおまえ)」

 

《ボクは〝強欲〟のユウキ。つまり、もう一人の君さ》

 

「(〝強欲〟?⋯⋯⋯ああ、なるほどね。おまえはそういう存在なのか)」

 

〝強欲〟のユウキと名乗る、ユウキのもう一つの人格。

ユウキには自らを〝強欲〟と名乗る人物に心当たりがあった為、彼の発言に疑念は抱かなかった。

⋯⋯⋯ふうん?ならマリアベルの人格も、本来はあんな感じじゃ無かったってことか。

案外正反対な人格の持ち主だったりしてね。

 

「(⋯⋯⋯君に一つ質問がある)」

 

《なんだい?》

 

「(仮に君の手を取ったとして、ナーちゃんに勝てる可能性は?)」

 

《⋯⋯⋯無いね》

 

「(駄目じゃん!)」

 

《そんなこと言ったってしょうがないじゃないか!ボクにだって〝アレ〟は無理!そもそもなんであんなものが存在してるの?わけがわからないよ!》

 

そう吐き捨てる〝強欲〟のユウキ。

 

「(⋯⋯⋯そんなに有り得ない話なのか?)」

 

《有り得ないね!だって〝アレ〟は確かに言ってたよね?星王竜ヴェルダナーヴァもかつては同格だったって。それっておかしくない?〝全なる一〟って本来一つしか存在しないはずなのに、それが二つも存在してるんだぜ!?》

 

「(確かにそれはおかしな話だね。じゃあナーちゃんとナー君には何か秘密がありそうだ)」

 

ふむ、と考え込むユウキ。

確かに興味深い話ではあるが、今はそれよりもナーちゃんに勝つ方法を探さない⋯⋯⋯と。

ユウキは妙案を思い付いたのか、ニヤリと笑った。

 

「(とてもいい方法を思いついたんだけど、聞いてくれる?)」

 

《え?それはなんだい?とても気になるね!》

 

「(うん。それはね───僕がおまえの力を奪うってことさ)」

 

《───⋯⋯⋯は?》

 

「(は?じゃないよ。おまえの力を借りたところで勝ち目が無いなら、僕がその力を奪って糧にするって言ったんだよ。そうすれば勝てる可能性だってゼロじゃないだろ?)」

 

《そんなこと、できるわけ》

 

「(出来るさ。僕は〝強欲(おまえ)〟なんかに屈したりしない。何故なら僕自身が既に───〝強欲〟だからね)」

 

《───ッ!!?》

 

ユウキが、〝強欲〟のユウキを喰らい、己が糧とした。

そしてその瞬間、〝世界の言葉〟がユウキの脳内で鳴り響く。

 

《確認しました。ユニークスキル『強欲者』は、究極能力『強欲之王(マモン)』へと進化して獲得───成功しました》

 

ユウキは不敵に笑った。

やったぜ!僕も念願の究極能力を手に入れた!

⋯⋯⋯へえ?『強欲之王』の権能は、〝あらゆるものを奪う〟、か。

はは、いいね!僕に相応しい能力じゃないか!

 

「───ほう?マリアベルから奪った『強欲者』が、究極能力『強欲之王』に進化したようだな」

 

「⋯⋯⋯流石は異界の神様、分かるんだね。なら今の僕はさっきよりは次元が違うって事も分かるだ⋯⋯⋯ろ!」

 

音速の壁を突破したユウキは、マリアベル(ヴェルナンタ)に一瞬で肉薄し、鋭い蹴りを放つ。

だがマリアベル(ヴェルナンタ)にあっさりと人差し指のみで受け止められてしまう。

ユウキはやっぱり通用しないか、と舌打ちしつつ次の手を打つ。

マリアベル(ヴェルナンタ)の胸に触れようと右手を伸ばすユウキ。

マリアベル(ヴェルナンタ)は、その行為がデフォルト機能に影響が無いものと判断し、敢えて防ぐのをやめた。

ユウキの右手がマリアベル(ヴェルナンタ)の胸に触れると、彼はニヤリと笑い、

 

「〝奪命(スティールライフ)〟」

 

『強欲之王』の権能を以て、彼女の命を直接奪おうとしたが、

 

「ふふ、何かしたか小僧?」

 

「げっ!マジかよ」

 

マリアベル(ヴェルナンタ)にはまるで通用していなかった。

彼女の命を奪うには、『無限之神』をどうにかするしか無さそうだ。

なら、その能力を奪う!

