巨大な石像だった玄武は、ゆっくりと四肢を動かし始めた。
石が擦れ合う重々しい音が神殿中へ響く。
やがてその瞳が淡く青白く輝き、#朔夜たちを見据えた。
「……来るぞ!」
アキノリの叫びと同時だった。
ズンッ!!
巨体からは想像もつかない速度で玄武が地を蹴る。
床石が砕け、広間全体が震えた。
「速っ!?」
ケータが慌てて飛び退く。
次の瞬間、玄武の前足が振り抜かれ、衝撃波が石畳を一直線に砕きながら迫る。
#朔夜は咄嗟に跳び退き、その一撃をかわした。
轟音と共に背後の石柱が粉々に砕け散る。
「おいおい……試練ってレベルじゃない!」
トウマが顔を引きつらせた。
玄武は何も語らない。
ただ侵入者を排除する。
その意思だけが、圧倒的な威圧感となって空間を支配していた。
「玄武!」
炎をまとった朱雀が空へ舞い上がる。
「目を覚ませ! こやつらは敵ではない!」
しかし玄武は朱雀を一瞥しただけだった。
「……黙れ、朱雀。」
低く重い声が響く。
「その姿で我に語る資格はない。」
朱雀は苦々しく舌打ちした。
「……相変わらず堅物だな。」
「貴様こそ変わらぬ。」
玄武は容赦なく口を開いた。
「幻王様を『幻ちゃん』などと呼び、剣武魔人の資格を失った愚か者が。」
「…………。」
その一言に朱雀の顔がぴくりと引きつる。
「そ、それは若気の至りというやつだ!」
「自業自得だ。」
「うぐっ……。」
反論できなかった。
「そこは否定しないんだ……。」
ケータが思わず小声で突っ込む。
だが、そんなやり取りも束の間だった。
玄武が再び巨体を沈める。
[newpage]
「来る!」
#朔夜が叫ぶ。
「ナツメさんは私が守る!」
ミッチーが颯爽と前へ飛び出した。
「おおっ!」
ナツメが少し期待した、その瞬間。
ドゴォォォン!!
玄武の尻尾が軽く薙ぎ払われる。
「なッ!!!!!!?」
ミッチーは綺麗な放物線を描きながら彼方へ消えていった。
「ミッチーッ!!」
「早っ!」
「一瞬だったズラ……。」
まさに即落ち二コマだった。
「ジバニャン!」
「任せるニャン!」
ジバニャンが勢いよく飛び出す。
「百烈肉球!」
無数の拳が玄武へ叩き込まれる。
ドドドドドドドドッ!!
連続する打撃音が神殿へ響く。
「まだズラァ!」
コマさんが大きく跳び上がった。
「落下犬岩石ズラァァ!!」
巨大な岩石となって玄武の甲羅へ激突する。
ゴォォォン!!
重い衝撃音。
玄武の巨体がわずかに後退した。
「効いてる!」
トウマが声を上げる。
さらに朱雀が炎を纏って急降下する。
「はぁぁぁっ!!」
炎の翼が玄武を包み込んだ。
爆炎が巻き起こる。
砂煙が広間を覆った。
[newpage]
「やったか!?」
ケータが息を呑む。
その煙の中から、ゆっくりと巨大な影が現れる。
玄武だった。
傷こそ付いているものの、その眼光はまるで衰えていない。
「……まだだ。」
玄武は静かに呟いた。
そして。
その視線が、#朔夜へ向けられる。
「……?」
#朔夜は胸元へ手を当てた。
青い宝石が、淡く輝いている。
玄武は宝石を見る。
そして#朔夜を見る。
まるで何かを確かめるように。
「なるほど……。」
低く呟いた、その瞬間だった。
玄武の身体が青白い光へ変わる。
「えっ!?」
「玄武が!」
一筋の光。
まるで流星のように一直線となって。
#朔夜へ飛び込んだ。
「#朔夜!!」
ナツメの叫び。
光は#朔夜の胸を貫き、その身体へ吸い込まれていく。
「がっ……!」
全身を焼かれるような熱。
膨大な妖力が身体中を駆け巡る。
足元がふらつき、朔夜はその場へ膝をついた。
[newpage]
「#朔夜!」
ナツメたちが駆け寄ってくる。
大丈夫。
そう言おうとした。
しかし。
「……え?」
口が動かない。
身体も。
指一本すら思うように動かなかった。
何かが内側から溢れてくる。
止められない。
『器よ。』
頭の中へ響く重々しい声。
『その身体、借り受ける。』
「や……め……。」
声にならない。
右腕が勝手に持ち上がる。
「#朔夜……?」
ナツメが足を止めた。
その瞳に、不安が広がる。
#朔夜は必死に抗う。
動くな。
止まれ。
みんなを傷付けるな。
しかし身体は言うことを聞かない。
右腕へ膨大な力が集まる。
周囲の空気中から水滴が集まり、一つの巨大な水球を形成した。
「まずい!」
アキノリが叫ぶ。
次の瞬間。
水球が圧縮され、極太の激流となって放たれた。
まるで巨大な滝が一直線に襲い掛かるかのような一撃。
「伏せろォ!!」
全員が咄嗟に飛び退く。
激流は石壁へ直撃し、その一角を容易く粉砕した。
「はぁ……はぁ……。」
#朔夜の意識は残っている。
だが、身体はもう自分のものではなかった。
[newpage]
全身を青白い妖気が包み込む。
瞳の色が静かに変わる。
足元から水流が渦を巻き始める。
その姿は、もはや人ではない。
#朔夜の姿を借りた、もう一柱の神。
剣武魔人――
**玄武。**
その力が、今ここに顕現した___