ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百九話

白雪姫のアトラクションを後にした四人は、そのまま童話の星を巡っていた。

赤ずきん。

シンデレラ。

三匹の子ぶた。

次から次へと並ぶアトラクションは、どれも童話の世界をそのまま再現したような造りになっている。

「わぁ、すごい!」

しずかが目を輝かせる。

「写真撮ろうよ!」

ナツメは相変わらず元気いっぱいだ。

四人は巨大な豆の木の前で写真を撮り、ガラスの靴を履いてみたり、赤ずきんの森を歩いたりと、一日中笑い声が絶えなかった。

アヤメも普段より表情が柔らかい。

「これ、本当に細かく作られてるんだね。」

展示されている小道具を興味深そうに眺めている。

「細かい。」

#朔夜も短く答えた。

派手に騒ぐわけではない。

だが、どのアトラクションもよく出来ていて退屈はしない。

そんな穏やかな時間が流れていた。

昼を過ぎた頃。

「ごめん、私ちょっとお手洗い。」

しずかが申し訳なさそうに言った。

「あ、私も。」

ナツメも手を挙げる。

「じゃあ行こ。」

二人は近くの案内板を確認しながら歩いていく。

残されたのは朔夜とアヤメだけだった。

「……。」

「……。」

少しだけ沈黙。

周囲には童話の世界らしい音楽が流れている。

子供達の笑い声も聞こえる。

その平和な空気の中で、不意にアヤメが口を開いた。

「ねぇ。」

「?」

#朔夜が視線を向ける。

その瞬間だった。

アヤメの雰囲気が変わる。

先ほどまでの柔らかな表情ではない。

感情の色が薄い。

静かで。

どこか冷たい。

まるで別人だった。

「君は――何者?」

「……。」

#朔夜は答えなかった。

その問いは、自分でも何度か考えたことがある。

様々な世界を巡ってから。

普通の小学生とは言えない日々を過ごしてきた。

自分は何者なのか。

そう問われても、簡単には答えられない。

「……自分でも、よく分からない。」

それが精一杯だった。

アヤメはじっと朔夜を見つめる。

瞬き一つしない。

その視線に敵意はない。

だが、生きた人間とは違う何かを感じた。

背筋を、冷たいものが這う。

(……何だ。)

#朔夜は眉をひそめた。

この感覚は初めてだった。

危険というわけではない。

しかし、本能が警戒している。

何かがおかしい。

だが、その正体だけは分からない。

数秒の沈黙。

その時だった。

[newpage]

「……え?」

アヤメがぱちりと瞬きをした。

「えっと……。」

きょとんとした顔になる。

「ご、ごめん。」

首を傾げながら笑う。

「私、何か変なこと言った?」

「……。」

さっきまでの雰囲気が消えている。

いつものアヤメだ。

柔らかく、少し天然な笑顔。

#朔夜はしばらく彼女を見つめた。

「……覚えてないのか?」

「え?」

「いや。」

アヤメは本当に分かっていないらしい。

困ったように笑うだけだった。

「ごめんね、ぼーっとしてたのかな。」

「そうか。」

それ以上は聞かなかった。

聞いたところで答えは返ってこない。

そんな気がした。

「お待たせー!」

元気な声が響く。

ナツメとしずかが戻ってきた。

「ごめんごめん、ちょっと混んでて。」

「二人とも何話してたの?」

しずかが尋ねる。

「別に。」

#朔夜は短く答えた。

アヤメも笑顔で頷く。

「うん、何でもないよ。」

本当に何でもなかったような口ぶりだった。

「じゃあ次行こう!」

ナツメがパンフレットを広げる。

「次は『ヘンゼルとグレーテル』!」

「お菓子の家!」

「行こう行こう!」

二人は楽しそうに歩き出した。

アヤメもその後を追う。

#朔夜も少し遅れて歩き始める。

さっきの出来事を胸の奥へ押し込めながら。

その後も四人は童話の星を存分に楽しんだ。

お菓子の家でお菓子作りを体験し。

人魚姫の海底劇場を巡り。

眠れる森の美女の迷路では、ナツメが道に迷って全員で笑った。

一日を通して事件らしい事件は何一つ起こらない。

笑い声ばかりの、平和な時間。

それなのに。

#朔夜の頭からは、あの一言だけが離れなかった。

――『君は何者?』

[chapter:あの時のアヤメは、本当にアヤメだったのか。]

それとも。

別の"何か"だったのか。

答えは分からない。

そして当のアヤメ本人も、自分がその言葉を口にしたことなど、まるで覚えていなかった。

童話の星では今日も楽しげな音楽が流れている。

その穏やかな旋律とは裏腹に、小さな違和感だけが、静かに#朔夜の胸へ残り続けていた。

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