ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百八話

白雪姫の物語も、いよいよ終盤。

魔女に毒リンゴを食べさせられた白雪姫は、深い眠りについた。

私は用意された棺の中へ横になる。

「そのまま目を閉じててね」

キャストのお姉さんにそう言われ、小さく頷く。

(……いよいよ最後ね。)

王子様の登場。

そして眠り姫を目覚めさせる場面。

そんな説明は受けていた。

けれど。

(王子様役って……。)

視線だけを少し動かす。

舞台袖。

そこには王子様の衣装へ着替え終えた#朔夜さんが立っていた。

白を基調とした礼服。

肩には青いマント。

腰には飾りの剣。

普段の動きやすそうな服とはまるで違う。

なのに。

(……似合ってる。)

思わずそう思ってしまった。

「……」

本人は少し居心地が悪そうだった。

袖を引っ張ったり、襟元を気にしたり。

「動きづらい。」

ぼそりと呟く。

「でも似合ってるよ!」

ナツメちゃんは嬉しそうだ。

「そう?」

「うん!」

「王子様そのもの!」

「……よく分からない。」

そんなやり取りを見ているだけで、少し笑ってしまう。

[newpage]

「それでは、最後のシーンです!」

キャストの合図。

私はゆっくり目を閉じた。

静かな足音。

王子様が近付いてくる。

(演技なんだから。)

(変に意識しちゃ駄目。)

そう思うほど、鼓動が早くなる。

足音が止まる。

すぐ近く。

(……近い。)

「……。」

#朔夜さんは何も言わない。

キャストも何も言わない。

どうするんだろう。

そう思った次の瞬間だった。

「……お姫様。」

静かな声。それでいて低く優しい声。

思わず心臓が跳ねた。

(え。)

「迎えに来た。」

短い一言。

それだけなのに。

胸が少し苦しくなる。

(な、なんで……。)

(演技なのに。)

額へ伸びる手。

前髪をそっと避ける。

指先が優しい。

(近い……。)

息が止まりそうだった。

そして。

額へ。

そっと。

軽く口づける。

一瞬。

本当に一瞬だけ。

「……。」

「……。」

「…………。」

何も起きない。

#朔夜さんが首を傾げた。

「起きない。」

キャストのお姉さんが慌てる。

「え、えっと!」

「しずかちゃん! 起きて大丈夫だよ!」

「あっ!」

私は慌てて目を開けた。

「お、おはようございます!」

「いや違う違う!」

キャストさんが思わず吹き出す。

「『目覚めた』で大丈夫だから!」

「あっ……!」

恥ずかしい。

顔が熱い。

穴があったら入りたい。

[newpage]

その横で。

「ぷっ……。」

誰かが吹き出した。

ナツメちゃんだった。

肩を震わせている。

「ふふっ……。」

「くくっ……。」

必死に口を押さえている。

「ナツメちゃん……?」

「ご、ごめん……。」

そう言いながらも笑いが止まらない。

「二人とも真面目すぎるんだもん……!」

「え?」

「#朔夜なんて本気で『起きない』って困ってるし!」

「しずかちゃんも『おはようございます!』って!」

とうとう耐え切れなくなった。

「あははははは!」

大笑い。

床を叩きそうな勢いだった。

「もう駄目……!」

「笑い死ぬ……!」

私は顔を真っ赤にする。

「そ、そんなに変だった?」

「変じゃない!」

「だから面白いの!」

「二人とも天然すぎる!」

「??」

#朔夜さんは意味が分からないらしい。

「何が?」

真顔だった。

それを見たナツメちゃんはさらに笑う。

「あははは!」

「そこ!」

「その顔!」

「自覚ゼロ!」

私は恥ずかしくて俯く。

(もう……。)

(演技だったのに。)

(なんでこんなにドキドキしたんだろう。)

額へ手を当てる。

まだ熱が残っている気がした。

そんな私を見て。

ナツメちゃんはニヤニヤ笑う。

「しずかちゃん?」

「な、何?」

「王子様、かっこよかった?」

「えっ!?」

「べ、別に!」

「演技だし!」

「ふーん?」

「違うの!」

「へぇ~。」

完全に遊ばれている。

「ナツメちゃん!」

「ごめんごめん。」

そう言いながら全然反省していない。

むしろ楽しそうだった。

[newpage]

少し離れた場所で。

アヤメさんだけは腕を組みながら静かにその様子を眺めていた。

「……。」

#朔夜さん。

しずかちゃん。

そして笑い続けるナツメちゃん。

三人のやり取りを見て、小さく微笑む。

「なるほど。」

誰にも聞こえないほど小さな声。

「そういう関係なんだ。」

意味深な一言だけを残し、アヤメさんは静かに歩き出した。

その時はまだ誰も、その言葉の意味を知らなかった。

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