ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百十一話

「――それでは、ご覧ください。」

忍者講師が静かに一礼すると、周囲は自然と静まり返った。

次の瞬間だった。

ダッ――!

一歩。

二歩。

助走をつけた講師は、目の前の木箱を軽々と飛び越える。

さらに壁を一歩、二歩と蹴り上がり、その勢いのまま屋根へ。

「おおーっ!」

参加者達から歓声が上がる。

講師は屋根の上で一度も立ち止まらない。

屋根から屋根へ。

丸太へ。

竹の足場へ。

まるで風のように駆け抜けていく。

「すげぇ!」

「本当に忍者だ!」

最後は屋根から三メートルほど下へ音もなく着地。

砂一つ舞い上がらない。

「以上が、忍びの基本移動術です。」

再び拍手が起こる。

その中で一人だけ、歓声ではなく静かに笑みを浮かべている者がいた。

#朔夜だった。

「……これだ。」

自然と口角が上がる。

昨日パンフレットを見た時から、一番興味を惹かれていたもの。

剣でもない。

手裏剣でもない。

この移動術こそ、自分が求めていたものだった。

「なんか嬉しそうだな。」

隣のトウマが苦笑する。

「分かる?」

「分かる。」

アキノリも頷いた。

「目が完全に獲物見つけた時の顔だ。」

「否定できない。」

#朔夜は素直に認めた。

[newpage]

講師が全員を集める。

「この技術は、現代では**パルクール**と呼ばれる運動に近いものです。」

壁に描かれた図を指差す。

「ですが、忍者にとっては競技ではありません。」

「敵より速く。」

「敵より静かに。」

「敵より高い場所へ。」

「そのための移動術です。」

参加者達は真剣に耳を傾ける。

「では質問です。」

講師が一本の竹を取り出した。

「昔の忍者は、どうやって跳躍力を鍛えたと思いますか?」

「筋トレ!」

「毎日山登り!」

様々な答えが飛ぶ。

講師は笑った。

「惜しいですね。」

庭へ植えられた竹を指差す。

「昔は家の裏庭へ竹を植え、その竹を毎日飛び越えていたと言われています。」

「成長する度に竹は少しずつ高くなる。」

「つまり自然に跳躍力も鍛えられるわけです。」

「なるほど……。」

トウマが感心する。

「忍術とは魔法ではありません。」

「毎日の積み重ねです。」

その一言に、#朔夜はどこか納得していた。

剣も弓も同じだった。

一朝一夕で身に付くものではない。

「では、本日は体験用の補助具を使用します。」

講師が小さな巻物を取り出した。

「これは『飛翔の巻物』。」

「口にくわえていただくことで、跳躍力が一時的に向上します。」

参加者達から「おぉー」という声が漏れる。

「もちろん本物の忍者は使いません。」

「今日は遊園地ですからね。」

会場に笑いが起きた。

一人ずつ巻物を受け取る。

#朔夜も口へくわえる。

「……。」

軽い。

何となく身体が軽くなった気がする。

「それでは――」

講師が前方を指差した。

「基礎コース開始!」

目の前には障害物コース。

木箱。

丸太。

平均台。

低い屋根。

壁。

ロープ。

様々な障害物が並んでいる。

「スタート!」

一斉に走り出す。

最初は全員ぎこちない。

壁へぶつかる者。

着地で転ぶ者。

丸太から落ちる者。

「いてっ!」

「難しい!」

あちこちから悲鳴が聞こえる。

#朔夜も最初は慎重だった。

助走。

踏み切り。

着地。

もう一度。

「……。」

三つ目の障害物を越えた辺りで感覚を掴む。

「そういうことか。」

地面ばかり見ない。

進行方向を見る。

踏み切る位置を決める。

力任せではない。

流れを止めない。

そこからだった。

ダッ。

壁を蹴る。

箱へ着地。

そのまま屋根。

ロープ。

丸太。

動きが一気に滑らかになる。

風が吹き抜けた。

口元を覆っていた黒い布がふわりと宙へ舞う。

髪が揺れる。

[newpage]

「あいつ速い!」

参加者の一人が思わず声を上げた。

#朔夜本人は気付いていない。

ただ前だけを見ていた。

「負けるか!」

アキノリも加速する。

神社育ち。

長い石段。

山道。

日々の修行。

その積み重ねは伊達ではない。

壁を蹴る。

丸太を飛ぶ。

屋根へ着地。

「おぉ!」

講師も思わず感心する。

「身体ができていますね。」

「ありがとうございます!」

アキノリが笑う。

一方のトウマも必死だった。

「くそっ!」

「二人とも速い!」

何度も転びそうになりながらも食らいつく。

壁を越え、

屋根へ飛び、

最後は転がるように着地。

「はぁ……はぁ……。」

息は上がっている。

それでも最後まで走り切った。

全員がゴールすると、講師達が小声で何か話し始めた。

「あの三人。」

「特に黒い忍装束の子。」

「ああ。」

「もう一人の神社の子も。」

「最後の子も見込みがありますね。」

#朔夜達は首を傾げる。

やがて一人の講師が歩み寄ってきた。

「少し、お時間よろしいでしょうか。」

「?」

三人は顔を見合わせる。

講師は静かに微笑んだ。

「皆さんは本日の基準を十分満たしています。」

「よろしければ、この先の**最終試験**へ挑戦してみませんか?」

「最終試験?」

トウマが目を丸くする。

「はい。」

講師は城を見上げた。

遠くにそびえる天守。

「この城の最上階には、一つの巻物が保管されています。」

「その巻物へ辿り着き、手にした者は――」

少し間を置く。

「当施設認定、**上級忍者**となります。」

周囲からどよめきが起きる。

「もちろん希望者のみ。」

「挑戦しますか?」

#朔夜は迷わなかった。

「受けます。」

「俺も。」

アキノリも笑う。

トウマは二人を見て苦笑した。

「ここまで来たら、俺も行くしかないじゃん。」

その返事に講師は満足そうに頷く。

「結構。」

「それでは十分後、城前へお集まりください。」

三人は城を見上げる。

高くそびえる天守閣。

その最上階に眠るという巻物。

遊園地のアトラクションのはずなのに、不思議と胸が高鳴る。

そして#朔夜は小さく笑った。

「……面白くなってきた。」

その呟きは、風に乗って静かに城へと消えていった。

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