ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百二話

「うわあああああっ!?」

恐竜の星に響き渡る情けない悲鳴。

それを上げたのはもちろん、のび太だった。

ドラえもんが選んだプテラノドンの背中へ乗ろうとした瞬間、翼を大きく羽ばたかせたプテラノドンに振り落とされたのである。

「いててて……」

地面に転がったのび太を見て、ドラえもんは呆れたように言った。

「だから急に飛び乗っちゃ駄目だって言ったのに」

「だって早く乗りたかったんだもん……」

プテラノドンはそんな二人を見下ろしながら、どこか冷静な様子で首を傾げていた。

その光景に思わず笑いが起きる。

そんなやり取りを聞きながら、朔夜はふと違和感を覚えた。

地面が暗くなったのだ。

いや、正確には――巨大な影が落ちた。

反射的に空を見上げる。

「――」

言葉を失った。

遥か上空。

巨大な翼が青空を横切っていた。

圧倒的な存在感。

他の翼竜とは明らかに違う。

広げた翼はグライダーのように長く、ほとんど羽ばたくことなく空を支配している。

その姿はまさに空の王者。

ケツァルコアトルスだった。

「……あれだ」

#朔夜は小さく呟く。

ドラえもん達が振り返る。

「どうしたの?」

「ちょっと行ってくる」

それだけ言い残し、#朔夜は走り出した。

「あっ、おい!」

ドラえもんが呼び止めるが、既に遅い。

#朔夜の姿は森の向こうへ消えていた。

[newpage]

ケツァルコアトルスの影を追い続けること十分ほど。

やがて岩場の多い高台へ辿り着く。

そこで#朔夜は目的の姿を見つけた。

巨大な翼を畳み、岩場で休息しているケツァルコアトルス。

近くで見ると想像以上に大きい。

見上げるほどの高さがある。

「……」

朔夜は慎重に距離を詰めた。

気付かれないように。

ゆっくりと。

だが。

黄色い瞳が開く。

完全に見つかった。

ケツァルコアトルスは首だけを動かし、#朔夜を見つめる。

#朔夜も立ち止まった。

風が吹く。

草が揺れる。

しかし両者とも動かない。

互いに相手を観察していた。

まるで値踏みするように。

ケツァルコアトルスの瞳には警戒がある。

だが#朔夜は逃げない。

普通なら恐怖で後退する距離だ。

だが逃げる理由も無かった。

それでも一歩も引かない。

[newpage]

数秒。

十秒。

さらに十秒。

沈黙が続く。

やがて先に動いたのはケツァルコアトルスだった。

「ギャアアアアアッ!!」

耳を震わせるような鳴き声。

威嚇だった。

だが#朔夜は微動だにしない。

視線も逸らさない。

ケツァルコアトルスは首を傾げた。

まるで困惑しているようだった。

そして。

一歩下がる。

再び鳴く。

さらに翼を広げる。

突風が吹いた。

次の瞬間には大空へ舞い上がっていた。

「……逃げた?」

#朔夜は呟く。

どうやら失敗したらしい。

残念ではあるが仕方ない。

そう思って踵を返した。

その時だった。

[chapter:ゴォォォッ!!]

轟音。

猛烈な風圧。

反射的に振り向く。

巨大な影。

ケツァルコアトルスが凄まじい速度で急降下してきていた。

「っ!」

#朔夜は横へ飛ぶ。

直後。

ドォォン!!

