袋小路での一件の後も、#朔夜の中には妙な引っかかりが残っていた。
――確かに、あそこには“何かの気配”があった。
しかし、アキノリの妖魔レーダーが示した妖力反応とは裏腹に、現場には痕跡らしい痕跡が何一つ残っていなかった。
帰宅後、#朔夜は短くメッセージを打つ。
「妖力反応があったんですけど.....現場には何もいなかったです」
送り先は石動零。きさらぎ駅の件以来、最低限の情報共有を続けている相手だ。
すぐに既読がつき、短い返信が返ってくる。
『状況整理。場所は』
#朔夜はサクラニュータウンの袋小路について簡潔に説明した。
さらにアキノリの妖魔レーダーで反応を検知したことも付け加える。
数秒後、零さんからリンクが送られてきた。
『これ』
再生すると、映し出されたのは数年前の配信動画だった。
画面の中で騒がしく笑う配信者――チャラトミ。
派手なリアクションと無謀な行動で、危険地帯へ平然と踏み込んでいく様子が記録されている。
#朔夜は眉をひそめた。
「これが……?」
今のチャラトミとは、明らかに違う。
少なくとも#朔夜の知る彼は、危険を察すればすぐに引くタイプだった。
そこへ零さんのメッセージが重なる。
『昔の動画だ。』
#朔夜は指を止める。
「昔……?」
『こいつは昔、迷惑系としてかなり有名だった。トラブルも多いし、恨みを買ってるケースもある』
事実としては理解できる話だった。
しかし、それが今の証言にどこまで繋がるのかは別問題だ。
零は続ける。
『重要なのは“信用度”だ。この動画も、本人の発言も、全部そのままは扱えない』
つまり、チャラトミという存在そのものが“情報源として揺れている”ということだ。
#朔夜は小さく息を吐いた。
「参考にはなるけど、決定打にはならない、ってことですね」
『そういうことだ』
短く返答が来る。
一瞬、空気が重くなる。
偶然か、それとも過去と現在が重なっているのか。
#朔夜は思考を巡らせた。
[newpage]
さらにメッセージが届く。
『あと、お前の人脈の広さだが』
その一文に、#朔夜はわずかに目を細める。
『妖怪探偵団と繋がってるよな。普通に』
「……やっぱりバレてた」
完全に隠していたつもりはなかったが、積極的に話したこともない。
それでも零さんは、必要な情報だけを正確に拾い上げている。
#朔夜は短く返す。
「少し関わりがあるだけです」
その曖昧な返答に対し、零さんは追及しなかった。
代わりに、別の文が届く。
『チャラトミの証言も含めて、現場の状況は信用しすぎるな』
#朔夜は画面を見つめる。
言われているのは、誰かが嘘をついているという話ではない。
もっと曖昧で、もっと厄介なものだ。
――見えているものが、そのまま真実とは限らない。
『現時点では断定できない。少し調べるから待ってろ』
[newpage]
その言葉の後、少し間を置いて、最後の一文が送られてきた。
『他に隠してることはないよな?』
軽い調子にも見えるその一文に、妙な圧が混ざっている。
#朔夜はしばらく画面を見つめたまま、指を止めていた。
窓の外では夜が深まり、風がガラスをかすかに揺らす。
袋小路で感じた“何もいなかった違和感”が、ゆっくりと輪郭を持ちはじめていた。
#朔夜は小さく息を吐き、画面を閉じる。
その胸の奥で、まだ言語化できない何かだけが静かに残っていた。