「武器を思い浮かべよ!」
スマートフォンの向こうから響いたのは、伊吹丸さんの声だった。
『武器……?』
#朔夜は思わず聞き返す。
「え?」
突然の言葉に頭が追いつかない。
電話の向こうでは、零さんも困惑したような声を漏らした。
『……は? 何言ってるんだ、伊吹丸。』
『黙っておれ。あやつなら出来る。』
「出来るって……何を?」
『.....確かにやりかねないな。あいつなら。』
意味が分からない。
武器を思い浮かべろと言われても、それでどうなるというのだ。
その時だった。
「#朔夜!」
背後からアキノリの叫び声が響く。
「妖力を集めるんだ!」
「妖力……?」
#朔夜は息を呑む。
武器。
蜘蛛糸を断ち切る武器。
弓ではない。
矢でもない。
この蜘蛛糸を切るには――刃。
ナイフ……いや。
もっと強く、もっと鋭い。
#朔夜の脳裏に、一振りの日本刀が浮かび上がる。
その瞬間だった。
胸元に下げた青い宝石が、じんわりと熱を帯びる。
「っ……!」
淡い青白い光が服の内側から漏れ始めた。
宝石は鼓動するように明滅し、その光は朔夜の右手へと集まっていく。
空気中へ無数の光の粒子が溢れ出した。
粒子は互いに引き寄せられ、細く、鋭く形を変えていく。
やがて。
#朔夜の掌には、一振りの小刀が握られていた。
透き通る青白い結晶で形作られた、美しい刃。
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「これが……。」
伊吹丸さんが低く笑う。
『それじゃ。行け。』
#朔夜は頷いた。
迷っている暇はない。
真っ先に駆け寄ったのは、アキノリたち妖怪探偵団だった。
「離れて!」
結晶の刃を蜘蛛糸へ振り下ろす。
ザシュッ!
これまで何をしても傷一つ付かなかった蜘蛛糸が、鮮やかに切り裂かれる。
「切れた!」
アキノリが驚きの声を上げる。
一本。
二本。
三本。
#朔夜は次々と繭を切っていく。
ケータ。
トウマ。
ナツメ。
トウマ.。
仲間たちが次々と解放されていく。
その度に、#朔夜の呼吸は荒くなっていった。
「はぁ……はぁ……。」
額から汗が滴る。
視界が揺れる。
それでも刃を握る手だけは緩めない。
「あと二人……!」
視線の先には、巨大な繭。
酒呑童子と洞潔が囚われている。
#朔夜は足を踏み出した。
「今助け――」
その瞬間だった。
パキッ。
乾いた音が響く。
「……え?」
小刀の刀身に一本の亀裂が走った。
嫌な予感が胸をよぎる。
「お願い……!」
もう一度振り上げる。
だが。
パリン――。
澄んだ音と共に、結晶の刃は粉々に砕け散った。
無数の光の粒となり、夕暮れの空へ溶けるように消えていく。
#朔夜は呆然と立ち尽くした。
「そんな……。」
もう、刃はどこにもない。
酒呑童子の繭は微動だにしない。
中では未だに意識を失っているのか、反応はなかった。
しかし。
「……十分だ。」
低い声が聞こえた。
繭の中。
洞潔だった。
呼吸は浅い。
それでも意識だけは辛うじて保っているらしい。
「無理をするな。」
#朔夜は繭へ駆け寄った。
「まだ助けられます!」
「いや。」
洞潔は静かに首を振る。
「その刃では……ここまでだ。」
#朔夜は拳を握り締める。
悔しい。
あと少しだった。
あと少しで届いたはずなのに。
洞潔は#朔夜を見つめた。
「よく……妖怪探偵団を救った。」
短い言葉だった。
だが、その声音には確かな賞賛が込められていた。
「聞け。」
「……はい。」
「この蜘蛛糸は……並の武器では断てぬ。」
呼吸を整えながら続ける。
「断ち切れるのは……宝剣殿に眠る妖聖剣。」
#朔夜たちは息を呑んだ。
「名を……ゲンブ法典斧。」
その名が、静かに境内へ響く。
「それならば…もしかしすると…」
アキノリが目を見開く。
「妖聖剣……!」
「宝剣殿へ向かえ。」
洞潔は静かに告げた。
「我らのことは……案ずるな。」
「でも……!」
「急ぐのだ。」
その一言には、有無を言わせぬ重みがあった。
#朔夜は何か言おうとして――
急に膝から力が抜けた。
「っ……!」
視界が大きく揺れる。
宝石の光は既に消え失せている。
全身から力が抜け、立っていることすらできない。
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「朔夜!」
ナツメが駆け寄る。
アキノリも慌てて支える。
「しっかりしろ!」
#朔夜はかすかに微笑んだ。
「……よかった。」
仲間たちは助かった。
その安堵だけを胸に。
ゆっくりと瞼を閉じる。
意識は深い闇へ沈んでいった。
その場に残された者たちは、それぞれ胸に新たな決意を抱く。
目指すべき場所は、一つ。
――宝剣殿。
そこに眠る妖聖剣・ゲンブ法典斧だけが、この絶望を断ち切る唯一の希望だった。