夕暮れの有星神社裏、プレハブの小屋には妖怪探偵団の面々が集まっていた。神社の境内から少し外れたその場所は、普段は物置として使われているだけの静かな空間だが、今は張り詰めた空気が漂っている。
「つまり、人面犬は一体じゃない可能性が高いってことだ」
アキノリがスマホの画面を操作しながら言う。そこには“うすらぬら”という匿名掲示板の投稿が並んでいた。ここ数日、サクラニュータウン周辺で続く行方不明騒ぎ。それに似た目撃情報が断片的に書き込まれている。
「共通点はイケメン……ってことだね」
ナツメが腕を組んで呟くと、ケータが妙に真剣な顔で頷いた。
「なら分かりやすいじゃん! 俺とトウマと朔夜で囮やればいいんだろ?」
「軽く言うなよ……」
トウマは苦笑しながらも、視線は真剣だった。今回の件は冗談では済まない空気がある。
#朔夜は小さく息を吐くと、静かに言った。
「三手に分かれた方がいい。近くにいすぎると、逆に寄ってこない可能性がある」
「……確かに」
アキノリが頷く。
「群れってより、単独で狩ってる感じだ。なら、広く撒いた方が遭遇率は上がる」
そうして作戦は決まった。朔夜、トウマ、そしてケータを中心に、それぞれ別ルートでサクラニュータウンの裏道や人気の少ない場所を巡ることになった。
さらに、今回はチャラトミも同行していた。前日の件で事情を知っており、現場の状況を記録する役目を半ば強引に買って出た形だ。
「いや〜これ配信したらバズるやつでしょ!」
「やめろ、余計なことするな」
#朔夜が即座に制止するが、チャラトミは悪びれない。
「分かってるって! ちゃんと空気読む系配信者だから!」
その言葉に、ナツメとケータが微妙な顔をする。
「信用していいのかそれ……」
そんなやり取りを経て、一行は夕暮れの街へと散っていった。
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日が傾き、サクラニュータウンの影が長く伸びる。トウマは人気のない路地裏をゆっくりと歩いていた。風が生温く、どこか湿った匂いが混じっている。
「……犬?」
ゴミ捨て場の前で、小さな影が動いた。
トイプードルのような毛並みの犬が、ゴミ箱を鼻先で漁っている。やせ細っているが、怯えた様子はない。ただ必死に何かを探しているようだった。
トウマは少しだけ迷い、そして一歩近づく。
「……大丈夫か?」
しゃがみ込むと、犬は一瞬だけこちらを見上げた。
つぶらな瞳。あまりにも普通の、ただの野良犬。
なのに。
胸の奥が、妙にざわついた。
(なんだ、この感じ……)
トウマが手を伸ばそうとした瞬間、犬はビクリと身体を震わせた。
そして、弾かれたように駆け出す。
「お、おい!」
追いかける間もなく、犬の姿は路地の奥へ消えた。
その直後だった。
空気が変わる。
さっきまでの湿った匂いとは違う、妙な気配。
トウマがゆっくりと振り返る。
そこにいた。
「見つけたぞ。コンチクショウ!」
人面犬。
犬の身体に、不気味な中年男性の顔が貼り付いたような異形が、路地の奥からこちらを覗いていた。
「どいつもこいつも!イケメンすぎるんだよ!」
「……っ!」
トウマは一歩後退する。
だが、人面犬は楽しむように鼻を鳴らした。
「逃げてもいいぞ。匂いはもう覚えたからな!」
次の瞬間、地面を蹴って飛びかかってきた。
「っ、くそ……!」
トウマは全力で駆け出した。
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一方その頃、別ルートを歩いていたチャラトミは、完全に別の空気を感じていた。
「え、なんかここ……気温低くない?」
スマホを掲げながら歩いていると、画面が一瞬だけノイズを走らせる。
「圏外じゃないのに変だな……」
そのとき。
視界の端に、何かが“揺れた”。
電柱と電柱の間。細い糸のようなものが一瞬だけ光る。
「……?」
見上げた瞬間だった。
天井ではない、建物の隙間から、何かが垂れている。
白い糸。
その先に、黒い影。
「え、ちょ――」
それは人型に近いが、人ではない。
蜘蛛のような脚と、女の上半身を持つ異形。
「いい匂い……騒がしい人間……」
「いやいやいやいや待って待って無理無理無理!」
チャラトミは即座に踵を返し、全力で走り出した。
「助けてええええええ!!」
その叫びは、夕暮れの街に響いていった。
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そしてプレハブ小屋付近。
アキノリの端末に通知が入る。
「……トウマから位置共有だ!」
ナツメとケータが顔を見合わせる。
#朔夜は短く息を吐き、立ち上がった。
「分かれよう。挟み込むんだ」
「了解!」
全員が動き出す。
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ただ一人。
スマホを握ったまま、チャラトミだけがその場に取り残されていた。
「……え、俺は?」
返事はない。
遠くで、何かが跳ねる音がした。