秋の町には、色づき始めた木々とともに屋台の明かりが並び始めていた。
焼き芋の香ばしい匂い、甘い飴の光沢、祭囃子の軽やかな音色。
この秋祭りは、かつては収穫祭と呼ばれていたらしい。
今では地域イベントとして親しまれているが、その名残か、どこか神社との結びつきが強い空気が漂っていた。
#朔夜たちはまずサクラニュータウンの秋祭りを楽しんだあと、次の会場である月見台の秋祭りへと移動していた。
こちらの会場は規模が大きく、地元の学校や団体も多く参加している。
その一角で、獅子舞を披露する予定の部活が準備を進めていた。
だが、開始時間が迫る中で問題が起きていた。
「まだ来てない部員がいるんです……」
引率していた社会科の教師は、時計を見ながら焦りをにじませていた。
本番まで、あと十分もない。
#朔夜はその様子に気づき、自然と足を止めた。
「何かトラブルですか?」
教師は困ったように説明する。
獅子舞の演者の一部が、連絡のつかないまま到着していないという。
代役もすぐには見つからず、進行は完全に止まりかけていた。
そのとき、#朔夜は近くの控室に置かれた衣装箱を見つけた。
あれなら。
巫女装束のような衣装と、神楽鈴が並んでいた。
ほんの一瞬だけ考えたあと、#朔夜は言った。
「時間稼ぎなら、できます」
教師が驚いた顔をする。
#朔夜は静かに続ける。
「神楽舞なら、少しだけなら」
もともと正式な舞手ではないが、形だけならできる。
今必要なのは完成度ではなく、“場をつなぐこと”だった。
数分後、会場の進行は急遽変更された。
アナウンスが流れる。
『予定を変更し、神楽舞の奉納を先に行います』
[newpage]
観客の視線が舞台へと集まっていく。
ドラえもんたちは客席にいた。
気づけば、#朔夜の姿が見当たらない。
「またどっか行ったの……?」とのび太が呟く。
しかし次の瞬間、アナウンスが続く。
そして舞台袖から現れたのは、先ほどまでとはまるで違う雰囲気の#朔夜だった。
化粧が施され、巫女装束に身を包み、神楽鈴を手にしている。
一瞬、会場の空気が静まる。
そして音が鳴り始める。
太鼓と笛の音に合わせて、#朔夜はゆっくりと舞い始めた。
無駄のない所作。
揺れる袖。
鈴の音が空気を切るたびに、観客の視線が引き寄せられていく。
気づけば誰もが言葉を失っていた。
「……すごいな」
思わず漏れた声は、アキノリだった。
隣でトウマとケータも息を呑んでいる。
「普通に綺麗すぎるだろ……」
ナツメとしずかは、少し誇らしげに微笑んでいた。
「やっぱり似合うね」
「#朔夜くんは、そういうのが自然にできるから」
一方でアキノリ、トウマ、ケータは納得がいかない様子で首を傾げる。
「なんであんなに似合うんだよ……」
その疑問に、ナツメがさらりと答えた。
[chapter:「だって#朔夜、ボーイッシュ系の女子だし」]
一瞬の沈黙。
「「「……え?」」」
アキノリ、トウマ、ケータの三人が固まる。
のび太たちは当然のように頷いている。
「え、知らなかったの?」
「普通に女の子だよ?」
三人は顔を見合わせたまま、固まっていた。
これまでの接し方を思い返すほどに、妙な気恥ずかしさがこみ上げてくる。
舞台の上では、朔夜の舞が静かに終盤へと向かっていた。
観客の拍手が広がる。
その音に包まれながら、収穫祭は何事もなく進んでいく。
ただひとつ、空気のどこかだけが、少しだけ騒がしかった。