「先生!」
城を飛び出した#朔夜、アキノリ、トウマの三人は、そのまま忍者講師の待つ広場まで駆け戻ってきた。
息を切らせたアキノリが、白紙の巻物を差し出す。
「これ……何も書いてありません!」
「もしかして失敗でしたか?」
トウマも不安そうな表情を浮かべる。
講師は巻物を受け取ると、ゆっくりと広げた。
そこには、やはり何も書かれていない。
真っ白だった。
「……ふむ。」
講師は満足そうに頷いた。
「うむ。それで正解でござる。」
「「「えっ?」」」
三人の声が綺麗に重なった。
「正解?」
アキノリが思わず聞き返す。
「この巻物は、昔より代々受け継がれてきた"無字の巻物"でござる。」
「無字……?」
「忍びの修行に終わりはない。」
講師は静かに巻物を閉じる。
「技は誰かから教わるものではなく、自ら学び、自ら磨き、自ら積み重ねていくもの。故に、この巻物には最初から何も書かれていないのでござる。」
三人は静かに耳を傾ける。
「これから先を書き記すのは、自分自身。」
講師は三人を順番に見回した。
「今日の試験で、お主らは十分それを証明してみせた。」
そう言うと懐から三枚の木札を取り出す。
木目の美しい札には、それぞれ龍の紋章が刻まれていた。
「上級忍者認定証でござる。」
「やった!」
トウマが思わず声を上げる。
アキノリも嬉しそうに札を受け取った。
「これ、神社に飾ろうかな……。」
#朔夜も受け取る。
龍の紋章を指先でなぞる。
重みは軽い。
しかし、その価値は決して軽くなかった。
「また修行に来るでござるよ。」
講師が笑う。
「忍びの道は、一日にして成らず。」
三人は揃って頭を下げた。
「ありがとうございました!」
[newpage]
ホテルへ戻る頃には、昼を少し過ぎていた。
ロビーへ入ると、
「あっ!」
ナツメが真っ先に手を振る。
「帰ってきた!」
「おーい!」
しずかやドラえもん達も集まってきた。
「どうだった?」
「楽しかった?」
質問が一斉に飛ぶ。
トウマは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。
「聞いてくれよ!」
「城に潜入したんだ!」
「え?」
「衛兵が巡回してる本格的な城!」
「忍者みたいに屋根の上走って!」
「天井にも張り付いて!」
「最後は罠を見抜いて宝箱を取ったんだ!」
興奮気味に話すトウマ。
ジャイアンとスネ夫の表情が少しずつ変わっていく。
「……え?」
「そんな簡単に?」
「うん。」
「最終試験。」
その一言で二人は固まった。
「うそだろ……。」
スネ夫が青ざめる。
「去年はそんな簡単じゃなかったぞ!」
「俺達、途中で捕まっちまったからな……。」
ジャイアンも額を押さえる。
「もったいねぇことした……。」
「だから言ったじゃない。」
しずかが苦笑する。
「最後までやった方がいいって。」
「うぐっ……。」
「ぐぬぬ……。」
二人は本気で後悔していた。
その様子を見て皆が笑う。
◇
夕方。
帰る支度が始まる。
旅行鞄へ土産をしまっていく。
恐竜レースのキーホルダー。
忍者認定証。
記念写真。
パンフレット。
それぞれ三日間の思い出だった。
#朔夜も静かに荷物をまとめていく。
その途中、
ふと一枚のパンフレットが目に入った。
『ドリーマーズランド』
表紙にはペガサスが描かれている。
「……。」
楽しかった。
恐竜。
童話。
忍者。
どれも初めての経験だった。
だが。
『君は何者?』
頭の奥で、その言葉だけが蘇る。
アヤメが口にした、あの一言。
本人は覚えていなかった。
今も普段通り笑っている。
考え過ぎなのかもしれない。
「……。」
#朔夜は静かにパンフレットを鞄へしまった。
答えはまだ出ない。
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やがて発車時刻。
ホームにはスタッフ達が並んでいた。
恐竜の着ぐるみ。
童話のキャスト。
忍者講師までいる。
「ありがとうございました!」
「また遊びに来てください!」
大きく手を振る。
列車の汽笛が鳴った。
ゆっくりとミステリートレインが動き始める。
「また来たいね!」
ナツメが窓を開けて叫ぶ。
「次は西部劇の星かな!」
「宇宙海賊の星も面白そうだったぞ。」
「全部回るには何日必要なんだろうね。」
楽しそうな会話が続く。
車窓の向こうでは、小惑星群に広がるドリーマーズランドが少しずつ遠ざかっていく。
恐竜達の姿も、
ペガサス達の群れも、
忍者の城も、
やがて星空へ溶けていった。
「……楽しかった。」
#朔夜が小さく呟く。
その声にナツメが笑う。
「でしょ?」
「ああ。」
短い返事だった。
だが、その一言に三日間の思い出が詰まっていた。
こうしてミステリートレインの旅は終わりを迎える。
笑って、
遊んで、
競い合い、
少しだけ成長した三日間。
しかし誰も知らない。
あの旅で交わされた、たった一つの不可解な問いが――。
[chapter:『君は何者?』]
そして誰も気づかない。足元を小さな蜘蛛が横切ったことを。