畳の香りが鼻をくすぐった。
重たい瞼をゆっくりと開くと、見慣れない木目の天井が視界に映る。
「……ここは……?」
身体を起こそうとした瞬間、全身を襲う気怠さに思わず顔をしかめた。
あのチカラを使い過ぎた反動だろう。
「……っ」
ゆっくりと周囲を見渡す。
どうやら神社の座敷らしい。
自分は布団へ寝かされていたようだ。
そして、すぐ隣にも布団が敷かれている。
「アヤメ……」
静かな寝息を立てる少女の顔は青白い。
あの場面が脳裏をよぎる。
女郎蜘蛛。
酒呑童子。
洞潔。
白い繭。
宝石。
結晶の小刀。
そして――。
「そうだ!」
勢いよく立ち上がる。
ふらりと身体が揺れるが、柱へ手を付き何とか堪えた。
障子の向こうから話し声が聞こえる。
自然と足はそちらへ向かっていた。
◇
障子を開けると、そこには見知った顔が揃っていた。
「#朔夜!」
真っ先に声を上げたのはナツメだった。
ナツメ、アキノリ、ケータ、トウマ。
妖怪探偵団の面々。
さらに。
「目が覚めたか。」
静かに振り返った少年。
その肩には小さな目玉の妖怪。
隣には猫娘さんも立っている。
「鬼太郎さん……」
あの一件以来の再会だった。
部屋の空気は重い。
誰一人笑っていない。
「無理に動くな。」
鬼太郎が静かに言う。
「でも……!」
#朔夜は思わず言葉を遮った。
「アヤメは!」
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その問いに答えたのは目玉おやじだった。
「……あまり時間がない。」
「!」
「女郎蜘蛛……いや、土蜘蛛の蜘蛛糸は生命力を少しずつ吸い続ける。」
部屋が静まり返る。
「このままでは……」
目玉おやじはゆっくり目を閉じた。
「一日も保つまい。」
「…………」
頭が真っ白になる。
一日。
たった一日。
#朔夜は何も言えなかった。
気付けば身体が勝手に動いていた。
「そんなの!」
座敷から飛び出そうとした瞬間。
「落ち着け。」
鬼太郎さんが肩を掴む。
「離してください!」
「今飛び出しても何も変わらない。」
「でも!」
「話を聞け。」
静かな声だった。
だが、不思議と逆らえなかった。
#朔夜は悔しそうに拳を握り締める。
◇
「#朔夜が倒れた後。」
トウマが静かに話し始めた。
「突然、大きな炎の鳥が現れた。」
「炎の……鳥?」
「朱雀だ。」
アキノリが頷く。
「俺もビックリした。」
「朱雀は俺達をまとめて有星神社まで運んでくれた。」
「その直後に鬼太郎さん達が来たんだ。」
ナツメが続ける。
「ニュースになってたらしいよ。」
「ニュース……」
「元町タワー、大騒ぎだからな。」
ケータが苦笑する。
「SNSもすごいことになってる。」
「猫娘さんが知らせてくれたんです。」
トウマが鬼太郎さん達を見る。
猫娘さんは腕を組んだまま軽く頷いた。
「現場へ向かったけど、鬼太郎の指鉄砲でも蜘蛛糸は切れなかった。」
その言葉に朔夜は驚く。
鬼太郎さんですら駄目だった。
あの蜘蛛糸は、それほどまでに厄介なのか。
「だから事情を聞こうと思って、ここへ来たの。」
猫娘さんが説明を終えた、その時だった。
「……。」
それまで黙っていたオババが、ふいに立ち上がる。
皺だらけの顔が険しくなる。
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「どうしたの?」
アキノリが尋ねる。
オババはゆっくりと神社の入口へ視線を向けた。
「結界に何かが触れた。」
一同の空気が張り詰める。
「何者かがこちらへ向かっておる。」
「敵!?」
ナツメが息を呑む。
オババは杖を掴んだ。
「確かめてくる。」
「オババ!」
アキノリが慌てて追い掛ける。
「僕も!」
#朔夜も後を追った。
◇
神社の石段。
そこには一人の青年が肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ……。」
腰には刀。
「零さん!」
#朔夜が思わず叫ぶ。
「……#朔夜。」
石動零は苦笑した。
「やっと着いた……。」
アキノリが警戒する。
「誰だ。」
鬼を見たオババの目が鋭く細まる。
伊吹丸さんもまた神社を見回した。
「ほう……結界か。」
互いの空気が一変する。
アキノリは札へ手を伸ばす。
零さんは刀の柄へ。
オババの静かな威圧が膨れ上がる。
「待って!」
#朔夜が二人の間へ飛び込んだ。
「敵じゃない!」
「#朔夜?」
「零さんは味方です!」
その瞬間だった。
「何事だ。」
鬼太郎さん達が追い付いてくる。
そして。
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「……。」
鬼太郎さんの表情が明らかに曇った。
猫娘さんも眉をひそめる。
目玉おやじさんは小さくため息をつく。
「お前さんか……。」
「……。」
零さんも無言のまま鬼太郎を見つめる。
その空気だけで分かった。
この人達……知り合いなんだ。)
しかも。
あんまり仲は良くなさそう。)
そう思ったが、今は聞いている場合ではない。
#朔夜はぐっと唇を噛み締めた。
今、一番大切なのは――。
アヤメを助けること。
その一点だけだった。