 

「〝権能奪取(スティールスキル)〟!」

 

「効かんな」

 

これも効かないだと!?

なら、エネルギーを奪う!

 

「⋯⋯⋯ッ!〝吸命〟ッ!」

 

「無駄だな」

 

これも駄目!?

だったら君の心を奪う!

 

「⋯⋯⋯ッ!?〝操心〟ッ!!」

 

「⋯⋯⋯(おまえ)まさか『強欲之王』の能力を試すのは建前で、私の胸の感触を楽しむのが目的ではないか?」

 

(ちげ)えよ!?あとナーちゃんのではなくマリアベルのだろうが!」

 

「ふふ、冗談だ」

 

怒るユウキと、からかうマリアベル(ヴェルナンタ)

⋯⋯⋯参ったな、せっかく究極能力を手に入れたのに何も通用しないじゃないか!

こうも圧倒的な差があるのかよ、異界の神様恐るべし。

 

「⋯⋯⋯もう終わりか?」

 

「いいや、まだだ!」

 

ユウキは右手を突き出して叫んだ。

 

「───〝死を渇望せよ(ロストエントロピー)〟!」

 

闇の嵐がマリアベル(ヴェルナンタ)を飲み込む。

生きとし生けるものが持つ〝生〟への渇望、それを反転させ〝死〟へと向かわせる能力。

如何に異界の神様といえど、この能力には逆らえまいと。

 

「⋯⋯⋯残念だがその能力は効かないのではなく、私には意味が無いぞ」

 

「な⋯⋯⋯意味が無い、ってそれはどういう───!?」

 

ユウキは理解してしまった、マリアベル(ヴェルナンタ)の言った言葉の意味を。

〝生〟への渇望を反転させる能力、それが意味が無いということはつまり───

 

「まさか君は───()()()()しているのか!?」

 

ユウキのその回答に、闇の嵐が消え去り姿を見せたマリアベル(ヴェルナンタ)は、寂しそうに笑った。

ユウキの『能力殺封』に期待していたのは、彼女の『無限之神』を無効化し、殺してくれると思ったからだった。

それを知ったユウキは、マリアベル(ヴェルナンタ)の胸倉を掴んで持ち上げるとブチ切れた。

 

「───ふざけんなよおまえ!〝この世の全て〟を手にしてるってのに!〝全知全能〟の神様のくせに!なんで死にたいんだよッ!」

 

「⋯⋯⋯(おまえ)には分かるまいよ。かつて私と同じ存在だったナー君は死ぬ事が出来たのに、私にはそれが出来ないという〝不変者(かわらぬもの)〟の苦しみなどな」

 

「⋯⋯⋯ッ」

 

ユウキはハッとして我に返り、マリアベル(ヴェルナンタ)から手を離すと、その場で崩れ落ちるように座り込んだ。

神様だって死にたい事もある。

それを否定する権利など誰にも無いのだ。

 

「⋯⋯⋯そんなにいらない力なら、僕にくれよ」

 

消え入りそうな小さな声で、ユウキはそう呟いた。

その呟きはカガリには聞こえなかったが、マリアベル(ヴェルナンタ)にはハッキリと聞こえていた。

彼女はしゃがみ込むと、ユウキの頬に右手を添えて言った。

 

「ふふ、私の力が欲しいのか?ならば───殺して奪ってみせろ」

 

「⋯⋯⋯え?」

 

「確かに『強欲之王』は私に通用しなかったが、(おまえ)にはまだ進化していないユニークスキル『創造者』があるではないか。であるならば、私を殺せる可能性はゼロでは無いと⋯⋯⋯そうは思わぬか?」

 

「───!!」

 

マリアベル(ヴェルナンタ)に言われて、ユウキは一縷の希望を見出す。

はは、そうだよ、僕にはまだ『創造者(こいつ)』があるじゃないか!

