ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百二十話

線路を四人は歩いていた。

街灯の灯りは駅を離れるにつれ少なくなり、今ではスマホのライトだけが足元を照らしている。

枕木を踏む音が一定の間隔で響く。

そして、それを追い立てるように――。

ドン……。

遠くから祭囃子の太鼓が鳴る。

一定のリズム。

止まる気配はない。

むしろ、ゆっくりと距離を縮めてきているようだった。

先頭を歩くマオさんが、不意に振り返った。

「そういえば。」

何気ない口調だった。

「あの宝石、役に立った?」

#朔夜は首を傾げる。

「宝石……ですか?」

「ほら。」

マオは自分の首元を指差した。

「夜市で渡したやつ。」

「ああ。」

#朔夜は胸元のネックレスへ手を添えた。

妖怪縁日でマオから譲り受けた宝石。

それ以来、肌身離さず身につけている。

「役に立ったというか……。」

「お守りみたいな感じで持ってます。」

「そう。」

マオは満足そうに笑った。

「なら良かった。」

「……。」

その会話を聞いていた零さんが、嫌そうに眉をひそめる。

「お前が渡したのか。」

静かな声だった。

だが、その声音には明らかな警戒が混じっている。

「うん。」

マオはあっさり頷く。

「僕が渡した。」

「……何を考えている。」

「何も?」

へらり、と笑う。

「あるべき場所へ返しただけだよ。」

「僕は。」

[newpage]

零さんの目が細くなる。

「……返した?」

「そう。」

「持ち主のところへ。」

#朔夜はぽかんとした。

「持ち主って……。」

思わず自分を指差す。

「僕ですか?」

「うん。」

「君。」

「え?」

「え?」

意味が分からない。

初めて会った日に譲ってもらった宝石だ。

自分の物だった覚えなどない。

隣では伊吹丸さんが興味深そうに宝石を眺めていた。

「……ほう。」

「どうかしました?」

#朔夜が尋ねる。

伊吹丸さんは腕を組み、しばらく黙っていた。

「その石。」

「只の石ではない。」

零さんも視線を向ける。

「気付いていたか。」

「当然じゃ。」

「分からぬほど[[rb:耄碌 > もうろく]]してはおらぬ。」

伊吹丸さんは鼻を鳴らした。

「名は知らぬ。」

「由来も知らぬ。」

「じゃが……。」

一歩、#朔夜へ近付く。

「妙な力を宿しておる。」

「妙?」

「うむ。」

伊吹丸さんは宝石を見つめたまま続ける。

[newpage]

「妖力とも違う。」

「神気とも違う。」

「されど、そのどちらにも似ておる。」

「不思議な石じゃ。」

零さんが短く問う。

「説明できるか。」

「できぬ。」

即答だった。

「分からぬものは分からぬ。」

「ただ。」

伊吹丸さんはマオさんを見る。

「これほどの力を宿した物を、軽々しく人へ渡すような代物ではない。」

「ふふ。」

マオさんは笑うだけだった。

「だから返したんだよ。」

「あるべき場所へ。」

「……。」

零さんは黙る。

その視線は依然として鋭い。

刀こそ抜いていないものの、警戒は少しも解いていないようだった。

「零。」

伊吹丸さんが呆れたように言う。

「そのような顔をするでない。」

「信用できん。」

「分かっておる。」

「だが。」

鬼は肩を竦める。

「今ここで揉めても仕方あるまい。」

「むしろ。」

前方を見据える。

「敵は別におる。」

その言葉に全員が足を止めた。

ドン……。

太鼓が鳴る。

先ほどより近い。

耳の奥まで響くような重低音。

「近付いてる。」

マオさんが静かに言った。

「急ごう。」

四人は再び歩き始めた。

やがて、線路の先に黒い穴が見えてくる。

トンネルだった。

古びた煉瓦造り。

入口はぽっかりと口を開け、光を拒むような闇に包まれている。

[newpage]

「ここか。」

零さんが呟く。

#朔夜は無意識に喉を鳴らした。

都市伝説では、この辺りで片足の老人と遭遇したはずだ。

スマホのライトを向ける。

誰もいない。

入口にも。

線路脇にも。

闇の奥にも。

人影一つ見当たらなかった。

「……いませんね。」

「その方が気味が悪い。」

零さんが短く答える。

伊吹丸さんも周囲へ目を凝らしていた。

「気配もない。」

「静かすぎるの。」

マオさんだけは表情を変えない。

「行こう。止まってる方が危ない。」

そう言って、迷うことなくトンネルへ足を踏み入れる。

#朔夜達も続いた。

スマホのライトだけが、湿った壁を白く照らす。

ぽたり。

どこかで水滴が落ちる音。

四人は黙ったまま歩き続ける。

靴音だけが反響する。

コツ。

コツ。コツ。

コツ。

……コツ。

#朔夜は一瞬だけ眉をひそめた。

(……あれ?)

歩調を合わせているはずなのに。

靴音が、どこか一つ多く聞こえた気がした。

振り返る。

ライトが照らすのは、零さん、伊吹丸さん、マオさん。

誰も変わらず歩いている。

「どうした?」

零さんが振り返る。

「いえ……。」

#朔夜は首を横に振った。

「気のせい……です。」

「そうか。」

再び歩き出す。

だが、胸の奥に引っ掛かりだけが残った。

コツ。

また一つ。

自分達のものではない足音が、暗いトンネルの奥から静かに響いた気がした。

そして――。

ドン。

祭囃子の太鼓だけは、相変わらず鳴り止むことなく、闇の向こうから四人を追い続けていた。

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