恐竜レースを終えた一行は、夕焼けに染まるドリーマーズランドを後にし、宿泊先であるホテルへ戻ってきた。
「いやぁー! 腹減ったぁ!」
真っ先に叫んだのはジャイアンだった。
「お前、レース中も食うことしか考えてなかっただろ」
スネ夫が呆れたように肩をすくめる。
「失礼な! ちゃんと優勝も狙ってたぞ!」
「結果は?」
「……聞くな。」
ブラキオサウルスを思い出したのか、ジャイアンは悔しそうに唸る。
その様子を見て、皆が笑った。
ホテルのレストランは昼間とは違い、落ち着いた雰囲気に包まれていた。
テーブルへ案内されると、それぞれが思い思いにメニューを開く。
「ぼく、このハンバーグ!」
「僕はステーキ!」
「スイーツセットも付けようかなぁ。」
「ドラえもん、それ絶対食べ過ぎだよ。」
賑やかな声が飛び交う中、#朔夜だけは静かにパンフレットを取り出していた。
「#朔夜、何頼むの?」
しずかに尋ねられ、
「……これ。」
指差したのは和風御膳。
「渋いねぇ。」
「好きだから。」
短く答え、再びパンフレットへ視線を落とした。
今日一日は恐竜の星。
では明日はどこへ行こうか。
ドリーマーズランドは広い。
恐竜の星以外にも、まだ数え切れないほどのエリアが存在している。
ページをめくる。
童話の国。
西部の町。
宇宙アトラクション。
海底王国。
そして——。
[newpage]
『忍者になろう!』
大きく書かれた見出しが目に留まった。
#朔夜はそのページで手を止める。
紹介文にはこう書かれていた。
『忍術修行を体験!』
『手裏剣や吹き矢に挑戦!』
『忍者屋敷を突破し、一流忍者を目指そう!』
「……」
料理が運ばれてきても、#朔夜は静かに紹介文を読み続けていた。
そんな様子を横から覗き込んだジャイアンが、嫌そうな顔をする。
「あー、そこか。」
続いてスネ夫も覗き込み、
「あぁ……忍者ね。」
二人とも何とも言えない表情だった。
「行ったことあるの?」
のび太が尋ねる。
「ある。」
ジャイアンが即答する。
「前の時にな。」
「でもよぉ……。」
腕を組み、大きくため息を吐いた。
「難しすぎるんだよ!」
「そうそう!」
スネ夫も力強く頷く。
「音を立てるなとか、隠れろとか、敵に見つかるなとか!」
「忍者屋敷も罠だらけでよ!」
「気付いたら失敗してるんだ。」
「全然忍者になれねぇ!」
二人は同時に肩を落とした。
どうやら相当苦い思い出らしい。
「だからオレ達はおすすめしねぇ!」
ジャイアンが断言する。
「西部の町の方が百倍楽しいぜ!」
[newpage]
しかし。
「……そう。」
#朔夜は淡々と返事をしただけだった。
「え?」
「難しいんだ。」
「そりゃ難しいさ!」
「そう。」
パンフレットを閉じる。
「明日はここへ行くよ。」
「「えぇっ!?」」
思わずジャイアンとスネ夫が声を揃えた。
「なんで!?」
「難しいから。」
「普通逆だろ!」
ジャイアンが頭を抱える。
「やめとけって!」
「忍者になるの、結構大変なんだから!」
「そう。」
それでも#朔夜の考えは変わらない。
むしろ難しいと聞いたことで、興味が深まったようだった。
「まぁ……#朔夜なら何とかしそうだけど。」
ドラえもんが苦笑する。
「確かに。」
トウマも納得するように頷いた。
「#朔夜なら忍者っぽいもんね。」
「そう?」
「気配消すの上手いし。」
「確かに!」
のび太まで納得してしまう。
「いや、それ褒めてるのか?」
アキノリが笑う。
そんな賑やかな夕食は、笑い声の絶えないまま終わっていった。
[newpage]
翌朝。
まだ太陽が昇りきらない時間。
ホテルの廊下を、二つの小さな影がこっそり歩いていた。
「静かにね。」
「うん。」
しずかとナツメである。
二人は周囲を確認すると、カードキーで#朔夜の部屋を開けた。
音を立てないよう慎重に扉を閉める。
ベッドでは#朔夜が静かに眠っていた。
「まだ寝てる。」
「起こそ。」
二人は忍び足で近付き、そっと肩へ手を伸ばす。
ゆさ。
ゆさゆさ。
「#朔夜。」
「起きて。」
すると。
「……何。」
目を閉じたまま声が返ってきた。
「「きゃっ!?」」
二人は同時に飛び退く。
#朔夜はゆっくり目を開けた。
「起きてたの?」
「入ってきた時から。」
「えっ!?」
「鍵、開いた音。」
さらりと言う。
「それなら声かけてよ!」
ナツメが頬を膨らませる。
「様子を見てた。」
「怖いよ!」
しずかまで苦笑する。
#朔夜は身体を起こした。
「……それで?」
こんな朝早くに来た理由を尋ねる。
しずかとナツメは顔を見合わせると、にっこり笑った。
[newpage]
「今日は人気アトラクションへ行くの!」
「白雪姫!」
「朝一じゃないと混むから!」
「だから迎えに来たの。」
「……白雪姫。」
#朔夜は首を傾げる。
「うん!」
「それとね。」
二人はどこか期待に満ちた笑みを浮かべた。
「#朔夜に可愛い服着てもらいたいの!」
「……?」
一瞬、思考が止まる。
「絶対似合うから!」
「ボーイッシュなのもいいけど、一回見てみたい!」
熱弁する二人。
その時。
「おはよー。」
部屋の扉が開き、アヤメが顔を出した。
「……何してるの?」
事情を聞いたアヤメは、少し困ったように笑う。
「本人の意思は?」
「あっ。」
二人が固まる。
勢いだけで来てしまったらしい。
三人の視線が#朔夜へ集まる。
しばらく沈黙。
やがて#朔夜は小さく息を吐き、
「……別に。」
「着てもいい。」
「「やったー!!」」
しずかとナツメはハイタッチ。
一方アヤメは、
(……完全に着せ替え目的だったんだ。)
と苦笑するしかなかった。
こうして二日目の朝は、女子三人——いや、#朔夜を含めれば四人——の妙な盛り上がりと共に始まる。