何を弱気になってるんだ⋯⋯⋯僕は〝この世の王〟になる男だぜ?これくらいでへこたれる様じゃみんなに笑われるだろうが!

喝を入れてユウキは立ち上がる。

それを見たマリアベル(ヴェルナンタ)も立ち上がる。

ユウキは彼女を見つめると、こう宣言した。

 

 

「決めた!僕はおまえを殺して、おまえの全てを奪ってやる!二言は無いぜ?覚悟しとけよ、異界の神様」

 

 

「ふふ、そうか。それはとても楽しみだな。期待しているぞ、ユウキ───いや、()()()

 

 

「へ?」

 

呼び捨てから〝ユー君〟という愛称で呼ばれてキョトン、とするユウキ。

マリアベル(ヴェルナンタ)は満面の笑みを見せた後、小さく手を振って〝狭間〟へと帰って行ったのだった。




究極付与『治癒之王(アスクレピオス)』
〝あらゆるものを治す〟権能で治癒に特化した究極能力を付与したもの。死者蘇生も可能。
所有者はマリア・ロッゾ

究極能力『強欲之王(マモン)』
〝あらゆるものを奪う〟権能で奪う事に特化した究極能力。
所有者はユウキ・カグラザカ

究極能力『無限之神(ウロボロス)』
〝この世の全てを収めた〟権能で〝全知全能〟の究極能力。
デフォルト機能は、〝あらゆる攻撃を防ぐ〟権能で攻撃と見なした能力、魔法、物理問わず全てを防ぐ。
〝世界そのもの〟に攻撃する事と同義であり、最低でも〝世界を破壊する力〟を持っていないと途方も無い質量に押し潰されて無効化される。
殴る蹴るなどを行った場合は、それを行った部位が自壊して消し飛ぶ。
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超かぐや姫!〜縄文時代から時を超えて〜(作者:ウミウシになりたい)(原作:超かぐや姫!)

現代を生きる、日本人が縄文時代に生まれた。その恵まれた才能はゲームみたいで、生きるのは楽だった。▼だが、残酷な現実を目の当たりにしてその考えを改めて生を歩み出した一人の男。▼そんな男に、また一匹のウミウシがある日姿を見せた。


総合評価:797/評価:7.58/連載:8話/更新日時:2026年05月02日(土) 21:00 小説情報

神出鬼没な冒険者と仲間になるのは間違ってるのか(作者:やりも)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

「まったく、なんで我がこんなことをしなければいけないヨ?」▼オラリオの裏路地にある赤い扉をくぐるとそこには、丸いサングラスに三つ編み、怪しげな言葉で話しかける店主がいた。▼「ここはただの茶屋アル!それに我は冒険者ヨ~!」▼唐傘を差しながら迷宮を闊歩する冒険者は笑う。▼ただ一人、自分を置いていった家族を偲びながら。


総合評価:413/評価:8.6/連載:17話/更新日時:2026年03月20日(金) 18:00 小説情報

トリオンエラー(作者:楕楕楕円)(原作:ワールドトリガー)

「その異常(エラー)は未来を揺らす」▼トリオン量、最低値。▼玉狛支部エンジニアの陸平新は、トリオン・トリガーの知識とスキルが並外れて高いものの、肝心のトリオン能力が極端に少なかった。▼※SF要素の深掘りが多いため、超原作既読者向けです。▼※全編を通して、原作設定を元にした独自設定・解釈を多く含みます。▼最新話は日曜0時更新。▼物語は大規模侵攻編終了で一旦区切…


総合評価:1635/評価:8.71/連載:18話/更新日時:2026年07月12日(日) 00:00 小説情報


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