■敗北した未来の一柳梨璃がタイムスリップする話   作:あばなたらたやた

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三話:桜の下の初陣』

 

『桜の下の初陣』

 

 百合ヶ丘女学院の桜は、美しい。

 入学式を祝福するように咲き誇る薄紅色。かつての私は、この景色を心から綺麗だと思っていた。

 けれど今は違う。

 舞い散る花びらを見るたび、戦場で飛び散ったマギの残光を思い出してしまう。

 

 平和な光景のはずなのに。

 私には、どうしても戦火の幻が重なって見えた。

 

 その時だった。

 甲高い警報音が学院中へ響き渡る。

 ヒュージ襲来警報。

 周囲の空気が一瞬で変わった。

 

「……このタイミングで」

 

 隣を歩いていた白井夢結さんが呟く。

 その瞳が鋭く細められる。

 戦闘態勢。

 ほんの一瞬で切り替わる。

 流石だと思った。同時に危ういとも思う。

 彼女は今も壊れかけている。

 戦場を見ると無理をする。だから私は静かに言った。

 

「白井さん。落ち着いてください」

「わかっているわ」

 

 そう返事はする。だがマギの波形は乱れている。私は背中の《オールマインド》を微弱起動したつつ、背中を優しく叩いた。

 精神安定波。目には見えない優しい波が彼女を包み込む。

 少しだけ肩の力が抜けた。

 

「……ありがとう」

「どういたしまして」

 

 短いやり取り。だが今はそれで十分だった。

 校門へ辿り着く。

 そこにはすでにリリィたちが集結していた。

 廓神琳。

 王雨嘉。

 そして多くのリリィたち。

 未来では全員死んだ。

 私の目の前で。

 私を守るために。

 それなのに。

 今は笑っている。

 生きている。

 胸の奥が痛んだ。けれど感情を押し殺す。

 私はラプラスだ。

 一柳梨璃ではない。

 

 通信が入る。

 

『確認された個体は変異種よ』

 

 全員が顔を上げる。

 

『擬態能力を保有。景色、マギ反応、熱源を偽装する』

「擬態……」

 

 夢結さんが眉をひそめる。

 

『単独迎撃は禁止。不意打ちで撃破される危険性が高い』

「それでも行くわ」

 

 夢結さんは即答した。危険を承知で飛び込もうとしている。

 私は一歩前へ出る。

 

「私が同行します」

 

「ラプラス」

「私の専用のCHARMの機能で対応できるから」

 

 夢結さんは数秒考える。

 そして頷いた。

 

「わかったわ」

 

 その時。

 

「待ってください!」

 

 聞き慣れた声が響いた。

 振り返る。

 一柳梨璃だった。まだ入学したばかりの少女。

 私の過去。

 私自身。

 

「私も行きます!」

 

 真っ直ぐな瞳。

 迷いのない声。

 あまりにも懐かしい。

 夢結さんは即座に却下した。

 

「駄目よ」

「でも!」

「足手まといになるだけ」

 

 容赦ない。

 未来でも変わらない様子だったのを思い出して、私は少しだけ苦笑した。

 

「連れていきましょう」

 

 私が言う。

 二人がこちらを見る。

 

「擬態型なら人数が必要です」

「新入生よ」

「ですが彼女の素養は優秀です」

 

 私は梨璃を見る。

 未来を知っている。

 だから断言できた。

 

「戦力になります」

 

 梨璃は目を輝かせた。

 

「本当ですか!?」

「ええ」

「やります!」

 

 元気な返事。

 その姿に胸が少し痛む。

 未来を知らない梨璃。

 何も失っていない梨璃。

 守りたかったものがそこにいた。

 

 私たちは移動を開始する。

 梨璃は緊張していた。

 CHARMを握る手が震えている。

 

「怖い?」

 

 私が尋ねる。

 

「……少しだけ」

「それでいいんです」

 

 私は微笑んだ。

 

「怖くない人なんていません」

 

 そして《オールマインド》を微弱起動する。

 少女の呼吸が少し落ち着いた。

 

「敵は擬態型です」

「はい」

「目で探さないでください」

「え?」

「違和感を探してください」

 

 梨璃は真剣に耳を傾ける。

 

「肌で感じるんです」

「肌……」

「冷たい場所。嫌な場所。そこに敵がいます」

 

 梨璃は大きく頷いた。

 

「やってみます!」

 

「ええ。貴女ならできます」

 

 夢結さんが立ち止まる。

 同時に空間が歪んだ。

 桜吹雪が不自然な軌道を描く。

 マギの流れが乱れる。

 そこにいる。

 敵だ。

 

「来るわ」

 

 夢結さんがCHARMを構える。

 梨璃も続く。

 私も戦闘用CHARM《ドミナント》を抜いた。

 桜舞う百合ヶ丘。

 未来を守るための最初

 

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