恐竜レースを終えた翌朝。
ホテルを出た四人――#朔夜、ナツメ、しずか、アヤメは、ミステリートレインに揺られながら次の目的地へ向かっていた。
「楽しみだね!」
窓の外を見ながらナツメが笑う。
「ええ。パンフレットを見る限り、本当に絵本の世界みたい。」
しずかも嬉しそうに頷く。
対照的に、#朔夜は窓枠に頬杖をついて外を眺めていた。
「……。」
「#朔夜、眠いの?」
「いや。」
「ならもっと楽しそうな顔しなよ。」
「楽しみではある。」
相変わらず表情は薄い。
「分かりにくい!」
ナツメが思わず笑う。
その様子を、アヤメは静かに眺めていた。
ふっと微笑みながらも、その視線はどこか冷静だった。
やがて列車がゆっくり停車する。
車内放送が流れた。
『まもなく童話の星に到着いたします』
ドアが開く。
四人がホームへ降り立った、その瞬間だった。
ふわり、と柔らかな風が吹く。
「え?」
しずかが空を見上げる。
純白の翼。
青空を滑るように飛ぶ十数頭のペガサス。
その群れが四人の頭上をゆっくり旋回していた。
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「きゃーっ!」
ナツメが歓声を上げる。
「すごい! 本物!」
一頭が楽しそうに鳴く。
それにつられるように群れ全体が低く飛び、歓迎するように四人の周囲を飛び回った。
「可愛い……!」
しずかも思わず手を振る。
ペガサスたちは嬉しそうに応えるように翼を羽ばたかせ、再び空高く舞い上がっていく。
「歓迎してくれてるみたい。」
「だね!」
その幻想的な光景に二人はすっかり夢中だった。
しかし。
「……。」
アヤメだけは違った。
一頭一頭の飛び方。
翼の動き。
隊列。
まるで生態を観察するように見つめている。
「アヤメちゃん?」
「あ、ごめん。」
ナツメに呼ばれ、ようやく笑顔を向ける。
「すごく綺麗だなって思って。」
「でしょ!」
ナツメは気付かない。
その笑顔の奥にある、ほんの僅かな探究心には。
#朔夜も少しだけアヤメを見たが、何も言わず歩き始めた。
園内には童話の世界そのものが広がっている。
お菓子の家。
大きな時計台。
歌う小鳥。
絵本から飛び出してきたような景色だった。
「わぁ……。」
「全部回りたい!」
ナツメとしずかは辺りを見回しながら歩いていく。
その時。
「見つけた!」
ナツメがパンフレットを片手に走り出した。
大きなリンゴの看板。
その下には。
『白雪姫』
そう書かれていた。
「急ご!」
「まだ朝だから空いてるかな?」
四人は足早に入口へ向かう。
幸運だった。
並んでいるのはまだ十人ほど。
「よかったぁ。」
しずかがほっと息をつく。
「これならすぐだね。」
係員に案内され列へ並ぶ。
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しかし。
十分ほどして何気なく後ろを振り返ったナツメは思わず固まった。
「え。」
列が建物の外まで伸びている。
「すご……。」
しずかも目を丸くした。
「朝一で来て正解だったね。」
#朔夜がぽつりと言う。
「危なかったねぇ。」
アヤメも頷く。
やがて係員が現れた。
「それでは衣装合わせを行います。」
案内された部屋には童話の登場人物たちの衣装がずらりと並んでいた。
白雪姫。
王子。
見ているだけで楽しくなる光景だった。
「かわいい!」
ナツメは目を輝かせる。
「#朔夜。」
「?」
「白雪姫。」
「却下。」
即答だった。
「早い!」
「まだ何もしてない。」
「する気満々だった。」
「当たり前じゃん!」
ナツメが笑う。
「絶対似合うもん!」
「俺はもっと動きやすい服がいい。」
「駄目。」
「即却下。」
しずかまで笑っている。
「頼むから王子で。」
「王子は空いてるか分からないし。」
「それに。」
ナツメはにやりと笑った。
「白雪姫の方が見たい。」
「……。」
#朔夜はため息をついた。
その時だった。
近くにいたキャストのお姉さんが困ったような表情で近寄ってくる。
「あの……。」
「はい?」
しずかが振り向く。
「実はお願いがありまして。」
「お願い?」
「本日は王子役の参加者が少なくて……。」
キャストは申し訳なさそうに頭を下げた。
「もしよろしければ、どなたか王子役をお願いできませんか?」
一瞬、全員が顔を見合わせる。
そして。
三人の視線が、一斉に#朔夜へ向いた。
「……なんだ。」
「いや。」
ナツメが笑う。
「ぴったりかなって。」
「そうね。」
しずかもくすりと笑う。
キャストも恐る恐る口を開いた。
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「その……。」
「とても王子様がお似合いになりそうでしたので……。」
「……。」
#朔夜は無言になる。
ナツメは肩を震わせて笑いを堪えていた。
「ねぇ、やろ?」
「絶対似合う。」
「……。」
しばらく沈黙した後。
#朔夜は静かにため息をついた。
「……衣装だけ見る。」
「やったー!」
ナツメとしずかが顔を見合わせて喜ぶ。
少し離れた場所で、その様子を見ていたアヤメは小さく呟いた。
「……やっぱり。」
その声は誰にも届かない。
微笑みながら、ただ静かに#朔夜を見つめるだけだった。
そして四人は、童話の世界の奥へと足を踏み入れていく。
次に待っているのは――白雪姫と王子様の物語。