ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

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#百三十六話

『わしなら、お前の価値を上げてやれる。』

低く、年老いた声が夜風へ溶けていく。

梟はゆっくりと振り返った。

「……。」

そこに立っていた人物を見て、思わず息を呑む。

背は高く、細身。

肩まで伸びた鮮やかな赤髪を一つに束ねたポニーテールが、吹き抜ける風に揺れていた。

整った顔立ち。

だが、その容姿は男とも女とも判別がつかない。

どこか人間離れした中性的な雰囲気を纏っている。

その人物は穏やかな微笑みを浮かべたまま、一言も発しない。

代わりに。

『共に来る気はないか。』

再び、あの老いた声が響く。

梟は鋭く目を細めた。

声の主は目の前の人物ではない。

視線を胸元へ移す。

銀色のロケットネックレス。

いや、正確にはロケットペンダントと言うべきだろう。

その蓋の隙間から、確かに声が聞こえていた。

「……何者だ。」

警戒を隠さず問い掛ける。

赤髪の人物は小さく会釈するだけだった。

答えたのは、やはりロケットペンダントの中の存在だった。

『今は名など必要あるまい。』

『それよりも、お前には果たすべき使命がある。』

梟は黙ったまま聞いている。

『鬼姫・朱夏の生まれ変わりを見つけ出す。』

『そのために酒呑童子へ仕えておるのであろう。』

図星だった。

その使命だけは、何があっても忘れたことはない。

だが。

『今日のお前は何が出来た?』

静かな問い掛けだった。

責め立てる口調ではない。

だからこそ胸へ突き刺さる。

酒呑童子は蜘蛛糸へ囚われた。

洞潔もまた動けない。

自分は。

屋根の上から見守ることしか出来なかった。

[newpage]

『敵である妖怪探偵団が動き。』

『鬼太郎まで現れ。』

『お前は何も出来なんだ。』

「…………。」

梟は拳を握り締める。

鋭い爪が掌へ食い込む。

痛みすら感じない。

悔しかった。

主を守れなかった自分が。

使命へ近付けない自分が。

『もっと力が欲しいとは思わぬか。』

しばらく沈黙が続く。

やがて梟は、小さく息を吐いた。

「……欲しい。」

「朱夏様を見つけるためにも。」

「主のお役に立つためにも。」

「私は、もっと力が欲しい。」

そこで初めて、赤髪の人物がわずかに目を細めた。

しかし、その口は開かない。

『ほっほっほ。』

ロケットペンダントの中から愉快そうな笑い声が漏れる。

『正直でよろしい。』

『だが安心せい。』

『答えを今すぐ求める気はない。』

梟は顔を上げる。

『良くも悪くも。』

『我らの間には時間がたくさんある。』

『ゆっくり考えるがよい。』

その言葉を最後に。

赤髪の人物は踵を返した。

その瞬間。

一陣の風が吹き抜ける。

無数の木の葉が宙へ舞い上がり、赤髪の人物の姿を包み込んだ。

梟が思わず目を細める。

次の瞬間には。

そこには誰も立っていなかった。

ただ木の葉だけが、静かに夜空から舞い落ちてくる。

「……。」

梟は一人、その場へ立ち尽くしていた。

酒呑童子への忠義。

鬼姫・朱夏を探し出すという使命。

そして、あの言葉。

『わしなら、お前の価値を上げてやれる。』

その一言だけが、いつまでも耳の奥へ残り続けていた。

――その頃。

朱雀は、夜空を裂くように翼を広げていた。

目指す先は、宝剣殿。

土蜘蛛を討つ唯一の希望――妖聖剣《ゲンブ法典斧》が眠る場所である。

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