22世紀。
白い照明に満たされた巨大ホールには、異様な緊張が漂っていた。
無数のカメラ。
飛び交うフラッシュ。
ざわめく報道陣。
その中央に立つのは、タイムパトロール本部長官だった。
「……繰り返します」
長官の声は重い。
「現在、タイムパトロール管理下にある歴史犯罪者データベースと、実際の収監記録に重大な齟齬が確認されています」
モニターが切り替わる。
映し出されたのは、複数の犯罪者ファイル。
しかし、その多くには――。
[chapter:【DATA LOST】]
赤い警告表示。会場がざわつく。
「データ破損ではありません」
長官は険しい顔で続けた。
「該当人物の記録そのものが、“最初から存在しなかった”形へ改変されています」
どよめき。
記者の一人が立ち上がった。
「それはつまり……歴史改変ですか!?」
「現在調査中です」
「脱獄では?」
「違います」
長官は即答した。
「脱獄ならば痕跡が残る。しかし今回は――」
一拍。
「“収監した記録”だけが消えている」
空気が凍る。
別の記者が叫ぶ。
「タイムパトロールが把握できない歴史改変が起きていると!?」
返答はなかった。
ただ。
長官の沈黙そのものが、答えだった。
[newpage]
«とあるニュース番組»
『――では次のニュースです』
テレビキャスターは、どこか興奮した様子で原稿を読み上げていた。
『現在SNSを中心に、大きな話題となっている映像があります』
画面が切り替わる。
映し出されたのは、薄暗い牛舎。
手ブレしたスマホ映像。
そして。
藁の上に横たわる、一頭の子牛。
だが。
普通ではなかった。
その顔は――人間だった。
「…………」
テレビ前の視聴者達が息を呑む。
映像の向こうで、誰かが怯えた声を漏らした。
『お、おい……撮れてるか……?』
次の瞬間。
子牛の瞳が、ゆっくりカメラを見た。
そして。
“喋った”。
[newpage]
[chapter:蘇りし かの者は]
[chapter:数多の 魑魅魍魎を 従えん]
[chapter:大いなる闇には 大いなる光を 照らせ]
[chapter:チカラを持つ者]
[chapter:今、ここに集らんことを]
[chapter:さすれば、セカイは救われるだろう]
[newpage]
ブツッ。
映像が途切れた。
数秒。
スタジオは沈黙した。
◇
東京都内。
マンションの一室。
テレビの光だけが、薄暗い部屋を照らしていた。
「……なに、これ」
少女は不安げに呟く。
スマホ画面には、同じ映像。
SNSのタイムラインが猛烈な速度で流れていた。
【#予言の子牛】
【#世界の終わり】
【#合成じゃないのか】
【#怖すぎ】
【#鬼太郎案件】
次々増えていく投稿。
憶測。
デマ。
恐怖。
興奮。
世界中がざわついていた。
その時。
「まなー! ご飯よー!」
リビングから母親の声が響く。
「……あ、はーい!」
犬山まな は慌てて返事をした。
スマホを握ったまま立ち上がる。
だが。
部屋を出る直前。
まなはもう一度だけ、画面を見た。
そこには新しい投稿が表示されていた。
【世界中で“黒い扉”の目撃情報】
まなの表情が、強張る。
[newpage]
«閻魔殿・大書庫»
薄暗い書庫の中。
大量の巻物と古書が並ぶ空間で、二つの小さな影が慌ただしく飛び回っていた。
「ライちゃん!!」
「分かってるフウちゃん!!」
風神 と 雷神 。
風神雷神の双子は、青ざめた顔で巨大な予言書を見上げていた。
開かれたページ。
そこへ、新しい文字が浮かび上がっていく。
まるで。
“今この瞬間”、誰かが書き込んでいるみたいに。
[chapter:黒き門、セカイをつなぎ――]
[chapter:災厄は[[rb:境界 > セカイ]]を超える]
[chapter:チカラあるもの、集結せよ]
[chapter:さもなくば]
そこで文字が止まる。
ページが震える。
そして最後に。
血のような赤色で、たった一文が刻まれた。
[chapter:王ですら、[[rb:終焉 > ホウカイ]]を止められぬ]
「っ……!」
ライちゃんが息を呑む。
フウちゃんは震える声で言った。
「これ……ヤバいやつだよね?」
「ヤバいやつだ!!」
二人は同時に叫んだ。
次の瞬間。
ばたばたと書庫を飛び出していく。
「カイラ様に報告だー!!」
「急げ急げー!!」
その背後で。
予言書のページだけが、静かに揺れていた。
まるで。
“誰か”が笑っているように。