地面が爆ぜた。

砂煙が舞い上がる。

衝撃で周囲の草木が揺れる。

#朔夜は素早く立ち上がった。

だが追撃は来ない。

砂煙の向こう。

そこに立っていたケツァルコアトルスは先ほどとは様子が違っていた。

首を傾げている。

敵意が無い。

むしろ興味津々だった。

「……?」

ケツァルコアトルスが近付いてきた。

大きな嘴。

巨大な頭。

そして。

くん。

鼻先を押し付けてくる。

「え?」

さらに。

すり。

巨大な頭を擦り付けてきた。

もう一回。

すりすり。

完全に懐いている。

その様子はまるで猫だった。

「……何なんだお前」

思わず苦笑する。

ケツァルコアトルスは満足そうに鳴いた。

「ギュルルル」

そして翼を少し広げる。

背中を向ける。

まるで言っているようだった。

乗れ。

#朔夜は少し考えた。

だが断る理由もない。

翼竜の背へ飛び乗る。

ケツァルコアトルスは満足そうに首を鳴らした。

次の瞬間。

地面を蹴る。

風が吹き抜けた。

景色が一気に遠ざかる。

あっという間に空へ。

「……速いな」

思わず感嘆する。

一反木綿に乗った時とはまた違う感覚だった。

巨大な翼が風を掴み、空を滑る。

見渡す限り遮蔽物は無い。

まるで世界そのものを飛んでいるようだった。

[newpage]

レース会場。

既にほとんどの参加者が集まっていた。

「#朔夜遅いな」

ジャイアンが言った時だった。

空が陰る。

全員が見上げた。

「な、なんだあれ!?」

のび太が叫ぶ。

巨大な翼。

巨大な影。

空の王者そのものだった。

ケツァルコアトルスが悠然と降下してくる。

そしてその背中には――。

「#朔夜!?」

しずかが驚く。

着地したケツァルコアトルスは誇らしげに鳴いた。

#朔夜は平然と降り立つ。

「見つけた」

「いやいやいやいや!」

ドラえもんが真っ先に反応した。

「何で懐いてるの!?」

「分からない」

「絶対当たりじゃん!」

「ずるいぞ#朔夜!」

のび太まで抗議する。

ドラえもんも驚いていた。

「まさか本当に見つけるなんて……」

周囲を見渡す。

確かに皆それぞれ恐竜を連れていた。

ドラえもんは穏やかな性格の翼竜を選んでいた。

のび太はデイノニクス。

しずかとナツメはパラサウロロフス。

トウマはデルタドロメウス。

アキノリとアヤメはラプトル。

二頭のラプトルは主人を守るように並んで座っている。

妙に息が合っていた。

「スネ夫は?」

#朔夜が尋ねる。

ジャイアンが露骨に不満そうな顔をした。

「聞いてくれよ」

「?」

「本当はオレが欲しかったんだよ」

「何を?」

「ブラキオサウルス」

なるほど、と何人かが納得した。

確かにあの巨体は目立つ。

「でもエサやってたらスネ夫に懐きやがった」

「ジャイアン……」

「しかもアイツ嬉しそうなんだよ!」

だが結果的にブラキオサウルスはスネ夫へ懐いた。

エサをあげ続けていたらしい。

「納得いかねぇ!」

他人に任せるからそうなるのだと言いかけた#朔夜であったが、すんでのところでその言葉を飲み込んだ。

ジャイアンが拳を握る。

「俺の方が絶対似合うだろ!」

「力比べ始めたからじゃない?」

ナツメが呆れたように言う。

「うるせぇ!」

そんなやり取りをしているうちに時間は過ぎていく。

[newpage]

レース開始十分前。

その時だった。

ドシン。

地面が揺れる。

ドシン。

もう一度。

全員が振り向いた。

遠くの森が揺れている。

そして。

巨大な首が見えた。

ブラキオサウルスだ。

「あっ!」

のび太が指差す。

首の上で手を振る人物がいる。

「みんなー!」

スネ夫だった。

「待たせたー!」

得意満面で叫ぶ。

ブラキオサウルスは悠々と歩いてくる。

その姿は圧巻だった。

ジャイアンの額に青筋が浮かぶ。

「くっそぉぉぉぉぉぉ!」

会場に響く絶叫。

それを聞いたスネ夫はさらに嬉しそうに笑うのだった。

こうして全員が出揃った。

恐竜レース開始まで、あとわずか。

それぞれの相棒と共に、銀河一のレースが始まろうとしていた。

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