ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百三十一

「酒呑童子……!?」

アキノリの叫びが、さくらエクセレントツリーの広場へ響き渡った。

巨大な酒瓶を背負った鬼――酒呑童子。

そして、全身へ赤い炎を纏う鬼――洞潔。

二体の鬼は一切の躊躇なく女郎蜘蛛へ斬りかかった。

酒呑童子の大太刀が唸りを上げる。

洞潔もまた炎を纏った刃を振るい、灼熱の斬撃が女郎蜘蛛へ襲い掛かった。

――だが。

女郎蜘蛛は薄く笑う。

「……遅い。」

その瞬間だった。

何も存在しなかったはずの空間が、水面のようにゆらりと揺らぐ。

「……っ!?」

次の瞬間、純白の蜘蛛糸が無数に噴き出した。

まるで空間そのものが裂けたかのようだった。

「なっ!?」

酒呑童子は咄嗟に大太刀を振るい蜘蛛糸を断ち切ろうとする。

だが。

キィン――。

鋼を打ち付けたような音が響くだけで、蜘蛛糸には傷一つ付かない。

「馬鹿な!」

洞潔は炎をさらに燃え上がらせた。

「焼き尽くせ!!」

紅蓮の炎が蜘蛛糸を包み込む。

しかし。

蜘蛛糸は燃えない。

焦げることすらない。

「そんな……!」

驚愕した次の瞬間、無数の蜘蛛糸が二体へ絡みついた。

腕。

脚。

胴。

首。

一瞬で拘束される。

「くっ……!」

酒呑童子が力任せに引き千切ろうとする。

洞潔も炎を爆ぜさせ抵抗する。

だが、その抵抗すら意味を成さない。

蜘蛛糸は幾重にも重なり、瞬く間に巨大な繭を作り上げていく。

ドクン。

ドクン。

白い繭の内側では激しく暴れている気配が伝わってくる。

しかし、その動きも徐々に弱まり――

やがて静かになった。

広場に静寂が訪れる。

誰もが言葉を失っていた。

[newpage]

「う、嘘だろ……。」

アキノリはその場から一歩も動けなかった。

酒呑童子が。

目の前で、何もできず封じられた。

頭が真っ白になる。

その数秒後だった。

「きゃあああああ!!」

観光客の一人が悲鳴を上げる。

その声を合図にしたように、広場中が大混乱へ陥った。

「逃げろ!!」

「化け物だ!!」

「子どもを連れて!」

「警察を!!」

人々は一斉に走り出した。

屋台の品が散乱する。

花束が地面へ落ちる。

スマートフォンを落とす者。

泣き叫ぶ子ども。

悲鳴が幾重にも重なり合う。

しかし。

「え……?」

逃げようとした青年の足元へ蜘蛛糸が走る。

一瞬で全身へ巻き付き――

繭となった。

「た、助け――」

別の女性も。

警備員も。

屋台の店員も。

白い繭へ包まれていく。

誰一人として逃げ切れない。

まるで広場そのものが巨大な蜘蛛の巣になったかのようだった。

「アキノリ!!」

#朔夜が叫ぶ。

しかし返事はない。

アキノリは酒呑童子を見つめたまま立ち尽くしていた。

「逃げるよ!!」

#朔夜はアキノリの腕を掴む。

その瞬間だった。

背後から白い蜘蛛糸が音もなく迫る。

「しまっ――」

気付いた時には遅かった。

蜘蛛糸は#朔夜の腕へ絡み付き、そのまま全身を包み込んでいく。

「朔夜!!」

ナツメが叫ぶ。

しずかが駆け寄ろうとする。

トウマも。

アキノリも。

だが、その全員へ蜘蛛糸が襲い掛かった。

「うわぁっ!!」

「いやぁっ!!」

「くそっ!」

抵抗も虚しく、一人、また一人と白い繭へ変わっていく。

広場は数十秒もしないうちに静まり返った。

そこに残ったのは、無数の白い繭だけ。

まるで巨大な養蚕場のような異様な光景だった。

女郎蜘蛛は満足そうに辺りを見回す。

「……これで、邪魔者はいなくなった。」

そう呟くと、その姿はゆっくりと空気へ溶け込むように消えていった。

誰もいなくなった広場。

風だけが静かに吹き抜ける。

――♪

その静寂を破ったのは、電子音だった。

[newpage]

#朔夜の服のポケット。

かろうじて繭の外へ出ていたスマートフォンが震えている。

(……電話……?)

指先はほとんど動かない。

それでも必死に腕を動かし、わずかに露出した画面へ指を伸ばす。

何度も滑り。

ようやく通話ボタンへ触れた。

『やっと繋がったか!』

聞こえてきたのは聞き覚えのある青年の声だった。

「……零さ、ん?」

『朔夜? 聞こえるか?』

石動零だった。

息を切らしている。

普段の冷静さは感じられない。

「助……け……」

繭のせいで声がうまく出ない。

『どうした!?』

零さんの声色が変わる。

『落ち着け。まず聞け。お前が以前話していた蜘蛛の妖怪だが、おそらく土蜘蛛――』

その時だった。

電話の向こうから別の声が聞こえた。

「…………」

小さく、何かを話している。

伊吹丸さんだ。

しかし、距離があるせいか内容までは聞き取れない。

『え? 本当か?』

零さんが聞き返す。

『いや、だが土蜘蛛なら――』

再び伊吹丸さんが何かを告げる。

今度は少しだけ焦ったような口調だった。

『……何? それはまずいぞ。』

零さんの息を呑む音が聞こえる。

数秒の沈黙。

そして。

『……まさか。』

零さんは低い声で言った。

『お前――』

その一言で、#朔夜の鼓動が大きく鳴る。

『捕まっていないよな?』

その問いに答えようとしても、蜘蛛糸は口元まで覆い始めていた。

「……っ。」

声にならない。

静まり返った広場に、通話だけが虚しく続いていた。

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