ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百三十三話

夕暮れの商店街。

「うーん……今日は特売が多いわね。」

買い物袋を両手に提げた猫娘は、鼻歌交じりに通りを歩いていた。

夕飯の材料も揃った。

あとはゲゲゲの森へ帰るだけ――そう思っていた矢先だった。

『――速報です。本日午後、元町タワーにて集団失踪事件が発生しました。』

「え?」

思わず足を止める。

声のした方を見ると、家電量販店の店頭テレビではニュース速報が流れていた。

画面いっぱいに映し出される元町タワー。

その周囲には規制線が張られ、警察車両や消防車が何台も集まっている。

レポーターが緊迫した様子で続けた。

『現場では多数の白い繭のような物体が確認されており、警察は事件との関連を調べています。なお、依然として多数の行方不明者が――』

画面が切り替わる。

そこには元町タワー広場を埋め尽くす、無数の白い繭。

猫娘の表情が一変した。

「……ナニこれ。」

買い物袋を片手に持ち替え、素早くスマートフォンを取り出す。

既にニュースアプリの速報が届いていた。

さらにSNSを開くと、

『元町タワーやばい』

『白い繭って何!?』

『化け物見たって人いる』

『動画消されたんだけど』

『CGじゃないよな?』

関連する投稿が、凄まじい勢いで更新され続けている。

中には現場を撮影した短い動画もあった。

画面の端を、一瞬だけ巨大な蜘蛛の脚のようなものが横切る。

「妖怪……!」

猫娘は買い物袋を抱え直すと、一目散に駆け出した。

   

 

「鬼太郎!」

ゲゲゲの森へ戻るなり、猫娘は息を切らせて叫んだ。

「どうしたんじゃ、猫娘。」

目玉おやじが湯呑を置く。

鬼太郎も縁側から立ち上がった。

「これ見て!」

猫娘はスマートフォンを差し出した。

鬼太郎は無言で画面を見る。

ニュース映像。

そして白い繭。

その奥に、かすかに映り込んだ巨大な蜘蛛の影。

鬼太郎の表情が険しくなる。

「……これは。」

「妖怪でしょ?」

「ああ。」

短く答える。

目玉おやじも画面を覗き込み、小さく眉をひそめた。

「厄介な相手のようじゃのう。」

「現場へ行こう。」

鬼太郎は迷わなかった。

[newpage]

数十分後。

元町タワー。

周辺は完全に封鎖されていた。

パトカーが何台も並び、赤色灯が夕暮れを照らしている。

規制線の向こうでは鑑識らしき人影が慌ただしく動き回り、報道ヘリが上空を旋回していた。

鬼太郎たちは人目を避けながら現場へ近付く。

「これは……。」

猫娘が息を呑む。

広場一面に並ぶ白い繭。

人一人がすっぽり収まるほどの大きさのものもあれば、鬼を閉じ込められるほど巨大なものまである。

異様な静けさだけが漂っていた。

鬼太郎はゆっくりと歩み寄る。

目を閉じる。

「……妖気は残っている。」

猫娘が尋ねる。

「本体は?」

鬼太郎は首を横へ振った。

「もういない。」

「逃げられたってこと?」

「ああ。」

鬼太郎は白い繭へ手を向けた。

「試してみる。」

人差し指を立てる。

妖力が集中し、青白い光が指先へ集まる。

「指鉄砲。」

パンッ――!

鋭い一撃が白い繭を貫いた。

蜘蛛糸は勢いよく裂ける。

「やった!」

猫娘が声を上げた、その直後だった。

裂けた蜘蛛糸が、まるで生き物のように蠢く。

切断面が互いを引き寄せ合い――

数秒もしないうちに元通りになった。

「……!」

鬼太郎は目を細める。

もう一度。

パンッ!

再び指鉄砲。

裂ける。

しかし。

また再生する。

完全に元通りだ。

「そんな……。」

猫娘も言葉を失う。

鬼太郎は静かに腕を下ろした。

「駄目だ。」

「鬼太郎でも?」

「切ることはできる。」

「だけど……。」

「再生する。」

その一言だけで十分だった。

目玉おやじは静かに頷く。

「ここで考え込んでも始まらん。」

「うむ。」

「この事件を知る者がおるはずじゃ。」

鬼太郎はすぐに理解した。

「有星神社か。」

「そうじゃ。」

目玉おやじは腕を組む。

「以前、おぬしたちが関わった少年たちなら何か知っておるじゃろう。」

猫娘も頷いた。

「急ごう。」

三人は元町タワーを後にした。

[newpage]

その頃。

少し離れた高台から、一反木綿が空を横切る様子を見つめる二人の姿があった。

「……やはり来たか。」

石動零は静かに呟く。

伊吹丸も、白い繭が並ぶ元町タワーを鋭く見据えていた。

先程まで二人も現場を調べていた。

鬼太郎の指鉄砲が蜘蛛糸を切断し――

そして瞬く間に再生した光景を、この目で見届けていた。

「土蜘蛛め……。」

伊吹丸が低く唸る。

「厄介極まりない。」

零は空を見上げた。

夕焼けの中を、一反木綿が一直線に飛んでいく。

その進行方向は一つしかない。

伊吹丸も静かに頷いた。

「皆、同じ答えへ辿り着いたようじゃな。」

零は刀袋を肩へ担ぎ直す。

「行くぞ。」

「うむ。」

夕暮れの空を見上げた二人は、その場を後にした。

それぞれの思惑を胸に。

事件の中心へ向かって。

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