レース会場中央。
広大なサバンナを切り開いて造られたスタートゲートには、参加者達がずらりと並んでいた。
陸部門と空部門。
二つのコースが同時に始まり、途中でそれぞれ別ルートへ進む。
ゴールは共通。
スタンドには多くの観光客が集まり、開始を今か今かと待ちわびていた。
『さぁ皆様、お待たせいたしましたーっ! これより恐竜の星名物、ダイノ・グランプリを開催しまーす!』
女性実況の元気な声が会場中へ響く。
『陸部門、空部門合わせて総勢十名! 本日はどんな熱いレースを見せてくれるのでしょうか!』
歓声が湧き上がる。
#朔夜はケツァルコアトルスの首を軽く叩いた。
「……暴れないでよ」
「ギュルル」
返事をしたのかしていないのか。
巨大な翼竜はどこか楽しそうに首を揺らす。
その様子を見たドラえもんは苦笑した。
「まだ言うこと聞いてくれないんだね。」
「半分くらいは。」
「半分?」
「飛ぶ方向は気分次第だと思う」
「十分困るよ!」
その隣では、のび太がデイノニクスへしがみついていた。
「よろしくね……お願いだから途中で振り落とさないでね……」
デイノニクスは短く鳴く。
今度はちゃんと受け入れてくれているらしい。
一方。
「行くぞぉーーーっ!」
ジャイアンはステゴサウルスの背中を叩いて気合十分だった。
「今日は絶対一番だ!」
対するスネ夫はブラキオサウルスの首を見上げている。
「お願いだから少しでも速く走ってよぉ……」
ブラキオサウルスは我関せず。
のんびり草を食べていた。
「食べてる場合じゃないって!」
その様子に会場から笑いが起こる。
アキノリとアヤメはラプトルの傍らで顔を見合わせていた。
「勝負だね。」
「負けないよ?」
二頭のラプトルも互いを意識するように鳴き交わす。
ナツメとしずかはパラサウロロフスを優しく撫で、トウマはデルタドロメウスの脚を確認している。
「準備は万全だ。」
『それでは――』
実況が息を吸う。
『スタートですっ!!』
パンッ!!
乾いた号砲が鳴り響いた。
一斉に恐竜達が飛び出す。
[newpage]
「うわっ!」
のび太のデイノニクスが矢のように加速した。
『速いっ!! デイノニクスがトップへ飛び出したぁぁぁ!!』
「え!? えぇぇぇぇっ!?」
予想以上の勢いに、のび太は悲鳴を上げながら必死にしがみつく。
「そのまま行けぇぇぇ!」
ドラえもんが思わず声援を送る。
後方ではジャイアンが叫んだ。
「待ちやがれぇ!」
ステゴサウルスを急かす。
しかし重厚な体はそう簡単には加速しない。
ドシン!
ドシン!
豪快に地面を踏み鳴らしながら追い掛ける。
一方。
「うわぁぁぁ!」
スネ夫だけは早くも泣きそうだった。
ブラキオサウルスは悠々と歩いている。
歩幅は大きい。
だが速くはない。
『おっとブラキオサウルス、最後尾だぁーーーっ!』
「お願いだから走ってぇぇぇ!」
ブラキオサウルスは首を傾げるだけだった。
その頃。
空では。
バサァッ!!
二頭の翼竜が同時に大空へ舞い上がる。
『空部門もスタート!』
ドラえもんのプテラノドンは真っ直ぐ高度を上げる。
実に安定した飛行だった。
「いい子いい子。」
ドラえもんが背中を撫でる。
対して#朔夜のケツァルコアトルス。
一直線に飛ぶかと思いきや。
ぐいっ。
突然、大きく右へ旋回した。
「……違う。」
さらに左。
さらに上昇。
『おっとぉ!? ケツァルコアトルスがコースを外れそうです!』
観客席がどよめく。
「戻って。」
「ギュルル!」
楽しそうに鳴く。
戻らない。
「聞いて。」
ようやく少しだけ進路を修正する。
その間にドラえもんが前へ出る。
『現在トップはプテラノドン! 安定した飛行です!』
ドラえもんは振り返って笑った。
「#朔夜ー! ちゃんと操縦して!」
「してるってば。」
「してるように見えない!」
#朔夜は小さくため息を吐いた。
どうやらこの相棒は、普通の翼竜ではないらしい。
[newpage]
レースは第二エリア、熱帯雨林へ突入する。
密集した木々。
複雑に入り組んだ地形。
先頭を走るデイノニクスが木を蹴りながら軽快に進む。
『トップは依然デイノニクス!』
しかし。
後方との差が徐々に縮まっていた。
デルタドロメウスが長い脚を活かして追い上げる。
パラサウロロフスも安定した走り。
ラプトル二頭は木々の隙間を縫うように駆け抜けていく。
『ここで集団が一気に接近!』
ところが。
ラプトル達が突然止まった。
「え?」
アキノリが目を丸くする。
二頭とも一点を見つめている。
色鮮やかな羽を持つ古代昆虫が、目の前をひらひら飛んでいた。
「おいおい!」
「今じゃないって!」
アヤメも苦笑する。
二頭のラプトルは興味津々に虫を追い掛け始めた。
『なんとラプトル寄り道ーーーっ!?』
観客席が爆笑する。
ようやく気付いたラプトル達は慌ててコースへ戻った。
一方その頃。
後方から聞こえてきたのは。
バキッ!!
メキメキメキ!!
凄まじい破壊音だった。
「何だ!?」
振り返る。
そこには。
ブラキオサウルスが真正面から木々を薙ぎ倒しながら進んでいた。
『すごいーーーっ!!』
『森を一直線に突き進んでおります!!』
「行けぇぇぇ!」
スネ夫が大喜びする。
歩幅の大きさも相まって、一気に差を縮め始めた。
「ずるいぞー!」
ジャイアンが叫ぶ。
「そんな道あったのかよ!」
ブラキオサウルスは気にする様子もなく、堂々と森を切り開いていく。
その頃。
空では依然としてドラえもんが先頭。
#朔夜はそのすぐ後ろ。
しかしケツァルコアトルスは、またしても岩山すれすれを飛び始める。
『危ない危ない! コースアウト寸前です!』
「……自由すぎるよ…。」
#朔夜が呟く。
だがケツァルコアトルスはどこか楽しそうだった。
風を切り裂き、岩壁の間を滑るように飛び抜ける。
その飛行は危険極まりない。
それでいて美しかった。
『さぁレースはいよいよ最終エリア!』
『勝負はここからです!!』
実況の声が響く。
熱帯雨林を抜けた先。
広大なサバンナが、ゴールまで一直線に広がっていた。
それぞれの恐竜が最後の力を振り絞る。
勝負の行方は、まだ誰にも分からない――。