ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百十四話

ドリーマーズランドから帰ってきて数日。

八月の終わりの空気は、まだ夏の熱を残していた。

朝の光は強く、蝉の声は衰える気配がない。

それでも、今日から学校が始まる。

#朔夜はいつものようにランドセルを背負い、家を出た。

(……久しぶりだな)

久しぶりの通学路は、どこか違って見えた。

夏休みの間に少し伸びた雑草や、色あせた日除け。

けれど、そこに立つと「日常」が戻ってきた気がした。

教室に入ると、すぐに声が飛んできた。

「おーい#朔夜!」

「久しぶり!」

「夏休みどうだった?」

同級生たちが次々に集まる。

#朔夜は軽く手を上げる。

「まあ……色々あったよ」

「何それ、気になるんだけど!」

「旅行行ったのか?」

「まあ、そんなところ」

曖昧な返事。

当然ながら、ミステリートレインや恐竜の星の話はできない。

そのやり取りを遠巻きに見ながら、のび太がぽつりと呟いた。

「ぼくは……宿題が大変だったよ……」

ドラえもんが横でため息をつく。

「だから早くやれって言ったのに」

教室にいつもの空気が戻っていく。

始業式の後、最初の授業は担任からの連絡だった。

[newpage]

「では、夏休みの宿題を提出してください」

その一言で教室がざわつく。

「やべ……」

「家に忘れました!」

「昨日やろうと思ってた!」

「明日持ってきます!」

あちこちから苦しい言い訳が飛び交う。

担任は慣れたようにため息をついた。

「毎年同じことを言うな」

クラスが笑いに包まれる。

#朔夜は黙って、自分のノートと作品を机に並べた。

提出物はすべて揃っている。

「#朔夜君は全部出てるね」

担任が確認し、静かに頷く。

「みんなも見習うように」

「さすが#朔夜」

「真面目すぎるだろ」

周囲からそんな声が聞こえる。

#朔夜は少しだけ肩をすくめた。

しかし内心は違っていた。

自由研究だけは……)

そこだけが、どうにも引っかかる。

他の宿題は完璧だ。

問題集も、読書感想文も、工作も。

だが自由研究だけは、自信が持てなかった。

[newpage]

理由は単純だった。

この夏は、あまりにも色々なことが起きすぎた。

どれも普通の「観察」では終わらない体験だった。

結果として、まともに一つのテーマを掘り下げる時間がなかった。

だから#朔夜の自由研究は、「調べた」というより「聞いた話をまとめた」ものになっている。

授業が終わり、放課後。

教室の片付けが終わる頃、職員室では担任が机に向かっていた。

外ではまだ蝉が鳴いている。

しかし校舎の中は静かだった。

吹奏楽部の音も、運動部の掛け声もない。

始業式直後の校舎は、まだ完全には動き出していない。

その静けさの中で、紙をめくる音だけが響いていた。

「……さて」

担任は提出された自由研究を一冊ずつ開いていく。

昆虫採集。

植物観察。

工作。

それぞれに夏らしい工夫があった。

「これもいいな……」

小さく呟きながら次へ進む。

そして、一冊のノートで手が止まった。

表紙には丁寧な文字で書かれている。

『妖怪と幽霊の違いについて』

「……ほう」

担任は少しだけ興味を示し、ページをめくった。

目次、調査方法、まとめ。

そこには目玉おやじや、アキノリの祖母への聞き取りが記されていた。

「目玉おやじ……?」

思わず小さく声が漏れる。

だが内容はしっかりしている。

幽霊とは何か。

悪霊とは何か。

妖怪とは何か。

それぞれの違いを、自分なりに整理している。

(よく調べているな……)

担任は一度ノートを閉じ、少し考えるように天井を見上げた。

そして小さく呟いた。

「境港へ行ったことがあるのかな……」

誰に向けた言葉でもない。

ただの独り言だった。

しかしその一言には、どこか引っかかるものがあった。

担任は再びノートを開き、静かに読み進めていった。

夕暮れ。

窓から差し込む光が少しだけ傾いていた。

夏が終わりかけていることを、静かに告げるように。

蝉の声が遠くなる。

代わりに、校舎の中に静かな日常の音が戻っていく。

そして、夏休みは完全に終わった。

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