ドラえもんのび太の異世界からの来訪者   作:セナドライ

137 / 165
#百三十七話

朱雀がゆっくりと高度を下げる。

眼下に広がる景色を見下ろした#朔夜たちは、思わず息を呑んだ。

「……湖?」

見渡す限り、水面だけが広がっている。

山々に囲まれた巨大な湖。その水面は鏡のように静まり返り、風が吹いているにもかかわらず波一つ立っていなかった。

「宝剣殿って、この辺りにあるんじゃなかったの?」

ナツメが首を傾げる。

「俺もそう聞いていたんだけどな……」

アキノリも困惑したように辺りを見回す。

洞潔が指し示した場所に間違いはない。

しかし、そこにあるのは果てしなく続く湖だけだった。

「……何か、おかしい。」

#朔夜はぽつりと呟いた。

鳥の鳴き声が聞こえない。

風は吹いている。

草木も揺れている。

それなのに、湖だけがまるで時を止めたように静止している。

その静けさが、かえって不気味だった。

「来たか。」

突然、声が響いた。

振り向くと、湖畔へ二人の少年が立っていた。

まるで鏡写しのようによく似た双子。

同じ顔。

同じ背丈。

「宝剣殿を求める者だな。」

少年が静かに言う。

「ならば案内しよう。」

少年が続ける。

二人は湖畔に繋がれていた小舟へ歩み寄った。

「この舟で湖を渡る。」

誰も口を開かない。

双子の放つ空気は、どこか人間離れしていた。

[newpage]

少年が朔夜たちを見回す。

「だが、一つだけ守れ。」

黒い少年が淡々と続けた。

「何が起きても。」

「決して。」

「声を出すな。」

静寂が落ちる。

「……え?」

ケータが思わず聞き返そうとした瞬間。

アキノリがそっと肩へ手を置いた。

「黙って聞け。」

双子は表情を変えない。

「理由は問うな。」

「湖が答える。」

それだけ言うと、二人は舟へ乗り込んだ。

「行くぞ。」

#朔夜たちも顔を見合わせ、小舟へ足を踏み入れる。

ギィ……

木の軋む音だけが静かに響いた。

双子が櫂を漕ぎ始める。

舟はゆっくりと湖の中央へ進み始めた。

誰も喋らない。

いや、喋れない。

静寂だけが耳に痛い。

数分ほど進んだ頃だった。

「……っ。」

ナツメが突然、身体を強張らせた。

視線は湖面へ向いている。

その表情は驚愕に染まっていた。

#朔夜もその視線を追う。

湖を覗き込んだ、その瞬間だった。

「……!」

巨大な影。

水の底を、ゆっくりと横切っていく。

やがて影は浮かび上がり、その姿を現した。

真紅。

黄金。

白銀。

色鮮やかな鱗をまとった巨大な金魚。

いや。

金魚と呼ぶにはあまりにも大きい。

体長は五メートルを優に超えている。

その尾がゆっくり揺れるたび、水面が大きく波打った。

ザァァァッ!!

波が舟を持ち上げる。

「うわっ……!」

思わず声が漏れそうになる。

しかし誰も叫ばない。

叫べない。

双子は一度も振り返らないまま、黙々と櫂を動かしていた。

一匹ではなかった。

二匹。

三匹。

四匹。

いつの間にか巨大な金魚たちが舟を取り囲んでいる。

悠然と泳ぎながら、こちらを観察するように赤い瞳を向けていた。

[newpage]

ザバァッ!!

また大きな波。

小舟が大きく傾く。

ケータが口を押さえる。

ナツメも必死に声を飲み込んでいた。

#朔夜は無意識に拳を握る。

その時だった。

一匹の金魚が。

ゆっくりと舟の真下へ潜っていく。

「……!」

舟が持ち上がる。

まるで下から押し上げられているようだった。

転覆する。

誰もがそう思った。

その瞬間。

胸元で青い光が灯る。

「……!」

#朔夜の宝石だった。

淡い青白い輝きが静かに広がる。

光は一本の筋となり、湖の一点を真っ直ぐ指し示した。

すると。

巨大な金魚たちが一斉に動きを止める。

次の瞬間。

まるでその光を恐れるように、湖の底へと散っていった。

静寂。

再び湖は何事もなかったかのように静まり返る。

「……。」

#朔夜は宝石が示す先へ視線を向けた。

深い湖底。

青く霞むその奥に。

ぼんやりと。

巨大な建物の輪郭が浮かび上がっていた。

「あれは……。」

神殿。

そう呼ぶしかない巨大な建造物だった。

鳥居にも似た門。

長い石段。

荘厳な屋根。

すべてが湖底に沈みながらも、その存在感だけは圧倒的だった。

その瞬間。

ゴゴゴゴゴ……

地鳴りが響く。

湖全体が震え始めた。

次の瞬間だった。

湖面が左右へ割れ始める。

轟音を立てながら、水が壁のように押し広げられていく。

まるで神話に語られる奇跡のように。

湖は一本の道を生み出していた。

湖底へ続く石畳。

その先には、静かに佇む宝剣殿。

双子の少年はようやく振り返り、小さく告げた。

「ここから先が。」

「宝剣殿だ。」

#朔夜たちは息を呑みながら、その神殿を見つめていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。