ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百三十話

秋祭りが終わってから数日後、街にはいつもの日常が戻りつつあった。だが、サクラニュータウンの空気だけはどこか落ち着かないままだった。

#朔夜のスマートフォンに、グループメールが一件届く。

——『さくらエクセレントツリー、行ってみない?』

発信者はナツメだった。

「さくらエクセレントツリー……」

#朔夜はその名前を反芻する。町の中心にそびえる巨大な観光樹木。夜にはライトアップされ、恋人たちの定番スポットとして知られているが、登ったことはなかった。

軽い気持ちで「行く」と返信したのが始まりだった。

当日、のび太は例によって補習。ドラえもんはその付き添い。ジャイアンとスネ夫は野球の試合、しずかはピアノのレッスン。

結果として、その場に来られたのは限られた面子だけだった。

観光施設とはいえ、思った以上に高さがある。

そのときだった。

「——#朔夜」

不意に腕を引かれる。

反射的に身構えるより早く、声の主が耳元で笑った。

ナツメだった。

「こっちこっち。静かにね」

人差し指を唇に当てる仕草は、妙に悪戯っぽい。

少し遅れて、トウマが姿を現す。気恥ずかしそうに視線を逸らしながらも、状況は理解しているようだった。

「……何してるの?」

朔夜が問うと、ナツメは柱の影を指差した。

そこには——アキノリがいた。

そして、その向かいに立つアヤメ。

「えっ……」

#朔夜は思わず息を呑む。

アキノリはいつもの軽さを消し、真剣な顔をしていた。手には小さな花束。

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告白だ、と直感で理解する。

「今、声出したらバレるからね」

ナツメが楽しそうに笑う。

#朔夜は言われるまま、柱の影に身を隠した。

反対側の柱にはさらに別の影。

ハヤトと、島之内先生だった。

「いや、だから! あれは見過ごせないと言ってるだろう!」

「落ち着いてください。ここで暴れても意味がない」

ハヤトが苛立ちを隠さず叫び、島之内先生——洞潔はそれを後ろから抑え込むように腕を押さえていた。

どう考えても普通の観光地の光景ではない。

だが、今はそれどころではなかった。

アキノリが一歩踏み出す。

花束を差し出す。

「アヤメさん、俺は——」

その瞬間。

空気が変わった。

温度が落ちるような、嫌な圧力。

アヤメの肩がわずかに震えた。

「……え?」

次の瞬間、彼女の体の内側から“何か”が蠢いた。

皮膚の下を這うように、黒い影が浮き上がる。

ナツメが息を呑む。

「……来る」

アヤメの背後が裂けるように歪んだ。

そこから現れたのは、人の形をしていない異形。

女郎蜘蛛。

細長い脚、ねじれた胴体、そして人の顔を模したような不気味な上半身。

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「……アッハハハッ!」

笑い声が響く。

何がおかしいのか#朔夜には理解ができなかった。

同時に、別方向から影が飛び込んだ。

炎を纏った鬼が、空中から斬りかかる。

さらにもう一体。

巨大な酒瓶を背負った鬼が、地面を蹴り上げるように突撃し、剣を振り下ろした。

さらにもう一体。

炎を纏った鬼が、空中から斬りかかる。

衝撃音。

空気が裂ける。

女郎蜘蛛は悲鳴のような音を上げながら後退した。

だが、その中心——

アヤメの身体が崩れ落ちる。

「アヤメ!」

アキノリが駆け寄り、彼女を抱きとめる。

その顔は蒼白だった。

「酒呑童子……!?」

その言葉は、誰に向けたものだったのか分からない。

空にはまだ、裂けたような黒い残滓が揺れている。

ツリーの上に、重い沈黙が降りる。

#朔夜はその光景を見上げながら、胸の奥にひとつだけ確信する。

——これは、偶然じゃない。

そして、隠れていたナツメの横で、トウマが小さく呟いた。

「これ……ただの妖怪じゃ、ないよね」

誰も答えない。

ただ、風だけが高い塔の間を抜けていった。

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