ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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百二十一話

かたす駅は、思っていた以上に「普通の無人駅」だった。

古びたホーム。

風に揺れる雑草。

遠くで鳴く虫の声。

だがその「普通さ」が、逆に異物だった。

ここは、都市伝説の続きにある場所だと知っているからこそ。

「……本当に、繋がってるんだな」

#朔夜がぽつりと呟く。

テレビ番組や特集で、いわゆる“きさらぎ駅”の話を知っていた。

画面越しの作り話のはずだったものが、今は足元にある。

一方で零さんは違う。

「洒落怖」で、何度も読み返した側の人間だった。

「きさらぎ駅からの派生地点……“かたす駅”か」

静かに呟く声は冷たい。

「原典通りなら、ここから先で“帰れるかどうか”が決まる」

その言葉に、空気がわずかに重くなる。

そして──

「へぇ。詳しいんだね」

場違いなほど軽い声。

マオさんだった。

ホームの端に寄りかかり、へらへらと笑っている。

緊張感がない。むしろ楽しんでいるようにすら見える。

[newpage]

零さんの視線が鋭くなる。

「お前は何者だ」

「ただの案内役だよ」

「信用できないな」

「それ、よく言われる」

軽い返事。

だが、その目だけは笑っていなかった。

#朔夜は二人の間に漂う空気を見て、少しだけ気を遣うように口を開く。

「とりあえず……連絡先、交換しません?」

「は?」

零さんが即座に反応する。

「今ここでか?」

「いや、こういう状況だし……もしはぐれたら困るじゃないですか」

合理的な提案だった。

零は一瞬迷うが、すぐにスマホを取り出す。

「……いいだろう」

マオは相変わらず軽い。

「いいよ、いいよ。そういうの嫌いじゃないし」

へらへら笑いながら端末を差し出す。

三人は連絡先を交換した。

ホームには静けさが戻る。

しかし遠くから、まだ祭囃子のような残響が微かに聞こえている気がした。

[newpage]

ドン……。

一定の間隔。

見えない何かが、まだこちらを追っている。

「……電車、来るんですかね」

#朔夜が空を見上げるように言う。

「来るさ」

零さんが即答する。

「“来てしまう”と言った方が正しいかもしれないがな」

「怖いこと言わないでくださいよ」

#朔夜は苦笑する。

その時だった。

ガタン。

遠くから、鉄の軋む音。

誰もいないはずの線路の奥に、光が見えた。

「……来た」

零さんが低く言う。

それは、普通の電車だった。

古い車体。

しかし窓の中は暗く、誰も乗っている気配がない。

なのに、確かに“こちらへ来る意思”だけがある。

速度を落とし、ホームへ滑り込むように停止する。

シュー……

車体の横で、古いドアがゆっくりと開いた。

同時に──

窓が、下がった。

まるで誰かがこちらを覗くために。

「……え?」

#朔夜が息を呑む。

電車の中は、空っぽだった。

しかし“空っぽなのに、見られている”感覚だけが残る。

「ねぇ」

マオさんが突然、声を上げる。

「ちょっと話してくるね」

そう言って、電車の窓に近づく。

「おい」

零さんが止めようとするが、マオさんはもう動いていた。

窓際に立ち、何かと話している。

だが──声は聞こえない。

まるで、音だけが切り取られているようだった。

[newpage]

数秒。

マオさんはふっと笑った。

そしてこちらを振り返る。

「乗せてくれるって」

「……は?」

#朔夜が目を瞬かせる。

「誰が?」

「電車」

当然のように言う。

零さんの目が細くなる。

「何を勝手に──」

しかしマオは気にしない。

むしろ楽しそうに肩をすくめた。

電車のドアは開いたままだった。

まるで「早く乗れ」と言っているように。

ドン……。

また遠くで太鼓が鳴る。

だが今度は、さっきより近い。

そして速い。

#朔夜の胸元の宝石が、かすかに熱を持った。

「……これで、帰れるんですか?」

気づけば、そう口にしていた。

マオは一瞬だけ考えるような仕草をして──

「たぶん?」

小さく笑って言った。

その「たぶん」は、肯定ではない。

否定でもない。

ただの曖昧な返事。

次の瞬間だった。

「ふざけるな」

零さんが動いた。

一歩で距離を詰め、マオの襟を掴む。

「お前は、何を企んでいる」

鋭い動き。

しかしマオさんは抵抗しない。

ただ、へらへらとしたまま。

「何も企んでないよ」

「嘘をつくな」

零さんの声が低くなる。

伊吹丸さんが肩のあたりで唸る。

「零、そやつは危うい」

「分かっている」

「なら──」

言い切る前に。

「……あれ?」

#朔夜の視界が揺れた。

足元が遠くなる。

意識が、急に沈む。

「眠……」

零さんも眉をひそめる。

「……何だ?」

伊吹丸さんが目を見開く。

「これは──術ではない」

ドン。

太鼓の音が、耳のすぐそばで鳴った気がした。

マオさんが、最後にこちらを見ている。

笑っている。

いつもと同じ顔。

なのに、その奥だけが空洞のようだった。

「じゃあね」

声だけが聞こえた。

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