夜。
月見台の住宅街は、静かだった。
街灯の明かり。
遠くで鳴く犬の声。
春夜の少し冷たい風。
「……よし」
#朔夜は家の塀を乗り越え、小さく息を吐いた。
窓の明かりは少ない。
多分、もう家族は寝ている。
(いける)
そう判断し、そっと二階の自室へ向かおうとした――その時。
「#朔夜」
背後から、鋭い声。
びくり、と肩が跳ねた。
ゆっくり振り返る。
そこにいたのは。
腕を組み、仁王立ちする母だった。
[newpage]
「どこに行ってたの!」
「…………」
終わった。
本能的に理解した。
#朔夜は一瞬だけ現実逃避しかけたが、無理だった。
母の圧が強い。
「え、えっと……」
視線が泳ぐ。
いや、嘘はまずい。
でも本当のことももっとまずい。
「ドラえもん達と遊んでた……?」
最後が若干疑問形になった。
自分でも怪しいと思う。
だが、嘘ではない。嘘では。
「それなら――」
母が一瞬だけ納得しかける。
しかし次の瞬間。
「って騙されないわよ!!」
やっぱり駄目だった。
「うっ」
正論。
何も言い返せない。
「スマホも繋がらないし! 警察呼ぶ寸前だったんだからね!?」
「ご、ごめんなさい……」
完全に縮こまる。
その時。
「まぁまぁ」
助け舟が入った。父だった。
新聞片手に、どこか呑気な顔をしている。
「そういう年頃なんだよ」
「あなたは甘いの!」
「でも無事だったんだし」
父は苦笑しながら#朔夜を見た。
「な?」
「……うん」
全力で頷いた。
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「ほら、とりあえず今日はもう寝なさい」
「はい!」
#朔夜は即答し、そのまま二階へ逃げ出した。
階段を上がる。
逃げる。
一秒でも早く安全圏へ。
その途中。
すれ違いざまに、父が小さく呟いた。
「遊ぶのはいいけど、夜遊びはほどほどにね」
「…………」
やっぱり全部バレていたらしい。
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自室へ飛び込み、ベッドへ倒れ込む。
「やらかした〜……」
枕へ顔を埋めた。
まさか異星冒険の後に、現実で怒られるとは思わなかった。
しかも。
(ブリザーガより怖かったかも)
いや、さすがにそれは盛った。
少しだけ反省する。
そして、スマホを取り出した。
通知が大量に溜まっている。
【グループ:異世界交流会(仮)】
アキノリが勝手につけた名前だった。
「ダサ……」
でも変えるほどでもない。
#朔夜はトーク画面を開いた。
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【ケータ】
『無事帰れたー?』
【のび太】
『ぼくめちゃくちゃ眠い……』
【アキノリ】
『ジャイアンリサイタル第二部開催決定!!』
【トウマ】
『やめて』
【ナツメ】
『やめなさい』
【ジャイアン】
『なんでだよ!!』
カオスだった。
でも。
ちゃんと繋がっている。#朔夜は少しだけ安心する。
(……よかった)
世界が違っても、ちゃんと連絡は届くらしい。
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ちなみに。
ドラえもん達は、特に怒られなかったらしい。
『いつものことだから』とのことだった。
「慣れって怖……」
ことあるごとに未来だの宇宙だの行っているせいか、親御さん達の感覚が若干麻痺している気がする。
ナツメ達も平気だった。
まぁ。
ナツメ。
トウマ。
アキノリ。
全員中学生だ。
多少遅くなっても、そこまで問題視されないのかもしれない。
……いや。
ひとりだけ、おかしい。
【ケータ】
『オレも怒られなかった!』
「なんで?」
思わず真顔になる。
ケータは自分とそこまで年齢が変わらないはずだ。
なのに。
なぜ。まさか。
ドラえもん達と同じで、冒険のし過ぎて親御さんが鈍感になっているのだろうか。
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つまり。
今回ちゃんと怒られたのは、自分だけだった。
「理不尽じゃない……?」
ベッドへ倒れ込みながら呟く。
スマホが震えた。
【しずか】
『でも、ちゃんと帰れてよかったね』
その一文に、少しだけ肩の力が抜けた。
窓の外では、春の夜風が静かに吹いている。
平和な夜。
――少なくとも、今はまだ。