ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百十六話

「アヤメちゃん、一人で来たの?」

展示ケースの前で足を止めた#朔夜が尋ねると、アヤメは小さく首を横に振った。

「ううん。学校の課外授業。」

「そうなんだ。」

「#朔夜君も?」

「うん。社会の先生が企画してくれて。」

「一緒だね。」

そう言って微笑むアヤメの表情は、普段と何も変わらない。

あの時――童話の星で見せた異質な雰囲気など、微塵も感じさせなかった。

「そうだ。」

アヤメは何かを思い出したように振り返る。

「紹介するね。」

少し離れた場所で展示を見ていた二人が近付いてきた。

一人は#朔夜達と同じくらいの年頃の少年。

蒼みがかった髪に鋭い目付き。

もう一人は落ち着いた雰囲気の男性だった。

「同じクラスの酒呑ハルヤ君。」

少年は軽く会釈をする。

「それから、引率の島之内先生。」

「こんにちは。」

島之内は柔らかく微笑んだ。

#朔夜も軽く頭を下げる。

「#朔夜です。」

その瞬間だった。

ハルヤの視線が、#朔夜の胸元で止まる。

ネックレス。

服の下から少しだけ覗いた宝石が、照明を受けて静かに光っていた。

ハルヤの眉がわずかに動く。

視線が宝石から朔夜の顔へ移る。

そして、何の前触れもなく口を開いた。

「……お前、何者だ?」

その場の空気が一瞬止まった。

「ハルヤ君?」

アヤメが不思議そうに首を傾げる。

#朔夜は驚いたものの、表情は変えない。

(……またか。)

童話の星でアヤメに言われた言葉。

『君は何者?』

そして今度は、その友人らしき少年から同じような問い。

だが、ハルヤの表情を見る限り、悪意があるようには思えなかった。

むしろ――警戒。

(アヤメちゃんを"姫"って呼んでたな。)

先ほどから何度も耳にしていた呼び名。

その呼び方も、どこか普通ではない。

(知らない奴が話しかけてきたから警戒してるだけ……かな。)

#朔夜はそう結論付けた。

「普通の小学生だけど。」

そう答えると、ハルヤは黙ったまま視線を外した。

納得した様子ではない。

しかし、それ以上追及してくることもなかった。

[newpage]

場の空気を変えるように、島之内が口を開く。

「ところで君は?」

「小学校の課外授業で来ました。」

「そうか。」

島之内は頷く。

「引率の先生は?」

「あそこです。」

#朔夜は迷わず一方向を指差した。

島之内とアヤメ達が視線を向ける。

そこでは――

「この展示は、水木しげる先生が実際に全国を回って集めた民間伝承がですね……!」

社会科教師が、展示パネルの前で熱弁を振るっていた。

周囲には数人の生徒。

いや、生徒というより、完全に聞き役にされている。

「それで妖怪というものは――」

「先生。」

島之内が声を掛ける。

返事はない。

「先生。」

まだ気付かない。

「先生。」

三度目でようやく振り返った。

「あっ、どうも。」

「どうも、ではありません。」

島之内の目がぎらりと光る。

「生徒から目を離してどうするんですか。」

「あ……。」

「課外授業ですよ?」

「その……展示が面白くて。」

「気持ちは分かります。」

一拍置いて。

「ですが先生でしょう。」

「……はい。」

しゅんと肩を落とす社会科教師。

その様子に周囲の生徒が思わず笑う。

#朔夜も口元を少しだけ緩めた。

(ざまぁないな。)

社会科教師は照れ臭そうに頭を掻いている。

その時だった。

――ぞくり。

背筋を何かが撫でたような感覚。

#朔夜の笑みが消える。

(……?)

誰かに見られている。

そんな感覚。

ゆっくりと振り返る。

展示室。

観光客。

生徒。

館内スタッフ。

誰もこちらを見ていない。

(気のせい……?)

気のせいだったのだろうか。

首を傾げながらも、それ以上気にすることはなかった。

館内放送が流れる。

『まもなく特別展示の解説を開始いたします。』

生徒達が再び展示室の奥へ歩き始める。

#朔夜もノートを閉じ、小さく息を吐いた。

慌てて柱の陰に隠れた視線の主を知らぬまま。

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